たか
たか
2019/04/04
移民、青春、そして故郷
camera1980年代、内戦の続くモザンビークから東ドイツへ渡った3人の若者たちが主人公。 東ドイツで青春時代を過ごした経験が、それぞれの「故郷」との関係を変えることになる。 党に理想を抱く真面目なジョゼ 未来がないことを理解し遊びを大切にするバジリオ 残された家族のために働くアナベラ 本文によると、この3人は作者がインタビューを行った実在のドイツ移民たちを「結晶」したものだという。 彼らの生活は、東ドイツという先進社会主義国の雰囲気、先のない単純労働、移民差別によって窮屈だったけれど、決してそれだけではなかったのがとても印象的だった。 女の子と遊んだり、恋人に出会ったり、勉強を頑張ったり、映画・小説・ファッションを楽しんだりしっかり青春もしていた。 (東ドイツで出会った絵本や映画、アイスクリームのラベルなどが、フォトコラージュのように描かれるところがとても素敵) 鬱屈した遠い異国の地で、彼らなりに日々に楽しみを見出し生きている姿は、読んでいてとても眩しい。 だからこそ、移民であるために訪れた残酷な青春の終わりには強い喪失感を覚えずにはいられなかった。 それぞれが迎えたその後の人生は、日本でずっと暮らしている自分の想像も及ばない、深い怒りと悲しみに満ちていて、彼らの感じた激しい想いが、インクの色と形とリンクして訴えかけてくるのが壮絶。 故郷を離れたことがある人も、ない人も。 この本は故郷とは何かを見つめ直すきっかけになる本だと思う。
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2020/03/22
甘味+和雑貨、究極の癒しスポット。 #1巻応援
ああ、心がささくれ立っている。気が滅入る。心を手っ取り早く立て直したい、口角を上げて笑いたい……私はそんな時に、甘味が食べたくなる。 まずは一口、ほんの少しでいい、甘味を口に入れた瞬間の、脳がすうっとして、幸せな気持ちになるあの瞬間。 形は可愛く。目でも楽しんでから、少しずつ形を崩して、口の中に運んでいく。 そして食べる場所も、素敵な方がいい。あのいい感じの店に行く、という高揚感が、甘味の浪漫を倍増させる。 そんな素敵な甘味処を夢見る私の理想郷が、この作品にはあった。 ★★★★★ 場所は東京、「雑貨店とある」と看板が出ているお店。中には和雑貨が並び、落ち着いた雰囲気。店内には飲食スペースが設けられ、店主の手による飲料や甘味が提供される。 その店には何かに躓いたり、落ち込んだりする人が引き寄せられる。彼らは店の雰囲気と、何よりも提供される甘味に驚き、癒されていく。 季節のメニューが響いたり、懐かしの味に感涙したり、食材の意味に感動したり……という「メニューの小粋さ」も素晴らしい。しかしそれ以上に、どのメニューも甘さが脳天に響きそう! 店主の甘味は、自分のこだわりよりも食材や食べるお客の事を考えて作られていて、甘味好きのツボを徹底して突いてくる。お客と甘味の話をする、どこか呑気な店主は楽しそうだ。 そんな「雑貨店とある」は素晴らしい癒しスポットなのだが……店主もバイト君も暇そうなのが、ちょっと心配。 お客を立てて損をする店主と、店を心配するバイト君、そして大量の柚子の行方は……次巻も、大切な癒しスポットがつぶれてしまわない様に祈りながら、出てくる甘味の味を空想して愉しみたい。
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
2019/05/09
迷走せよ!
長尾謙一郎の『ギャラクシー銀座』は、紛れもない名作である。 『伝染るんです。』『いまどきのこども』『サルまん』等など、綺羅星のごときスピリッツ連載の革新的ギャグ群の血脈を受け継ぐ、最新のまことに見事な達成だ。 …って、「最新」なんて言っちゃったけど、そうか、ギャラ銀も、もう10年以上前なのか。 しかし、この10年間で、それを超えるだけの破壊力を持ったギャグは現れていない、と個人的には断言したい。 二十一世紀、メジャー漫画誌に掲載されたギャグ・フィールドの成果として、うすた京介『ピューと吹く!ジャガー』のクオリティーに比肩できるパワーを持つのは、この作品くらいではないか。 (漫画太郎の衝撃は、二十世紀末ですからねえ。『地獄甲子園』とか本当に凄かったけど) 前作『おしゃれ手帖』のスマッシュ・ヒットに続き、満を持して開始されたであろう『ギャラ銀』は、その革新性ゆえ、連載中から迷走を始めたように感じられる。 だが、その迷走と引き換えに、ギャグ漫画は時に不滅の破壊力を得るのだ。『バカボン』が、『マカほう』が、『パイレーツ』が、『珍遊記』が、迷走していないと誰に言えるだろうか。 『ギャラクシー銀座』には、新しいギャグを描くのだ、という崇高な志が漲っている。 それは、この「ギャグ漫画不毛の時代」にとって、果敢で無謀な「光」だったと、今も強く思う。 その迷走の先は無明だったとしても、だ。 漫画雑誌というメディアの生命が終わろうとしている今、どこに新しいギャグの「火」は灯されるのだろう。
sogor25
sogor25
2019/05/14
好きだからこそ、揺さぶられる倫理観
前作「彼女は宇宙一」の評判が私の周りでやたら良かったので、谷口菜津子さんの名前を見つけてあらすじも何も見ずに今作に手を伸ばしたんです。冴えない感じで超ネガティブ思考の彼氏・一郎とそんな彼のことが大好きな美人の彼女・ゆきか…読み始めは「地球のおわりは恋のはじまり」みたいな幸せなラブコメなのかと思ってました。 そしたら突然明らかになるゆきかの過去に関する噂。生来のネガティブさもあってその噂を異常なまでに気にし始める一郎。そして唐突に登場する噂の真偽を確かめることのできるふしぎ道具。疑惑とそれを検証する術を目の前にして激しく揺れ動く一郎のメンタル。予想以上に読者の倫理観を揺さぶってくる恐ろしい作品でした。谷口さんの絶妙にデフォルメされたキャラクター造形、ベースは整然と並んだ長方形なのに突然崩れたようになるコマなど、いろんな方法で作品のリアリティラインを曖昧にしてきているのもその揺さぶりを効果的に支えているように思います。 1巻の段階ではその噂が事実かどうかは分からないけど、少なくとも現在のゆきかの気持ちは一郎に対して一途であることが伺い知れます。一郎の視点のないゆきかだけしかいない空間の描写からもそれは分かります。それを鑑みると、この作品の肝はゆきかの過去に囚われてしまった一郎の心の移り変わりにあるのだと思います。一郎が現在のゆきかだけを見て過去の噂など気にしないという態度を取ることができたなら、もしくはその噂を検証する手段があったとしてそれを実行しなければ、この2人はこれまでと変わらず穏やかに過ごすことができた、でもそうすることができなかった一郎の咎と、それを一概に否定することのできない読者側の人間の性、を描いた怪作だという印象を受けました。 「hなhとA子の呪い」「青春のアフター」「それはただの先輩のチンコ」等、好きという感情とそれに付随して回る負の感情をファンタジー設定を交えて描く作品が好きな方と相性のいい作品ではないかと思います。 1巻まで読了。
影絵が趣味
影絵が趣味
2020/03/21
僕の小規模な失敗も!
最近、"妻"がツイッターにハマっているらしく、福満しげゆきのアカウントから過去作の切り抜きがたびたびアップされているのを目にする。一世を風靡している100日のワニほどではないにしても数百から数千、ときには万単位のいいねがついている。アックスは青林工藝舎時代からの読者としては真に感慨深いものがある。 (ちなみにマンバさん、福満しげゆきの青林工藝舎から出ているタイトルがすべて載っていないので、何卒載せてあげて下さい) とくに『僕の小規模な生活』のもとになった、というより、小規模な生活がそれの続編にあたる『僕の小規模な失敗』(青林工藝舎)はいったい何度読み返したことだろう。そればかりではなく、家に何冊も備蓄しておいて、遊びにきた友人知人に「これめっちゃオモシロイから読んでくれ!」と半ば強制的に持ち帰らせていた。反応はまずまずだったと思う。 小規模な失敗はとにかく気合いが凄かった。最近の漫画はコマを縦に三段で割るくらいが一般的だが、手塚時代でもせいぜい四段で割るくらいだったが、福満しげゆきは五段とか六段とかまでいっちゃう。コマが豆粒みたいになって読みにくいんだけど、たぶん本人にもその自覚があって、始めのほうは大きくコマを取っているんだけど、だんだん描きたいことと残りのページとの釣り合いがとれなくなってコマが小さくなっていく。それでも加速度的に熱が籠もっているからなのか、小さなコマを追っていってしまう。 気合いの入った熱い漫画家であるいっぽう、大変なひねくれ者でもあるようなので、自身の漫画を自分のツイッターで宣伝するなんてできなさそうなところを妻がナイスアシストでツイートしている。いやあ、なんだか羨ましいですなあ。
mampuku
mampuku
2019/04/07
漫画家になりたいすべての凡人が読むべき漫画
 20代後半にして漫画家志望の悩める青年、受賞に至るために彼に何が足りないのか? 「漫画家家庭教師」を名乗る謎の人物(なお先生・主人公)による分析と指導で目からウロコがぽろぽろな漫画です。漫画家志望に限らずすべてのクリエーターにとっても勉強になるのではないかと。 https://mochicomi.net/productions/311 ・5年周期で一周するジェネレーションギャップ(音楽だと7年くらいと言われてます) ・幅広いジャンルをインプットすることで「バレにくくパクる」 など本当にそのとおりで頷きっぱなし。  狂言回しの漫画家志望青年は、ボカロやアニソン、'00年代初頭のJpopばかりを聴き、またその頃の大ヒット漫画ばかりを好んで読む典型的な20代後半のクリエイター志望として描かれています。現実世界でいうと、ナルトやブリーチ、ハガレン、宇多田ヒカルやポルノグラフィティのような世代でしょうか。(当方、異業種ですが確かに体感的に多いです)  かの宮崎駿も「アニメだけを見てアニメを作るな」と言っていました。  忘れてはならないのは、全オタク人口のうち、コンテンツを生み出す側のオタクはほんの2%程度(要出典)しかいないということです。それだけ一握りの、クリエイティブを志す者が、凡百の自称オタクと同レベルの消費行動をしていては成功など夢のまた夢ということです。自戒を込めて、毎日読み返したい漫画です。
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