ウマ娘のゲームを飽きもせず遊び続けてるんですが、ツインターボ、メジロパーマー、タマモクロス、ミスターシービーのプレイアブル実装まだですかね(この原稿を提出してから掲載されるまでの間に実装されてたら良かったねと言って下さい)。石をもう4天井分貯めてる(このためにサポカのガチャあまり回せてないから育成に限界がある)んで、ほんと早く来てほしいんですよ。わしゃ早く、タマちゃんの濁った声での「どーきどきどきどきどきどきどきどき」(うまぴょい伝説)が聞きたいんじゃ……。
というわけで、今回紹介するのは横山光輝『闇の土鬼(どき)』です。『週刊少年マガジン』に73〜74年にかけて連載されたもので、単行本は講談社やリイド社などの新書判で全5巻、文庫版等で全3巻となっております。主人公の土鬼は、OVA『ジャイアントロボ THE ANIMATION-地球が静止する日-』(横山による原作漫画(序盤のみ小澤さとる共著)『ジャイアントロボ』とは全く違う話になっていますが、超傑作です)に登場したキャラクター「十傑集・直系の怒鬼」の元ネタでもあります。
ところで、大御所漫画家の作品って、「誰もが名前を知ってる代表作」の他に、「知名度では一段落ちるが、その漫画家のマニアからの支持は絶大」な作品ってのがよくあると思うんですよ。藤子・F・不二雄作品なら『モジャ公』とか、永井豪作品なら『ガクエン退屈男』とか。
で、横山光輝作品の場合、一般的な知名度でいえば『鉄人28号』『バビル二世』あたりのSFもの、『伊賀の影丸』『仮面の忍者 赤影』あたりの忍者もの、『三国志』(アニメ版OP「時の河」がまた名曲なんですよね)あたりの歴史大河ものが挙がると思うんですが、先述したような「マニアからの支持は絶大」枠は、そのどれでもない(忍者ものに近くはありますが)本作だと筆者としては思うんです。
内容を説明していきましょう。舞台は江戸時代。ある農民が、口減らしとして生まれたばかりの赤子を土に埋めて殺そうとしているところから話は始まります。ところが、この赤子、一晩埋められても死なずに泣き声をあげ続け、より深くへ埋められた二晩目には泣くだけでなく土中より這い出ようとしてくるという凄まじい生命力を見せます。
で、この様子を見ていた訳アリの武芸者・大谷主水がその生命力に目をつけて、「どのみち命をうばう子ならわしがもらおう」と貰い受け、「土中より生まれてきた鬼の子」、土鬼と名付けて育てることとなります。
それから十数年。主水と土鬼は、ある街で武術道場主とその若先生として暮らしていました。だがある日、ふとしたきっかけから道場が襲われ、主水は相討ちとなって死んでしまいます。死の間際に彼は土鬼へ、
- 自分は「血風党」という徳川家が抱えていた暗殺集団の一員であったこと
- かつては大義のために暗殺をしていた血風党だったが、太平の世となってからは役割が薄れたため、血を見ることを楽しみに暗殺を請け負う集団に変貌してしまい、自分はそれが嫌で脱党し、追われる立場となっていたこと
- 血風党自体は嫌だが、血風党の首領・無明斉が編み出した「裏の武芸」は魅力的だと武芸者として感じており、土鬼の天賦の才ならこの武芸を完成させることができると思って今まで稽古をつけてきたこと
を告げます。こうして土鬼は、父を殺されたことの復讐と、「裏の武芸」を完成させる父の夢を果たすことでこれまで育ててくれた恩返しとするということを胸に、血風党、そして無明斉と戦うことを望んで、血で血を洗う修羅の道へと踏み入ることとなる、これがメインストーリーです。
本作の魅力は、まず何と言ってもそのアクションシーンにあります。土鬼および血風党の使う「裏の武芸」は暗殺術であるため、使う得物は刀や槍のような一般的なものではなく、暗器の類になります。土鬼がメインで使うのは、一本の棍となったり鎖状に相手に巻き付いたりと自在に変化する七節棍(ガリアンソードなんかもそうですけど、こういう武器ってロマンありますよね)ですし、その他に出てくる武器も、口から吹き出すふくみ針やチャクラム状の「輪」など、尋常ではないものばかり。技も、石や鉄球を指で弾く「霞のつぶて」(いわゆる「指弾」ですね)や、相手の頭上に落ちるように刃物を投げ、同時に正面から攻撃するという王手飛車「一の太刀」など、独特のものとなっています。
で、それらがぶつかり合うアクションシーンがまた非常にかっこいい。横山、コマ割りとかはかなり保守的(基本的に、1ページにつき4行×3列の12コマをどう組み合わせるかみたいな割り方をしていて、見開き使用や断ち切りいっぱいまで描くことはほとんどしていません)なんですが、「大ゴマや断ち切りを使うだけが迫力を出す手ではない」とばかりに、読みやすさと躍動感・スピード感を併せ持ったキレッキレのアクションを描いています。
ストーリー面においても、単なる復讐譚の一本道にとどまらず、徳川忠長(駿河大納言)や松平伊豆守信綱、そして柳生十兵衛といった実在の人物が絡んで(この辺の、史実をうまくフィクションのストーリー中に混ぜ込んでいくやり方は、『伊賀の影丸』の「由比正雪の巻」などでも見られ、横山はこれが実に上手いです)読者を飽きさせません。
あと、これは『土鬼』に限らず横山漫画全般に共通する特徴なんですが、ものすごくドライです。人気の出てそうなネームドキャラでも本当にあっさりと死んだりしますので、メタ読み(「このキャラはここでは死なんだろ」みたいな)のできない緊張感があり、かつ物語はスピーディーに展開します。
そして本作においては特に、終わり方がよいんです。寂寞感がありながらも、メインキャラクターたちはそれぞれ自分にとって納得のいく結論を得ているために悲壮感はないという、何とも言えない余韻のあるものになっているんですよ。これはぜひ読んで確かめて下さい。
さてここからはオマケ。ちょっと余談というか、知ってるとより『土鬼』を楽しめるかもしれない話を書きます。
本作にはまず、プロトタイプとして、1969年『少年キング』(今は『ヤングキング』の方しか残ってないわけですが、昔は4大少年週刊誌に加えて少年画報社がそういう雑誌を出していて、5大少年週刊誌体制だったのです。掲載作の代表は『銀河鉄道999』『ワイルド7』など)に全5話という短期集中連載がなされた中編「暗殺道場」(短編集『鬼火』などに収録)という作品があります。
同作のあらすじは、
”特異な技を特徴とする天真流道場の道場主が何者かに殺害された。道場主の養子である鷹丸は密かに託された遺書を読み、
- 殺害の犯人は道場の四天王と呼ばれる四人組であること
- 四天王の正体は幕府お抱えの暗殺集団の一員であり、天真流の技を盗んで暗殺に活かすために入門していたこと
- 自分が殺された暁には四天王を何とか葬り、天真流が暗殺に利用されることを封じてほしいこと
を託される。
鷹丸は苦心の果てに、「一の太刀」や「隠し玉(霞のつぶて)」といった四天王それぞれの秘技を破って倒し、二度とこのようなことがないよう天真流を封じて百姓でもして暮らすと決意して、何処とへもなく去っていく。”
というものです。横山が「気に入った題材ということもあり、その後『闇の土鬼』として長編化しています」と自ら語っている通り、プロトタイプであることと、『土鬼』とストーリーに差があるということが分かるかと思います。
で、実はこの作品、元ネタというかインスパイア元というかな別作品があります。都筑道夫の小説『なめくじに聞いてみろ』(1962年。初出時のタイトルは『飢えた遺産』。1967年の岡本喜八監督の映画「殺人狂時代」の原作)です。同作のあらすじは、
”出羽の山奥から東京に出てきた青年・桔梗信治。彼は死の間際の父親から「俺、ナチスドイツの下で色々な変わった暗殺術を研究してて、日本に帰ってきてから通信教育で暗殺術を教えた弟子が1ダースいるんよ。別に反省とかしてるわけじゃないけど言うだけ言っとくわ。あと暗殺術の内容とか書いてるノートは全部焼いた」(大意)という頭の痛くなる遺言を聞かされたため、「親父の後始末は自分がしなければ……」と、父の弟子である殺し屋(どんな技を使うのかも分からない)をひとりひとり始末していく”
というもの。「暗殺道場」に与えた影響は明白と言えましょう。ただし、『なめくじに〜』では相手の暗殺術が何かわからない所から戦いに入るのに対し、「暗殺道場」では相互に手の内を知っていての戦いとなるのが違いますし、また、登場する暗殺術は全く違う(舞台となる時代が違いますしね)ものとなっております。あーでも、『土鬼』で最初に噛ませとして殺される血風党の一人「仕込み傘の伝蔵」の技は(さらなる元ネタがあるのでなければ)『なめくじに〜』からのイタダキですが……。
ついでに書いとくと、横山のスパイアクション作品『コマンドJ』(『週刊少年マガジン』65〜66年連載)で出てきた、ベルトに大時計のゼンマイ仕込むというギミックも、元ネタは多分『なめくじに〜』ですね。まあこの辺言い出すと、「『伊賀の影丸』、いくつかちょっと『甲賀忍法帖』すぎやしませんか……」とかの話にもなってしまうのですが……。いや、『影丸』いま読んでも十分に面白い、面白いですよ(「梟の甚内」とかちょうカッコいいし)。でも甲賀忍法帖っぷりが全く気にならないと言ってしまうとウソになるんや……。
最後にちょっとモヤモヤすることを書いて締まらない終わり方になりましたが、横山作品、時代と寝なかったが故に古びていない面白さがありますので、「名前は知ってるがあまり読んだことない」という方はこれを機に読んでみてはいかがでしょうか。筆者としても、いつかまた別の機に、他の好きな作品(『風盗伝』『血笑鴉』『狼の星座』『長征』あたり)をここで紹介できればと思います。
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