法月さん第5回です。
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まずは『気まぐれデイパック』の4話と5話を紹介しましょう。
第4話 「さよならジロー」
桃子さんが里帰りする話です。
といっても桃子さんの故郷の村はもうすぐダム建設の為沈んでしまいます。
その前に、との思いで最後の帰郷です。
出発前、夫の源ちゃんとの会話で村に置いてきた飼い犬の話になります。
置いてきたと言っても家族が村を出る日に失踪し、いくら捜しても見つからなかった愛犬です。
名前はジロー。
ジローが生きていることを願って故郷へ到着した桃子さん。
住居は全て取り壊され、学校だけが残ってます。
校庭にテントを張って一夜を明かす桃子さんは夢でジローと再会します。
そして村で過ごした思い出が夢の中で甦ります。
朝になり、起きると服には動物の毛が。
ジローに違いない、夢じゃなかったんだと懸命にジローを探しますが見つかりません。
そして村を後にする桃子さんを見送るような野犬の遠吠えが響きます。
ジローは生きていると確信し、少し涙ぐみながら帰路に就く桃子さんで終わります。
文字通りの郷愁を誘い、夢なのか幻なのか不思議な展開も相まってとても優れた短編に仕上がっています。
第5話 「MTBに乗った貴婦人」
マウンテンバイクを購入した桃子さん。
早速源ちゃんへ愛妻弁当を届けに町の病院へ向かいます。
源ちゃんは不在でしたが、待合室には同じく源ちゃんを尋ねてきた謎の女性が。
源ちゃんは患者さんの付き添いで大学病院へ行っており、いつ戻ってくるのかわかりません。
何が何でも源ちゃんを待つと言い張る女性を村の自分の家へ連れていく桃子さん。
桃子さんはマウンテンバイクで、女性は自分の車で村までの山道をえっちらと進みます。
桃子さん宅で女性は以前睡眠薬自殺を図り、処置に当たった源ちゃんの応対に心が救われたと言います。
しかし諸々の事情でまたも自殺願望が湧いてきて、源ちゃんにすがりに来たと告白します。
その源ちゃんは家路の途中の坂道で車ごと転落して怪我をしますが、女性が応急処置をして車で勤務先の病院へ。
源ちゃんのけがは大したことは無かったのですが、謎の女性は姿を消します。
後日源ちゃんと桃子さんのもとへ女性からの手紙が届き、これからはしたたかに生きていけそうで自殺志願は辞めたと書かれてます。
これマウンテンバイクが伏線となっており、最後に回収されるという素晴らしい話です。
4話には無かった村や村人たちの描写もあります。
また不安な展開から安心する結末までの構成は実にさりげなく進んで、本当法月さん上手いですね。
『気まぐれデイパック』はこの5話で終了です。
もっと桃子さん、源ちゃん、村の人々、病院の方々、いろんな話が読みたいところですがこれは残念ながら受け入れざるを得ません。
どこかで1989年と1990年のビッグコミックを見かけたら表紙を気にしてみてください。
『気まぐれデイパック』が収録された号かもしれませんよ。
さて『利平さんとこのおばあちゃん』ですがコンプリートまでもう一息です。
今回は最近入手できた、法月さんデビュー当時の号をお届けします。
第3回小学館新人コミック大賞 入賞者決まる!!
法月さん佳作受賞発表の記念すべき号です。
法月さんのコメントも載ってて、手に入れた時は嬉しかったですね。
なんと「たがみよしひさ」さんと「石渡治」さんも受賞されてます。
こういうのを発見するのが古い雑誌を読み込む大きな楽しみです。
ちばてつやさんの選評に、「ラストの4ページは不要ではないだろうか」とあります。
この1話だけであれば、確かにその前のページで終わってもおかしくはないでしょう。
しかし『利平さんとこのおばあちゃん』はこの1話では終わらずに、10年もの間続きます。
その続きを読んだ後だから言えることですが、1話最後のコマのセリフ。
「また明日からミーコと一緒にのんびりやってくョ じいちゃん……」
のんびりと、でも逞しく、そして楽しくじいちゃん亡き後を生きていくおしげさん。
このセリフがこの後の40数話すべてに繋がっていると思いますがどうでしょうか。
『利平さんとこのおばあちゃん』初掲載号です。
電子版の試し読みで初めて読んで以来、紙でも読みたいとずっと思ってました。
ようやく念願が叶いましたが、やっぱり紙で読むとなんかじんわりきますね。
まあこれはいつまでもアナログから抜け出せない年寄りの独り言と思ってください。
読者投稿ページに『利平さんとこのおばあちゃん』第1話の感想が掲載されてます。
リアルタイムで読んだ方の感情と同じ気持ちを、40年以上たって復刊された物を読んだ私や他の法月ファンの方が抱く。
何とも不思議な漫画です。
まだ未読の方、電子版の試し読みからお読みなってはいかがでしょうか。
今回はここまでにします。
『利平さんとこのおばあちゃん』未収録話の紹介はまたいずれ。