以前に『スーパーくいしん坊』の記事でも書きましたが、ウェブ上には1コマだけ、1ページだけがミーム的に広まっている漫画というものがあります。今回紹介する小池一夫+松森正『木曜日のリカ』もそンな漫画の一つ。連載は71〜72年の『週刊少年キング』で、単行本は全5巻です。本作のタイトル聞いてピンとこないという方でも、次の1コマはTwitterあたり(あと、90年代の漫画関連本読んでた人だと、宝島社の『コミックVOW』で知ってるかも)で見たことがあるのではないでしょうか。というか、筆者はつい最近流れてきたのを見ました。
インパクトありますね、「ノーベル殺人賞」。しかし本作をちゃンと通して読んだ人はそンなに多くなく、この賞やセリフについて意味を誤解している人が多いのではないかと当方は思っているのです。というわけで紹介。
本作の主人公・美木本リカは、毎週木曜日にレギュラー番組を持っているテレビタレント(タイトルの由来はこれですね)。
しかしある日、彼女の番組にゲストとして登場した大蔵次官が、収録中に何者かによって射殺されてしまいます。スタジオを飛び出し(このことによって主犯もしくは共犯の容疑をかけられ指名手配されるので、このあとタレント設定は消えます。連載を途中から読ンだ人、何が木曜日なのか全然わからなかったと思う)て犯人を追うリカ。そして犯人二人を追い詰めると、決め台詞を出します。
と、「ノーベル殺人賞ってなんだよ!」と皆さン思われることでしょう。作品内では詳細が明かされるのはもう少し後なンですが、この原稿では少し早めに紹介してしまいます。これはノーベル殺人財団によって与えられる、平和のために除かねばならない犯罪者をやむを得ない場合にのみ殺していいというマーダーライセンスです。
そう、ノーベル殺人賞って、あくまでも平和のために非常手段が許されてるってだけで、別にすごい殺し屋とかそういうわけじゃないンですよ。50人の人を救ったと判断される事に階級が上がっていき、最高で鉄十字章となります。
そしてこのやり取りしてる相手がいることで分かると思いますが、「ノーベル殺人賞をもらった世界でただひとりの女」の「世界でただひとり」は「女」にかかっており、殺人賞をもらってる男は他に普通にいます。あとこの殺人メダルの「数字を書いていくとパイプをくわえたおっさんの顔になる」というやつ、後の小池作品『新上ってなンボ!!太一よ泣くな』では精神統一法として使われてたやつですね(大元のネタがありそうな気もしますがちょっと分からない)。
で、このリカさんが腕利きエージェントとして超活躍する……と思いきや、なんか今ひとつピリッとしないのが本作の変な特徴です。最初に書いた、大蔵次官を射殺した犯人二人組についても、一度は捕まえるものの隙をつかれて逆転され、逆に縛り上げられて水責めを受け悲鳴を上げたりします(サービスシーン)。
この後も後手後手に回って第二の殺人は結局防げないですし、次のエピソードでも敵の陽動にまんまとひっかかって作戦を完遂させられる始末。
序盤くらいは無双させてもいいンじゃないかと思うンですけど、リカ自身も悩み一度は殺人メダリストをやめようとするエピソードもあったりするくらいなンで、最初から「非情に徹しきれない主人公」というコンセプトだったのかもしれないですね。
まあそういう感じで、小池作品の中では正直「失敗作でもないが超傑作でもない」くらいのポジションだとは思う(松森とのコンビでも『片恋さぶろう』とかのが断然出来がいい)ンですが、一コマだけしか知らない方は読んでみてほしいと思います。スキマとかだと広告付き無料で読めますし……。
ちなみに本作、紙での単行本は少年画報社ヒットコミックス版(全1巻)、ひばり書房ひばりヒットコミックス版(全5巻)、スタジオ・シップ劇画キングシリーズ版(全5巻)と出ていましたが、スタジオ・シップ版以外は最終話まで入ってないです。スタジオ・シップ版も、全話収録ではあるものの、話の順序が入れ替えられてて微妙につながりがおかしかったンですが、いま出てる電書の「マンガの金字塔」シリーズは話の順序も連載順になっている完全版なので、紙で読ンだことがあるという人も読ンでみるといいと思います。