西岸良平はノスタルジーだけの作家ではない—初期短編集『地球最後の日』のドライな切れ味

西岸良平はノスタルジーだけの作家ではない—初期短編集『地球最後の日』のドライな切れ味

 西岸良平という漫画家がいます。きちんと読んだことがないという人でも、『三丁目の夕日』という作品(映画化もされましたね)と、その独特な絵柄はご存知なことでしょう。この代表作ゆえに、彼の作家性を「ほのぼの」「ノスタルジー」という具合で捉えている方は多いかと思います。しかし他の作品、特に今回紹介する初期短編集『地球最後の日』などを読むと、その印象は大きく変わります。西岸は決してノスタルジーだけの作家ではないのです。

 本書は1978年初版、「地球最後の日」「ミイラの論理」「番茶キノコ健康法」「死神」「街あかり」「海底人8823」「伝言」「ラーメンの味」「勝利者」「数学」「ダンディ」「スター」「雨」「うなぎ」「ゆきつり初雪」「赤い灯青い灯」「終りなき悪夢」「恐怖の雪男」「全自動人類屠殺機」(後の版では「全自動人類抹殺機」に改題)「刑事物語」「義経伝説」「犬たちの午後」「少年記」と、短いもので5ページ、長くても16ページほどの読切が23本入った短編集です。これだけ入っていると作品の方向性も色々で、「ゆきつり初雪」「少年記」などは西岸の一般的なイメージに近い、ノスタルジックな味わいの佳品です。が、その他の作品のいくつかは、西岸に先入観を持っていると驚くほどにドライでニヒリズムにあふれているのです。

 例えば表題作「地球最後の日」。タイトルからして不穏ですが、中も本当にその通りの内容です。本作の主人公・本田健(これは西岸作品でしばしば使われる主人公の名前で、星新一作品における「エヌ氏」のようなものです)はごくごく普通のサラリーマンでしたが、ある時突然、銀河連盟の代表者から「地球は悪の巣窟なので抹殺することが決定した。最後のチャンスとして、君に超能力を与えたので、一ヶ月以内に悪という悪を葬ってみせろ」と指令を受けてしまいます。会社を辞め、恋人とも別れて、地球を救うために立ち上がった彼ですが、与えられた超能力というのが、マッチ棒を一本動かせる程度のショボいテレキネシスのみということが判明。それでも諦めずに不眠不休で一ヶ月頑張ってみた彼でしたが、当然、地球はおろか町内の悪さえ殲滅することはできません。そして、公園の小鳥たちを見ては「お前達もまきぞえで全滅するんだなあ…… ごめんよ 助けてあげられなくて……」と涙を流し、地球はスッと滅びて終わります(終わりまでのネタバレですが、タイトルでバラしてる作品なので堪忍して下さい)。とてもドライ。

『地球最後の日』16ページより

 あるいは「全自動人類屠殺機」。これもタイトルだけで凄い(というか不適当な言葉ですが、本稿では発表当時のママで記します)ですが、中身も凄い。本作での本田健は「人生に意味も価値も存在しないのさ…」「すべては無にはじまり無に帰する あらゆる努力も情熱も水の流れに浮かぶ泡のようにただ空しいのさ…」「タバコを吸いすぎると肺ガンになるっていうから吸ってるのに…… ちっともならねえなぁ…… やはり自殺しかないか……」とのたまうような徹底したニヒリストです。

『地球最後の日』180〜181ページより

 そんな彼が、たまたま見つけたアルバイトで、人類抹殺装置を完成させようとしているマッドサイエンティストの助手をすることになり……というのが概ねのストーリー。これに関してはラストまでバラすことは避けますが、上記の引用だけでそのニヒリズムっぷりは十分伝わるかと思います。

 本書の中で個人的に一番推す作品は「死神」。本作での本田健は、幼少期からひたすら良いことなしの人生が続いていたが、それでも明日への希望を捨てずに真面目にがんばってきた青年です。そんな彼が家に帰ると、知らないおっさんが部屋におり、「自分は死神で、君は今晩12時にポックリ病で死ぬことになっている」とショッキングなことを告げられてしまいます。いくらなんでもあんまりだと嘆き暴れる本田を、死神は「死後の世界はそんな悪いとこじゃない。酒はうまいし恋人もできる」と「帰って来たヨッパライ」の一節みたいなことを言ってなだめ、12時まではまだ間があるから酒でも飲みながら時間を潰そうと二人で最後の晩酌をはじめますが……というストーリー。これについてもラストの詳述は避けますが、キリッとドライな読み口の終わり方で痺れます。

『地球最後の日』54ページより

 西岸良平は他にも、ビターな味わいのSF『ミステリアン』や、西岸版『笑ゥせぇるすまん』的な趣の『ポーラーレディ』など、マイナー目の作品群に傑作が多いです。残念ながらどれも絶版&電書化されていない(2021年3月現在)のが難ですが、古本屋では比較的目にしますので、見かけたら手にとってみるとよいかと思います。作者を見る目が変わること請け合いですよ。

 

記事へのコメント
すいません、最後の段落勘違いで、『西岸良平名作集』という形で電書化はされてました(ただ一つ一つの巻がもともとの単行本と対応するわけではなく、いくつかの短編集からシャッフルする形で収録されています)。

すいません、最後の段落勘違いで、『西岸良平名作集』という形で電書化はされてました(ただ一つ一つの巻がもともとの単行本と対応するわけではなく、いくつかの短編集からシャッフルする形で収録されています)。

@V林田

なんとご本人から・・・!情報ありがとうございます!
全5巻で1冊550円はありがたい・・・早速買ってみようとおもいます。

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