法月理栄さん第3回 不変の法月ワールドに感涙。埋もれた珠玉の短編を発掘しました「10円屋の圭ちゃん」「ボックスシートで…」

法月理栄さん第3回 不変の法月ワールドに感涙。埋もれた珠玉の短編を発掘しました「10円屋の圭ちゃん」「ボックスシートで…」

 

法月理栄さんの作品を紹介する第3回です。

▼第1回

 

▼第2回

 

今回は『利平さんとこのおばあちゃん』の連載中に掲載された二つの短編を発掘したのでご紹介します。

 

「10円屋の圭ちゃん」(『ビッグコミック』昭和61年5月23日増刊号掲載 全20ページ)

『ビッグコミック』(小学館)昭和61年5月23日増刊号より

表題の「10円屋」とは子供たちがそう呼ぶ駄菓子屋の事です。

最初のコマに「ここではまだ10円で買えるお菓子がある」と書かれ、次のコマのセリフから作中の時代は昭和61年そのままと思われます。

昭和61年当時10円で買えるお菓子がある駄菓子屋が舞台の話かと思いきや、読み始めの予想は大きく裏切られます。

この駄菓子屋を切り盛りしていたおばあさんはお店を止めるつもりでしたが、孫嫁(作中の表現です)の圭ちゃんが元気よく子供たちの相手をして営業を継続。

店にいた良ちゃんの元気がない理由が、翌日の授業参観に母親が来ない事が確実な為と知ります。

『ビッグコミック』(小学館)昭和61年5月23日増刊号より

作中で良ちゃんの家庭については詳しく描かれてませんが、事情を知った圭ちゃんは代わりに行ってあげようかと提案し喜ぶ良ちゃん。

当日の朝、洋服選びに悩みながらも張り切って学校へ行く圭ちゃん。

ここで描かれた圭ちゃんとコマ内の「ワッセ、ワッセ」が実にいいんですよ。

勇んで学校へ乗り込む姿をさらっと挟み、後の展開にちょっとしたスパイスの様に効いてきます。

法月さん流石です、と唸りましたがただの深読みかもしれませんね。

ここまで読んで他人が親代わりになって参加するのはいいのかな、とちょっと思いましたがそんな読者の懸念を察する様に他のお母さま方がちょっとした嫌味を言います。

圭ちゃんも読んでいる私も少し嫌な気分になりますが、すぐ後に嬉しそうな良ちゃんの笑顔に救われて先へ進みます。

授業が始まり、教壇に立つ年配の女性教諭を見た圭ちゃんの回想から大きく話が動きます。

『ビッグコミック』(小学館)昭和61年5月23日増刊号より

小学校時代の圭ちゃんと同級生たち。

そして若き日の女性教諭。

回想から元の授業参観の場面に戻り、涙を誘う展開へ。

その後他のお母さま方とも打ち解けて、最後は圭ちゃんをからかう良ちゃんとの帰り道で終ります。

もうね、泣かされましたよ。上手すぎです。

私自身の授業参観の記憶が蘇るなんて何十年ぶりかわからないくらいです。

それだけでなく遠い昔となった小学校時代の思い出が、良い物も嫌な物も一緒になってとめどなく湧いてきて歳も歳だし早めの走馬灯かと考えてしまいました。

おしげさんも村も出て来ない町が舞台ですが『利平さんとこのおばあちゃん』と変わらない、癒されて泣かされてほっこりする物語。

『三丁目の夕日』が昭和30年代を舞台にしているならこの「10円屋の圭ちゃん」は「6丁目の夕日」と呼びたいですね。

これぞ法月ワールドと言っていい読む者の気持ちを上手に包み込んでくれる、とてもとてもいい短編です。

 

「ボックスシートで…」(『ビッグコミック』昭和63年11月23日増刊号掲載 全12ページ)

『ビッグコミック』(小学館)昭和63年11月23日増刊号より

実家から東京へ戻る女性。

ボックスシートに座りますがウトウトして目覚めると向かいに男性、自分の隣に女の子が。

男性の子供だと思いますが、男性は僕の子供じゃないと否定します。

この女の子を交えて小さなボックスシートの中でちょっとした出来事が。

『ビッグコミック』(小学館)昭和61年5月23日増刊号より

そして女性も男性も眠ってしまいますが、目覚めると女の子はいなくなってます。

終点に着くと二人はそれぞれ逆方向へ向かいますが、なんか別れがたい雰囲気になります。

でもそれはそれで名残惜しいと思いながらもどちらも既婚者なので、さようならします。

『ビッグコミック』(小学館)昭和61年5月23日増刊号より

そして最後の12ページ目。

謎の女の子が更に謎を深めて描かれ、終わります。

女の子の正体は明かされません。短いちょっと摩訶不思議な物語。

いいんですよ、この短編。法月さんの新境地と言っては大げさかもしれませんが『利平さんとこのおばあちゃん』とは違った世界。

これはシリーズ化して欲しかったですね。

色んな場所へ出没する謎の女の子が巻き起こす小さな出来事。

それは人と人との触れ合いをさらに深める為の様に見えて、実は女の子の悪戯なのかお節介なのか。

最早叶わぬ願いですが他の話があればと思わざるを得ません。

個人的に大井川鉄道が舞台なのが嬉しいですね。

法月さんは静岡の方なので当然といえば当然でしょう。

還暦の前年、59歳の誕生日にお祝いとして生きているうちに乗らなければと大井川鉄道を往復しました。もちろんボッチ旅です。

こういうのは一人でしょう、オタクなら。

SLは運行休止で、電気機関車がけん引です。

でも目的は旧型客車という車両に乗る事なので問題ありません。

私事ですいませんが、旧型客車には子供の頃の思いがとても詰まっているのですよ。

20歳の時に乗って以来40年ぶり、車両を目の前にして涙ぐみました。

ちょうど『ゆるキャン△』の第10巻が発売された直後で、その舞台探訪も兼ねての旅行です。

千頭駅前で売られていた、なでしこがよだれを垂らす豚串しの美味しかった事。

話がそれました、すいません。

国鉄時代を中心に昔の鉄道の話も何かの作品に絡めていずれ語りたいですね。

さて「ボックスシートで…」の女性の出発は家山駅です。

そして二人が別れるのが終点金谷駅。

調べましたら所要時間は32分です。

ただ現在の時刻表なので当時はどれくらいかはわかりません。

でもそんなに大差ないと思います。

30分ちょっとの間に起こる不思議な出来事。

たった12ページですが光り輝くとてもいい短編です。

 

では第4回目を楽しみにお待ちください。

「利平さんとこのおばあちゃん」の未収録話、結構集まってます。

何を紹介するか迷って決められないくらい優れた話ばかりですよ。

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