(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
2019/11/27
途方もない歩行者
本書はカバーに「潮出版社」とあるが、イラストやデザインは奇想天外社版『魚の少年』と同一である。この潮版を読んでいないのだが、推測するに、奇天の二冊『魚の少年』と『たつまきを売る老人』を「幻想短編集」として合わせているのだろう。なので、このクチコミは『魚の少年』を念頭に書く。 坂口尚は、そのそれほど長くなかった人生において、漫画家として著名であったとは決して言えない。 瞠目すべき長篇三部作『石の花』『VERSION』『あっかんべェ一休』(遺作)はもちろん、『12色物語』に代表されるすべての短編が、とにかくあらゆる点で、目も眩むほどのクオリティーと誇り高き魂を備えた、途轍もない存在であるのだが。 1995年歿、享年48。 この圧倒的才能が歩んだ孤高の道程は、キャリアの最高潮で突然途絶えてしまった。 アニメーターとしても、安彦良和が“「坂口尚? えっ あの天才が? もったいない あなたのような人が!」とサンライズの面接に来た坂口に驚いた”(Wikipediaより)というほどの達人であった。 早逝が本当に惜しまれてならない。 それにしても、この初期短篇集が放つ「輝き」の美事さはどうだ。 漫画やイラストレーションから絵画の技倆までを融通無碍に繰り出しながら、卓越したアニメーターによって初めて可能な「動く」表現も活き活きと操る、まさに「見る快楽」に満ちた画面。そして、そこで語られる言葉は、優しさに溢れながら甘いところが微塵もない、優れた詩人のものだ。 坂口尚の著作は、これまで何度も何度も版元を変えて出版されている。 もちろん編集者に熱心なファンが多いからだろうが、一方で、常にそれほどの部数が出ず絶版を繰り返していることも意味しているのだろう。 だから今こそ、未読の人に心から坂口尚を薦める。 漫画史に存在した最良の才能のひとり、と言っても、まったく過言にはならないのだから。
兎来栄寿
兎来栄寿
2019/02/05
「キルラキル」が好きな方におすすめです
最初に出会った時は、その圧倒的なデザインセンス・線の美しさに惚れ込みました。 作画を担当しているOKAMAさんは、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』で使徒やセントラルドグマなどのデザインもされている方。 その緻密な筆致により描かれる服飾や背景美術が、唯一無二の世界観を生み出しています。 独特のアーティスティックなセンスが一コマ一コマに行き届いて、画集のような楽しみ方もできる漫画です。個人的には、背景を眺めているだけでも十分に楽しい作品。 きっとこの世界が好きだけれど未読という人は、まだ世の中に一杯いる筈! 是非ともそういった人に届いて欲しいと願います。 又、キャラクターもとても魅力的。 元々女の子の可愛さに定評のある方で、事実可愛いのです。 でも、それだけではありません。格好良いおっさんだって沢山出て来ます。 感情が迸ってくるようなキャラの表情も良いですし、躍動感溢れる構図は画面の外まで突き抜けて来るかのよう。 そして、ビジュアル面のみならず物語自体も実に面白いです! 脚本を担当するのは、今季では『東京レイヴンズ』『サムライフラメンコ』に携わっていた倉田英之さん。 『R.O.D』で紙を用いて戦う少女を描いていましたが、今作では服で戦う少女を巧みに熱く描きます。 ここで、ちょっとばかりその独特な作品世界を説明しましょう。 ナノテクノロジーが極限まで進化し、産業革命ならぬ「繊」業革命が起きた時代。 ケーブルは繊維に、基板は布になり、コンピューターは服と一体化。 世間では服を作る「デザイナー」と、服を着こなす「モデル」が脚光を浴びる中、生まれてすぐ捨てられた双子、デザイナーの少年ファーガスとモデルの少女ジェニファーを中心に物語は進みます。 この世界のモデルは、デザイナーの作った服の驚くような機能を駆使してバトルを行う存在でもあります。モデル同士のバトルは人気の競技であり娯楽。 生き別れの双子が再会し、ファーガスが作った服をジェニファーが纏って戦っていくという大筋です。 そして、物語が進むにつれ話はどんどんスケールアップ。 それこそキルラキルばりに、星をも巻き込む物語になって行きます。 ユニークな要素が沢山詰まった作品ですが、大筋を辿れば実は正統派ビルドゥングスロマン。 少年と少女の成長、人と人との暖かい絆、熱い絆を感じられるようになっています。 この部分がしっかり創られているからこそ、私としても多くの人に呼んで貰いたいと思うのです。 『クロスロオド』が素晴らしいのは、全11巻で11巻が一番面白いということ。 序盤はもしかしたら乗り切れないものを感じるかもしれません。 が、尻上がりに面白くなっていきますので安心して下さい。 とりあえず、まずは4巻まで読んでみるのが良いでしょう。 最初は三流・二流モデル達がメインですが、トップモデルやトップデザイナー達のキャラ立ちぶりは凄まじいです。 中でもメイ様と呼ばれるモデルは非常にカリスマ性が高く、格好良いです。 『クロスロオド』自体名言が頻出する作品ですが、特にメイ様は名言製造機と呼んでも良いほど。 少々引用すると…… > どこで咲こうと花の美しさは変わらないよ   > シャクナゲの花言葉は『威厳』『荘厳』君たちにはないものだ  > そしてもう一つは『危険』 君たちが今味わっているものだ   > 隣で世界が滅亡しても気づかない鬼の集中モードにいつでも入れるように   > 風まかせかい? ……違うね  > 勝利の風は自分で吹かせるものだっ! ああ、メイ様格好良いィッ! ちなみに、一番好きな名言はここでは伏せておくので、是非実際に読んで昂って下さい。 一部キャラの激しい狂気や、ページを捲った次の瞬間に起きる衝撃という意味では『HUNTER×HUNTER』を思い出す位の内容です。 ジェットコースター的な展開が好きな方にもとてもお薦めです。 『クロスロオド』の華やかな世界と凄絶なバトルシーンも、アニメで観てみたいなぁ…… この精緻さを動画でやるのは非常に大変だと思いますが、その分創り上げてしまえばアニメ史に刻まれる作品になると思うので、こっそり期待しています。
(とりあえず)名無し
(とりあえず)名無し
2019/11/12
「面白さ」とはなにか
小池一夫の凄さを、どう伝えれば良いのか、かなり悩む。 吉田豪や映画秘宝的な「豪快で変な巨匠」アプローチも、それはそれでアリなんだろうが、「なぜ一時期の小池一夫は、あんなにもヒットを連発したのか」という部分についての答えにはなりえないだろう。 小池一夫の漫画は(少なくとも70年代の作品は)、とんでもなく「面白い」のです。 漫画が大衆の娯楽であることを、これほどまざまざと感じさせてくれる作家はなかなかいない。 今の読者が読んでも、それは充分に理解できると思う。 これだけ「サービス満点」の原作、そうはないですよ。 この『道中師』には、小池一夫の作劇の卓越性が凝縮されている。 言うまでもなく、小島剛夕との名コンビには『子連れ狼』や『首斬り朝』のような有名作がズラリで、それらももちろん文句なく素晴らしいのですが、個人的に思い入れがあるのは、『道中師』だなあ。 基本の物語は、チャールズ・ブロンソン『狼よさらば』のような復讐譚。 もともとは任侠映画の世界観の変奏なのだろうが、小池作品はマカロニ的な荒涼とした「水っぽさ」、エロ&バイオレンスに溢れていて、土着っぽいのにバタ臭い。ロジャー・コーマンやタランティーノが心酔したのも宜なるかな、ですね。 とにかく、虚実入り交じる「水っぽい」設定や蘊蓄、小ネタの圧倒的量と配置が素晴らしい。 オープニング・エピソードから順番に、いろいろと例を挙げつつ細かく説明しようと思ったけど、やっぱやめよう。読めば分かりますから。とりあえず読んでみてください。 その「通俗」的な面白さの凄みは、今の漫画が忘れてしまっているもの、と少し大上段に振りかぶりたくなるくらい、良質ですので。 以下、雑談。 なんとなく、現在の壮年世代の時代小説ブームって、池波正太郎や藤沢周平よりも、この小池版時代劇画と地続きなんじゃないだろうか、と愚考しているのです。一時期のノベルス・ブームの元が、小松左京や星新一じゃなくて永井豪だった、みたいな。 70年代の小池一夫には、まだまだ忘れられた鉱脈がある気がするんだよなあ。
兎来栄寿
兎来栄寿
2019/02/06
いちえふ 福島第一原子力発電所労働記
「いちえふ」、と聞いて何のことか判るでしょうか? 世間では「フクイチ」と呼ばれることの多い東京電力福島第一原子力発電所。その呼称は、現場の人間や地元住民の間では「1F」であるといいます。今作は実際に1Fで働いて来た筆者による実録ルポマンガです。 これまでに多くの人が様々な形で福島第一原発について報じてきました。又、3.11や原発をテーマにしたマンガも出版されて来ました。しかし、その中でも現地で原発作業員として働いた人間が、そのありのままの様子をマンガという形で表した物はありませんでした。今作はモーニングで連載開始されるやいなや、国内外数多くのメディアでも取り上げられ大反響。今回はその単行本の感想を書いてみたいと思います。     現地で働くことを志望してもなかなか仕事を回して貰えず、現地で観光をして時間を潰したり原発に何の関係もない仕事を回されたりする6次下請けという歪な構造。 「ご安全に!」という、耳慣れない挨拶が交わされる現場。 身に付ける装備一つ一つに厳密な線量検査を行う一方で、汚染検査済証の半券はコピー用紙を定規で裁断。 東北とはいえ夏は暑く、放射能よりもダイレクトに命に関わる熱中症。 掻けない鼻の痒みの辛さ。 色んな年代が集まるなか、ギャンブルと下ネタが会話の大部分を占める男所帯。 何故か可愛い顔文字が書かれているJヴィレッジの入退記録。 危険区域でもセミはうるさく、道路には牛が飛び出してくることもあり、奇形動物など見た試しもない。 発電所や休憩所の構造、装備品の形状などなど……この作品を読むことで、今まであまり語られて来なかった現場の実情を沢山知ることができます。 > 「外の人に『1Fで働いている』なんて言うと超危険な現場でものすごい被曝しながら戦ってるヒーローみたいに言われたりシますけどね」 > 「なんの実際大半は俺達みたいに安くて地味な仕事タイね」 という会話も。裏方で機械や車のメンテナンスを行ったり、トイレの掃除をしたりする裏方の仕事も克明に描かれます。 > 「そやけどそんな仕事もやる奴がおらんと1Fは回らんのや。どんなつまらん仕事やろうとここで働いとる事には胸を張っていいと思うで」 と語る年配の明石さんがとても凛々しく見えます。現地で働く、あるいは働いていた方々には、感謝と敬意を表します。 メディアを経由して想像される「フクイチ」ではなく、一人一人の人間がそれぞれの想いを抱えて当たり前のように生きて働いている「1F」の姿が解る今作。 やはりマンガは、そのヴィジュアル要素を含む媒体としての特性ゆえに、字だけで書かれた本よりも何倍も解り易く物事を伝える力を有していると思いました。 貴重なドキュメンタリーとして、老若男女問わず一人でも多くの人に触れてみて頂きたいと強く願います。
吉川きっちょむ(芸人)
吉川きっちょむ(芸人)
2018/12/16
薦められて絶対に損しないマンガ
裏社会ですら都市伝説と言われている伝説級の殺し屋「ファブル」が、1年間の休養を大阪で命じられ、「一般人」として一般社会に紛れるが・・。 裏社会のごたごたに巻き込まれてしまうシリアス部分と、日常の肩の力が抜けきったコメディ部分のアンバランスさがたまらなくいい塩梅。 緊張と緩和でそれぞれのシーンがいい振り幅になっていて、より楽しめる。 ファブルが常人離れして強いとはいえ、描かれる強さはバキなどのような誇張された過剰なものではなく、壮絶な訓練の末に人間が辿り着けるであろう極致。 単純に強いというか、一つ一つの所作から技術、意識、感覚まで練度MAXにしている感じ。 なので、スーパーマンとまではいかないが、普通の殺し屋程度では赤子の腕を捻るレベルで強いので、見ていて爽快感がある。 策を弄してファブルを追い詰めようとするも、簡単に破られてしまうという快感は、振って振ってワンパンで倒してしまう『ワンパンマン』にも近いものがある。 そんな凄いファブルも、一般社会に入ると一転して「一般常識を知らないちょっと変わったお兄さん」扱いで、その世間知らず具合が程良くてプププっと笑けてくる。 これが絶妙でたまらない。 話のテンポ感や、どこかあり得るかもと思わせる妙なリアリティ、生き生きした登場キャラの人間味など、どこを取っても素晴らしい作品。 最初に、台詞のあの伸ばし棒部分「―――」を語尾が伸びてると認識して読んでしまっていたのが痛恨のミス。 ただの間として表現されていたものなのでそう遠くはないのだけれども、今から読み人はご注意を! これはこれでみんな、だら~っと話しているみたいで味わい深くていいんだけどね…、もう戻れないよ・・。
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2019/11/30
一眼レフと「光」の世界(デジカメの話)
11月30日は(オートフォーカス、以下AF)カメラの日。AF機構のカメラが登場した日です。 写真やカメラの漫画は多くありますが、こと最新のAFデジタルカメラとなると、扱う作品は意外と少なくなります。 ここからは『ルミナス=ブルー』に登場するカメラについて、推測してみたいと思います。 (物語の内容に関しては、sogor25さんのレビューをご覧下さい) 主人公の光(コウ)のカメラは、クラシカルな外見から、SONYのEマウントかと思われます(ミラーレスで軽いので、女性におすすめ)。レンズが短いので、恐らく単焦点の標準50mmf1.8。初心者は50mmの画角を覚えるべし、と言われる入門レンズ。機動性がいいので、光のようなスナップ派は、これをつけっぱなしで街に出るのが楽しいと思います。 また、単焦点レンズはズームレンズよりレンズの構成が単純で、画質が良いと言われます。シャープネス、ボケの表現は単焦点に分があり、光の写真のきらめき感は説得力があります。 一方、葉山先輩は、1巻の終わりで長くて白いレンズを使って、光と寧々を隠し撮りしています。あのレンズはキヤノンの望遠レンズ、通称白レンズと思われます。高価です。光が見て「すごいレンズ…」って言ってますね。 街撮りでは意外と望遠レンズが重宝します。かっこいい建造物、向こうに見える植栽の花など、広角や標準だと対象に寄りきれないのですが、望遠だと好きなように遠景を切り取ることができます。 被写体と近しい距離感で撮影する光。一方、被写体に無断で、ありのままの感情を撮ろうとする葉山先輩(雨音も勝手に撮られて怒ってましたね)。二人のスタンスの違いは、機材にしっかり現れていると思います。 ここまで、分かる範囲で『ルミナス=ブルー』に出てくるカメラのお話をしました。もし間違っているとか、こっちじゃないの?とか、その他カメラの話をしてくださる方いらっしゃれば、どうぞコメントください! ちなみに私はニコン派です。
ななし
ななし
2019/11/19
海外のオタクが日本に暮らしたら!
cameraちょっと前に海外エッセイ漫画と海外ウェブトゥーンにハマっていて、フランスはとにっきやモンプチ(フランスに偏ってますが)などを読み漁っていました。そのころにたまたま**「海外のマンガ家さんが日本での生活を描いたエッセイ漫画」**という興味ドンピシャのマンガがあると知り、内心「絶対面白い…!」と思いながら読んだのがこれ。 https://www.comic-essay.com/episode/68/ **実際絵がめちゃめちゃかわいい…!コミックエッセイらしさとお洒落さが絶妙なバランスの絵が素敵。** さっき、クチコミを書くにあたり冒頭を読み返してみたら ・アニメやマンガで買い物袋から突き出しているものが「ネギ」だとわかり真似したくてスーパーで買う ・日本で人の家に招かれた際、「(※客間に)上がって上がって」の意味がわからなくて、3階まで上がって待っていた ・スーパーで売ってる下着が地味なのが不思議 …という面白エピソードがゴロゴロ出てきて笑ってしまいました。 ちなみに私が好きなのは「あられの日に窓の外を見たら、男の子がマンガみたいに屋根の上で空を見上げていた」という話。もし自分が外国人のオタクでそんな光景を見たらエモすぎて一生忘れられないと思う…!! (↓このエピソードです。「第10話 あられで出会った少年2」) https://www.comic-essay.com/episode/read/747 20話以上がコミックエッセイ劇場で公開されているのでぜひ読んでみて下さい! (追記) 当時は知らなかったのですが、フー・スウィ・チン(FSc)さんは、日本でも著者を発表してる有名な作家さんなんですね。最近知ってすごく驚きました。 (画像は序文の挨拶のところ。優しい塗りと洗練された柔らかいデフォルメがたまらない…!)