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麻雀勝負が聖と魔のハルマゲドンにまで発展する日本三大SF麻雀漫画の一角—志村裕次+みやぞえ郁雄『風の雀吾』

 麻雀漫画というジャンルの中には、SF要素を含んだものが少なからずあります(それこそ『咲-Saki-』とかだって「麻雀人口が1億人を突破した世界」という並行世界ものと言えんことはない)。その中でも、筆者が勝手に「三大SF麻雀漫画」と呼んでいる作品があります。一つは以前に記事を書いた『ナイトストーン 危険な扇動者』、一つは『トーキョーゲーム』(青山広美特集の記事インタビューを参照)、そしてもう一つが、今回紹介する志村裕次+みやぞえ郁雄『真・麻雀伝説 風の雀吾』です。連載は徳間書店の『漫画タウン』(徳間書店)82〜83年。単行本はグリーンアローコミックスから全2巻が出ており、今は電書もあります(紙の本だと巻数表記がなくて「雷鳴編」「灼熱編」というどっちが1巻か分からない謎の仕様だったのが、電書版は巻数表記があって親切)。原作の志村は70〜80年代に麻雀漫画原作を書きまくった(読切数だとたぶん日本一だと思う)人で、13年に亡くなりました。生前に筆者が行ったインタビューを公開してますんで気になった方はそちらを。作画のみやぞえは手塚治虫のアシスタント出身で、アニメや特撮のコミカライズや麻雀漫画などを多く描いた人。あの伝説のカルトアニメ『チャージマン研!』のコミカライズもしています(アニメ版よりかなり正気の内容)。近年は学習伝記漫画とかが多いです。

『風の雀吾』

 内容の紹介に入りましょう。本作の主人公・榊雀吾は、麻雀道場・雀義塾塾長の息子。中国へ修行の旅に出ていた彼が帰ると、父親が瀕死の状態で倒れていたところから物語は始まります。瀕死の父・白翁斎曰く、夜叉連合という謎の組織により、封印していた12の雀神技が奪われてしまった、このままでは真の麻雀界が滅び去ってしまう(真の麻雀界?)ので12の技を打ち崩せとのこと。

『風の雀吾』1巻16〜17ページより

 そして現れる夜叉連合第一の刺客・応竜。彼は、「その昔——麻雀は戦場だった 命を賭けて戦う場所だった」と「そうか?」としか言えないことを言い、「麻雀界に革命を起こす!」と宣言します。

『風の雀吾』1巻20ページより

 この夜叉連合、敵役ながら麻雀に懸ける思いは本物なのがポイントで、2巻でもリーダー・無天児が異常にアツい麻雀への思いを語ったりします。

『風の雀吾』2巻9ページより

 で、雀神技を身につけた夜叉連合の刺客が襲ってくるのを雀吾が倒すというのが毎回のストーリーになるわけですが、この雀神技の内容がかなりすごい。最初のうちこそ、「和了れなかった手牌の残留思念が相手に乗り移る」という「残留思念陣」とか、

『風の雀吾』1巻64〜65ページより

 精霊が手牌の「通し」をしてくる「精霊陣」とかいった、まあ普通の麻雀技(いや普通ではない完全な超能力なんですけど、麻雀自体の技ではあるので……)なんですが、

 

 

 後半になると、相手の意識を肉体から遊離させ、最終的にブラックホールに飲み込ませてしまう「離霊陣」とか、
『風の雀吾』2巻120〜121ページより

 太陽を引き寄せてそのエネルギーで相手を焼き尽くす「太陽陣」とか、「それ本当に麻雀革命に必要な技か!?」としか言いようがないものになっていき、

『風の雀吾』2巻160〜161ページより

 そして物語は最終的に聖と魔のハルマゲドンになっていきます。

『風の雀吾』2巻182〜183ページより

 ここまで行くと収拾つくのか不安になる人もいるかも知れませんが、ちゃんと風呂敷を畳んで終わります。この作品、「敵組織はなぜ、一番弱いやつから順番に主人公に一人ひとりぶつけていく戦力の逐次投入という愚を犯すのか」というこの手の作品のお約束を逆手に取ったどんでん返しもあったりして、無茶苦茶な設定ながら実は構成についてはしっかりしているのです。筆者が本作の担当編集だった宮崎信二氏(後に原作者となって、かわぐちかいじ『YELLOW』などの作品を作る)に話を聞いたところ、スティーブン・キングの『ファイアスターター』に影響された宮崎氏の主導での企画だったそうで、この辺、宮崎氏が「麻雀」にそこまでこだわりがなく「変わったものをやろう」と思うタイプだったことと、志村氏が注文されれば割とどんなジャンルでも話をまとめられる職人タイプ(本人としては人情物的な人間ドラマが好きだったようですが、作品のジャンルはこういうSFからロマンス小説まで多岐にわたります)だったのがうまくハマった感じであります。
 本作、このかっ飛んだSF性により、『漫画タウン』というメジャーではない雑誌の麻雀漫画にしては当時そこそこ話題になったようで、当時『漫画タウン』で連載を持っていた漫画家のいくたまき氏は『漫画ブリッコ』(白夜書房。美少女漫画誌の草分け)に「風の雀吾を読みなさい」という熱烈コラムを発表していたり、

『漫画ブリッコ』84年8月号より

 本作終了後には『漫画タウン』上で同じコンビによる、核戦争で文明が崩壊した未来が舞台の『麻雀鳳凰城』というやはりSF麻雀漫画の連載が始まっていたりします。こちらもグリーンアローコミックスから全2巻が出ており、現在は電書もありますんでオススメ。

 

 

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