影絵が趣味
影絵が趣味
2019/03/16
キャプテン試論 ースポ根とは言われない何かー
いわゆるスポーツ漫画一般を分類する言葉として「スポ根」というものがあるが、ちばあきおの『キャプテン』ならびにその続編の『プレイボール』は、その内容的には「スポ根」と呼べそうな要素を多分にもっていながら、どうしても「スポ根」とはいいがたい何かがあるように思う。それはいったい何なのか。 スポーツとはそもそもが不平等である。そんなスポーツ界で頂点に立つような人々というのは、生まれながらにして神に愛されており、尚且つ、努力にいっさいの身を惜しまないような人であろうと思う。それはそれは残酷で切ないことではありませんか。 そうであれば、少なくとも、青葉から墨谷二中に転校してきた谷口タカオをはじめ、体格にも才能にも恵まれない人々は二倍も三倍も、もっともっと、もっともっと、がんばらなくっちゃならない、その間にも、生まれながらにして神に愛されており、尚且つ、努力に身を惜しまない人々は先へ先へと進んでいくのだから。しかし、あえて言及してみるまでもなく、これほど当然の理屈もないだろう。劣っているものが優れたものに勝つには、もっともっと、もっともっと、がんばらなくっちゃならない。三分の一ノックで身体がボロボロになろうとも、向こう見ずのダイビングキャッチで脳震盪を起こそうとも、それでも、それでも、がんばらなくっちゃならない。なにせ相手は生まれながらにして神に愛されており、尚且つ、努力に身を惜しむことのない猛者たちなのだ、これほど至極当然の理屈がこの世にほかにあるだろうか。これほど残酷で切ないはなしがほかにあるだろうか。 しかし、ちばあきおという作家は、この残酷で切ない至極当然の法則から目を背けることはけっしてしない。むしろ、それを剥き出しの状態のまま直視しようとしているようにみえる。この眼差しには、残酷で切ないだけではない、どこか優しさめいたものがあるように思う。この優しさは、けっして、困っているひとを、あるいは劣っているひとを、助けるといったたぐいの優しさではない。もし、そうであれば、島田は二度も三度もフェンスに激突して脳震盪を起こさずに済んだにちがいない。 思うに、いわゆる「スポ根」なるものは、当然なるものを当然のこととして描くのではなく、この残酷で切ないがんばりそのものを直視するのではなく、それを問題的に、あるいは問題-解決的に覆うことで物語を構築しているのではないか。そうすることで残酷で切ないがんばりそのものは問題的なもののベールに包まれて見えにくくはなるが、登場人物たちは野性的で不平等きわまりない野晒しの世界からは守られることになる、しかし、これもある種の優しさではあろう。 それにしても、この野晒しの世界で、墨谷二中はどうなったか。なんと全国制覇を成し遂げたのである。当然のことを当然のこととして丹念に描いた結果が、荒唐無稽な夢のよう話になってしまうという、これほど感動的な事態がほかにあり得ようか。数あるスポ根の登場人物たちには勝つために理由-問題が必要だった、裏を返してみれば、彼らの勝利にはそれ相応の理由があった。そうと理由があるのなら、なんだ、そういうことかと腑に落ちることができる。しかし、ほんとうに感動的な体験とは、まだ見たことのない信じられないようなものを目の当たりにするときに起こるのではないだろうか。そして、それを少なくとも可能にするのは、努力は必ずしも、いや、ほとんど場合において実を結びはしないが、それでも、それでも、がんばらなくっちゃと思う、なにか対象のない漠とした祈りのような姿勢のなかにあるということを谷口たちは身をもって教えてくれる。
たか
たか
2019/04/19
1人の少年が身体を手に入れるまでの物語
camera 新刊発売を楽しみに待っていた作品。    小さいころは男でも女でもなく「子ども」でいられた主人公・リラが直面した、二次性徴という危機。それをどうやって乗り越えて、男性としての身体と人生を手に入れたのかを成長に合わせてじっくり丁寧に描かれていて素晴らしかったです。    またナタンが「自分は何者なのか」という葛藤や家族との摩擦の中でも、髪を短くしたり、弟のTシャツを着たり、彼女と付き合ったり、自分がやりたいことを貫いた姿がとても心に残りました。    わたし自身は、ナタンのように男の子とスポーツで遊ぶ方が好きな子どもで、当時は大人の女性にはなりたくないと思っていました。とはいえ身体と性自認が一致していたことで、ナタンのような大きな葛藤なくいつの間にか性別を受け入れて大人になることができました。    このマンガを通じて、『自分がたまたま経験しなかった苦しみ』の存在があることを知れて、本当によかったです。     作品の舞台設定に関して、主人公が部屋中にジャスティン・ビーバーのポスターを貼っているシーンやスマホから、舞台は現代(から少しだけ前)なのかなと想像しつつ読んでいましたが、あとがきによると主人公のモデルとなった人物は現在大学生だそうです。    友達とFacebookのメッセージ上で揉めたりクラブに行く描写は、彼が同じ時間を生きているのだととても身近に感じられました。    最後に、出版社である花伝社のnoteがとても素晴らしかったのでここでシェアします!  FtMの方の『一人称のお話』や、原作者が副題に込めた『少女が少年に「なった」物語ではない』というエピソードなど…様々な方の想いを大切にして作られたことが伝わってくる素晴らしい記事なので、ぜひ「ナタン」を読んだ方はチェックしてみてください。 https://note.mu/kadensha/n/n77106bb5c3f9
兎来栄寿
兎来栄寿
2020/02/15
「もっと精神病患者が増えればいい」というセリフの真意
マンガ好きにとっては「シュリンク」というと、書店でマンガを買った時に本を覆っているビニールのカバーをまず想起してしまいます。が、本作のタイトルである『Shrink』が意味するのは精神科医のこと。 純粋に英語で精神科医を表すのであればpsychiatrist、therapistといった語の方が一般的でありshrinkと言ってしまうとやや侮蔑的な意味もこもってしまうのですが、それでもしばしば使われる語彙です。 特に、海外ドラマでは本当によくshrinkが登場します。親族やペットの死、仕事や恋愛での痛手などメンタルにダメージを与えられることが起きたらすぐにshrinkのところに行くのが当たり前だそうです。それによって、精神病の人の数は日本より遥かに高いんだとか。 翻って日本では精神病の人の数は表向きは少ないですが、実際にはストレス大国であり同じような水準でカウントしたら精神病の人は海外より高い割合で存在するのではないか、そういう意味では精神科にかかる人が増えて精神病と判定される人が増えた方がより人々は幸せになれるのではないか、という問題提起をしてくれるのがこの作品です。 「微笑みうつ」を「新しい自分として生き直すチャンスをくれる病」と非常に前向きに捉える視座にはなるほど、と思わされました。 パニック障害や自閉症など、聞いたことはあってもまさか自分がそうだとは微塵も思ってなかった、という人も世の中には多いことでしょう。本作を読むことで、精神科医にかかるかからないに関わらず少しでも生き易くなる人が増えれば良いなと思います。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
2020/03/08
待てば海路の日和あり
かつては精力的に映画を撮り国際映画賞まで獲ったのにいまはすっかり腑抜けている男・市松海路(いちまつかいろ)。 7年前に彼のすべてだった元カノ・日下部日和(くさかべひより)が失踪したことで映画が撮れなくなっていた。 日和の想い出さえすべて失い命を絶とうとしたそのとき7年ぶりに連絡が来て会ってみたら「市松君に私の出産記録を撮って欲しいの。だから市松君の精子ちょうだい」 ズガーン!! ここまでで2話目!すご!怒涛の展開! そしてここから展開どうなるのか読めなさすぎる!! 日和はいままでどこでなにをしてたのか? 日和の妹たちは? 漫画家である日和の母親はいま? 母親が育児記録をエッセイ漫画にして売れてたから日和も記録に残すのか? 意味深に何度も出てくる雷と日和の存在は関係あるのか? 海路が日和に関する記録のすべてを落雷で失って現れた本人というタイミングに意味はあるのか? こんなに目が離せない連載が始まると暮らしに張りが出ますね! 『あげくの果てのカノン』でも病んで歪んで捻れた人たちとその関係性をスリリングに描いてたので、今回も楽しみすぎます。 主人公のヒロインに対する執着と絶望と希望の振り幅がえらいスイングかましてるし、ヒロインの天然な狂気的なものも見え隠れしていてたまらない。 結婚もセックスも色々無しで、ただ、精子提供と出産の記録をどんな気持ちで撮るのか! 悶えるしかないのか! しかし、大好きなあの娘に自分の精子で妊娠させるという事実はこのド執着彼女大好き男からしたら大ご褒美にも思えるし! 感情がぶん回しですよ! あとは、毎週楽しみに待ちます!! 第1話→http://spi.tameshiyo.me/OUJOU01SPI
たか
たか
2019/04/27
女子ちょっと集合〜!ヤンキーがアイドルになるマンガだよ!
「んもー!!こんなに面白いなら早く言ってよ〜!!」と言いたくなったマンガ。女子はちょっと悪い男の子とアイドルが好きですからね(諸説あり) 1話はある広島の田舎町で、男の子2人が伝統の神楽を舞うシーンから始まる。 もーーッ!!1人で舞ってても格好いい神楽を2人で息ピッタリやっちゃうとかさぁ、も゛ーーッッ!! でもちょっと待って!! どう見ても表紙ヤンキー漫画じゃない??そう!何を隠そう、蓮と清春はケンカばっかりのヤンキーで、幼馴染で、神楽のかけがえのない相方なんです!! しかしある日、清春は蓮と神楽を捨て町を去る。次に姿を現したとき、清春はテレビの中でトップアイドルになっていた―――。 というわけで、連は清春と同じ舞台に再び立つため東京で養成所に入る。 この養成所ってのが木造の古い旅館のような建物で、ここに住むポッチャリ、俳優の二世、漫画家志望、ちっちゃいヤンキーと共にアイドルを目指すことになるのです…! アイドルに夢中になったことがある人なら、この養成所の部分は語らずともどんなにドラマチックか想像できると思います。 そしてこのマンガはクローバーの平川哲弘が描き週刊少年チャンピオンに載ってるだけあって、とにかくヤンキー力が高い(アイドルものとは思えないケンカ率)。 つまり!! ・アイドル業界 ・ヤンキー業界 の2つの領域でそれぞれ熱い戦いを見せてくれる最高の漫画なんです…!!! そもそもよく考えたらヤンキーもアイドルも、仲間を大切にして夢に向かって頑張るんだから似たようなもんですよね。 男の子たちの血と汗と涙の青春。読めば必ず箱で推したくなります…!!
さいろく
さいろく
2020/03/13
これまでと違うテイスト
この後にもあまりない、ちょっぴりファンタジーが入った作品。 ダークさは割と強い(プンプンほど怖くないと思うけど、深く考えるとゾッとするところが結構あるので考察するかどうかはお任せします) あと浅野いにお作品ではモブじゃない少年が出てくると大人が痛い目にあう気がする。 痛い目にあうのは少年含む弱者じゃない方が個人的には良くて、そういう正しさが守られていると「よし!」と思える。他作品思い出さずに書いてるけど。 なんか月並みですが「一本の映画のよう」なきれいなまとまり方をしていて、読後感も良かった。 私は浅野いにお作品は全部好き。ヴィレヴァンは特に好きじゃない。アジカンも別に好きでもない。 好みは人それぞれだと思うが全部好きじゃないとサブカル好きとして認められないのかもしれないがそもそも私はサブカル好きという自覚はない。 漫画好きなら漫画作品でだけ浅野いにおに触れたら十分だと思う。もちろんハマってそこから派生した何かしらに触れていくのはファンとして正しい姿勢だし、世界が広がっていく事にも繋がると思うのでソラニンの映画を観て和泉多摩川に行った帰りに下北沢の屋根裏(ライブハウス)にでもふらっと入って一杯飲んで帰ったりすればいい。 脱線しましたが、本作は非常に試験的な要素がいっぱいござるのでそういった意味でも「こいつおもしれーな」と思わせてくれるに違いない一冊です。おすすめ。 自分の中では「おやすみプンプン」以前と以後ではだいぶ異なると思っている。 「何言ってんだこいつ」と思う人は読み比べてみて感想を聞かせてください。
たか
たか
2019/05/08
老若男女必読! いま最も応援したいおじさん
マンバ通信で知った、下着を作っていたおじさんが下着で働く女の子たちと出会う物語。⚠️ネタバレあり⚠️ https://manba.co.jp/boards/103525 地味で真面目なおじさんが慣れない環境で頑張っているのを見ると泣きそうになる。妻を亡くし、いままで縁のない風俗業に飛び込んでるならなおさらです。 下着メーカーの営業を定年まで勤め上げた進さん。1話では最初風俗と知らずに出勤し抵抗感を感じたまま働いていたのに、最後にはワイシャツに汗ビッショリかきながら掃除をしている。 そして必死に掃除する進さんの尻ポケットには、若かりし日の妻との写真があって…んもう!そういうところが本当に素敵…!! https://i.imgur.com/deFlUCK.jpg (『はたらくすすむ』安堂ミキオ) (ネタバレになるのであまり書きたくないのですが、進さんは元々ファッションデザイナーを目指していてお洒落への感度が高かった、というギャップもまた萌えます) 2話の「ナプキンを買って来い」と若い女の子にパシられるエピソードでは、予想を裏切る120点の完璧な対応で一瞬で進さんに惚れてしまいました。格好良すぎる(震え) 気づけば心の中で「進さん…!」と、さん付けしていました。**持ち前の真面目さで、毎回毎回、自分で気付きを得る進さんに好感度うなぎ上りが止まらない。** 進さんが好きすぎてここまで進さんのことしか書いてないですが、いままで漠然としか知らなかったピンサロとはどんな場所で、どんな業務があるのかしっかり描かれていて、大変勉強になります。 今後いつ娘にピンサロのことを打ち明けるのか、回想でしか登場していない息子との関係(これは来店フラグか)、和子さん視点での夫婦生活など、まだまだ気になることがたくさん。 風俗に縁がある人もない人も、どんな世代・性別の人が読んでも楽しめる作品だと思いますのでぜひ…!
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