影絵が趣味
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2020/07/10
泡のような愛の物語集 ~その愛は祈りだね~
舞台は近未来の都市か、もしくは、誰からも忘れ去られた過去の都市か。 この外殻都市は、都市の上に都市を重ねる形で成長を続けている。いったい、いつ造られたのかさえ定かではない。下部階層の劣化は激しく、このグラスを伏せたような形の殻構造がなければ、上部階層の安定はおぼつかない。いや、古い下部階層では、その殻構造の強度さえ低下している。 白を基調としたコマに、淡々として、きわめて抑制的なモノローグをそえて展開される七つの愛の物語。それは愛の物語であり、同時に、消えていってしまうものへの祈りの物語でもあると思う。 愛は、その形を定義づけた瞬間にも、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように、たちまち立ち消えてしまう。その一瞬一瞬を描くことに注がれた『殻都市の夢』には、痛々しい描写こそ数あれども、そこには不思議と慈しみの表情がある。それは消えていってしまうものへの祈りの態度であると思う。愛が、泡のように、古くなって崩落する殻都市の一部のように消えてしまっても、そこに愛があったことは永遠に変えられない。もはや触れることができず、干渉することができず、だからこそ永遠に不変のかつてそこにあった愛。それは消えてしまうのではなく、そこにずっと在り続ける、私たちが祈ることさえ忘れなければ。 川の水の流れるように、つぎつぎと積み重なる殻都市、あるいは私たちの記憶。その絶え間のない流れは、目に触れた先から流れ去っていってしまう。でも、いつかの川のせせらぎが陽光をきらきら反射させていたのを私はいまも憶えている。見せておきたい景色が、ひとつ、ふたつ、と募ってゆく。それをいつか誰かに話し聞かせたいと思っている、祈りのように。そして、モノローグはようやくセリフへと変わる。 これから話すのは いつか存在した 今では存在すら忘れられた都市 ひたすら上へ上へと積みあがっていった都市 目的もわからず 理由も定かではなく その行為に没頭した都市 そんな 都市の抱いた 夢の残滓の こと そんな 人々の 物語
さいろく
さいろく
2020/01/28
いざ、メカメカしい妄想の世界へ
アニメ化の話題でもちきりだけどアニメ見てないのであった。 なぜなら私の家のHDDレコーダは多重録画が出来ず、その時間帯にはドロヘドロを先にセットしてしまっていたのである。無念。 そんなことよりまずは漫画を読んでもらいたい。 ジブリ(のメカ)が好き。 ガイナックス(というかエヴァでいい)が好き。 iPhone11をボトムズと呼ぶ。 そんな人はきっと現実世界での生活の中で妄想の世界が現実の上からフィルムを貼るように被さってくることがよくある、またはあったはず。 この作品は「それ」を上手く再現してくれていて、何より自分では出来ない「それ」は自分の中でも表現しきれないぐらいクオリティが高いものなのだが(妄想だから)その高いクオリティまでも再現するどころか上回って来てしまう。 そしてそういうシーンだけしかなかったら今敏のようなショートフィルムにはなるものの漫画として続かないので、もちろんちゃんと物語がある。 そこもまたとてもほっこりして良い。好き。 ともかく、漫画は「最初めっちゃ絵下手やんと思ったけど全然そんなことなかった、むしろ脳内で勝手にアニメーションするわ」ぐらい素晴らしいのでぜひ読んで欲しい。アニメを見るだけでは作者に続きを描いてもらうスタミナ回復に至らないのだ、多分。 そしてなんで今さらこれ書いてるかっていうと今週木曜(20年1月30日)に5巻が出るからです! 買って読む=蔵書に加えるという、自らが認めた証を作品に与えているという行為。皆様も認めた蔵書を増やす楽しみとそれを振り返る悦びを堪能しましょう。
mampuku
mampuku
2019/11/10
天才小説家・野崎まどが放つ極上の絶望
 伊藤計劃や虚淵玄、冲方丁らに比肩しうる「天才」野崎まどが放った"読む劇薬"こと超問題作『バビロン』シリーズ。原作小説は現在3巻までリリースされています。極めて理性的な論理展開によって人類・社会に「問い」を投げかけ、しかしその裏では巧みな伏線や布石によって読者の感情を手玉に取りやがて絶望と恍惚へと引きずり込んでいく。  地獄のような物語を書く、悪魔のような作家です。  とりわけバビロンのヒロインにして悪役(ヴィラン)である「曲世」は、これまで出会ったことのあるあらゆる悪役の中でもとびきり極上の絶望でした。 「だれでもいいから、早くこの化け物を撃ち殺してくれ」と願わずにはいられない。 【上巻読了時点の感想】  コミカライズ版もよくできてはいるけどもともと上下巻に収まるようなスケールの話ではないので結果的にはやはり超駆け足です。  原作小説を読み、賞賛し、胸糞悪くなり、反芻し、後悔し、やがてまた身体が「バビロン」を求めだすのでそうした頃にコミック版を手に取るのをおすすめします。 ※追記 ↑やっぱりおすすめしません。下に続きます
みど丸
みど丸
2020/07/02
「人間」アレクサンドロスの物語
本作を読んだのは高校3年生だったか大学に入りたての頃だったか…。受験で世界史を選択したのですが、古代史の勉強範囲で最もワクワクさせてくれたのがアレクサンドロス3世の記述でした。 安彦良和先生の表紙とマンガっぽくないハードカバーの装丁に心躍ったのをよく覚えています。 まず見どころはアクションシーン。大軍勢が見開きで激突し、長槍と軍馬がひしめき合う合戦のようすはスペクタクルに満ちています。 迫力の戦争シーンと並行し、作中ではアレクサンドロスがどんな人物だったのか、帝国の後継者のひとり老リュシマコスの回想の形で語られます。 作中、アレクサンドロスは決して一面的な英雄として描かれることはありません。 ダレイオス3世との因縁を制し、世界を征服した男。果てない破壊の旅路に乗り出した暴虐の王。病に倒れ、大勢の兵に見守られながら逝った最期の姿…。 悩み、過ち、殺し、壊し、そして愛し、愛されながら、自身の夢を追い続けたのが「人間」アレクサンドロスなのです。 クライマックスのリュシマコスのことばは圧巻です。 アレクサンドロスが存在した結果として、数多の人間が歴史の闇に消えていったこと、自らもそのひとりであることをリュシマコスは伝え、残そうとします。 アレクサンドロスのせいで多くの人間が犠牲になった、それでも彼が為したことの巨大さ、彼に関われたことの誇らしさを伝えたいという気持ちが迸るシーンです。 歴史上のできごとは、当たり前の話ですが誰かが語り継がなければ消えていってしまいます。 今日に至るまでアレクサンドロスがいかに多くの人を惹き付けてきたのか、リュシマコスの最期のことばを噛み締めながら、改めて思いを馳せました。
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