ふらりゲストハウス
ゲストハウスを巡る編集者 #1巻応援
ふらりゲストハウス
兎来栄寿
兎来栄寿
『くーねるまるた』の高尾じんぐさんの新作『おひゃくどまいり』と同時発売となった、2017〜2020年に『バーズ』や『comicブースト』で掲載された作品です。 マンガ編集者で日々激務をこなす主人公が、癒しを得る趣味として国内各地のゲストハウスを巡っていく作品です。 面白いのは、登場するゲストハウスはすべて実在するところとなっていて、その気になれば聖地巡礼も行ける仕様です。更に、単行本化にあたっては2024年5月現在の情報も記載されています。 3話に登場する泊まれる図書館のような「Book Tea Bed」は、麻布十番店は残念ながら閉店してしまったものの、渋谷・新宿御苑・伊豆大島にも展開されているなど。 それぞれの宿ごとに、そこにいる人々や施設の特色が強くあるので実際にいろいろなところを巡っている気分にもなれて楽しいです。 また、ゲストハウスといえば一期一会。初対面の外国人とも食事やお酒を介して楽しい交流をする一幕も。旅の魅力と共通する部分でもあり、良いなと思います。これが海外だと治安の面で警戒が必要になりますが、日本国内であれば女性ひとりであっても余程のところでなければ大丈夫だろうと思えます。逆に、もし海外の人がこの作品を読んだらこの治安の良さはファンタジーかと思われるかもしれません。 毎回出てくる、癖の強い漫画家たちのキャラクターも好きです。コロナ禍も挟まってしまい難しくなってしまった部分もあったのかもしれませんが、個人的にはもっともっと続いていろいろなゲストハウスや漫画家たちの苦悩を見てみたかったです。 ただ、普通の紙の単行本で出すには少しページ数が足らない作品を、こういった形で多少値段を下げて電子限定でも出してもらえるのは嬉しいです。 高尾じんぐさんのかわいい絵柄で、画的な情報量もちょうど良く読みやすいです。 いろんな場所や宿泊施設を巡るのが好きな方、編集者のお話が好きな方にお薦めします。
科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌
ちょっとエッチな空想生物生物学
科学的に存在しうるクリーチャー娘の観察日誌
ゆゆゆ
ゆゆゆ
異世界の知識を武器に、蜘蛛人間娘とか鳥人間娘とか魚人間娘とか、クリーチャー娘とのハーレム実現にむけて、まい進する男・栗結大輔。 いちおうじゃなくても年齢指定な性描写はあるんですが、そのシーンの合間に賢者モードのような勢いで書かれるクリーチャー娘の生態。 思わず、外骨格、内骨格という点が気になってきます。 ファンタジーなのに、とってもバイオロジー! クリムスがクリーチャー娘を助けつつ、「ハーレム王になる男!」と言っていることを除けば、実地調査で言葉から異世界の生き物を紹介する『ヘテロゲニア リンギスティコ ~異種族言語学入門~』の生物学版です。 例外条件がひどすぎますが、生物学的にクリーチャー娘を調べるときはすごく淡々と、そして喜々としていて、それはそれで変態みを感じます。 途中で出てきた筋肉マッチョなおじさんに見覚えがあって調べたら、『魔法少女プリティ☆ベル』の作者さんでした。ぶっとんでいて、おもしろいはずです。 ちなみに、クリーチャー娘たちは見た目は未成年でも、クリーチャー娘の世界的には全員成人なので、セーフだそうです。
生きのびるための事務
人生を変える《事務》の捉え方・やり方 #1巻応援
生きのびるための事務
兎来栄寿
兎来栄寿
建築家で作家でアーティストの坂口恭平さん。マンガ好きにとっては『月刊スピリッツ』での連載のイメージも強いでしょうか。 そんな坂口恭平さんが、noteで執筆していた「生きのびるための事務」を『みちくさ日記』の道草晴子さんがコミカライズしたものがこちらです。 私は元のnote版を少し読んだ程度だったのですが、改めてこのコミカライズ版で通読すると本当に素晴らしい内容だなと感じると共に大きな勇気をもらえました。 皆さんは「事務」というとどういうイメージがあるでしょうか? 「メインの仕事とは別に存在する、やらねばならない多量の雑務」 「面倒くさいもの」 「堅苦しくて地味な仕事」 そんな風に捉えている人も少なくないと思います。かくいう私も、書類作成や確定申告などやりたくもない事務に時間と労力を割かねばならないのが辛く感じる人間です。しかし、この本を読むと「事務」というものの概念ががらりと変わります。 この書は、筆者が普通の就職はできず将来何をして良いのかも定まっていなかった大学4年生のときの筆者が、イマジナリーフレンドのジムを通してどうやって生きのびていけば良いのかを体得していった実体験を描いたものです。 家賃28000円の家に住み、日雇い仕事をして月給12万円ほどだった坂口さんが一体どのようにマインドと行動を変えて1000万円以上を稼ぎながら自由にやりたいことをして生活できるようになっていったのか。 ピカソやデュシャンなど、名だたるアーティストたちも事務をやりながら生きのびていっていたことに触れながら、 「≪事務≫こそが創造的な仕事を支える原点」 「≪事務≫は継続することでどんどん伸びていく」 「冒険があるところに≪事務≫がある」 「死ぬまで好きなことをやる続ける人生において、≪事務≫は好きとは何かを考える装置」 「会社設立は≪事務≫の中でも最高のブツ」 「やりたいことを最優先に即決で実行するために≪事務≫はある」 といったことを語っていきます。普通にイメージする事務とは、大分異なるのではないでしょうか。おおまかに言えば「スケジュール」と「お金」の管理こそが事務なのですが、それを具体的にどのように行なっていけば素晴らしい未来を切り拓いていけるのかが語られ、読んでいるだけでもワクワクします。 ジムは「イメージできることはすべて現実になる」と語りますが、私も他でもよく語られるその言葉は人生の指針のひとつでした。そして、そのイメージをどう具体化して実際の行動に移していくのか。そうしたところも実体験を通して非常に解りやすく記されています。 ・自己を肯定も否定もする必要はなくて、否定すべきは己が選んだ≪事務≫のやり方だけ ・才能というのは毎日やり続けられること ・≪将来の夢≫の前に≪将来の現実≫の具体的なヴィジョンを思い描き書き出し、≪将来の現実≫に楽しくないことは1秒も入れない といった部分も、とても共鳴します。 坂口さんは自身の電話番号を公開して(作中にも登場します)、自殺者を減らすための相談窓口「いのっちの電話」という活動も行っています。この本には、少々クセの強いところもありはしますが、それでもタイトルにある「生きのびるための」という部分が大きな意味を持つところもあります。文字通り、この本を読んだことで生きのびることができる人もきっといるはずです。 自分の好きなことだけをして生きていきたい人、将来何をして生きていけば良いのかわからない人にこの本が届いて欲しいです。すべては、≪事務≫のやり方で変えていけます。
9

感想・レビュー(今日の人気)

「たま」という船に乗っていた
伝説のバンド「たま」が教えてくれる大切なこと #完結応援
「たま」という船に乗っていた
兎来栄寿
兎来栄寿
先日、久松史奈さんが「さよなら人類」をカバーした音源を発表しました。原曲から比べると非常にアップテンポでパンキッシュなアレンジなっており、音としては2000年前後を感じる不思議で心地よい感覚でした。その「さよなら人類」を世に送り出し一世を風靡したアーティスト、たま。 石川浩司 知久寿明 柳原陽一郎 滝本晃司 「たま現象」とまで呼ばれた社会現象も巻き起こした、空前絶後の個性の塊のような伝説のバンド。2003年の解散後に中心人物である石川さんが書き下ろした同名のエッセイを元に、原田高夕己さんが追加取材を重ねてコミカライズしたのがこちらです。 webアクションで連載され最終話とエピローグが5月31日に公開予定ですが、それに先んじてそこまでを収録した2冊目の単行本である『らんちう編』が発売となり完結までを読了しました。 私は「さよなら人類」くらいしか知らない完全に後追いの世代ですが、この作品を読むことでたまという存在の面白さや偉大さを知ることができました。これを書いている最中に「さよなら人類」や「らんちう」を聴いていたら、同じく世代ではない家族も歌を覚えて口ずさんでいました。時代も国境も人種もすべて超える音楽のパワーの片鱗を感じました。 音楽でお客さんを楽しませようとするエンターテイナー精神はもちろんのこと、音楽以外の部分でも空き缶を30000本集めたり、レンタルボックスの先駆け的なお店を始めたり、とにかくやりたいことや楽しいことを追求している石川さんの姿勢は多くの人に感銘を与えるであろうものです。たまのファンはもちろんですが、そうでない人が読んでも楽しめるであろう部分が多々あります。 バンド全体としても、たとえ舞台が武道館であってもまったく気負うことなく、紅白に出ていたときでさえ合間の時間に抜けて劇を観に行くなど、肩の力を抜いて自然体であり続ける姿勢は、何かすごく大切なことを背中で語ってくれているように感じます。 藤子Aさんチックな絵柄で描く、原田高夕己さんの筆致もまたこの作品において絶妙です。基本は親しみやすい線で読みやすく、昔の大御所作家から現代のネットミーム的なネタまで幅広く入れ込んでありユーモラス。ただ、ここぞというシーンは最上の演出でキメてくれます。1巻最後のたまがスターダムに上る大きなきっかけである伝説の「イカ天」出演時のお話や、終盤のいくつかのライブシーンなどは特に最高です。 セカンドアルバムを作る時の「国内のスタジオの使用料がバカ高いから渡航費や宿泊費含めても海外の方が安上がりなのでイギリスとフランスでレコーディングする」というエピソードや、女性ファンがメンバーの泊まるホテルを特定して、ロビーで酒を飲みながら待ち構え、本人たちを描いた18禁BL同人誌を直接手渡したという今だったら大炎上不可避案件には時代を強く感じました。価値観の変容が読み取れるところは、史料的な意義も感じます。 何事も始まりがあれば、終わりもあるのがこの世の理。たまという船から下りる人が出てくるころのお話は切ないです。日本を飛び越えてワールドワイドにも活躍したたま。その「最期」は胸に来ました。 最後のエピローグの後に、石川さんの「玄関」という曲の歌詞が綴られており、そこにある仕掛けやあとがきも含めて何とも言えない良い読後感に包まれました。 ″世の中何がおこるかわからないから 色んな事楽しみにして ニコニコゲラゲラ 笑って生きていくといいと思うよ〜!″ これからどんな風に世界が変わっていこうとも、この石川さんの言葉に救われる人が多くいることを祈ります。 たまを好きな方は読んで懐かしみ、たまを知らない方はこれを機にこんなすごい人たちがいてこんな曲があったのだということを知るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
合格のための! やさしい三角関係入門
恋愛を〈疑う〉先にある絆(マンガプレゼン大会2021補遺)
合格のための! やさしい三角関係入門
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
2021年12月18日、マンガプレゼン大会に出場しました。ご視聴くださった方、ありがとうございました!まだご覧でない方は、下記リンクよりアーカイブをご覧下さい。 https://youtu.be/Os8KS2MmJHw 私の今回のプレゼンは『合格のための! やさしい三角関係入門』について。女子ばかりの困難な三角関係と、その中の一人の辛い恋愛感情にフォーカスを当てて紹介しました。ここからは、その内容に二つの言葉……恋愛の常識だけ捉えていると見落としがちな視点を添える試みをします。 ★★★★★ 主人公の受験生・真幸の家庭教師・凛は「一人の特別を選べない人」と紹介しました。どうしても複数の人を愛してしまう彼女が指向する恋愛感情・恋愛スタイルには、実は名前があります。 それは「ポリアモリー」と言います。 (引用※1) きのコさん: ポリアモリーは、複数人と同時に関係を持つことが大きな特徴なので、「浮気を肯定している」と言われてしまうことも多いんですけど…それは違うんです。 浮気や不倫のように、パートナーに隠して他の人と関係をつくるわけではなく、全員から合意を得たうえで、複数人と交際をすることを大切にしています。 「本命」や「浮気相手」という優劣もありません。 (引用終わり) 二人の大切な人を失いたくない凛がもし、このような関係を築ければ、それはこの上ない幸せなのかもしれません。しかしそれがとても困難であることは、作中でも描かれます。 何よりも恋愛対象者が、ポリアモリー関係性を拒否すれば、関係は結ばれません。凛が大切に想う一人・親友のあきらは、特別な「一人」との恋愛を夢見る人。また凛は過去に、別の三人組のうちの一人に「私だけを特別に想って」(引用※2)と求愛され、三人組を壊すのを恐れて断った事がある。 他にもポリアモリーの実践には、当事者間にも社会的にも、いくつか困難がある。しかしポリアモリーが (引用※3)「自分自身の愛のあり方について大切な相手に対して包み隠さず正直である」「付き合っているパートナーが、自分が複数人と付き合うことに対して否定的になった際は、そのたびに話し合いを重ね、どうして行くべきか考えていく」(引用終わり) という誠実さを持つ限りにおいて、ふしだらとか人の道を外れているといった誹りからは遠い場所にいるのではないでしょうか。 この「ポリアモリー」という道は、誰よりも目の前の人に誠実な凛にこそ、開かれた道かもしれませ。なにしろ彼女は、関係を継続させるために目の前の人に嘘をつく事は一切しないのです。 ★★★★★ さて、プレゼンにおいて私は、三角関係の中で三人が相手に向ける感情を一つ一つ明らかにしましたが、そこで分かるのは「一つとして同じ感情が無い」という事です。 尊敬・憧れ、強い信頼、理解者への寄りかかりといった精神的な強度を持つ感情がある一方で、キスの肉欲や一目惚れといった本能的な衝動もある。そして彼女達としては、どれも蔑ろにはできない。 一般的に誰かとお付き合いを始める時、そこに恋があるとされる。でもその「恋」とはなんだろうと思うと、途端に不安になる。相手と私の恋は、同じ感情だろうか?同じ強度を持つだろうか?……相手を疑い始め、疲弊するうち次第に自分の心すら分からなくなってゆく。 そして己の恋を実際に分解してみると、確かに強い想いは存在するけれども、それがいつ恋になったか?これが本当に恋なのか?一緒にある肉欲は恋なのか?と分からなくなる。 真幸・あきら・凛それぞれの想いも、確かに強い。でもその中には、恋には見えない物もある。しかしそれも恋かもしれない。もしくは恋と同じくらい強い気持ちかもしれない。いや、そもそも恋である必要があるのか? 相手が大切で、何かしてあげたいと思うのなら、それだけで尊いじゃないか! 「クワロマンティック」というアイデンティティがあります。 ときに「自分の感情が、愛情か友情か分からない人」という(やや雑な?)紹介をされるこの言葉。社会学研究者でクワロマンティック当事者でもある中村香住氏は『クワロマンティック宣言』(※4)の中で、そもそもこの語が (引用※4)「恋愛の指向」や「恋愛的魅力」といった言葉が意味をなさない(引用終わり) と当事者が感じたところから生み出された、と解説します。つまり自分が相手を想う感情が恋愛かどうかについて、尺度もなければ実感もないので、「恋愛」というカテゴライズ自体を拒否する。そして恋愛以外の感情で、一人一人と親密に、それぞれに独特な関係を構築する。この様な「恋愛に振り回されない」親密圏の在り方は(たとえ「クワロマンティック」の傾向を持たなくても)恋愛に疲れた人には魅力的に映るのではないでしょうか。 『クワロマンティック宣言』の中で中村氏は (引用※4)数少ない「恋愛」経験を通して、私には「恋愛」そのものが向いていない、というか「やりたいと思えない」と感じるようになった。たとえば、そもそも日本の「恋愛」規範には、契約としての「付き合う」と「別れる」がある。始まりがあれば終わりがあるという発想がある。それは本当に窮屈なものに私には思えた。それから「恋愛」をしていれば「独占欲」やそれに基づく「嫉妬心」があるに違いないという前提が、私にはとても辛かった。(引用終わり) という告白をする。ここで書かれる疲労感というか、絶望感は、『合格のための! やさしい三角関係入門』においてポリアモリー的感情を抱くために人一倍他人との関係維持に苦しみ、挙句人間関係そのものを諦めてしまった、凛という人の苦悩の描写とどこか重なるのです。 凛という人は必ずしも「恋愛」だけで人と繋がりたいとは思っていない……ように描写される。プレゼンでも引用した『おばあちゃんになるまで三人で…いたかったよ…』(引用※5)というセリフには、情熱的な恋愛というよりは、安心感を得られる穏やかな関係性のニュアンスが感じられます。 しかし、そんな凛が求める繋がりは、関係性の中の誰かが抱いた「恋愛」によって、壊されていくのです……少し「恋愛」が憎らしくさえ感じられますね。 ★★★★★ 『合格のための! やさしい三角関係入門』は2巻しかない小品ではありますが、そこに込められた問題意識は、恋愛観の常識を揺さぶります。 まず「恋愛」は一対一でなくてはならないのか?という事。そして「恋愛」って特別視される割にそれに囚われると辛いばかりだし、他の大切にしたい感情とどれほど差異があるの?という事。 人との繋がりで喜びを得たい筈が、思いもよらない苦しみしか得られなかったりする私たち。そこから逃れるためには、何が必要なのか……本作の斬新な関係が構築される場所で、三人が(特に主人公の真幸が)何を願ったかを読み取ると、恋愛の一歩先にある「強い絆に必要なもの」が見えてくると思います。 ----- 引用 ※1 新R25「結婚しても、1人だけを愛することができなかった」複数人を愛するポリアモリーの恋愛観 https://r25.jp/article/868648564036327116?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=share_on_site&utm_content=pc ※2 『合格のための! やさしい三角関係入門』1巻p72 ※3 Job Rainbow MAGAZINE「ポリアモリーとは?【日本の現状を実践者が解説】」 ライター: Ricke https://jobrainbow.jp/magazine/whatispoliamory ※4 『現代思想 2021 vol.49-10』青土社 ※5 『合格のための! やさしい三角関係入門』 1巻p157 また『現代思想 2021 vol.49-10 特集〈恋愛〉の現在』より、特にポリアモリーについては『ポリアモリーという性愛と文化』(深海菊絵)、クワロマンティックについては『クワロマンティック宣言』(中村香住)より、概念の成立過程から社会における実践まで様々な知見を得、作品の読みを深めることができました。
お姫様のお姫様
女子が好きな女子を好きな女子 #1巻応援
お姫様のお姫様
あうしぃ@カワイイマンガ
あうしぃ@カワイイマンガ
女子が好きで、「運命の人」を探すために超巨大女子校に入学した南山ハイジと、そんな彼女が好きな北町さらら。ハイジのために「運命の人」探しを手伝うと宣言したのに、さららはハイジを諦めきれない。15万人の対象者から「運命の人」を探すのが先か、その前に二人は結ばれるのか......。 ♡♡♡♡♡ 序盤から驚かされるのは、「運命の人」探しが、割とあっさり成功しそうなところ。ハイジは庇護欲を唆るモテ体質。あっという間に周囲の注目を浴びる。 ......とは言ってもそう簡単にはいかず、とある理由から、ハイジとさららと、SNSでバズりたい陰キャの沼丘ていの、三人ぼっち行動が多くなる。 女の子を見てはキラキラしているハイジ、彼女のためにあたふた奔走するさらら、雑に扱われるていのコメディはテンポが良く、情緒のブレとツッコミのキレが強烈。「例のプール」「女子の情報を書き込んだノートの名前」など、細かなネタを随所にブチ込んできて、つい笑ってしまう。 ハイジも実はさららを大切に想っていることは随所に描かれていて、その度に「さっさとくっつけばいいのに......」と思いつつ「尊い!尊い!」とふぁぼを押したくなる自分がいる。 これは定期的に摂取したくなる百合コメディ!
人間失格
漫画だからこそ描けた絶望
人間失格
野愛
野愛
太宰治『人間失格』を漫画化した作品。 原作をそのままなぞっているのではなく、現代的かつメタ視点で描かれている。 古屋兎丸先生自身がインターネット上で大庭葉蔵の日記「人間失格」を発見し、読み進めていくというストーリー。 読者は古屋兎丸の目を借りて、葉蔵の人生を追いかけていくことになる。 父を憎みながらも実家の金で裕福に暮らし、仕送りが打ち切られれば女の家に転がり込む姿に、最低だ罪人だと責めたててしまいたくなる。 煙草屋の娘に恋をして、1日に何度も煙草を買い、素直になれず揶揄う姿はなんとも可愛らしい。 他者の目を挟むことで、葉蔵という人間の可愛らしさや狡さ、いやらしさがより鮮明に浮かび上がる。女を誑かす様子なんかは、原作よりも真に迫るものがあるような。 小説『人間失格』も葉蔵の日記を読む他者の視点で描かれている。漫画『人間失格』も同じだが、古屋兎丸視点で古屋兎丸の絵で描かれているので、メタ要素がより色濃く感じられる。 葉蔵を見つめる読者である古屋兎丸を見つめる読者である自分自身。古屋兎丸の目が自分自身の目となり物語に飲まれていく。 嫌悪、軽蔑、共感、友愛…葉蔵に対して様々な感情を抱きながら、共に絶望の果てに追い込まれる自分自身をまざまざと見せつけられる。 小説『人間失格』からは「ただ、一さいは過ぎて行きます。」という一文が示す通り、すべてが過ぎ去ったあとの凪のような絶望を感じた。 対して、漫画『人間失格』からは今まさに激流に飲み込まれて苦悩しているような生々しい絶望を感じた。 それぞれの絶望の味を是非読み比べてみてほしい。 古屋兎丸先生の人間失格が素晴らしかったので 津軽×魚乃目三太先生とか、斜陽×えすとえむ先生とか 相性の良さそうな太宰×漫画家を妄想するのが楽しい…駆込み訴えをどうにか現代設定(どうやって)にしてゴリゴリのBLにしたりとかめっちゃ見たい
私が15歳ではなくなっても。【単行本版】
中年男性とパパ活少女、それぞれの絶望 #1巻応援
私が15歳ではなくなっても。【単行本版】
兎来栄寿
兎来栄寿
今とても熱いレーベルのひとつであるコミックアウルから、新進気鋭の才能により放たれた鋭利なる一撃。 「これが令和の『罪と罰』だ!!!」と帯に銘打たれていますが、読んでいる時の常在的な息苦しさはまさにドストエフスキー作品を読んでいる時のそれです。 「中年になっても性欲はみじめに残る  俺は生きているだけで害悪だろうか」 と吐露する40歳中年男性がこの物語の主人公です。幼い頃は「お父さんみたいな人と結婚したい」と自分を慕ってくれた娘が思春期になると自分を汚物のように嫌悪してくるようになり、奔放に浪費する妻を尻目に辛い労働に勤しむ日々。 ぱっと見は普通の中年男性なのですが、娘のブラジャーを見て劣情を催したり、醜く毛が突き出た自分の手指を見て「俺 指も汚な…」と自己嫌悪を深めるシーンなどディティールの積み重ねによる絶望感が利いてきます。 父としても夫としても自分の存在意義に悩む主人公は、ある日15歳の訳ありパパ活少女と遭遇します。彼女もまた、とある事件とそれに起因する鬱屈した日常を送る人間でした。若い身体に価値がある内に小銭を稼いで海の見える遠い町で花屋を営み穏やかに生きて死にたい、と願う少女。二人の歪みが重なり合うことで生じる奇矯な関係性から、物語は駆動していきます。 とにかく本作はさまざまなシーンでの表現力と迫力が見どころです。全力の嫌悪感や全力の絶望感、背徳感と欲求との鬩ぎ合いが、叩き付けるような描写によって暴力的に繰り出され続けていきます。ひたすら辛いのに、ある種の疾走感すら覚えるほどです。 表紙のかわいい女の子からは想像しにくいかもしれませんが、読感としてはビーム系の作品に近いです。かわいい女の子を描けるからこそのギャップが非常に活きていると言えるでしょう。 闇の深い物語を好きな方には強く推します。
生きのびるための事務
人生を変える《事務》の捉え方・やり方 #1巻応援
生きのびるための事務
兎来栄寿
兎来栄寿
建築家で作家でアーティストの坂口恭平さん。マンガ好きにとっては『月刊スピリッツ』での連載のイメージも強いでしょうか。 そんな坂口恭平さんが、noteで執筆していた「生きのびるための事務」を『みちくさ日記』の道草晴子さんがコミカライズしたものがこちらです。 私は元のnote版を少し読んだ程度だったのですが、改めてこのコミカライズ版で通読すると本当に素晴らしい内容だなと感じると共に大きな勇気をもらえました。 皆さんは「事務」というとどういうイメージがあるでしょうか? 「メインの仕事とは別に存在する、やらねばならない多量の雑務」 「面倒くさいもの」 「堅苦しくて地味な仕事」 そんな風に捉えている人も少なくないと思います。かくいう私も、書類作成や確定申告などやりたくもない事務に時間と労力を割かねばならないのが辛く感じる人間です。しかし、この本を読むと「事務」というものの概念ががらりと変わります。 この書は、筆者が普通の就職はできず将来何をして良いのかも定まっていなかった大学4年生のときの筆者が、イマジナリーフレンドのジムを通してどうやって生きのびていけば良いのかを体得していった実体験を描いたものです。 家賃28000円の家に住み、日雇い仕事をして月給12万円ほどだった坂口さんが一体どのようにマインドと行動を変えて1000万円以上を稼ぎながら自由にやりたいことをして生活できるようになっていったのか。 ピカソやデュシャンなど、名だたるアーティストたちも事務をやりながら生きのびていっていたことに触れながら、 「≪事務≫こそが創造的な仕事を支える原点」 「≪事務≫は継続することでどんどん伸びていく」 「冒険があるところに≪事務≫がある」 「死ぬまで好きなことをやる続ける人生において、≪事務≫は好きとは何かを考える装置」 「会社設立は≪事務≫の中でも最高のブツ」 「やりたいことを最優先に即決で実行するために≪事務≫はある」 といったことを語っていきます。普通にイメージする事務とは、大分異なるのではないでしょうか。おおまかに言えば「スケジュール」と「お金」の管理こそが事務なのですが、それを具体的にどのように行なっていけば素晴らしい未来を切り拓いていけるのかが語られ、読んでいるだけでもワクワクします。 ジムは「イメージできることはすべて現実になる」と語りますが、私も他でもよく語られるその言葉は人生の指針のひとつでした。そして、そのイメージをどう具体化して実際の行動に移していくのか。そうしたところも実体験を通して非常に解りやすく記されています。 ・自己を肯定も否定もする必要はなくて、否定すべきは己が選んだ≪事務≫のやり方だけ ・才能というのは毎日やり続けられること ・≪将来の夢≫の前に≪将来の現実≫の具体的なヴィジョンを思い描き書き出し、≪将来の現実≫に楽しくないことは1秒も入れない といった部分も、とても共鳴します。 坂口さんは自身の電話番号を公開して(作中にも登場します)、自殺者を減らすための相談窓口「いのっちの電話」という活動も行っています。この本には、少々クセの強いところもありはしますが、それでもタイトルにある「生きのびるための」という部分が大きな意味を持つところもあります。文字通り、この本を読んだことで生きのびることができる人もきっといるはずです。 自分の好きなことだけをして生きていきたい人、将来何をして生きていけば良いのかわからない人にこの本が届いて欲しいです。すべては、≪事務≫のやり方で変えていけます。
岡崎に捧ぐ
新時代のちびまる子ちゃん
岡崎に捧ぐ
さいろく
さいろく
今のアラサー・アラフォーに刺さるちびまる子ちゃん的に言われているそうだけど、言われてみたら確かにそうだ! ただ、彼女らはちゃんと歳を取るので、同じような話が続いたりは一切しない。単純に「とても面白い」「良いよね」みたいな感想が出てくる作品。 作者であり主人公の山本さほと友人の岡崎さんはベクトルは違うものの二人共個性的で、とにかくアクが強い。 岡崎さんは家庭環境もめちゃくちゃだし全てを許してくれそうな聖母マリア的な存在にも見える(山本さん視点) 山本さんはそんなかけがえのない親友の岡崎さんを漫画にせざるを得なかったのであろう、というようなエピソードがてんこ盛りである。 ただ、山本さんはあえて岡崎さんと対比して普通っぽさが見える反面、そんなことするの!?と驚くようなことも割としている。 あえてそういう描写にしてるんだろうけど、それが漫画的でこの作品の面白いところでもある。 高校に入ってからの彼女らの関係もそうだし、山本さん単体での生活はアラサー・アラフォーな読者には懐かしさと共感とで色々うわー!ってなるのがまた良いところかもしれない。 一時期めちゃくちゃ話題だったけど、もっとずっと話題でいいし国民的漫画にしちゃっていいのに!と思ったけど内容的に子供には見せづらいかもしれない(笑) そして全部飛ばさずに読んで欲しい。 どのRPGだってエンディングだけ見たって味わえる感動は全てを歩んだ人と雲泥の差があるものだけど、それと一緒でちゃんと最後まで全部読んだ人はきっと最終話まで読んで良かったと感じるはず。
ガールズ・アット・ジ・エッジ
凶器は、愛と勇気 #1巻応援
ガールズ・アット・ジ・エッジ
兎来栄寿
兎来栄寿
一般的な作劇の教科書においてはやらない方が良いとされるであろう大胆な、それ故に印象的な構成で始まる1話目から、ただごとではないものを見せてくれます。 ポリバケツに収められたボーイの遺体。 それを囲んで見つめる5人の風俗嬢たち。 「で 誰が殺したんスかね」 というセリフと共に 「風俗嬢がボーイを殺して廃校でひと夏過ごす話」 と、提示される梗概。 少し変わったフーダニットなのかな? と読み進めていくと、どうやらそういう話でもないようだと解ってきます。ハウダニットでもなく、強いて言うならばワイダニットが一番近いものの、しかしながら本質はそこにない。設定や導入、徐々に明かされる情報や真実といった部分は驚きも含まれ非常にミステリ的なのですが、その上で描かれる現代社会で生きる女の子たちの心情やその動きがこの物語の核となっています。 ″愛したいし守りたいが 実際には憎んでいる この感情を知られたらと思うと気が狂いそうになる″ ″この人も私たちと同じだな 後天的に携わった喜怒哀楽の表現で 毎日をやり過ごしてるのが良くわかる″ ″自分の人生に熱中するには才能がいる (中略) ここはそうではない人間の方が多い 私の居場所な気がする″ 小説原作であることを強く感じさせる、心情描写の精緻さと言葉選びの巧みさ。心の奥底にある澱みを掬い取り言語化する能力の高さを存分に感じさせてくれます。 人を殺すというセンセーショナルな行為が行われますが、そこに至るのは個人の特質的なものではなく現代社会に遍く存在する歪みがもたらす外的な要因が大きく影響しており、誰しもが似た状況に陥ってしまう可能性、言うなれば負の再現性の高さを感じさせられます。 ″祈りが祈りとして機能するために必要なものは愛ではなく嘘だし 救済が救済として機能するために必要なのは 勇気でなく運だ″ 世間から付けられたかわいく扇状的なラベルの裏側にある、黒いマグマのように煮え滾る彼女たちの真意。愛や勇気が求められながら、それがただちに現実的な救いとはならないこの世界。こんな世界でどうやって呼吸を続けていくのか。苦もなく生きられて、呼吸の仕方に悩んだ人にはまったく理解もされない。でも、同じ立場になったことがある人なら痛いほどに解る。そんな物語です。 『真夜中の訪問者 -ハトリアヤコ作品集-』でも紹介したハトリアヤコさんが、このマンガ版を手がけたことも非常に良い選択だと思います。元々の作風とも絶妙にマッチした内容で、持ち味を最大限に生かしている良いコラボだと感じました。 一見ミステリ的な手触りで、その中には昏く濃厚なヒューマンドラマが渦巻いている名作です。
愛がなくても喰ってゆけます。
食道楽「YながFみ先生」の日常!
愛がなくても喰ってゆけます。
たか
たか
 よしながふみ先生の描く漫画は、念入りに食事・調理シーンが描写されていることが多い。  西洋骨董洋菓子店、きのう何食べた?は料理をメインテーマにしているから、描写が細かいのはもちろんのこと、法律がメインテーマの1限めはやる気の民法でも藤堂が田宮のために朝食を作ったり、しっぽりした居酒屋で誕生日を祝うなど表現が際立っていて、「ああ、この人は本当に好きで食事シーンを描いているんだな〜」と、こだわりぶりに感心していた。  だからこそ、よしながふみの描く食事をテーマにした「半エッセイ的漫画」があると知った瞬間、Amazonで即注文…!(※紙しか出てない)  「こんな細かい食事描写を描く人は、いったいどんな食生活を送っているのか」。その理由を知ることができるとワクワクしながら読んだ。  読んでみると、よしなが先生はご自分で料理もされるし、お付き合いする相手については、「食事についてアレコレ感想を共有できる。美味しい食事をするためにわざわざ足を伸ばすことができる相手じゃなきゃ無理」というエピソードがあり、「ああ、やっぱりね。食へのこだわりの強い人なんだ…!」と、バッチリ腑に落ちた。 (回らないお寿司屋さんでの注文の仕方は、ぜひ真似しようと思います!)  主人公は「YながFみ先生」であり、「よしながふみ先生」ではない非実在漫画家と理解しつつも、いち読者としてはいったいどこまでが本当の話なのか興味が尽きない作品。
ふらりゲストハウス
ゲストハウスを巡る編集者 #1巻応援
ふらりゲストハウス
兎来栄寿
兎来栄寿
『くーねるまるた』の高尾じんぐさんの新作『おひゃくどまいり』と同時発売となった、2017〜2020年に『バーズ』や『comicブースト』で掲載された作品です。 マンガ編集者で日々激務をこなす主人公が、癒しを得る趣味として国内各地のゲストハウスを巡っていく作品です。 面白いのは、登場するゲストハウスはすべて実在するところとなっていて、その気になれば聖地巡礼も行ける仕様です。更に、単行本化にあたっては2024年5月現在の情報も記載されています。 3話に登場する泊まれる図書館のような「Book Tea Bed」は、麻布十番店は残念ながら閉店してしまったものの、渋谷・新宿御苑・伊豆大島にも展開されているなど。 それぞれの宿ごとに、そこにいる人々や施設の特色が強くあるので実際にいろいろなところを巡っている気分にもなれて楽しいです。 また、ゲストハウスといえば一期一会。初対面の外国人とも食事やお酒を介して楽しい交流をする一幕も。旅の魅力と共通する部分でもあり、良いなと思います。これが海外だと治安の面で警戒が必要になりますが、日本国内であれば女性ひとりであっても余程のところでなければ大丈夫だろうと思えます。逆に、もし海外の人がこの作品を読んだらこの治安の良さはファンタジーかと思われるかもしれません。 毎回出てくる、癖の強い漫画家たちのキャラクターも好きです。コロナ禍も挟まってしまい難しくなってしまった部分もあったのかもしれませんが、個人的にはもっともっと続いていろいろなゲストハウスや漫画家たちの苦悩を見てみたかったです。 ただ、普通の紙の単行本で出すには少しページ数が足らない作品を、こういった形で多少値段を下げて電子限定でも出してもらえるのは嬉しいです。 高尾じんぐさんのかわいい絵柄で、画的な情報量もちょうど良く読みやすいです。 いろんな場所や宿泊施設を巡るのが好きな方、編集者のお話が好きな方にお薦めします。
どくだみの花咲くころ
言葉が無粋になる少年たちの情緒と創作 #1巻応援
どくだみの花咲くころ
兎来栄寿
兎来栄寿
筆者の城戸志保さんは2020年に安野モヨコさんの「ANNORMAL展」を見て触発されて描いたのがこの作品だそうですが、2022年の10月に四季賞でその安野さんより「絵柄やセリフ・エピソードの選び方に独創的なセンスを感じる」「無造作な美しさが個性であり武器」と講評を受け、そして大賞を受賞。そして連載化して、今日単行本1巻が発売と創作が人の心に及ぼす素敵な連鎖を感じさせてくれます。 安野さんが指摘する通り、この物語の人物の配置は少し特殊です。癇癪持ちで怖い噂もあり関わりにくい信楽くんという問題児の存在と対置される主人公の優等生・清水くんは、一般的にはマジョリティ的感性から信楽くんに戸惑う普通の人物として描かれることが多いでしょう。しかし、清水くんは勉強も運動もできるにも関わらず、お金持ちの家の息子としてやや感性が庶民からズレており、言動も信楽くんに負けず劣らず危うく突飛なところがある少年として描かれます。 そして、何より大事なのは清水くんだけが信楽くんの創り出すものに心酔し、信楽くんに神聖性を見出すところです。他の誰も知らない、世界で自分だけが知っているダイヤモンドの原石のように。狂信的になる清水くんの気持ちも、とても解ります。 清水くんは冒頭で ″俺は自覚なく信楽くんを傷つけるだろうし そうなったら信楽くんがどうなるのかわからない それはいやだ″ と客観的な視点からの自覚を持っているのですが、その気持ちの大きさ故にとてつもなく不器用になって暴走してしまうところも痛々しいほどに解ります。子供のころなんて自分の感情を上手く表現できなくて当たり前ですし、それ故に失敗することも多々ありますが、ままならない情動に苦しむ信楽くんも含めてそんな淡く苦い記憶を呼び覚まされるようです。 人間が誰か特定の個人と結びつくのはそれだけでも貴重ですが、それが双方向的に圧倒的に強く結びつく瞬間というのは、奇跡と呼んでも差し支えないものです。そんな言葉では表せない奇跡の眩いばかりの尊さが、この物語では描かれていて惹かれます。 湿った日陰で育ち、生臭い魚のような臭いから魚腥草とも呼ばれ、海外でもfish herb・fish mint・fish wortなどとも呼ばれるどくだみ。その花言葉は、「白い追憶」「自己犠牲」「野生」。仄暗さと高潔さ、危うさを含む他者との関係性と激しさが同居するようなそれらは、この作品全体のイメージとしてどくだみは非常に合っているように感じます。 ジャリジャリのミロや、アスパラのエピソードなど、独特の感性から描き出されるひとつひとつの要素も印象的です。 果たして、彼らの関係性や未来はどのようになっていくのか。言葉では何とも言い表し切れない強い魅力が随所にあり、今目が離せない物語です。 余談1 信楽、清水、瀬戸、伊賀、砥部、美濃、九谷、小鹿田、壺屋など、登場人物の多くは焼物から名前が取られています。作っては微細なコンディションの差で失敗し、壊してまた作り直す焼物もまた本作において象徴的な存在と言えるのかもしれません。 余談2 2話の最初で、教室の後ろに掲示されている書が「一意専心」はともかく「鬼手仏心」は趣深いです。九谷さんの「魁」書道バッグも好きです。
ならべ カヤック
カヤックで楽しく働く面白く熱い人々 #1巻応援
ならべ カヤック
兎来栄寿
兎来栄寿
昨年で25周年を迎えた、「サイコロ給」などで有名な面白法人カヤック。そこで働くさまざまな人や事業を、『漫画 君たちはどう生きるか』の羽賀翔一さんや『左ききのエレン』のかっぴーさん、『半人前の恋人』の川田大智さんなど、さまざまな漫画家の方々が描いたマンガです。 15周年の際に公開されたものなど一部古いものも含まれていますが、内容としては今読んでも十分面白いです。 『ことばのパズル もじぴったん』や『冒険クイズキングダム』を作った後藤裕之さんの「存在感の作り方」では、後藤さんが円周率を42195桁暗唱して世界記録を樹立したり、夏休みの自由研究で人間が100時間寝ないとどうなるかの研究を自分の体を使って人体実験した話など、突き抜けたお話がまず面白いです。 マジカルラブリーの『スーパー野田ゲーPARTY』も後藤さんだったんですね。川田大智さんが描く「スーパー野田ゲーPARTYを作った男たち」も笑いながら読みました。(『野田ゲー』の中でも邪道バースは天才的だと思いましたし、全国大会も熱かったです)。 突飛なところはもちろんですが、地に足のついたビジネス的な部分の良さもあります。 「ゲームやサイトを作るだけがクリエイティブな仕事ではない」 「メールひとつにも思いと工夫をこめれば喜んでもらえる」 という、秘書を描いたエピソードなどは社会人にとって参考になる一節でしょう。 それを体現するかのように、別の話ではユーザーからのゲームへのお問い合わせに世界観を尊重し反映した回答をするという別の社員のエピソードが描かれており、「王が履いているパンツは何色か」という質問にも極めて真摯に答えていきます。 ゲーマーならお世話になったことがあるかもしれないLobiや、e-sportsの普及に向けての愛溢れるモチベーションなども読んでいて高まります。コロナ禍でオフラインの大会が消えても、オンラインで毎週大会を行い配信をして格ゲーコミュニティを熱くし続けたなどの近年のエピソードなども好きです。 総じて、楽しみながら仕事をするということの素晴らしさ・大切さを教えてくれる掌編が詰まっています。 現在多くの電子書店で無料で全編読めるので、この機会にぜひどうぞ。
天国に生まれた僕らの話 石田ゆう短編集
今を生きる喘鳴が聞こえる短編集 #1巻応援
天国に生まれた僕らの話 石田ゆう短編集
兎来栄寿
兎来栄寿
『妄想フライデー』の石田ゆうさんが、これまで描いた短編5つを雑誌・出版社の垣根を越えて収録した短編集です。 「光のゆくえ」 やっと就職できて半年働くことを続けられたと思ったら、大規模な電波障害により街の人々と共にみんなスマホが使えなくなり途方に暮れているところで「ネットを使える場所を知っている」というバニーガールに出逢う一夜の話。 「美人は三日では飽きない。」 大学を中退し就活23連敗中の25歳フリーターで、美人にトラウマと嫌悪感を持つ青年が新たに美人と出逢う話。 第84回ちばてつや賞ヤング部門大賞。 「犬も喰わない僕」 8年ぶりに東京から帰ってきた地元で、昔馴染みの画家を目指す20歳の女の子に自分は今漫画家であると偽る天才になれないアシスタントの青年の話。 ヤングマガジン月刊賞入選作。 「彼女とわたし」 外国人のような風貌の転校生が、クラスのアイドル優子の一言をきっかけに不登校になり「魔女」と仇名されるようになって、本来カーストは下なのに優子のグループに属する主人公が同じ団地に住んでいる魔女とある契約を交わす話。 「ブルーブルースプリング」 高校卒業以来7年ぶりに学校の制服を着て遊んでいたら、夜の公園で女子高生と知り合うお話。 個人的には『コミックビーム』に載っていた「彼女とわたし」がとても好きで、去年読んだ読切の中でも特に印象的だった作品のひとつです。 かわいくて穏やかなのに端々から性格の悪さを感じさせる優子ちゃん。彼女を中心とするグループに必死にしがみつく主人公。学校生活における人間関係の息苦しさのリアルさ。脆い尊厳を容易く踏み躙られた悔しさや悲しさ。それでも、そこから始まるシスターフッドの美しさ。 写実的な画風で、全作品を通して背景や小物も緻密に描かれているのもリアルさを底上げしています。生きることに向いていなかったり自分や他人を受け入れられなかったり、それぞれに思い悩む現代の人間たち。おのおのの蟠りを煮詰めながらも、最後の「ブルーブルースプリング」と巻末のおまけで読後感はすっきりとしています。 若々しさ溢れる部分もあり、今後のさらなる活躍も楽しみになる1冊です。
生きのびるための事務
人生を変える《事務》の捉え方・やり方 #1巻応援
生きのびるための事務
兎来栄寿
兎来栄寿
建築家で作家でアーティストの坂口恭平さん。マンガ好きにとっては『月刊スピリッツ』での連載のイメージも強いでしょうか。 そんな坂口恭平さんが、noteで執筆していた「生きのびるための事務」を『みちくさ日記』の道草晴子さんがコミカライズしたものがこちらです。 私は元のnote版を少し読んだ程度だったのですが、改めてこのコミカライズ版で通読すると本当に素晴らしい内容だなと感じると共に大きな勇気をもらえました。 皆さんは「事務」というとどういうイメージがあるでしょうか? 「メインの仕事とは別に存在する、やらねばならない多量の雑務」 「面倒くさいもの」 「堅苦しくて地味な仕事」 そんな風に捉えている人も少なくないと思います。かくいう私も、書類作成や確定申告などやりたくもない事務に時間と労力を割かねばならないのが辛く感じる人間です。しかし、この本を読むと「事務」というものの概念ががらりと変わります。 この書は、筆者が普通の就職はできず将来何をして良いのかも定まっていなかった大学4年生のときの筆者が、イマジナリーフレンドのジムを通してどうやって生きのびていけば良いのかを体得していった実体験を描いたものです。 家賃28000円の家に住み、日雇い仕事をして月給12万円ほどだった坂口さんが一体どのようにマインドと行動を変えて1000万円以上を稼ぎながら自由にやりたいことをして生活できるようになっていったのか。 ピカソやデュシャンなど、名だたるアーティストたちも事務をやりながら生きのびていっていたことに触れながら、 「≪事務≫こそが創造的な仕事を支える原点」 「≪事務≫は継続することでどんどん伸びていく」 「冒険があるところに≪事務≫がある」 「死ぬまで好きなことをやる続ける人生において、≪事務≫は好きとは何かを考える装置」 「会社設立は≪事務≫の中でも最高のブツ」 「やりたいことを最優先に即決で実行するために≪事務≫はある」 といったことを語っていきます。普通にイメージする事務とは、大分異なるのではないでしょうか。おおまかに言えば「スケジュール」と「お金」の管理こそが事務なのですが、それを具体的にどのように行なっていけば素晴らしい未来を切り拓いていけるのかが語られ、読んでいるだけでもワクワクします。 ジムは「イメージできることはすべて現実になる」と語りますが、私も他でもよく語られるその言葉は人生の指針のひとつでした。そして、そのイメージをどう具体化して実際の行動に移していくのか。そうしたところも実体験を通して非常に解りやすく記されています。 ・自己を肯定も否定もする必要はなくて、否定すべきは己が選んだ≪事務≫のやり方だけ ・才能というのは毎日やり続けられること ・≪将来の夢≫の前に≪将来の現実≫の具体的なヴィジョンを思い描き書き出し、≪将来の現実≫に楽しくないことは1秒も入れない といった部分も、とても共鳴します。 坂口さんは自身の電話番号を公開して(作中にも登場します)、自殺者を減らすための相談窓口「いのっちの電話」という活動も行っています。この本には、少々クセの強いところもありはしますが、それでもタイトルにある「生きのびるための」という部分が大きな意味を持つところもあります。文字通り、この本を読んだことで生きのびることができる人もきっといるはずです。 自分の好きなことだけをして生きていきたい人、将来何をして生きていけば良いのかわからない人にこの本が届いて欲しいです。すべては、≪事務≫のやり方で変えていけます。
回胴創世記 パチスロを創った男達
バジ絆はいかにして作られたか #1巻応援
回胴創世記 パチスロを創った男達
兎来栄寿
兎来栄寿
『ロックンリール』や『《魔力無限》のマナポーター ~パーティの魔力を全て供給していたのに、勇者に追放されました。魔力不足で聖剣が使えないと焦っても、メンバー全員が勇者を見限ったのでもう遅い~(コミック)』の伊藤ひずみさんによる、パチスロ版『プロジェクトX』や『ガイアの夜明け』的なドキュメンタリーです。 私はパチンコ・パチスロは付き合いで5号機以降を多少嗜んだくらいですが、元々『バジリスク』の原作もアニメも山田風太郎さんも好きだったので、『バジリスク』シリーズは多少触りました。 当時は陰陽座が大好きで、カラオケでの十八番も「蛟龍の巫女」だったので、『バジリスク2』でシングル曲でもないアルバム収録曲が激アツの際に流れる曲として採用されたのは望外でした。 1/16000の白バジが揃ってエンディングまで到達し、弦之助と朧の悲痛な最期を見て泣きながら打ったのは良い思い出です。 そんな『バジリスク』シリーズの中でも人気の高い『バジリスク~甲賀忍法帖~絆』がいかに誕生したのかというエピソードからこの本は始まります。 『バジリスク2』から間も無く絵やアニメーションの素材はそこまで増やせない中で、どうやって新鮮味を生み初心者から玄人までを楽しませる台を作るのか? その苦心惨憺ぶりが描かれていきます。そこには他の分野と何ら遜色のない、モノ創りへの熱情があります。 パチスロなんて低俗なギャンブルでしょ? という人もいるかもしれませんが、絆高確はこのようにして生まれたんだなぁ、原作への愛があればこそなせた仕事だなぁとその魂の込め方に感心しました。良いものを作れば絶対に売れるというわけではないこの世界ですが、結果的に妥協せず良いものを作って広くユーザーに愛されていくようになったことは素晴らしいなと。 他にも『アナザーゴッドハーデス』、『ディスクアップ』、『ハナビ』など長年ホールで愛された名機たちの誕生秘話が記されています。このあたりの台に思い出や愛着がある方であれば尚更楽しめることでしょう。 伊藤ひずみさんの絵はスタイリッシュで読みやすいですし、パチスロを打たない方でも「こういう世界があるんだなぁ」とビジネスマンガとして楽しめる作品であると思います。
しれっとすげぇこと言ってるギャル。―私立パラの丸高校の日常―
トロッコ問題すらしれっと解決するギャル #1巻応援
しれっとすげぇこと言ってるギャル。―私立パラの丸高校の日常―
兎来栄寿
兎来栄寿
https://youtu.be/JfvbpGcwyc8?si=87H35GAwt33QJS70 ここから始まった『私立パラの丸高校の日常』。YoutubeやTikTokで人気でしたが、コミカライズもされその1巻が本日発売となりました。 本作は全員何かしらの特殊能力を持っている世界における、私立パラの丸高校を舞台にした、ゆるい群像コメディです。 元々は、ぴかるんことただ体が発光するだけの能力を持った多々光(ただひかる)が主人公でしたが、元の動画版の方でも別格の再生数を誇り大人気のギャルズがこちらのコミカライズ版では主人公のようになっています。 未来視(ヴィジョン)の能力を持つ見里未来(みさとみらい)さんと、平行世界移動(バタフライエフェクター)の能力を持つ黒髪ロングストレートギャルの「へー子」こと平翔子さん。 共に超絶チート級の能力を持ちながら、ギャル特有の異常に軽いノリが合わさって化学反応がものすごいことになっています。 2話の平行世界移動を繰り返す話での 「ここ有機生物が酸素を必要としなかった世界だ」 「えーじゃこっちのうちらなにで代謝してるん?」 「ベリリウム」 「やば 緑柱石かよ」 「まあ酸素と同じ第二周期だしね」 という会話など大好きです。「あーね」とか「が?」「が」くらいのテンションで気軽に物理法則が捻じ曲がっていくのえぐちです。 皆大好き、オタクに優しいギャル回では、マンガを描いていたクラスメイトに 「てかこれワンチャン『転スラ』に影響受け過ぎ?」 「『盾の勇者』もじゃね?」 と、異世界ものへの解像度が高く的確にアドバイスする様も激チルです。 「説ある」が「説あるコアトル」に進化するなどの語彙の無限の羽ばたきも、ギャルらしさが溢れていてエモです。更に、本作には競馬回ありホラー回あり巨女ありと、さまざまな属性の人が引っかかるフックが存在します。 作画を担当しているのが『いびってこない義母と義姉』や『通りがかりにワンポイントアドバイスしていくタイプのヤンキー』のおつじさんということもあり、ヴィジュアル的にもつよつよで、未来とへー子がより魅力的になっています。 時折捩じ込まれる『ハンターハンター』や『エヴァ』ネタも私には効きます。巻末おまけも10Pもあるので、単行本でまたじっくり楽しむのも良きでしょう。
「たま」という船に乗っていた
伝説のバンド「たま」が教えてくれる大切なこと #完結応援
「たま」という船に乗っていた
兎来栄寿
兎来栄寿
先日、久松史奈さんが「さよなら人類」をカバーした音源を発表しました。原曲から比べると非常にアップテンポでパンキッシュなアレンジなっており、音としては2000年前後を感じる不思議で心地よい感覚でした。その「さよなら人類」を世に送り出し一世を風靡したアーティスト、たま。 石川浩司 知久寿明 柳原陽一郎 滝本晃司 「たま現象」とまで呼ばれた社会現象も巻き起こした、空前絶後の個性の塊のような伝説のバンド。2003年の解散後に中心人物である石川さんが書き下ろした同名のエッセイを元に、原田高夕己さんが追加取材を重ねてコミカライズしたのがこちらです。 webアクションで連載され最終話とエピローグが5月31日に公開予定ですが、それに先んじてそこまでを収録した2冊目の単行本である『らんちう編』が発売となり完結までを読了しました。 私は「さよなら人類」くらいしか知らない完全に後追いの世代ですが、この作品を読むことでたまという存在の面白さや偉大さを知ることができました。これを書いている最中に「さよなら人類」や「らんちう」を聴いていたら、同じく世代ではない家族も歌を覚えて口ずさんでいました。時代も国境も人種もすべて超える音楽のパワーの片鱗を感じました。 音楽でお客さんを楽しませようとするエンターテイナー精神はもちろんのこと、音楽以外の部分でも空き缶を30000本集めたり、レンタルボックスの先駆け的なお店を始めたり、とにかくやりたいことや楽しいことを追求している石川さんの姿勢は多くの人に感銘を与えるであろうものです。たまのファンはもちろんですが、そうでない人が読んでも楽しめるであろう部分が多々あります。 バンド全体としても、たとえ舞台が武道館であってもまったく気負うことなく、紅白に出ていたときでさえ合間の時間に抜けて劇を観に行くなど、肩の力を抜いて自然体であり続ける姿勢は、何かすごく大切なことを背中で語ってくれているように感じます。 藤子Aさんチックな絵柄で描く、原田高夕己さんの筆致もまたこの作品において絶妙です。基本は親しみやすい線で読みやすく、昔の大御所作家から現代のネットミーム的なネタまで幅広く入れ込んでありユーモラス。ただ、ここぞというシーンは最上の演出でキメてくれます。1巻最後のたまがスターダムに上る大きなきっかけである伝説の「イカ天」出演時のお話や、終盤のいくつかのライブシーンなどは特に最高です。 セカンドアルバムを作る時の「国内のスタジオの使用料がバカ高いから渡航費や宿泊費含めても海外の方が安上がりなのでイギリスとフランスでレコーディングする」というエピソードや、女性ファンがメンバーの泊まるホテルを特定して、ロビーで酒を飲みながら待ち構え、本人たちを描いた18禁BL同人誌を直接手渡したという今だったら大炎上不可避案件には時代を強く感じました。価値観の変容が読み取れるところは、史料的な意義も感じます。 何事も始まりがあれば、終わりもあるのがこの世の理。たまという船から下りる人が出てくるころのお話は切ないです。日本を飛び越えてワールドワイドにも活躍したたま。その「最期」は胸に来ました。 最後のエピローグの後に、石川さんの「玄関」という曲の歌詞が綴られており、そこにある仕掛けやあとがきも含めて何とも言えない良い読後感に包まれました。 ″世の中何がおこるかわからないから 色んな事楽しみにして ニコニコゲラゲラ 笑って生きていくといいと思うよ〜!″ これからどんな風に世界が変わっていこうとも、この石川さんの言葉に救われる人が多くいることを祈ります。 たまを好きな方は読んで懐かしみ、たまを知らない方はこれを機にこんなすごい人たちがいてこんな曲があったのだということを知るきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
幻滅カメラ
汚泥のような現代を切り裂く刹那の光 #1巻応援 #完結応援
幻滅カメラ
兎来栄寿
兎来栄寿
「東京最低最悪最高!」の流れを色濃く受け継いで、現代を鋭利に刳り取ってみせる鳥トマトさんの新作が1・2巻同時発売となりました。同時発売の『アッコちゃんは世界一』とあわせて3冊同時発売ですが、全部オススメです。 主人公のジゲン(27)は売れないカメラマン。その姉・姫子は、新興宗教の教祖と仮面結婚をして莫大な財力を手に入れ、学生時代からの関係がある社長令嬢でビッチのアメリと恋仲。ジゲンが好きな5つ年上の男性・山田は、アメリと不倫する仲で奥さんとの離婚を画策中と1話目で提示される人間関係からドロドロの泥沼の様相を呈してきます。 そして、それだけでも成立しそうな人間ドラマにひとつまみ盛り込まれるファンタジーが、タイトルにもなっている「性欲を消すカメラ」の存在です。人間の根源を司る三大欲求のひとつを消し去ると、何が起こるのか。さまざまなシチュエーションの人間たちが、どこからどこまで性欲を原動力に駆動しているのかということを目の当たりにできるという意味でも非常に面白い作品です。 お金が無さすぎて資本主義の犬になるしかないジゲンは、生活のために姉や社会から多種多様なことを強いられます。マッチングアプリやブラック企業、メン地下や新興宗教、モラ男や家父長制など現代の象徴的なシーンを巡っていく中でさまざまな人間と関わっていきますが、「普通」とか「まとも」と呼ばれるような生き方をしている人がメインにはほぼ出てきません。 しかしながら、深い中身を見ようとしなければ、皆普通に生きているように見えるであろうという絶妙な状態の描き方が最高な作品です。あたかもカメラを通して切り取った一瞬が、現実よりも美しく見えるように。みんなみんな生きているんだ、友達ではないけれど。 ジゲンの恋愛に関するトラウマであったり、姫子やアメリの現在に至るまでの諸事情などが徐々に明かされていく構成、その上で描かれる主軸の人間ドラマも良いです。個人的には、1巻終盤のドライヴ感全開のセリフと展開が好きです。呪詛返しして強く生きていく力と魂を常に持っていきたいものです。 鳥トマトさんの絵柄とお話の相性も絶妙で、デフォルメが強いところとシリアス時のギャップがまた演出として強い効果を発揮しています。表情の描き方などもすごくいい瞬間があるんですよね。 唾棄したくなるような現実、人間、事象を描きながらも、読んでいると不思議とエネルギーをもらえる紛うことなき現代文学です。
機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト
何度読み返しても面白いクロボンシリーズ屈指の神作品 #完結応援
機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト
カワセミ㌠
カワセミ㌠
前作にあたる【機動戦士クロスボーン・ガンダム 鋼鉄の7人】から約17年後のUC:153が舞台となっており、あのVガンダムと同時間軸の作品が誕生した事により ・Vガン本編とどう絡ませるのか? ・一応は完結したクロボンシリーズをどう復活させるのか? ・あの名作鋼鉄の7人のハードルを前にどんな作品を見せてくれるのか? 等読む前から様々な疑問や不安そして期待を持たれたガノタや長谷川先生ファンは多かったかと思いますが読めば読む程 ①Vガンダム要素(ザンスカール帝国の組織図やゾロ系MSの魅力に加えリガミリティアとの関わり合い)の取り入れ方 ②再建した木星圏ならびに新主人公フォント君の人間臭さや兄貴分カーティスさん等各陣営キャラの魅せ方の素晴らしさ ③無印~鋼鉄の敷居の広さを活かした旧陣営キャラの再登場やMS類の発展や海賊らしい戦法や武装等読めば読む程ファンが感動や脱帽する場面の嵐が巻き起こる 等々これでもかと言わんばかりの長谷川先生が送る熱量や画力が展開され様々な考えていた感じた気持ちを良い意味で覆した神作品に仕上がっている神作品だと強く実感した作品なんですよね
ナビレラ
70歳からの夢への向き合い方 #完結応援
ナビレラ
兎来栄寿
兎来栄寿
『ナビレラ』は、私がこれまでに触れてきたWebtoonの中でも最高の作品です。 語弊を恐れずに言えば、現在のWebtoonは若者に向けたライトな作品や似通った人気のあるテーマの作品が非常に多いです。それ故に、既存のマンガのように深く重いテーマを扱っていて読んで考えさせられるような作品の割合は非常に少ないのが実情です。 従来のマンガ好きの方の中には「Webtoonはあんまり……」という方も一定数いると思います。しかし、そんな方にこそお薦めしたいのがこの『ナビレラ』です。 『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』として日本ではドラマ版がNetflixで配信され、5月からは三浦宏規さん、川平慈英さんが主演のミュージカルも上映され、それらにあわせて紙の単行本も今月完結巻の5巻が発売されました。 この機会に再度ラストまで通読して、私は再び熱い涙を溢してしまいました。 人生の残り時間が少なくなってからの生き方。 夢やそれに伴う困難との向き合い方。 躓いてしまった時の立ち上がり方。 家族との関わり方。 人が生きていく上で大切なこと、これから先で行く道に待っているであろう物事が、たくさん盛り込まれた作品です。 「ナビレラ(나빌레라)」は「蝶のように美しく羽ばたく」という意味だそうで、まさに夢に向かって羽ばたいていく「70歳のおじいちゃんがバレエに挑戦する物語」とシンプル表せる内容ですが、その挑戦は本当に険しいもの。 一番身近な人を含めあらゆる周囲の反対を押し除けながら、満足に動けない老体に鞭を打ち、ボロボロになりながらそれでも叶えたい夢に向かって真っ直ぐ進む姿には胸を打たれます。 主人公のみならずさまざまな人物のエピソードが描かれていかますが、そこで人生の先達から送られる時に優しく時に厳しい厳しいメッセージの数々も箴言が豊富。 作中で、20代の夢破れた若者を「自分がもし20代の時からバレエをやれていたらどんなに良かったか」と諭し再び夢に立ち向かわせるシーンがあります。よく言われるように「今この瞬間が人生で一番若い」。人生においてやっておかないと後悔するであろうことをやり始めるなら、いつだって今この瞬間からが良いとエールを送ってくれます。 それは何も夢の話だけではなく、家族や友人知人との関わり方においてもそうです。人にはいつ何が起こるか分かりません。最後の瞬間に悔いを残さず幸せに生きていくためには、今日という1日1日を大事に生きていかねばならないと強く思わせられます。 また、物語の中で見舞われるある大きな困難は、私の祖父にも同様のことが起こり何年も一緒に辛い思いをしながら戦い続けた経験があるため、周囲の人間の気持ちも含めて非常に強く共感するところでした。誰にとっても起き得ることで、もしも自分がそうなったらと考えずにはいられません。 それでも挑戦して、挑戦し続けて、苦境に遭っても立ち上がって、見果てぬ夢を追い続けて、血と汗と涙に塗れたその先で彼らが辿り着く場所。そこには人間の素晴らしさ、人生の素晴らしさが溢れています。 今後、今以上に高齢化が進んでいく社会においてますます価値が高まるテーマを真摯に描ききっている作品です。 普段あまりWebtoonを読み慣れていないという方も、書籍版でぜひ5巻の最後まで読んでみてください。読む前より読んだ後の人生をより良いものにしてくれることでしょう。
鳴かぬ蛍の眠る場所
『別マ』で異彩を放つ蛍の光 #1巻応援 #完結応援
鳴かぬ蛍の眠る場所
兎来栄寿
兎来栄寿
『君に届け』以来、椎名軽穂さんの18年ぶりの新作となる「突風とビート」が始まり話題となっている『別マ』。最近の『別マ』の中では一際異彩を放ち、それ故に印象的な作品です。 高校生になる前に亡くなってしまった姉・蛍の代わりに、新たに始まる高校生活を楽しもうと心に誓う主人公・照。入学初日から運命を感じるイケメン・颯太朗との出逢いがあり、彼の所属する写真部に入って楽しくドキドキに溢れた高校生活が始まる―― そんな予感がしたのも束の間。周囲では何やらきな臭い噂が流れる颯太朗から「俺が蛍を殺した」と衝撃の事実を告げられ、物語は急転直下。甘い学園ラブコメかと思ったら、サスペンスの様相を呈していきます。 真相は、真意はどこにあるのか。姉を殺したという相手とどう向き合っていくのか。他の『別マ』作品にはなかなかないドキドキがあります。 個人的に、一番好きなのは蛍の回想です。タイトルにもなっている通り、蛍はこの物語のキーパーソンでありフィーチャーされていきます。照は照でかわいくて明るくて面白い魅力的な黒髪ロングヒロインなのですが、彼女の人格形成にも多分に影響したであろう蛍というキャラクターもまた良いです。彼女の良さがその言動から溢れてくるシーンに感じ入ってしまいます。清水奏良さんの絵の良さもあいまって、とても魅力的です。 とある名作少女マンガのある場面を思い出すような大きな展開にも驚かされながら、物語は1冊で完結します。 全体を通して生じた感情を述べることもネタバレになってしまいそうなので伏せますが、ただひとつ言えることは間違いなく良い作品で好きということです。 後書きの焼肉の件は、本編との落差で笑ってしまいました。
サチある道々~私をいらない両親へ【電子単行本版】
失った幸を取り戻すつながりの物語 #完結応援
サチある道々~私をいらない両親へ【電子単行本版】
兎来栄寿
兎来栄寿
『トランスルーセント~彼女は半透明~』に出逢って以来、大好きな岡本一広さんの最新作です。今も変わらず本当に素晴らしいマンガをお描きになっていて、胸が一杯になります。 岡本一広さんが描く痛み、そしてそれを包み込むような優しい温かみは必ずこの世界に生きる誰かの救いとなることでしょう。 母親に捨てられ、父親と暮らしているもののその父親もクズの極みで11歳のサチが家から放り出されるところから始まるこの物語。日々まともにご飯を食べることもできず、お風呂にも入れず、髪も爪もボロボロ。たくさんの否定や拒絶を受けてきてトラウマも抱え十円ハゲもある、およそ現代日本で多くの子どもたちが普通に与えられているものを与えられずに育った少女が本作の主人公です。 行くところのないサチはとりあえず母・スミレの家に行きますが、そこにスミレはおらず代わりにやってきたのがスミレを慕う鍵職人の男コジロー。サチは、コジローの車で長野に住む祖父母の家を目指す旅をふたりで始めていきます。 行く先々でいろいろな人々に出逢い、優しさや悲しみに触れていくさまはロードムービー感もあります。それぞれの出逢いと別れの中にもたっぷりとドラマが詰まっており、各エピソードに味わい深い良さがあります。 そうした良さもある上で、この物語の根幹にあるのは家族を中心とした人と人との繋がりです。 コジローもコジローで幼くして母親を亡くしており仕事で家にいない父親の代わりに歳の離れた姉が親代わりであったという生い立ちで、 ″死んだお母ちゃんがよう言うとった さみしいとか悲しいとか苦しいとか どうしようもないイヤなことがあってもな 「楽しいこと」が埋めてくれる せやきコジロー楽しいことをたくさんしい 「楽しいこと」がお前を助けてくれるんよ″ という姉から受けた言葉、それにまつわるエピソードなどはグッときます。普段は人にバカにされてばかりだけれど、そんな自分をバカにしないスミレが好きであるという人間的な部分も魅力的です。 そして、他の多くの物語だと毒親という類型的なキャラクターとして片付けられていそうな母親のスミレも彼女がどのようにして育ってきたのか、どのような家族との関わりを通して今のようになるに至ったのかが詳らかに描かれます。継母との関係が上手くいかず、 ″あたしには母親のお手本がなかった″ と語るスミレ。本当は子供を愛してあげたい、でも上手く愛せないしそのやり方を知らない。そんなスミレの苦悩もまた感じ入るところや考えさせられる部分が多分にあります。そしてまたスミレの継母の方の気持ちもとても解るように描かれているのが巧いです。 そうした彼らの、儚くも貴い結びつき。サチが好きな祖父の ″人間はよいろんな人と関わるけどよ 大切に思う人とは心の底でちゃんと手を繋いで つながっていればな 実際には離れたとこにおったとしても へいちゃらでおれるよ つながり方が大事なんだに″ という素晴らしいセリフにすべて集約されています。みんなそれぞれどこかしらが欠けてしまっている登場人物たちが、辛いものを乗り越えながら少しずつ繋がって生み出していく温かなもの、失ったものを取り戻していく素晴らしさ。 たくさんのそこに体温と心臓の鼓動と息遣いがあるのを感じられる人間たちと、その複雑でかけがえない繋がりが描かれている秀逸な作品です。
ハコヅメ~交番女子の逆襲~
ギャグもシリアスも下ネタも全部盛りな最強エンターテイメントな警察物語! #完結応援
ハコヅメ~交番女子の逆襲~
ナカタニエイト
ナカタニエイト
<ログライン> 交番勤務の女性警察官二名を中心としたエンタメ警察物語。 <ここがオススメ!> 笑って泣いて悲しんで、笑って笑って恐怖して、深く考えさせられて、そして、笑って—— 喜怒哀楽の全ての感情をこれでもかと持ってかれた全部盛りのハコヅメ。 下ネタもちょくちょく入ってきますが、キャラクターの個性や関係値を考えると納得の会話でもあったりと、キャラクターも全員魅力的。 物語の途中で『ハコヅメ~交番女子の逆襲~ 別章 アンボックス』というスピンオフを挟まないと、ちょっと流れがわかりにくくなるところがありますが、これはだいぶ重いので、読んでみると「別章」である理由がわかります。 https://manba.co.jp/boards/135246 ただ、きちんとシリアスな内容もあるからこそ、明るく笑い飛ばせるコメディ部分がより輝きを増すのだなぁ、と。 平和と命がいかに素晴らしく、誰が守っているのかということを物凄く考えた作品でもあります。 が、とにかく物語や会話劇が面白過ぎて、どの巻も最初から最後まで読む手が全く止まりませんでした! <この作品が好きなら……> ・だんドーン https://manba.co.jp/boards/186182 ・刷ったもんだ! https://manba.co.jp/boards/114596 ・シガレット&チェリー https://manba.co.jp/boards/89350