今回紹介するのは、前回の『新やる気まんまん 警視庁SEX捜査官』の記事でも名前を少し出した、倉科遼+みね武『艶恋師(いろこいし)』です。連載は00年代後半の『漫画サンデー』。原作の倉科は『夜王』などの作品で知られる「ネオン漫画の帝王」、作画のみねは70年代から青年漫画で活躍しており、金と女が大好きで「糞蝿」と自認する(世の中の糞野郎どもにタカって生きているので)私立探偵を主人公としたバイオレンス・アクション『野獣警察』などで知られます(基本的に作画専門の人なのであまり作家性とかが語られませんが)。
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本作の主人公・神楽坂菊之介は、ポニーテールに着流し姿で花街・神楽坂を闊歩する男。芸者の私生児として産み落とされた後に母親が死亡し、この街の芸者たちの手で育てられたという生い立ちを持っています。
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で、この菊之介の表の顔は三味線と都々逸の師匠ですが、裏の顔が「性のことで悩む女性を秘伝の性技で救う」という「竿師」なんですね。まあ要するに、「登場人物全員がセックス大好きなアーパーというわけではない『男!日本海』」という感じの作品です。なので、序盤のうちはちょっとパンチが足りないところがあります。
本作に独特のグルーヴ感が出てくるのは単行本1巻後半〜2巻あたりから。菊之介はプロの竿師として、乳房を中心に卍状に舌で愛撫する「秘技・卍責め」や四十八の体位といった技を駆使(八寸胴返しのデカさ一本で勝負してた日本海との差も感じますね)するのですが、四十八の体位のうち「後向女性仰臥男性座位”きぬた”」を、読者からの評判がよかったのかフィニッシュホールドとするようになり、激しくブレたり異次元のような背景を背負ったりしつつ、気に入ったLINEスタンプのごとく多用します。このように……。
菊之介の偽物が登場する回もあったりするのですが、偽物が菊之介のフンドシ姿(菊之介曰く、祭の際にフンドシ姿で気合を入れるように、フンドシはセックスにかける気合の表れだそうです)を見て「フンドシ! 俺はブリーフ…… 外見だけ真似してたってことか……」と「いや、フンドシも外見のうちだろ……」としか言えないショックを受けているのも味があります。
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そして単行本3巻になると、「性のことで悩む女性」のネタも尽きてきたのか、「HAHAHA! 日本のセックス低レベルデース!」とばかりに日本のAV界を潰そうとする刺客・アメリカ一のポルノ女優ローズマリーがアメリカからやってきて、セックスファイト展開となります(『新やる気まんまん 警視庁SEX捜査官』の記事でも書いた通り、こういう漫画の系譜は連綿とあるのです……)。
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これに対し、「アメリカのセックスは挿入し放出する、させることだけの大味なものと聞く……」と偏見100%のことを思いながら立ち向かう菊之介。
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もちろん、最後は「きぬた」でフィニッシュです。アヒィ〜〜〜ッ!!
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こうしてローズマリーをメロメロにさせた菊之介の下へ、アメリカでローズマリーとポルノ業界最強タッグを組んでいた男優・ハルクも来日。「日本人は陰陽道とか忍術とか怪しい術を使うというが」と菊之介と同レベルの偏見を言いつつまたもやセックスファイトとなります。
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もちろんこの勝負も、最後は「きぬた」でフィニッシュです。アヒィ〜〜〜ッ!
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かように「きぬた」は無敵なのです。ただ、かつて筆者が大学サークルの後輩たちに本作を勧めていたところ、頼んでもいないのに「彼女相手に試したら『秘技・卍責め』は効果がありました! でも『きぬた』は男のケツが顔の前に来るので萎えるそうです!」と報告があったので、みなさんは「きぬた」より「秘技・卍責め」か「ゴールデンソニック」(ゴールデンソニックのやり方については『新やる気まんまん 警視庁SEX捜査官』を読んでください)あたりの修行に励むのがよいでしょう。あと、あらゆる方法でペニスを鍛えるのも忘れてはいけません。
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しかし、そんな菊之介の不敗神話も、中国四千年の歴史の前に崩れる日が来ます。
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なんでも、中国・雲南省の奥地には「性倫寺」という密教の寺があり、そこでは性の修行が積まれているのだそうです。具体的には、一喝とともにペニスで滝を割ったりします。
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もう完全にセックス捜査官養成所だよこれ! あと「中国四千年の歴史の中で表舞台に出ることなく(こんな邪教集団に表へ出てこられても困りますが……)密かに守られ伝承され続けた」と設定が雑なのも素敵ですね。四千年前、釈迦まだ生まれてないと思うが……? そして菊之介は、鍛え上げろよオーラパワーと気の修行を積み、相手に全く触れずに感じさせることができるという『A女E女』みてえな技「龍気功」を習得するのです。
こんな本作、恐るべきことにグッズがあります。性倫寺での修行で性の世界はまだまだ広いと気付いた菊之介が神楽坂を離れて修行のために全国を放浪するという続編『艶恋師 放浪編』の1巻に、帯についてる応募券をはがきに貼って応募すると、抽選で20名様だったかに「きぬた」をデザインした艶恋師Tシャツが当たるという読者プレゼント企画があったのです。
そんなのに応募するバカがいたのかって?
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ご丁寧に「必ず(!)ご活用くださいませ」(原文ママ)と書かれた案内がついていたものの、着て外を歩くとそれだけで公然わいせつ認定されても弁解できないのでおいそれと活用できないこのTシャツのプレゼントに応募したバカ、居たらぜひコメント欄に名乗り出てください。この広い宇宙の中できぬTプレゼントに応募したクソバカが俺一人だと思うと、あまりにも孤独だから……サ。