法月理栄さん第12回。新発見、珠玉の短編3作は甘く切ないノスタルジー。『ブリキの玉手箱』『少年の頃』『ダイアリー』

先日の事でした。

いつもの古書店へ顔を出すと、「水曜教授さん、のり何とかさん? あ、そうそう、のりづきさん。別冊のゴルゴに載っているのがあるんですけど要ります?」と店主さん。

「な、なんですとぉぉぉお!!」と、心の中で思いっきり叫んでしまいましたよ。

別冊のゴルゴとは、カバー無しの『別冊ビッグコミック・特集ゴルゴ13シリーズ』の事です。

ゴルゴが2〜3作品と、短編漫画や読み物が併載されたB6サイズの本です。

リイド社の単行本より安価で書店に並ぶのも早い為、私も良く買ってました。

その『別冊ゴルゴ』に法月さんの作品が載っているという驚きの情報です。

いや全く知りませんでした。

「『別冊ゴルゴ』がまとまって入ったので、品出しの前に中を確認してたらあったんですよ。一通り見たけどこの3冊だね」と店主さん。

有り難い事です。

今回はその3作品を紹介しましょう。

 

・『別冊ビッグコミック』NO.77 1988/昭和63年4月1日発行

「ブリキの玉手箱」

『別冊ビッグコミック』(小学館)NO.77

3作品の中で1番私の心をとらえた話です。

小学校の同窓会へ出席するために故郷の駅で再会した、由美、千代、栄子の女性3人。

年齢は書かれてませんが、20代後半から30歳前後だと思われます。

通学路だった道を歩きながら、懐かしさにふける3人。

突然由美が、神社の木の隙間に宝物を入れたブリキの箱を隠したのを思い出し探します。

錆び着いたブリキの箱を見つけ、蓋を開けてみると…..

なんと意識は大人のまま、子供の姿に変わってしまった3人。

それぞれが夢だと思い込みますが、姿だけでなく時代も子供の頃に戻ってます。

3人は通りがかったロバのパン屋さんの荷車に乗せてもらい、着いた先は由美の家。

弟のアキラも母もおばあちゃんも、子供姿の3人に普通に接してきます。

由美は子供の頃の母とおばあちゃんを見て泣き出し、千代と栄子に泣いたらおかしいとたしなめられます。

薪で炊くお風呂の準備をしながら、由美は火の温かさからこれは夢ではないと感じ出します。

柱時計が夕方6時を告げると千代と栄子は「同窓会が始まる時間だからこの世界から帰らなきゃ」言いますが、帰らないと駄々をこねる由美。

千代と栄子は結婚してますが、由美は独身です。

現在の由美の生活描写はありませんが、子供のままここへ残ると言い出す由美の気持ちは何となくですがわかります。

ブリキの箱の蓋を閉めれば元に戻る筈と、千代と栄子に抱えられるように家を出る由美。

そして蓋を閉めた3人は……

作中「ロバのパン屋」が出てきますが、私一度だけ実際にロバが牽く「ロバのパン屋」を見た事があります。

『別冊ビッグコミック』(小学館)NO.77

ロバなのかポニーなのか勿論子供なのでわかりませんが、3歳から5歳までの間くらいだったでしょうか。

いつもは車だったとおぼろげながら記憶してます。

「ロバのおじさんチンカラリン」というメロディーが聞こえてくると、「キタァァァーーーー」とテンションダダ上がりでしたよ。

普段は見ない、子供心をくすぐる菓子パンはとても魅力的でした。

といっても買ってもらった記憶は無いんですけどね。

たった一度だけ見たロバの記憶は鮮明です。

横にいた母が「今日はロバで来た」と言ったのも憶えてます。

昭和40年頃の子供にとって夢の国から来た馬車でした。

扉ページを除いて13ページの小品ですが、法月さん本当上手いですね。

「ロバのパン屋」の描写も含めて私に刺さった昭和ノスタルジー。

タイムスリップと大人のまま子供になった郷愁が、とてもいい感じに組み合わさった秀作です。

 

・別冊ビッグコミック NO.85 1990/平成2年4月1日発行

「少年の頃」

『別冊ビッグコミック』(小学館)NO.85

仕事に疲れたサラリーマンが、少しのんびりしたくなって少年時代を過ごした街へ来ます。

サラリーマンは子供の頃「泣き虫ヨッチ」というあだ名で呼ばれてました。

懐かしの駄菓子屋へ入ると「キヌちゃん」という年配の女性がやってきます。

「キヌちゃん」は「泣き虫ヨッチ」もお世話になった、近所の子供の面倒を見てた子供に好かれる女性です。

しかし、忙しい主婦に重宝がられたのも昔の話。

現在では余計な事をしないでくれと、疎ましがられてます。

年を取った「キヌちゃん」と、子供に戻ったかのように交流した「泣き虫ヨッチ」。

自分を取り戻して、大人の世界へ帰っていくべく電車に乗ります。

扉ページを除いて15ページ。

子供の頃にお世話になった女性との再会が、変わってしまった自分や時代の変化を受け入れ立ち直っていく。

読後感が心地いい短編です。

 

・『別冊ビッグコミック] NO.86 1990/平成2年7月1日発行

「ダイアリー」

『別冊ビッグコミック』(小学館)NO.86

主人公は中学1年の女の子、千絵。

町のよろず屋の娘で屋根の上が落ち着くという、以前紹介した「屋根の上のセッちゃん」と同じ様な設定です。

思春期の千絵は、年上の住み込み店員ミッちゃんの大人な振る舞いに少しだけ嫌悪感を抱いてます。

許されざる恋の後、駆け落ちしたミッちゃんを想ってちょっと大人になる千絵。

まさに法月ワールド。

大人の女性と自分を比較し、悩みながらも成長していく思春期の女の子の話です。

当時ゴルゴの別冊を読む読者層に受け入れられたのでしょうか。

扉ページを除いて全17ページです。

13.15.17ページと2ページずつ増えているのは何故だかわかりません。

別冊ゴルゴの法月さん、他にもあるんでしょうか。

あって欲しいですね。

このあたりの年代の別冊ゴルゴを見かけたら必ずチェックしていかねばなりません。

法月作品コンプリートまでの道程はあと少しの筈なんですが、まだまだ険しいですね。

では不完全ですが、ここまでで判明している法月さんの作品リストをお届けしておきます。

 

利平さんとこのおばあちゃん

掲載誌

タイトル

電子巻数

エピソード

1978

ビッグコミック

12.25号

コミック大賞(佳作)受賞発表

1979

ビッグコミック

2.10号

利平さんとこのおばあちゃん

1巻

第1話

 

ビッグコミック

4.10号

じいちゃんの声

未収録

 

ビッグコミック

8.10号

婚礼

1巻

第2話

 

ビッグコミック

11.23増刊号

片耳のコンタ

未収録

 

ビッグコミック

12.10号

柱時計

1巻

第3話

1980

ビッグコミック

5.25号

はたおり

1巻

第4話

 

ビッグコミック

8.25号

初産

1巻

第5話

 

ビッグコミック

9.23増刊号

盆の珍事

未収録

 

ビッグコミック

11.10号

法事の帰り(2色扉)

1巻

第6話

1981

ビッグコミック

3.10号

じいちゃんの肖像

1巻

第7話

 

ビッグコミック

5.25号

健さん

2巻

第14話

 

ビッグコミック

7.25号

夏祭り

2巻

第15話

 

ビッグコミック

9.23増刊号

白い手紙

未収録

 

ビッグコミック

11.23増刊号

秋の色

3巻

第27話(最終話)

1982

ビッグコミック

1.1増刊号

木枯らしのインバネス

2巻

第16話

 

ビッグコミック

4.10号

春五百羅漢

2巻

第12話

 

ビッグコミック

5.23増刊号

菖蒲節句

未収録

 

ビッグコミック

6.25号

団地の出来事

未収録

 

ビッグコミック

8.25号

迎え火

未収録

 

ビッグコミック

10.25号

かかし

1巻

第8話

 

ビッグコミック

12.25号

ふるさと

1巻

第9話

1983

ビッグコミック

4.10号

卒業アルバム

2巻

第10話

 

ビッグコミック

5.25号

老松

未収録

 

ビッグコミック

6.25号

パステル色の思い出

2巻

第11話

 

ビッグコミック

9.10号

風切り鎌

未収録

1984

ビッグコミック

2.10号

結び目

2巻

第13話

 

ビッグコミック

4.25号

色隠し

未収録

 

ビッグコミック

6.25号

あいちゃん

2巻

第17話

 

ビッグコミック

8.10号

帰省

未収録

 

ビッグコミック

10.10号

赤い電球

2巻

第18話

 

ビッグコミック

12.10号

笹舟

未収録

1985

ビッグコミック

2.10号

足の跡(2色4ページ)

3巻

第19話

 

ビッグコミック

4.10号

さよならセーラー服

未収録

 

ビッグコミック

6.25号

道しるべ

未収録

 

ビッグコミック

9.10号

パテーの映写機

3巻

第20話

 

ビッグコミック

12.25号

寄せ鍋

3巻

第21話

1986

ビッグコミック

4.10号

ハレー彗星

未収録

 

ビッグコミック

7.25号

絵本屋さん

3巻

第22話

 

ビッグコミック

12.10号

3巻

第23話

1987

ビッグコミック

3.25号

バスが行く

未収録

 

ビッグコミック

6.10号

健さんの贈り物

未収録

 

ビッグコミック

11.10号

嫁っこ

3巻

第24話

1988

ビッグコミック

2.10号

冬の贈り物

未収録

 

ビッグコミック

5.10号

家の灯

3巻

第25話

 

ビッグコミック

9月増刊号

ヤマメ

3巻

第26話

 

別冊ビッグコミック

No.77

ブリキの玉手箱

1990

別冊ビッグコミック

No.85

少年の頃

 

別冊ビッグコミック

No.86

ダイアリー  

利平さんとこのおばあちゃん』は、電子版2巻の解説で全47話となってます。
この作品リストは45話。
あと2話ですが、掲載号も題名も判明してません。

 

『屋根の上のセッちゃん』

掲載誌 タイトル
1985 月刊あすか/ASUKA 9月号 菊ちゃんのこと
  月刊あすか/ASUKA 11月号 真珠の指輪
  月刊あすか/ASUKA 12月号 冬のお祭り

 

『気まぐれデイパック』

掲載誌 タイトル
1989 ビッグコミック 3.10 無題
  ビッグコミック 5.10 石仏の里
  ビッグコミック 7.10 六月の夜に
  ビッグコミック 9.10 さよならジロー
1990 ビッグコミック 4.25 MTBに乗った貴婦人

『屋根の上のセッちゃん』は3話、『気まぐれデイパック』は5話で全てです。

 

その他の短編

掲載誌 タイトル
1986 ビッグコミック 5.23増刊号 10円屋の圭ちゃん
1988 ビッグコミック 11.23増刊号 ボックスシートで…
  別冊ビッグコミック No.77 ブリキの玉手箱
1990 別冊ビッグコミック No.85 少年の頃
  別冊ビッグコミック No.86 ダイアリー

短編はまだ未発掘がありそうです。

不完全リストで申し訳ありませんが、法月ファンの方に少しでもお役に立てれば幸いです。

法月理栄さんの記事、第12回でした。

 

 

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