2023年は日本初の日刊連載マンガ「正チャンの冒険」の連載開始からちょうど100年。その間、マンガはさまざまな発展を繰り返し、現在では全世界で楽しまれている日本が誇る文化のひとつとなりました。そんなマンガの100年間のあゆみを、多彩な執筆陣によるリレー連載の形式でふりかえります。
今回は、『「週刊少年マガジン」はどのようにマンガの歴史を築き上げてきたのか?』(星海社新書)の著者であり、さまざまな分野で執筆活動を続ける、ライターの伊藤和弘さんに1970年代のマンガについて寄稿していただきました!!
「24年組」による少女マンガ革命
70年代に入ると、戦後生まれの団塊の世代から新たな描き手も生まれるようになる。とりわけ少女マンガではその世代の活躍が目立った。萩尾望都、竹宮恵子(現・竹宮惠子)、山岸凉子、大島弓子など、当時デビューした気鋭の少女マンガ家たちは昭和24年前後に生まれたため「花の24年組」と呼ばれた。
主な作品に『ポーの一族』(萩尾望都)、『ミモザ館でつかまえて』(大島弓子)、『風と木の詩』(竹宮恵子)、『イブの息子たち』(青池保子)などがある。彼女たちは少年の同性愛や本格SFなど、日常に根差した従来の少女マンガでは扱われなかったテーマを果敢に取り上げ、少女マンガの世界を大きく広げた。その文学性から男性に評価されたこともポイントだろう。少年マンガを大人も読むようになったのと同じく、70年代以降は少女マンガを読む男性も増えていく。
また、『風と木の詩』のように少年愛を取り上げる作品が増え、それが一過性の流行に終わらなかったことは重要な転機だ。少年愛はやがてボーイズ・ラブ(BL)と呼ばれ、ひとつのジャンルとして成立するまでになった。少年愛といっても現実世界のホモセクシャルとイコールではない。“見られる性”として自身の外見やジェンダーの束縛に悩む思春期の少女にとって、自分と接点のないBLは安心して楽しめる異世界なのだろう。
以前からあった「なかよし」(講談社)、「りぼん」(集英社)、「週刊少女フレンド」(講談社)、「週刊マーガレット」(集英社)、「週刊少女コミック」(小学館)などに加え、70年代半ばには少女マンガ誌が相次いで創刊された。74年に「花とゆめ」(白泉社)、75年に「プリンセス」(秋田書店)と「mimi」(講談社)、76年に「LaLa」(白泉社)、77年に「ちゃお」(小学館)が誕生。その中から、『ベルサイユのばら』(池田理代子)、『ガラスの仮面』(美内すずえ)、『王家の紋章』(細川智栄子)など、今なお読み継がれている名作も数多く生まれている。あたかも春が来たかのように、少女マンガでは次々と大輪の花が咲いていった。
「ジャンプ」「チャンピオン」の躍進
少年誌では68年に「少年ジャンプ」(集英社)、69年に「少年チャンピオン」(秋田書店)が創刊されている。どちらも月2回刊で始まり、翌年に週刊化。その結果、70年代は「マガジン」「サンデー」「キング」「ジャンプ」「チャンピオン」と5つの週刊少年誌が鎬を削る時代となった。
青年誌化が進んでいた既存の「マガジン」「サンデー」「キング」に対し、少年誌の原点回帰を目指した「ジャンプ」は小中学生をターゲットとした。「ジャンプ」のキーワードとして有名な“友情・努力・勝利”も小学生にアンケートを取って生まれた言葉。狙い通り、「ジャンプ」は小中学生に圧倒的な支持を得た。
草創期の「ジャンプ」を支えたのは、ともに新人を起用した『ハレンチ学園』(永井豪)と『男一匹ガキ大将』(本宮ひろ志)だ。その後、『トイレット博士』(とりいかずよし)、『アストロ球団』(遠崎史朗・中島徳博)、『サーキットの狼』(池沢さとし)などが続いた。『あしたのジョー』が終わった73年以降、「ジャンプ」は発行部数で「マガジン」を抜いて週刊少年誌の王座につく。
一方、「チャンピオン」も壁村耐三が第2代編集長に就任した72年以降、どんどん部数を伸ばしていく。『ドカベン』(水島新司)のような例外もあったが、壁村編集長が打ち出した方針は週ごとに満足感を味わえる一話完結型だった。『ブラック・ジャック』(手塚治虫)、『恐怖新聞』(つのだじろう)、『がきデカ』(山上たつひこ)、『エコエコアザラク』(古賀新一)、『750ライダー』(石井いさみ)など多くのヒット作を連発し、77年には200万部を突破。ナンバーワンの「ジャンプ」に肉薄した。
なお、70年代の「マガジン」では『デビルマン』(永井豪)、『釣りキチ三平』(矢口高雄)、『三つ目がとおる』(手塚治虫)、『おれは鉄兵』(ちばてつや)、『1・2の三四郎』(小林まこと)などがヒット。同じく「サンデー」では『男組』(雁屋哲・池上遼一)、『プロゴルファー猿』(藤子不二雄)、『まことちゃん』(楳図かずお)、『がんばれ元気』(小山ゆう)などが人気を博した。
残る「キング」は『ワイルド7』(望月三起也)、『銀河鉄道999』(松本零士)、『まんが道』(藤子不二雄)など、いくつかヒット作も出したものの部数は低迷。82年に廃刊し、「5大週刊少年誌の時代」が終わる。
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