先日の事でした。
いつもの古書店へ顔を出すと、「水曜教授さん、のり何とかさん? あ、そうそう、のりづきさん。別冊のゴルゴに載っているのがあるんですけど要ります?」と店主さん。
「な、なんですとぉぉぉお!!」と、心の中で思いっきり叫んでしまいましたよ。
別冊のゴルゴとは、カバー無しの『別冊ビッグコミック・特集ゴルゴ13シリーズ』の事です。
ゴルゴが2〜3作品と、短編漫画や読み物が併載されたB6サイズの本です。
リイド社の単行本より安価で書店に並ぶのも早い為、私も良く買ってました。
その『別冊ゴルゴ』に法月さんの作品が載っているという驚きの情報です。
いや全く知りませんでした。
「『別冊ゴルゴ』がまとまって入ったので、品出しの前に中を確認してたらあったんですよ。一通り見たけどこの3冊だね」と店主さん。
有り難い事です。
今回はその3作品を紹介しましょう。
・『別冊ビッグコミック』NO.77 1988/昭和63年4月1日発行
「ブリキの玉手箱」
3作品の中で1番私の心をとらえた話です。
小学校の同窓会へ出席するために故郷の駅で再会した、由美、千代、栄子の女性3人。
年齢は書かれてませんが、20代後半から30歳前後だと思われます。
通学路だった道を歩きながら、懐かしさにふける3人。
突然由美が、神社の木の隙間に宝物を入れたブリキの箱を隠したのを思い出し探します。
錆び着いたブリキの箱を見つけ、蓋を開けてみると…..
なんと意識は大人のまま、子供の姿に変わってしまった3人。
それぞれが夢だと思い込みますが、姿だけでなく時代も子供の頃に戻ってます。
3人は通りがかったロバのパン屋さんの荷車に乗せてもらい、着いた先は由美の家。
弟のアキラも母もおばあちゃんも、子供姿の3人に普通に接してきます。
由美は子供の頃の母とおばあちゃんを見て泣き出し、千代と栄子に泣いたらおかしいとたしなめられます。
薪で炊くお風呂の準備をしながら、由美は火の温かさからこれは夢ではないと感じ出します。
柱時計が夕方6時を告げると千代と栄子は「同窓会が始まる時間だからこの世界から帰らなきゃ」言いますが、帰らないと駄々をこねる由美。
千代と栄子は結婚してますが、由美は独身です。
現在の由美の生活描写はありませんが、子供のままここへ残ると言い出す由美の気持ちは何となくですがわかります。
ブリキの箱の蓋を閉めれば元に戻る筈と、千代と栄子に抱えられるように家を出る由美。
そして蓋を閉めた3人は……
作中「ロバのパン屋」が出てきますが、私一度だけ実際にロバが牽く「ロバのパン屋」を見た事があります。
ロバなのかポニーなのか勿論子供なのでわかりませんが、3歳から5歳までの間くらいだったでしょうか。
いつもは車だったとおぼろげながら記憶してます。
「ロバのおじさんチンカラリン」というメロディーが聞こえてくると、「キタァァァーーーー」とテンションダダ上がりでしたよ。
普段は見ない、子供心をくすぐる菓子パンはとても魅力的でした。
といっても買ってもらった記憶は無いんですけどね。
たった一度だけ見たロバの記憶は鮮明です。
横にいた母が「今日はロバで来た」と言ったのも憶えてます。
昭和40年頃の子供にとって夢の国から来た馬車でした。
扉ページを除いて13ページの小品ですが、法月さん本当上手いですね。
「ロバのパン屋」の描写も含めて私に刺さった昭和ノスタルジー。
タイムスリップと大人のまま子供になった郷愁が、とてもいい感じに組み合わさった秀作です。
・別冊ビッグコミック NO.85 1990/平成2年4月1日発行
「少年の頃」
仕事に疲れたサラリーマンが、少しのんびりしたくなって少年時代を過ごした街へ来ます。
サラリーマンは子供の頃「泣き虫ヨッチ」というあだ名で呼ばれてました。
懐かしの駄菓子屋へ入ると「キヌちゃん」という年配の女性がやってきます。
「キヌちゃん」は「泣き虫ヨッチ」もお世話になった、近所の子供の面倒を見てた子供に好かれる女性です。
しかし、忙しい主婦に重宝がられたのも昔の話。
現在では余計な事をしないでくれと、疎ましがられてます。
年を取った「キヌちゃん」と、子供に戻ったかのように交流した「泣き虫ヨッチ」。
自分を取り戻して、大人の世界へ帰っていくべく電車に乗ります。
扉ページを除いて15ページ。
子供の頃にお世話になった女性との再会が、変わってしまった自分や時代の変化を受け入れ立ち直っていく。
読後感が心地いい短編です。
・『別冊ビッグコミック] NO.86 1990/平成2年7月1日発行
「ダイアリー」
主人公は中学1年の女の子、千絵。
町のよろず屋の娘で屋根の上が落ち着くという、以前紹介した「屋根の上のセッちゃん」と同じ様な設定です。
思春期の千絵は、年上の住み込み店員ミッちゃんの大人な振る舞いに少しだけ嫌悪感を抱いてます。
許されざる恋の後、駆け落ちしたミッちゃんを想ってちょっと大人になる千絵。
まさに法月ワールド。
大人の女性と自分を比較し、悩みながらも成長していく思春期の女の子の話です。
当時ゴルゴの別冊を読む読者層に受け入れられたのでしょうか。
扉ページを除いて全17ページです。
13.15.17ページと2ページずつ増えているのは何故だかわかりません。
別冊ゴルゴの法月さん、他にもあるんでしょうか。
あって欲しいですね。
このあたりの年代の別冊ゴルゴを見かけたら必ずチェックしていかねばなりません。
法月作品コンプリートまでの道程はあと少しの筈なんですが、まだまだ険しいですね。
では不完全ですが、ここまでで判明している法月さんの作品リストをお届けしておきます。
年 |
掲載誌 |
号 |
タイトル |
電子巻数 |
エピソード |
1978 |
12.25号 |
– |
– |
コミック大賞(佳作)受賞発表 |
|
1979 |
2.10号 |
1巻 |
第1話 |
||
4.10号 |
じいちゃんの声 |
– |
未収録 |
||
8.10号 |
婚礼 |
1巻 |
第2話 |
||
11.23増刊号 |
片耳のコンタ |
– |
未収録 |
||
12.10号 |
柱時計 |
1巻 |
第3話 |
||
1980 |
5.25号 |
はたおり |
1巻 |
第4話 |
|
8.25号 |
初産 |
1巻 |
第5話 |
||
9.23増刊号 |
盆の珍事 |
– |
未収録 |
||
11.10号 |
法事の帰り(2色扉) |
1巻 |
第6話 |
||
1981 |
3.10号 |
じいちゃんの肖像 |
1巻 |
第7話 |
|
5.25号 |
健さん |
2巻 |
第14話 |
||
7.25号 |
夏祭り |
2巻 |
第15話 |
||
9.23増刊号 |
白い手紙 |
– |
未収録 |
||
11.23増刊号 |
秋の色 |
3巻 |
第27話(最終話) |
||
1982 |
1.1増刊号 |
木枯らしのインバネス |
2巻 |
第16話 |
|
4.10号 |
春五百羅漢 |
2巻 |
第12話 |
||
5.23増刊号 |
菖蒲節句 |
– |
未収録 |
||
6.25号 |
団地の出来事 |
– |
未収録 |
||
8.25号 |
迎え火 |
– |
未収録 |
||
10.25号 |
かかし |
1巻 |
第8話 |
||
12.25号 |
ふるさと |
1巻 |
第9話 |
||
1983 |
4.10号 |
卒業アルバム |
2巻 |
第10話 |
|
5.25号 |
老松 |
– |
未収録 |
||
6.25号 |
パステル色の思い出 |
2巻 |
第11話 |
||
9.10号 |
風切り鎌 |
– |
未収録 |
||
1984 |
2.10号 |
結び目 |
2巻 |
第13話 |
|
4.25号 |
色隠し |
– |
未収録 |
||
6.25号 |
あいちゃん |
2巻 |
第17話 |
||
8.10号 |
帰省 |
– |
未収録 |
||
10.10号 |
赤い電球 |
2巻 |
第18話 |
||
12.10号 |
笹舟 |
– |
未収録 |
||
1985 |
2.10号 |
足の跡(2色4ページ) |
3巻 |
第19話 |
|
4.10号 |
さよならセーラー服 |
– |
未収録 |
||
6.25号 |
道しるべ |
– |
未収録 |
||
9.10号 |
パテーの映写機 |
3巻 |
第20話 |
||
12.25号 |
寄せ鍋 |
3巻 |
第21話 |
||
1986 |
4.10号 |
ハレー彗星 |
– |
未収録 |
|
7.25号 |
絵本屋さん |
3巻 |
第22話 |
||
12.10号 |
杉 |
3巻 |
第23話 |
||
1987 |
3.25号 |
バスが行く |
– |
未収録 |
|
6.10号 |
健さんの贈り物 |
– |
未収録 |
||
11.10号 |
嫁っこ |
3巻 |
第24話 |
||
1988 |
2.10号 |
冬の贈り物 |
– |
未収録 |
|
5.10号 |
家の灯 |
3巻 |
第25話 |
||
9月増刊号 |
ヤマメ |
3巻 |
第26話 |
||
別冊ビッグコミック |
No.77 |
ブリキの玉手箱 |
– |
– |
|
1990 |
別冊ビッグコミック |
No.85 |
少年の頃 |
– |
– |
別冊ビッグコミック |
No.86 |
ダイアリー |
『利平さんとこのおばあちゃん』は、電子版2巻の解説で全47話となってます。
この作品リストは45話。
あと2話ですが、掲載号も題名も判明してません。
『屋根の上のセッちゃん』
年 | 掲載誌 | 号 | タイトル |
1985 | 月刊あすか/ASUKA | 9月号 | 菊ちゃんのこと |
月刊あすか/ASUKA | 11月号 | 真珠の指輪 | |
月刊あすか/ASUKA | 12月号 | 冬のお祭り |
『気まぐれデイパック』
年 | 掲載誌 | 号 | タイトル |
1989 | ビッグコミック | 3.10 | 無題 |
ビッグコミック | 5.10 | 石仏の里 | |
ビッグコミック | 7.10 | 六月の夜に | |
ビッグコミック | 9.10 | さよならジロー | |
1990 | ビッグコミック | 4.25 | MTBに乗った貴婦人 |
『屋根の上のセッちゃん』は3話、『気まぐれデイパック』は5話で全てです。
その他の短編
年 | 掲載誌 | 号 | タイトル |
1986 | ビッグコミック | 5.23増刊号 | 10円屋の圭ちゃん |
1988 | ビッグコミック | 11.23増刊号 | ボックスシートで… |
別冊ビッグコミック | No.77 | ブリキの玉手箱 | |
1990 | 別冊ビッグコミック | No.85 | 少年の頃 |
別冊ビッグコミック | No.86 | ダイアリー |
短編はまだ未発掘がありそうです。
不完全リストで申し訳ありませんが、法月ファンの方に少しでもお役に立てれば幸いです。
法月理栄さんの記事、第12回でした。