兎来栄寿
兎来栄寿
2020/05/31
鬼才・士郎正宗の鮮烈なデビュー作
『攻殻機動隊2045』がNetflixで公開され話題となっている昨今。『攻殻機動隊』は日本で生まれたあらゆるSF作品の中でも巨大な金字塔です。スティーブン・スピルバーグやジェームス・キャメロンからも絶賛を浴びる士郎正宗の想像力と創造力がなければ、『マトリックス』や『パシフィックリム』といった作品もこの世に存在していなかったかもしれません。その作者である士郎正宗のデビュー作が、この『アップルシード』です。 元々、士郎正宗が学生時代に同人誌として発行していた『アップルシード』の前身に当たる設定のある『ブラックマジック』という作品が存在し、その後関西大学SF研究会の創設者ら関西のSF好きによって創設された青心社から『アップルシード』が連載形式ではなく単行本として出されました。小さな会社であり当初の発行部数も多くなかったにも関わらず、『アップルシード』はその圧倒的なクオリティにより全国区でカルト的な人気を博すこととなりました。 士郎正宗らしい緻密な描き込みや設定、膨大な情報量、そして女の子のかわいさはデビュー作から全開です。編集者によっては「文字が多すぎるし読み難いから削れ」と言われてしまいそうなほどですが、この雑然とした中に構築された確固たる世界観と細部に宿った神によって生じるリアリティにこそ酔い痴れるところです。『AKIRA』が1982年に始まりそのフォロワーが多く生まれた80年台ですが、この時代のSFマンガでこれほどの独自性・独創性を発揮していたものは他にないでしょう。 1988年にはガイナックスがアニメ化しているのに加え、2004年にはセルルック3Dアニメの先駆的作品として映像化され、国内で17万枚、海外で43万枚売れるという大ヒットを飛ばしました。原作は読んだことはなくとも、そちらのアニメは見たことがあるという方も多いかもしれません。 残念ながら連載は中断され、作者自身によって続きが描かれないことも宣言されてしまっていますが、士郎正宗ファンの間では『アップルシード』の続きが読みたいという声も根強いです。 『攻殻機動隊』とも繋がっている物語なので、『攻殻機動隊』好きで読んでない方はもちろん、SFに興味のある方は一つのマイルストーンとして映像化された物と併せて通っておく価値があります。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
2019/08/20
感動で震える読切52p #読切応援
こんな素晴らしい作品に限ってなんで僕は電子で買ってしまったんだろう。 いや、電子が悪いとかじゃない、紙で持ちたかった作品だったんだ。 早く短編集出してほしい…。 ある母子家庭の、子供ににつかわしくないような冷静かつ論理的かつ諦観した少年視点で淡々と話は進んでいく。 母に何かある度に少年は反省部屋送りと称して部屋につっかえ棒をされて閉じ込められてしまうが、度々そういうことがあるので、少年は過ごしやすいように食料や布団を持ち込んで部屋をこっそり改造している。 そんなある日、反省部屋に訪れた一人の大人によって止まっていた少年の世界は変わり始める。 少年のポジティブな小憎たらしさみたいな部分がとても可愛いし、この歳でどこか諦念を憶えているような部分には悲しみを感じざるをえない。 また、淡々とした日常のセリフのやりとりがたまらなくいい。 シンプルな絵が、読み手の気持ちを乗せやすく想像の余地を残してくれているという部分では小説のような読み心地もあるかもしれない。 たまに挿入されるコマ枠が無い絵が印象的に使われている。 説明しすぎないのも素晴らしいし、それで分かりづらいということもない絶妙な情報量が適切にその場面場面で出てくる気持ちよさがある。 一本の映画を観たような気分にさえなるなーと思ったんだけど、本当に映画的な手法で描かれているのかもしれない。 僕が好きな映画で、小学生男子が主人公の『どこまでもいこう』というのがある。 75分の短めの映画なのだが、セリフが説明臭くなく、淡々としているがちょっとしたことでも彼らなりに懸命に考え、答えを出して歩んでいく。 見た当時、その姿に共感を覚え強くノスタルジーを感じてグッときた。 また、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』という映画が、本作と同じく母子家庭を描いた作品でこの最後のシーンが、もう、素晴らしいのだ。 そして、映画とこの漫画にも共通するものとして、弾かれたように「疾走する」のはたとえどんな理由でも、子どもの子どもらしさを最大限に出していて最強だと思う。 読んでいて、ぶるっときた。 子どもは子どもという理由だけで主役になれないわけじゃないんだ。
まるまる
まるまる
2019/07/02
人が生まれてきた意味を知る少年少女たちのドラマ
小学生が主役の学園漫画と侮るなかれ。 主人公、紗南の太陽ような底抜けの明るさが周りの人間を巻き込み、心に傷を負った人間は「自分はなんのために生まれてきたのか」を問い、そして知るというかなり重厚なテーマを持った作品です。 学級崩壊といじめ、羽山の家庭問題から始まり、紗南の失恋、出生の秘密と、次から次へと試練が止みませんが、乗り越える度に登場人物たちの絆が強くなっていきます。 中学生編では、紗南の役者としての人気が上がったことで生まれた芸能界特有の根も葉もない噂のせいで、羽山の心が再び荒れるという事態に。 親友・風花との間にできた溝や羽山とのすれ違いの生活の中で、仕事に生きると決めた紗南の、強いはずの心にも少しずつ無理が出てきて…という、人間の光と影の部分を丁寧に書き出しているのがこの作品の魅力です。 作中、羽山は「紗南に出会った自分はツイている」と言います。 最後に、生まれてこなければよかったと心閉ざしていた自分を救ってくれた紗南が、心を病み以前の明るい紗南ではなくなってしまった時の羽山の涙には、もらい号泣必至です。 大人になった今読んでも間違いなく面白いのですが、 いたいけな子どもがこんなにも汗と涙と血を流し、命をかけて自分の大事なものを守ろうとしているのに自分は…ッ!となる場合も?笑 Deep Clear 「Honey Bitter」×「こどものおもちゃ」小花美穂 特別番外編 に大人になった紗南と羽山が描かれているのでこどちゃファンは必読ですよ!
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2020/10/17
美少女ゲーム、三つの視点 #1巻応援
ゲームメーカーでグラフィッカーとなる女性の視点から、1990年代以降の所謂「美少女ゲーム」の隆興を追うこの作品……と聞くと、「美少女ゲーム詳しくないしな……」と後ずさりする方もいるかもしれません。でも大丈夫!私も詳しくないけど、凄く楽しめました。 視点としては三つ。 ①1990年代の時代背景と美少女ゲーム大流行のリンク ②実在の会社名が出たり出せなかったりの可笑しさ ③美少女絵の進化と描き続ける心得 ■□□□ ①パソコンの普及と共に成長する「エロゲー」から始まるこのジャンル。地下鉄サリン等暗い事件、エロの規制を経て「エロゲー」はエロを抜いた「美少女ゲーム」へ変貌。そこで求められた物は、二人の女性グラフィッカーを駆り立てる。 基本OSのヒットにより、拡大する市場で膨らむ物語に、目が離せない! □■□□ ②この作品、実在のゲームタイトルやメーカー、その他名前がバンバン出てきます。しかしそれらを知らなくても面白いのが「名前を出せない」者の存在。伏字すらNGの某基本OSは苦笑いしかないのですが、場合によっては空白の横に「権利者不明により削除」と書いてあったり……背景の複雑さが垣間見えて楽しい。 □□■□ ③ 美少女ゲームに求められた美少女絵とは何だったのか……それは現在の漫画・イラストレーションにも波及する大きな潮流となります。 そしてこの作品、インタビューまで面白い!アリスソフトで初期から製作に携わってこられたイラストレーターのMIN-NARAKENさんのお話は、美少女絵に命を吹き込むこと、それを20年、30年続けていく為の心得を教えてくれます。 イラストレーターだけでなく漫画家も必見! □□□■ 歴史の波長が噛み合って、大きなうねりが生まれる。そのうねりの本質を知り、世界の末端からメインストリームへ飛び込んで行く物語は、ドキドキしますよね?そんな面白さが、今後紡がれそうな予感。今はまだ、貧乏臭いけど……期待!
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2020/07/15
音楽表現と和楽器JKのブレイクスルー!
音楽の表現に「擬音」を使わない事。これがこの作品の最大の特徴である。 擬音による音楽表現は、分かりやすい反面、表現できない事も多い。例えば音色は、伝えたい音を擬音で描いても(ポンとかガーッとか)結局は読者の脳内補完が頼り。正確な伝達とは言えない。また、合奏での、旋律やリズムが絡む感覚は表現しにくい。 『なでしこドレミソラ』では、流水紋で旋律の雰囲気、和柄で和楽器らしさを仄めかすのみ。絵で魅了したら、音は完全に読者の想像に委ねる、割り切りの良さ。しかし流水紋は音楽が流れる時間・空間感覚となり、それを重ねる事で各パートが混ざり合い、響き合う表現となっていて、今までに無い「穏やかな」ゾクゾク感がある。 かつて音楽漫画が発想しなかった「音楽表現」のブレイクスルーを、音楽漫画が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい! ♫♫♫♫♫ 物語は、地味な自分を変えたい主人公・美弥を始め、和楽器同好会に集まったメンバー四人の、様々な「ブレイクスルー」の過程が描かれる。分かりやすい子から一見分かりにくい子まで、自分の拗らせを知り、悩み、殻を破って成長する物語は明るく、清々しい。 これは、四人が対等な関係で互いの音を聴き、自分の音を重ねる真の「合奏」を目指す物語。そしてそれは音楽を越えて人間関係でも、自分から動く事と、相手を見る事のどちらも大事だという「個性と調和」の物語になっていく。 少し拗らせていた女子高生達が、真に自立したメンバーの一員として舞台に立つ終幕は、とてつもない歓びに満ちている!
たか
たか
2019/07/02
丸の内OLになりたかった女は必読
cameraひぇ〜!!最高の新連載が始まっていた…!佐々木倫子や絹田村子っぽい笑いとヤマシタトモコっぽい線がたまらない。 「実力はあるのに初対面の人からはそう見られない鶸田(ひわだ)は、ITコンサルの面接会場で鷹野ツメ子に出会う。公共放送のアナウンサーのようなスマートな身のこなしで一見『デキる人』の彼女だが、その正体はとんでもない無能だった」というあらすじ。 https://kisscomic.com/c/munounotaka.html **鷹野の常識はずれの無能ぶり**(動画を観ながらホチキス止めしてるのには笑うしかない)も面白いが、なにより素晴らしいのは**その「鷹野の見た目」を有効活用**するところ! **一見『デキる人』なのに実際は無能な鷹野を、実力があるのに見た目で『無能』判定されてしまう鶸田と組ませる**ことで、「外面と中身の両面」からクライアントの印象を良くして仕事をもぎ取るのには唸る…!! たしかに常日頃、私たちは実力の有無ばかりに注目しがちですが、実力を披露するにためには、その前に『有能そう』と思ってもらうことが不可欠。 ビックリするほどな〜〜んにも出来ない無能な鷹野。 だけどその彼女が唯一持っているのが、「初対面の人間に『有能そう』と思ってもらえる能力」という設定が本当に見事…! 1話の最後、契約を獲ってビルの外で2人が握手を交わすシーンは、まるで鷹野が本物のデキるOLのようで格好いいやら笑えるやらで最高でした。 **令和のお仕事ギャグマンガの金字塔になってほしい!** Kiss 2019年8月号から隔月掲載中です!ウェブで1話読んでみてください…! https://kisscomic.com/c/munounotaka.html (画像は1話より。志望動機が自分と全く一緒で感動しました)
なかやま
なかやま
2020/06/16
のび太と鉄人兵団
camera私が初めて観たドラえもん映画、はじめて買ったドラえもんコミックス、新ドラに呼び戻してくれた作品、思い出いっぱいです。 大長編ドラえもんの中では、珍しいと思われる 「のび太たちの世界の直接の危機」 終始ミリタリー風味が感じられ、限られたリソースと鹵獲したザンダクロスでどのように鉄人兵団を迎え撃つか? ドラえもん作品と言うより、「ひとりぼっちの宇宙戦争」などのハードSF寄りな異色作では無いかと思っています。 敵である鉄人側にも彼らなりの正義で動いており、「ロボット奴隷を開放するために人間を労働力として使う、奴隷ロボットは幸せになれる」が、40年近くたっても刺さる内容です。 そしてゲストキャラクタであるリルルとしずかちゃんの交流もまた刺さる 「やっぱりほっとけないわ・・・。」刺さる ラストについては、藤子・F・不二雄先生自身「納得がいっていない」と何処かのあとがきに書かれていたと思います。(ソースは忘れしまいましたが・・・) 私は、あのラストには結構納得しており「藤子先生でも、ああする意外のび太たちを勝たせる術がなかったのだ」と思っています。 また、これは意見が別れるかもですが、 この作品は「原作漫画」「旧映画」「新映画」の3つのタイプで楽しむことができます。私的にどれが一番かと言うと、圧倒的に「新映画」となります。 原作・旧映画で薄かった、のび太サイドがキレイに補完されいるのが、原作主義派だった私に「ドラえもんと言うコンテンツが、藤子先生の手を離れた今でも、まだ生きているコンテツ」だという事を実感させてくれました。 好きすぎて映画館に毎週行っていた 「新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜」超名作だから観てくれ・・・頼む・・・
nyae
nyae
2019/07/03
表紙に惹かれて1巻読んでみたらグサグサ刺してくるお仕事マンガだった
学生時代の一番の思い出は、イケメン男子に笑顔で話しかけられたこと。 そんな三軍のオタク女子のまま25歳になった松永きなこ。 お笑いが大好きで、ラジオでハガキを読んでもらうことが何よりの幸せ。そんな中ある出来事をきっかけに「放送作家」という職業を知り、こんなにも自分の"好き"が詰まった仕事はない!と、なりたい気持ちが湧き上がる。 が、だいたい想像ができるように、なろうと思ってなれる職業ではない。作品の中で挙げられる代表的な放送作家は、鈴木おさむや秋元康など雲の上の存在。 学歴もコネもないきなこは、お笑いライブを担当していた放送作家に声をかけ、根性で企画をいくつも提出するも、ぶっ倒れるほど面白くない。そんな中でも運良くとある新番組企画の会議に参加できることになるが… ここからわりと心がえぐられる展開。 クリエイターやメディア関係の仕事を志した経験があると分かる人が多いかと思いますが、好きなことだけをやっているとどうしても自分の実力を過信しがちで、いざ新人として業界に足を踏み入れた時、自分の無力さ、無能さ、凡庸さを思い知ってプライドがズッタズタのボッロボロになります。 きなこは完全に心が折れて、自分がここにいてはいけないと思い親の病気をでっち上げて逃げようとしますが、鬼のように怖かった制作会社の社長がきなこに大変ありがたく優しいお言葉をくれるというところで1巻読了です。 きなこは最高にツイてると思いました。だって普通だったら「あ、そう」で終わりなのに。 また、きなこの同級生で当時一軍として輝いていた人たちも同じように25歳になっているわけですが、今も一軍でい続けているということは全く無く、環境が変われば誰もが三軍なんだということもちゃんと描かれています。それもわかる…今ならわかる! まだ何も手にしてない、身についてない、実績がない時にもがき苦しんだ記憶はなるべく思い出したくないものですが… 自分が何歳のときに読むかによって、捉え方が大きく変わる作品ってありますが、これがまさにそうで、20代前半の自分に読ませたいなと思う半面、むしろ30を過ぎた今のほうが刺さるかもとも思いました(思い当たることがある人は特に)。 原作のピエール杉浦さん自身の経験をほぼそのままマンガにしたとあとがきに書いてありました。ピエールさんは一旦辞めて田舎に帰って、やっぱり諦められなくてもう一度チャレンジしたそうです。 まだ1巻を読んだところですが、4巻まで一気読みしてしまうと思います。
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