法月理栄さんの紹介記事も第6回となりました。
▼第1回
▼第2回
▼第3回
▼第4回
▼第5回
『利平さんとこのおばあちゃん』の電子版に入ってない、未収録話を紹介しましょう。
ビッグコミック 昭和54年4月10日号 『じいちゃんの声』
第5回の記事で初掲載の『利平さんとこのおばあちゃん』を紹介しましたが、こちらは第2回目掲載です。
ざっくり内容を書くと「家出してきた少年をおしげさんが面倒を見て、ひと騒動あって」という話。
冒頭におしげさんの一日の始まりが描かれてます。
第1話の最後で「明日からミーコと一緒にのんびりやってくよ」のおしげさんの心の声通りの日常です。
じいちゃんが作った夫婦湯飲みも、ちゃんと使われてます。
開店の支度をしていると村の子供ではない男の子が店の前を通ります。
眉毛がじいちゃんにそっくりなこの男の子をじいちゃんに重ねるおしげさん。
何処の子かなど気にしないでご飯を食べさせたりして、ずっといてもいいというおしげさん。
村の人には親戚の子と言ってごまかしてます。
第2話です。じいちゃんが亡くなってまだそんなに経ってない時期だと思われます。
眉毛が似ているこの子をじいちゃんの生まれ変わりかもと思い始めるおしげさん。
村の子供とも仲良くなって一緒に遊び、泥で汚れて帰ってきた男の子。
そのまま夕飯にしますが、テレビをつけると公開捜査の番組が流れます。
画面には男の子の画像が映され「裕ちゃん帰ってきて」と泣く母親の姿が。
男の子の名前は「裕ちゃん」。教育熱心な母親が嫌になり家出をし、おしげさんの村にやってきたという訳です。
テレビを見た村の人が情報を入れたようで、おしげさんにテレビ局から電話が有ります。
それをごまかし、翌日山奥の炭焼き小屋へ裕ちゃんを隠したおしげさん。
しかし山崩れが起き、裕ちゃんは崖の途中の木につかまっている状態で発見されます。
そこへ裕ちゃんのお母さんが村へ到着。
おしげさんは崖の裕ちゃんを助けに行きます。
裕ちゃんの手を掴み崖の上に上がるまで、なんと死んだじいちゃんが語りかけておしげさんを助けます。
無事に裕ちゃんを助け母親と感動の再会。
それを見届けたおしげさんは静かに身を隠し、話は終わります。
見知らぬ子どもが村にきて家に帰りたくないと言う。
一晩くらいは泊めて面倒を見てもおしげさんなら何とかして親元へ返そうとするのでは、と思います。
しかし裕ちゃんの眉毛にじいちゃんを重ねたおしげさんは、じいちゃんの生まれ変わりではと考える。
そしてあんな母親の元へ返す訳にはいかないとゆうちゃんを隠す。
ちょっとらしくないかな、と感じます。
第2話はまだ「じいちゃんを引きずったおしげさん」が描かれていると言っていいでしょう。
第3話の「婚礼」(電子版第1巻第2話)ではじいちゃんには触れられてません。
1話でじいちゃんが死んでものんびり生きていくとしながらも、2話ではやっぱりまだじいちゃんを引きずっている。
しかし心で声を聞いたおしげさんは「じいちゃんはいつも見守っててくれただのぉ」と満足気な表情を最後に見せます。
3話ではじいちゃんが出ない、新たな話。
4話は法月理栄さん第2回目の記事で紹介した狐をめぐる話の「片耳のコンタ」(電子版未収録)。
そして5話ではじいちゃんの思い出の品をめぐる「柱時計」(電子版第1巻第3話)。
これは法月さんが意図しての構成なのかは不明ですが、かなりな効果だと思いますがどうでしょう。
じいちゃんが出る話と出ない話の組み合わせが上手く練られた展開だと感心します。
この2話でおしげさんちの食事の様子が描かれてます。
ここはかなり子供の頃を思い出しました。
台所で炊いたご飯を御ひつに入れて食べる場所へ置く。
旅館の食事では今も当り前ですよね。
私が子供の頃は電気式やガス式の炊飯器はありましたが、保温が出来なかったように記憶してます。
なのでおしげさんちの様に木で出来た物ではありませんが、金属製の御ひつに入った御飯を母親がよそってくれてました。
冬場はその御ひつが炬燵の中に入ってたのも憶えてます。
我が家だけだったのかも知れませんが、今思えば足を突っ込むところへ御飯を置くのもどうかと思いますがそれは昭和の話だったという事で。
遠い郷愁を思い出す昭和の描写もこの作品を読む楽しみの一つです。
ビッグコミック 昭和63年2月10日号 『冬の贈り物』
おしげさんと仲良しの芸術家の先生が、村から引っ越すとの噂が立ちます。
そしていなくなる先生。
実家へ帰っていると判明しますが、連絡も無しなのに立腹するおしげさん。
電話で話しますが、しばらくは実家にいることになると先生。
実は大きなアトリエに移ることになるかもしれないのはおしげさんには言えません。
着る物をとりあえず送って欲しいと頼まれたおしげさんは、自作の綿入れ袢纏と共に先生の衣類を送ります。
ここからおしげさんの本領発揮です。
あれもいるかも、これも送ってあげようと小さな小包を作っては先生に送ります。
ミカン、椎茸、干し柿、金山寺みそ。
そしてお茶の小包が届いたときに先生は「早く帰って来いということか」と、綿入れ袢纏の暖かさと共にそう感じて村へ帰ります。
おしげさんの店の前であえて袢纏に着替え、おしげさんが気付くまで店の中に入りません。
先生に気付いたおしげさんのとても嬉しそうな顔で終わります。
おしげさんと芸術家の先生の、何十歳も歳が離れていながらの友情です。
おしげさんは早く帰ってきて欲しいとは思わずに先生の為にと、せっせと荷を送ります。
片や先生は小刻みに届く小包からおしげさんの事を思い、村へ帰る。
とてもいい話で心打たれました。法月さんの話作りの上手さに感心しきりです。
この話の昭和を感じる描写は、おしげさんが最初に送る小包の箱で「スプーン1杯 アタッタ」と書かれてます。
これはいまも販売されている洗剤の事でしょう。
この洗剤が発売されたのを検索すると、1987(昭和62)年と出ました。
当時この洗剤の事を知らなかった私はアルバイト先での世間話で「バイオの効果で良く落ちる洗剤が売れている」と聞きます。
笑うなかれ、この頃「バイオ」と聞いてもそれが何か答えられる方はあまりいなかったと思います。
でも売れている。早速買ってみたのを憶えてます。
話題の商品を作品に出すのは『利平さんとこのおばあちゃん』第1回目の記事で紹介した「寄せ鍋」(電子版第3巻第21話)にも見られます。
でもこの「アタッタ」は話に関係なくただ描かれた可能性は高いですけどね。
そして巻末の読者コーナーには「ナマズ通信」という漫画家さんが近況を書く箇所があるのですが、この号は法月さんです。
自画像が可愛いですね。
こういうのを見ることが出来るのも当時の雑誌ならではです。
今回は受賞作として掲載された1話の次作という事で連載としては初話と言っていい『じいちゃんの声』と、そこから9年後に描かれた『冬の贈り物』を紹介しました。
またいずれ第7回を書きたいと思います。