影絵が趣味
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2019/08/03
思い出せない父の顔
気がつくと『団地ともお』の連載が終了していた。およそ10年近く、ともおとの付き合い方はだいたいこんな感じで、気がつくと数冊の新刊がでていて、読んで笑ってホロリとして、忘れた頃にまた、読んで笑ってホロリとする。 まったくこんなにも滋養のようなマンガはほかにあまりない。日々はっきりいってしまえば"意味のない"ことばかりに熱中するともおたちをみていると、なんと心が和むことだろう。大人になって"意味のある"ことばかりを選択して行うようになったせいだろうか。 ところで気がつくと連載が終わっていた『団地ともお』の数いる登場人物のなかで、あのひとはいったいどうなったのかな、とすぐに気になるひとがいた。そう、ともおの父親である。どうしても顔のみられなかった父親である。最後には素顔を明かしてもらえたのか、それとも最後まで顔はみられず仕舞いなのか、それがまず第一に気になるところであった。 結論からいえば、顔が明かされようが明かされまいがそれはどっちでもよかったのだが、32巻の最後に父親が登場する回にちょっと泣いてしまった、笑いながら。 本社の"お祈り課"なる部署に配属された父。そこでは日々会社で社交辞令として行われる"祈り"をすべて本気で代行しているのである。就活生への不採用通知における「今後のご活躍をお祈りします」から接待ゴルフの晴れ乞いまで、すべての社交祈りをじっさいに本気で祈っているのである。あるいはこの題材を描くひとが諸星大二郎ならば不条理劇になっていたにちがいないが、これを小田扉が描くと、なぜだかホロリとなる恩寵のようなものがひっそりと佇んでいるように思えるのは自分だけだろうか。合理的に考えてみれば"意味のない"こととしか言いようない"祈り"を本気で、アクロバティックに、行うが故にまたしても顔のみえない父。しかし、この無意味と思える行為を本気でやることこそが『団地ともお』の主題ではなかったか。 ひとは自らの行為に意味を追い求めてやまない生き物だが、意味というのはあくまでも後追いであり、副次的であり、限定的で不自由なものにしかならない。ほんとうの自由や豊かさというのは、実は"祈り"のようないっけん"意味のない"ものに潜んでいるのかもしれない。『団地ともお』ははじめからさいごまで一貫して"祈り"をつらぬいたマンガといえるかもしれない。
sogor25
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2020/11/22
無実の罪を着せられた令嬢に"贅沢"を教え込む #1巻応援
魔法薬を売って生計を立てているが、人相が悪く町外れに住んでいるため人々から「魔王」と呼ばれている魔法使い、アレン・クロフォード。 彼はある日、家の近くの森の中で傷だらけの少女が倒れているのを発見します。 どうやら彼女はシャーロット・エバンスと言う隣国の第2王子の婚約者らしく、国税の使い込みや不貞行為国王暗殺などの罪で逃亡中だとのこと。 しかし目を覚ました彼女に話を聞いたアレンは、彼女が"無実の罪"を着せられただけであると確信します。 そしてそんな彼女を住み込みのメイドとして雇うことにするというお話です。 この作品、罪を被せられたシャーロットはすごく自己肯定感が低く、無実の罪で処刑されようとしていたにも拘わらずその罪をなすりつけてきた第2王子のことを一切悪く言わず、全て自分が悪いと思っていました。 そんな彼女に対して、自身も人に裏切られた過去のあるアレンは自身の境遇を重ね、彼女の心を癒し、人としての尊厳を取り戻させるために"イケナイこと"を教え込むと言いつつシャーロットに贅沢をさせようとすると言う物語です。 なので、コメディタッチの作品ではあるんですけども、そこにはちゃんとキャラクターのバックグラウンドがあって、コントのようなやりとりの中にもしっかりとした説得力のある作品です。 もちろんコメディとしても、素直に贅沢を享受できないシャーロットとシャーロットに楽しんでもらおうと半ば意固地になって贅沢を押し付けるアレンのやりとりがラブコメのようでもあり、いろんな種類の楽しみ方を提供してくれる作品です。 1巻まで読了
たか
たか
2019/09/26
キラキラしてて温かい「自分らしさ」の物語!
何がきっかけでこの本を見つけたのか忘れてしまいましたが、購入の決め手はこの美しい表紙でした。もう、見てくださいよこれを…!! https://res.cloudinary.com/hstqcxa7w/image/fetch/c_fit,dpr_2.0,f_auto,fl_lossy,h_365,q_80,w_255/https://manba-storage-production.s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/book/regular_thumbnail/260588/f9a8b0a9-b873-46a5-bc4a-1d71a4a923e5.jpg この**ファッション雑誌のポートレートのような繊細の色使いの表紙**が最高で、「うわ〜!こういう写真がプリントされたTシャツほしい…」とうっとり眺めていると、登場人物たちが着てることに気づいてクスッときました。 そして表紙だけでなく中身も最高でした…! かわいいものが大好きなまどかがいつきと出会い、自分らしい格好をすることに自信を持っていくストーリーなのですが、主人公といつきの家族が本当に温かくて素敵で、**憧れ・友情・家族愛全部詰まってるんです…!** 憧れは、服装に対する憧れという面だけでなく、第1話で、まどかがいつきの兄・広斗に助けられるシーンが本っっ当に素敵で、子供の頃に近所のお兄ちゃんに憧れていた気持ちを思い出しました。 https://i.imgur.com/sMopUPc.png (『まどかのひみつ』金魚鉢でめ 1話より) **「小学生の男の子と女の子がメインで、毎回可愛い・格好いいお洋服が登場して、自分らしさを周りの年上の人達が認めてくれる」。** このまどかのひみつの「世界が優しい」感じ、なんか馴染みがあるなあと考えてみたら、アラサーのバイブル・カードキャプターさくらと通じる部分があるからでした。**金魚鉢でめ先生の繊細な絵で描かれる、「それぞれが持つ自分らしさ」をみんなが大切に受け止めてくれる世界。本当に美しくて優しくて、読んでいて心に染みます。** https://i.imgur.com/IS0nhGj.png (『まどかのひみつ』金魚鉢でめ 2話より) **ページのどこを開いても美しい絵ばっかりで、眼福に浸っているとあっという間に1巻読み切ってしまいます。**優しい全1巻だと気づいたときの衝撃たるや…悲しかったです。2人がどんな大人になるのかメチャクチャ気になるので、ぜひ売れて続編が出ることを願っています。 https://comic.pixiv.net/works/5257
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2020/07/15
音楽表現と和楽器JKのブレイクスルー!
音楽の表現に「擬音」を使わない事。これがこの作品の最大の特徴である。 擬音による音楽表現は、分かりやすい反面、表現できない事も多い。例えば音色は、伝えたい音を擬音で描いても(ポンとかガーッとか)結局は読者の脳内補完が頼り。正確な伝達とは言えない。また、合奏での、旋律やリズムが絡む感覚は表現しにくい。 『なでしこドレミソラ』では、流水紋で旋律の雰囲気、和柄で和楽器らしさを仄めかすのみ。絵で魅了したら、音は完全に読者の想像に委ねる、割り切りの良さ。しかし流水紋は音楽が流れる時間・空間感覚となり、それを重ねる事で各パートが混ざり合い、響き合う表現となっていて、今までに無い「穏やかな」ゾクゾク感がある。 かつて音楽漫画が発想しなかった「音楽表現」のブレイクスルーを、音楽漫画が好きな方には、ぜひ読んでいただきたい! ♫♫♫♫♫ 物語は、地味な自分を変えたい主人公・美弥を始め、和楽器同好会に集まったメンバー四人の、様々な「ブレイクスルー」の過程が描かれる。分かりやすい子から一見分かりにくい子まで、自分の拗らせを知り、悩み、殻を破って成長する物語は明るく、清々しい。 これは、四人が対等な関係で互いの音を聴き、自分の音を重ねる真の「合奏」を目指す物語。そしてそれは音楽を越えて人間関係でも、自分から動く事と、相手を見る事のどちらも大事だという「個性と調和」の物語になっていく。 少し拗らせていた女子高生達が、真に自立したメンバーの一員として舞台に立つ終幕は、とてつもない歓びに満ちている!
たか
たか
2019/08/21
すごくいい…!早くサッカーしてくれ〜〜!!
camera絵柄もストーリーもBE BLUES!~青になれ~とアオアシを足して割ったような、面白くなりそうな気配しかしない新連載…! 田中モトユキのような、少年漫画らしい白黒ハッキリした色使いと、説得力ある身体動作。 小林有吾のような、顔に細い線を書き込んで表情に迫力を出す技法。 う〜ん、絵がうまい…!! https://websunday.net/rensai/madaminu/ この物語の主人公・ヨウジは、一条龍のように現実的でアシトのように視野が広い。母1人でラーメン屋を切り盛りしているという家庭環境から、2人と違ってサッカーへの想いや進路希望を隠している。 そんな中、先生が母に話してくれたことで、スポーツ特待で入れる強豪校のセレクションを受けられることになり…というのが1話のあらすじ。 創作では嘘をつくときの癖ばかり描写されるので、お母さんの「本当のことを話すとき、頬を触る」という癖はすごく新鮮だったし、愛情が伝わってきてよかった。 第5回の短期集中連載ということで物語全体の完成度はすごく高くなりそう。 冒頭の試合シーンが最高だったので来週のセレクションに期待…!! (画像は第1話より。ここの田中モトユキ感すき)
たか
たか
2020/07/27
「東京の良さ」はまさにこれって感じ
camera浅野いにおと仲直り出来た読切だった。10年ほどまえにおやすみプンプンを途中まで読み「しんどいなぁ…」と感じ、デッドデッドデーモンズデデデデデストラクションの連載第1話を読んで「やっぱなぁ…」となり。 読む前はかなり構えていたのですが、実際読んでみたらびっくりするくらい登場人物たちと自分の気持ちがシンクロしてしまいもうメチャクチャ面白かったです…! 10年間漫画家のアシスタントをしているという主人公(30)は、マッチングアプリで出会った善良な男性と渋谷で飲む。 渋谷の「自分が上京してからずっと工事中の景色が好き」という主人公。 東京は「いろんな人の寄せ集めで、誰も他人に興味がないしみんながみんな上辺」だという男性。 結局2人はホテルに行かず、次に会う約束もせず別れる。 この清々しいほど後腐れのない出会いと別れが、まさに東京という街らしくてめちゃくちゃグッときました。 他人と二度と人生が交差しない、誰も自分を気にしていない、1500万人の雑踏に紛れてしまえる安心感。 普段から自分が感じている東京の魅力が、この短い読切でこれ以上なく表現されていて「浅野いにおスゲ〜〜〜!!!」という気持ちでいっぱいです。 渋谷という街は、自分自身にとっても上京して大学生活を過ごした場所だけに、登場人物たちと同じ目線に立って読むことが出来て本当に面白かったです。 この読切は、延期となってしまった「20人の漫画家が脳内に存在していた20の東京を描き下ろす『もしも東京展』のために描き下ろしたものとのこと。 今回浅野先生の作品を読んで、他の先生の作品も俄然読みたくなりました。 https://mangamoshimotokyo.jp/
影絵が趣味
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2020/07/10
泡のような愛の物語集 ~その愛は祈りだね~
舞台は近未来の都市か、もしくは、誰からも忘れ去られた過去の都市か。 この外殻都市は、都市の上に都市を重ねる形で成長を続けている。いったい、いつ造られたのかさえ定かではない。下部階層の劣化は激しく、このグラスを伏せたような形の殻構造がなければ、上部階層の安定はおぼつかない。いや、古い下部階層では、その殻構造の強度さえ低下している。 白を基調としたコマに、淡々として、きわめて抑制的なモノローグをそえて展開される七つの愛の物語。それは愛の物語であり、同時に、消えていってしまうものへの祈りの物語でもあると思う。 愛は、その形を定義づけた瞬間にも、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように、たちまち立ち消えてしまう。その一瞬一瞬を描くことに注がれた『殻都市の夢』には、痛々しい描写こそ数あれども、そこには不思議と慈しみの表情がある。それは消えていってしまうものへの祈りの態度であると思う。愛が、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように消えてしまっても、そこに愛があったことは永遠に変えられない。もはや触れることができず、干渉することができず、だからこそ永遠に不変のかつてそこにあった愛。それは消えてしまうのではなく、そこにずっと在り続ける、私たちが祈ることさえ忘れなければ。 川の水の流れるように、つぎつぎと積み重なる殻都市、あるいは私たちの記憶。その絶え間のない流れは、目に触れた先から流れ去っていってしまう。でも、いつかの川のせせらぎが陽光をきらきら反射させていたのを私はいまも憶えている。見せておきたい景色が、ひとつ、ふたつ、と募ってゆく。それをいつか誰かに話し聞かせたいと思っている、祈りのように。そして、モノローグはようやくセリフへと変わる。 これから話すのは いつか存在した 今では存在すら忘れられた都市 ひたすら上へ上へと積みあがっていった都市 目的もわからず 理由も定かではなく その行為に没頭した都市 そんな 都市の抱いた 夢の残滓の こと そんな 人々の 物語
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