前編はこちら
なお、あまりに長期連載である『天牌』については展開のネタバレが幾つかありますので、その点のみご注意ください。
——『麻雀時代』とかは雑誌が潰れて、『てっぺん』『幻に賭けろ』と90年代前半まではずっと麻雀が多かったですよね。同時に、日本文芸社の方でも『はぐれT.C.』とか『さわがせ屋』とか色々やられてますね。
嶺岸 『さわがせ屋』とか久々に名前聞きましたね。やってましたね。
——ちょっと今のイメージとは違うコメディっぽい感じだったりして。
嶺岸 あれは『別冊ゴラク』ですね。そもそも青柳先生のところにいた時に編集者の方がよく来てたんです。日本文芸社でも小学館の『ビッグゴールド』みたいなやつ……。
——『カスタムコミック』(注23:79〜82年。『ビッグゴールド』(78〜85、92〜99年)とともに、大御所作家を揃えた豪華執筆陣の雑誌)ですかね。
嶺岸 あーそれです。原稿依頼で来てて、なんかよくスタッフとかを一緒に連れて飲みにも行ってて。だから初めて原稿を持ち込みしたのは日本文芸社なんです。まあその時は何にもならなかったですけど。持ち込みしたのは3箇所あるんですよね。日本文芸社と双葉社、最後に持ち込んだのは秋田書店。全部仕事してるんですよ。だからとりあえずいいかって(笑)
編集A すごい選球眼ですね(笑)
嶺岸 それで日本文芸社で『別冊ゴラク』での仕事をやるようになったんですけど、当時は『別冊』のすぐ隣に『ゴラク』本誌があると思ってたんですよ。行けるんじゃないかと。そしたら違ったな(笑)。そことは全然繋がらなかった。
編集A あの頃はそうですね、別物だったみたいですね。
嶺岸 今は一緒にやってるみたいな感じになるんでしょ。
編集A 若干昔に戻りましたね。一時期はすごいごっちゃになってた感じですけど。
嶺岸 同じ日本文芸社ですぐ隣と思ってたら遠かったな(笑)
——日本文芸社では荒尾和彦さん(注24:84年に小説家デビューし、その後は漫画原作も多く執筆。嶺岸氏とは『ドラゴン』『カメラマン物語』で組んでいます)とか梶研吾さん(注25:1961〜。87年に原作者としてデビュー後、『そば屋幻庵』など作品多数。嶺岸氏とは『ボケミアン』で組んでいます)とかいろんな原作者さんと組んでますよね。『ドラゴン』とか。
嶺岸 あーそうだ、『ドラゴン』。それは荒尾さんですよね。その後はどっちかというとリイド社の方に行ったんですよね。
——それで『女医レイカ』ですね。
嶺岸 その頃にちょっと、「麻雀だけでいいのかな?」って気持ちがあったんですね。原作もらってやってる立場なのでわがままはそんなないんですし、麻雀だけでも悪いわけじゃないんですけど、ちょっと思っちゃったんですよね。
——それで一時期麻雀漫画から離れたっていうのは、狩撫麻礼さんの追悼本(『漫画原作者・狩撫麻礼 1979-2018 《そうだ、起ち上がれ!! GET UP . STAND UP!!》』)でのインタビューでも仰ってましたね。
嶺岸 そんなタイミングの時に双葉社の人から声かかって、それで『オールド・ボーイ』やることになるんです。
——もともと狩撫さんの大ファンだったとか。
嶺岸 だから「やってみないか」っていう話になった時には嬉しかったですね。
——先程のインタビューでは弘兼憲史さん作画の『エイント・チャウ』(注25:『漫画ギャング』(双葉社)79〜80年連載。狩撫氏にとっては『けものへん』に次ぐ2作目の連載作品、弘兼氏にとってはまだ『島耕作』も『人間交差点』も『ハロー張りネズミ』も始まっていないころという、両者ともにキャリア初期の作品)の話にも触れてましたけれども、たなか亜希夫さん作画ということでやっぱり『迷走王ボーダー』とかもお好きだったんでしょうか。
嶺岸 そうですね。でも一番好きだったのはどれかって言ったら、やっぱりかわぐちさんが作画の『ハード&ルーズ』になりますかね。
——あれは本当にかっこいいですね。
嶺岸 かわぐちさん、シリアスもコミカルもうまいこと描くじゃないですか。あと弘兼憲史さんの『エイント・チャウ』はラストがすごいいいんですよ。あれね、本当「こんなかっこいい漫画のラストってあるかな」って感じで。何時だったかな、新宿の中央線最終電車で「新宿の夜景を見ながら行ける『遠く』」に行くって。本当に感動した。本編の内容覚えてないぐらい(笑)
——あの最後の狩撫・弘兼のあとがきみたいな対談も、なんかもうすごいクサイぐらいで。
嶺岸 あーそうそうそう。「行くか 新宿へ…」「行き先は」「もちろんゴールデン街…」って。
——狩撫さんは『オールド・ボーイ』の打ち合わせ時に、主人公がシャッターに叩きつけられるシーンを「こうやるんだ」って狩撫さんが実演したという話ですけど。
嶺岸 その時の担当さんと狩撫さんと東急ホテルかなんかの部屋取って、キャラを作ろうって打ち合わせしたんですよ。俺が最初に描いたのだと狩撫さんがちょっと納得しなかったんだよね。二枚目じゃなくていいんだって。俺、それまで目が大きくてキリッとしたいい男が主人公だっていう既成概念があって、そうじゃないものを作れるようになったのは狩撫さんとの仕事のおかげですね。それでちょっと荒削りなむさ苦しい男をホテルで描いて、その帰りかなんかの話だったと思う。
——センター街で実演してみせてヒヤヒヤしたと。
嶺岸 狩撫さんと最初に会ったのはどこかのパーティーで、広いところでカラオケみんなやりながら飲んでて、狩撫さんがそこで歌ってるところに遭遇したんです。それがかっこよすぎて。内山田洋とクール・ファイブの「そして、神戸」っていう歌が……あ、これ前のインタビューでも言ってたっけ。俺すぐ喋るね。ネタがない(笑)
——いやいや、やはりそれほど心に残ったエピソードってことで。
嶺岸 昔の狩撫麻礼のあの頭とサングラスで歌ってたのがすごい印象的で。歌を聞いて感動して涙が出そうになった。その後言ってましたよ、「俺プロだから」って。そういうこと平気で言う人だった。
編集A さすがですね。
——そういう出会いがあった二人が『オールド・ボーイ』のラストに繋がってるというのも、ちょっと伏線回収みたいな感じになって出来過ぎなくらいの話ですよね。
嶺岸 歌を聞いたのは本当にデビューして間もない頃だから、もう40年ぐらい前。
——『オールド・ボーイ』の映画がカンヌ取った時は生中継でご覧になってたんですよね。
嶺岸 WOWOWかなんか忘れたけど、深夜にテレビたまたま見てたらそれで。深夜に狩撫さんに電話しましたよ。狩撫さんが「どうした」って絞り出すような声で(笑)
編集A 狩撫さんも伝説的な人ですよね。仲良くなれたのは嶺岸さんだけじゃないかっていうウワサもチラホラ(笑)(注26:『迷走王ボーダー』の中で、当時交流のあった関川夏央・いしかわじゅんをこき下ろした回(単行本未収録)があり、両者からの抗議を受けて謝罪するも、狩撫が死去するまで絶縁が続くことになった話などが有名)
嶺岸 あっ、そうなんだ。
——狩撫さんだけじゃなく、色んな方が嶺岸さんを褒めてらっしゃいますもんね。麻雀漫画界でも誰からも好かれる人格者って言ったら、1人は片山まさゆきさんで、もう1人は嶺岸さんっていう感じですよ。まあ麻雀界はすぐケンカする人ばっかりっていうのもあるんですけれど(笑)
嶺岸 片山さんは同級生ですよ。同い年です。
編集A 最近そこに志名坂高次さんが加わって。
嶺岸 志名坂さんも穏やかな人ですよね。
——来賀さんも、別の方が行ったインタビューで、嶺岸さんのことは「もう素晴らしい人としか言えない」って仰ってましたからね。
編集A 来賀さんとケンカしてなかったっていうのも、もうすごいことじゃないかと……(笑)(注27:インタビューで「僕は色々と麻雀に関しては衝突ばかりしてきたからなぁ。本当に反省だよね」と自ら語っているほどで、『月刊プロ麻雀』誌上で「今の麻雀プロはほとんどが詐欺師だ」と批判を書き、すべてのプロ団体から出禁になった話などが有名)
嶺岸 多分秘訣はね、あんまり会わない(笑)。でも本当に長いですよね。来賀さんとデビューからずっとで、変な話ですけど最後まで。いなくなってからもう2年だもんね。
——あと『オールド・ボーイ』の時は、狩撫さんがゴルフを好きじゃないからというのでゴルフをやめていたそうですが、ゴルフはいつ頃からやられていた感じでしょうか。
嶺岸 もともとはビリヤードが好きだったんです。
——あ、そうですね。来賀さんも、嶺岸さんは麻雀もできるゴルフもできるビリヤードもできる、ものすごいバイタリティのある方だって仰ってました。
嶺岸 一人で突きに行くんですよ。でも、もっとうまくなるためにはもっと練習時間を増やさなきゃいけないと思って、それは無理だろうって(笑)。その頃に今度はゴルフと出会うわけなんです。そしたらゴルフの方が面白くなっちゃって。
編集A 誰かに誘われて行ったんですか。
嶺岸 きっかけとしては、井上(紀良)さんが雁屋哲さんの原作で『男は天兵』連載してたときにアシスタントやってたんですけど、2人でよく飲みに行ってた「アルバトロス」ってパブがあって、そこのマスター、そのころからずっと付き合ってるんですけど、その人にゴルフ連れてってもらったんです。飲んで、店終わって朝方にゴルフ行くんです(笑)。そこから千葉県に。今でもフェリーありますよね。
——あの久里浜から金谷までの東京湾フェリー。今でもフェリー乗ると、ゴルフのお客さんすごい多いですね。(注28:三浦半島から房総半島まで東京湾を横断する唯一のフェリー。船内にゴルフバッグ置き場があるくらい房総のゴルフ場へ行く客が多い)
嶺岸 そうそう。あの辺の内房の方でゴルフやって。マスターが面白い人で、車に俺らを乗っけて行く前に、近くにあるスナックかなんかの前の自販機のアイスクリームをわざわざ買うんだよ。俺らにくれて、それ食べながら行くんだけど、なんでそこで買うかっていうと、別れた前の奥さんがやってるスナックだから、伝えてはないけど出かける時はここで買ってあげるんだよって。なんかいい話だなって。
編集A 嶺岸さんが好きそうな話ですね、それ。
嶺岸 それでゴルフ覚えましたね。あと、学研の『パーゴルフ』って雑誌があるんですけど、昔は『コミックパーゴルフ』があったんですよね。漫画家のいけうち誠一さん(注29:1947〜。白土三平のアシスタントを経てデビュー。80年代以降はゴルフ漫画作品が非常に多い。70年代には「打者をガンにする魔球・病魔球」が登場することでマニアに知られる『あらしのエース』などの作品もあり)が「バレンタインカップ」っていうコンペを、『コミックパーゴルフ』の編集さんなんかとその辺りのタイミングで立ち上げて、その後ずっと、3年ぐらい前までやってたんですよ。それなんかに参加させてもらったり、仲間内で麻雀とゴルフをセットでやったり。麻雀やって、泊まって酒飲んでそのままゴルフみたいなのをよくやってました。
——そういえばお名前なんですけれども、読みは基本「しんめい」だと思うんですけれども、「のぶあき」と振られてることもあると思いますが。狩撫さんの追悼本でも「Nobuaki/sinmei」って併記されてたりしますし。
嶺岸 それね、あんまりこだわりなかったんで、『オールド・ボーイ』は最初海外で出した時に「のぶあき」ってなっちゃってて、どこかで「しんめい」にしてるんですよ確か。
——あ、なるほど。
嶺岸 自分としては「しんめい」の方なんで、サインとかは「S」って入れてますね。古い話なんですけど、高知にアシスタントでいた時に、俺「しんちゃん」と呼ばれてたんですよ。青柳先生が名前見て「『信用金庫』じゃなくて『信用できん子』だから『しんちゃん』」って。それで「しん」とか「しんちゃん」って呼ばれて。まあ「しんちゃん」って呼ぶ人は少ないんですよ。ゴルフ教えてくれたアルバトロスのマスターとか、最近会ってないですけど剣名舞さんとか。
編集A 来賀さんも「しんちゃん」とは呼んでなかったですもんね。
嶺岸 来賀さんは「嶺岸さん」か「嶺岸くん」だし。最近は「みねちゃん」も多いかな。まあ「のぶあき」より「しんめい」の方がかっこいい感じかなって(笑)。北野英明さんみたいな。
——北野さんも基本「えいめい」だと思うんですけど、ものによっては「ひであき」だったりしますね。昔はなんかその辺が曖昧ですが、北野さん本人に連絡が取れないから聞けないんですよ。
嶺岸 完全に行方不明なんですか。
——2000年くらいに歌舞伎町の雀荘でお茶汲みをしてたってことまでは来賀さんとか土井さんから聞いてるんで多分間違いないんですけど、その雀荘ももうないですし。
——安部譲二さん原作の『紅蓮』の話も。万年東一っていう実在のモデルがいて、麻雀ものというよりヤクザものの色が強い話ですが、これVシネマ化された時に特別出演されてますよね。桜井章一さんも出て、嶺岸さんも出て。
嶺岸 すごいですよねあれ(笑)。安部さんも出て。場所は東神奈川の海の方の、よくロケに使われる、セットで作ったようなバーが3軒くらい並んでるところがあって。(注30:https://www.google.com/maps/@35.472662,139.6412678,3a,53.5y,216.99h,87.85t/data=!3m6!1e1!3m4!1sokfF7SoSoGFuwtcKbAx0tA!2e0!7i16384!8i8192?authuser=0&entry=ttu)「女々しくて」のロケ地。恥ずかしいですね(笑)。向こうで芝居やってる時に、反対側のカウンターに座って飲んでるだけの客の役なんだけど、隣の客をやってる役者さんは話しかけてくるんですよね。セリフとして台本にあるわけじゃないんですけど、「何だよあいつら」みたいに。どうすればいいのってなっちゃった(笑)。客だってまあ何か起こったら喋るってのがあるわけですけど、こっちはド素人だから「何言い出すの!?」って思ってさ(笑)。ドギマギしたのを覚えてます。役者っていうのは、脇の方にいても自分なりに演技をしてるんだなって感動しました。
編集A 嶺岸さんがそういう映像に出てるのほんと珍しいですよね。
嶺岸 安部さんも話が面白い人でね。「ちんちんに仏様の刺青をしている人がいる」とか話してきて。しぼんでる時には分からないけど勃起すると浮かび上がってくるって。何がすごいって、勃ってる時に彫ったっていうね。「それってすごくない?」みたいに。
編集A それってできるんですかね(笑)。安部さんならではの話ですね。
嶺岸 話が独特で面白いんだよね。ぎっくり腰になった時の話もしてて。階段上がってたら「ベキッ」っていったらしいんだよ。すごい痛みが走って思わず振り向いたって。撃たれたと思ったって。普通の人はそこで撃たれたと思わないでしょ(笑)。安部さん独特のジョークだと思うんだけど、安部さんだからそう思ったっていうのがリアルで笑えるし。
『天牌』連載開始
嶺岸 『オールド・ボーイ』は週刊連載だったじゃないですか。週刊誌って、なんか引きとかのサイクルが面白いっていうのと、狩撫さんと仕事やってなんか原作の奥深さみたいなのを少しわかったのかなというのがあって、そうすると来賀さんの原作を今まで俺ちゃんと見れてたかなってのが出てきて。もっとちゃんとできたんじゃないかって。もう1回しっかり読み込まなきゃだめじゃないかなっていう風に思って、また麻雀ものやりたいな、麻雀だけでも別にいいなとなったその時に、ちょうどタイミングよく「来賀さんと麻雀漫画やりませんか」とゴラクから。なんかツイてるんですよね。
編集A 持ってますよね。初代担当は来賀さんと嶺岸さんで麻雀漫画をやりたいと当時の編集長をも口説き落としたそうです。
——『ゴラク』は『天牌』のイメージがここ20年は強いですけど、伝統的にはあんまり麻雀漫画やってなかったですもんね。それにしても、さすがに最初はこんな大河連載になるとは思ってなかったわけですよね。
嶺岸 どの辺から調子良くなったんだろう。最初から良かったのかはちょっと分からないんだけど、最初の方で「お前の麻雀は泣かせやがる」って黒沢が言うじゃないですか。これは来賀さんがうまいなと思って。「あ、そういうやつが主人公なんだ」って俺の中であって。黒沢といえば、帽子ってこれ原作に最初あったかって覚えてないんですよ。勝手にやれないよなとは思うんですけど。
——帽子のつばを触るってのは黒沢さんにとってすごい重要な意味がありますしね。
嶺岸 野球帽スタイルってのは明確に来賀さんが書いていたはずなんですけどね。イメージとしてあったのは、実はたなか亜希夫さんです。ゴールデン街で飲んでた時にたなかさんがかぶってたのが黒い皮の帽子で、カッコ良かったんです。借りてちょっとかぶったらめちゃくちゃ重い。なんか鉄下駄みたいに重くてさ(笑)。すごく印象に残ってたのをイメージして描いてるんです。
——たなかさんの帽子が黒沢のイメージっていうのは初耳で、ちょっといい話ですね。
嶺岸 勝手に俺がやってるだけですけど(笑)
編集A 僕ですら初めて聞きました。
——『天牌』ファンには嬉しい情報ですよ。私は『ボーダー』も好きですし『リバースエッジ 大川端探偵社』も好きなんでなんか嬉しいですね。
嶺岸 たなかさんファンだ。帽子としてはそっくりなわけじゃないんですけど、俺の中では相当重いんですこの帽子(笑)。来賀さんの中ではインディ・ジョーンズみたいなイメージがあったのかもしれないけど。何かしらのニュアンスがあって黒沢にかぶらせたんだと思うんですけどね。
——黒沢さんは本当に最初からすごいキャラ立ってますよね。瞬はいかにも王道主人公っていう感じですけど、黒沢さんみたいな師匠ポジションはどうキャラ立てるか難しいというか。
嶺岸 たまたまと言ったら何ですけど、うまく成功しましたよね。
編集A 『オーラス』でも新キャラ出るたびに四苦八苦してますもんね。
嶺岸 来賀さんとやった『鉄砲』。最初にいっぱいキャラ出てくるじゃないですか。あれは大変でしたね。これは困るんだよなと思いました(笑)。個々のエピソードがあって全員が揃うならいいんだけど、最初にずらっと主だったやつが出てくる。来賀さんの中ではそれぞれのキャラがもう立ってると思うんですけど。
——あの作品はキャラそれぞれに割と明確なモデルいますからね。(注31:主人公・山藤弘明のモデルが麻雀プロの藤原隆弘氏であるのを筆頭に、全体に80年代の麻雀プロの世界がモデルとなっています。原作が注連木賢名義なのは、先述のプロ団体出禁事件の関係で、藤原氏へ迷惑がかからないようにという配慮だったようです)
嶺岸 まあ『天牌』も長いからキャラの数すごいですけどね。それぞれのキャラにファンがついてくれたから、それに支えてもらったよなと思います。八角が好きな人もいれば、入星と津神が好きっていう人もいて。あと三國が女性には人気ありますね。
——もう誰が見てもかっこいいですからね三國さんは。
編集A あんなの男が見たって惚れてしまいますよ。圧倒的にかっこいい。
嶺岸 でもやっぱり、『天牌』でも『天牌外伝』でも黒沢がうまく引っ張ってくれましたね。俺が今まで作らせてもらったキャラの中でナンバーワンだと思います。だから黒沢の話はなんかやりたいですね。『天牌』は続けるっていうのはなかなか難しさがあると思うんだけど、『外伝』みたいなのだったら可能性あるんじゃないかなと。まあそうそういじれるもんじゃないとは思うけど。
——難しいですよね。ファンとしても、出たら出たで嬉しいと思うと同時に、やっぱり複雑な気持ちにはなってしまいますね。
嶺岸 そうですよね。そこに来賀さんが入ってないと、偽物っぽい感じはしますもんね。
編集A 『外伝』もやっぱ決め台詞は来賀節じゃないですか。「そんな方向性で説教される!?」みたいなこともあるけど(笑)、それが妙に納得いくっていうか。
嶺岸 確かにね。
——嶺岸さん的には、何か「ナンバーワン来賀節」みたいなのはありますか。
嶺岸 一番はあれかな。よっちんの「俺は墜ちているのか それとも昇っているのか」。心境をズバリ言い当ててるって言うかさ、これ以上の表現ないなって。そうするとやっぱ気合い入るんだよね、絵描くのも。
編集A あれは気合すごかったですもんね。背中の絵ですよね。
嶺岸 俺、なんかやる時は大概背中なんだよ(笑)
編集A よっちんみたいな柔らかいスタイルの男が背中で語るっていうのが映えますよね。
嶺岸 実際、生きてていっぱいあるじゃないですか。「今俺って昇ってんの? 墜ちてんの?」って。あれは素晴らしいですね。
編集A 嶺岸さんが好きだってことで、LINEスタンプ(注32:https://store.line.me/stickershop/product/17286333/ja)にもしたんですよ。
——LINEスタンプ、結構使わせてもらってます。使いどころがないのもありますけど(笑)
嶺岸 あと好きなのはやっぱり「そこに北はあるんだよ」。
——まあそれはもう誰もが。
嶺岸 俺もね、「こいつら麻雀こんな風にやってるんだ」ってなりましたね。
——来賀さんはやっぱり、常人の理解を超えたところに真の麻雀の強さはあるっていう人ですもんね。我々凡人はもう、みんな遼みたいに「何をこいつら言ってやがる、全然分からねえ」ってなりますけど。
嶺岸 そうそうそう。こいつら見てるの違うんだって。
編集A あそこで遼がいることの素晴らしさがありますよね。
——ほんと素晴らしいですね。読者の立場からしたらみんな遼ですからね。
嶺岸 遼がこう、基本的にはかっこいい役なんだけどちょっとお茶目というか、ああやって二枚目を決めきれないところがね。「やべえ マジやべえ」とか。あと黒沢の「せっかく3人で作り上げた麻雀の血流が血栓よろしく 坊や1人で止まってるってことを自覚しな」、あれもうまいセリフだなって。
——「そこに北はあるんだよ」のLINEスタンプをいつか使いたいと思いつつ、使う機会がさすがにないんですよね(笑)
編集A あれ、ちょっとだけ嶺岸さんの絵を加工させてもらってるんですよ。入星が少しだけ切れちゃうんで。
嶺岸 LINEスタンプは編集Aさんが作ってます。ありがとうございます。
編集A チョイスがまず大変でしたからね。
——そうですよね。スタンプとしての使い勝手と漫画としての名シーンとがありますしね。
編集A 第2弾は来賀さんが考えるって言ってたんです。
嶺岸 そうそう。「俺に作らせて」って。
編集A 「オイラが全部選ぶからね」って、言ったままになってしまって。
——欲しいシーンはいくらでもありますしね。個人的には「北岡先生でも予想できませんでした〜ッ!」とかが(笑)
編集A 北岡ちょっと少なめでしたからね(笑)。もっと入れたかったんですけど。
嶺岸 北岡もいいキャラですね。
——北岡が初めて登場したころで、ネット麻雀が強いやつがリアル麻雀でも強いっていうキャラを出したっていうのはかなり先進的だったなと思います。
編集A 確かに、今だったら当たり前ですけど、ちょっと馬鹿にされてた時代じゃないでしょうか。「牌を握ったこともないやつが」みたいな。
嶺岸 なるほどね。
——でも北岡は最初から普通に強かったですからね。最後の最後まであんな強くなると思わなかったですけど。
編集A 北岡はやっぱ来賀さんも気に入ってましたよね。嶺岸さんの、あのちょっとおちゃらけた雰囲気が。あと、万札以外肌身につけない主義とか、最初の方から結構キャラ盛り込んでるんですよね。まあそのあと普通にそば食べてましたけど(笑)
嶺岸 北岡は『外伝』が最初の登場だけど、あれは意図的にやってたんだよね。
編集A 当時の担当の話を聞くと、意図的にですね。週刊の本編に出す予定のキャラを外伝から出すっていうのが結構パターンとして。最後の柏木もそうですよね。最後の1人にするためにみたいな。
——私の知り合いの『天牌』好きな作家と会うたびに「新満決戦、誰が勝ち残ると思います? 柏木勝ちますかね」「いやあ読めないですよ」ってずっと話してましたよ。まさか瞬が負けるとは思わなかったですし。
編集A あれ、負けること自体は実は結構先に決めていたそうです。
嶺岸 麻雀は負けの美学っていうか、滅びの美学っていうのが来賀さんにあるからね。だから瞬って勝ったことないでしょ(笑)
——確かに、格下相手にはもちろん勝ってますけど、ここ一番ってところ、それこそ黒沢さんとの最後の天狗決戦も別に勝ってるわけじゃないですしね。
嶺岸 「次に戦ったらどうなるか」っていう見せつける麻雀。だからあれも好きだね。「何度最後の半荘だと言い聞かせても次を見据えて打つバカもいる」って。あれもかっこいいですね。来賀さん本当にいいね。
編集A それが名シーンとして絵で浮かんでくるのは嶺岸さんのおかげですよ。
——最初に週刊連載っていうお話がありましたけど、月刊から週刊にするにあたって話の引き方とか結構変えられてる感じですよね。前に来賀さんが、原稿を渡したあと順番とかをどう再構成するかっていうのは嶺岸さんと編集さんにお任せしてて、セリフを変える場合はこっちで考えるからそれだけ連絡もらうようにしてるって仰ってましたが。
嶺岸 ある時期からそうしたんですよね。一つは来賀さんの原作はやっぱり長かったんです。かなり早い段階で原作1話分で1話ではなく、途中で切りましょうって。最初来賀さんは「全部入れてほしいんだけどなー」みたいなことは言ってて、やろうと思えばできたんですけど、こう詰めて詰めてといくとちょっと窮屈になると。それで途中切るようにして、1本の原作から2本とか取るようになって。
編集A 基本的には原作1本で漫画1話分というパターンが多いので、珍しいスタイルですよね。
嶺岸 そうなのかな。まあ結果として成功したんじゃないかなと思います。
——来賀さんも納得されてたと思います。三國さんと八角さんの初登場のときは、原稿渡してからなかなか出てこなくてやきもきしたらしいですが(笑)
嶺岸 だいぶ序盤ですよね。どういう風に担当さんと話したんだったか覚えてない(笑)。八角もいいキャラだよね。牌飲んじゃうし(笑)
編集A びっくりしましたよね(笑)
——あれはなんか、来賀さんが学生の頃に早稲田の雀荘で打ってたら、牌を1枚持って近くの穴八幡神社まで逃げちゃった人がいて、それがモチーフというか、でも八角さんなら逃げたりはしないで飲んじゃうだろうって考えてって言ってましたね。
編集A 「牌が1枚足んねえんだわ」、本当に名言だと思います。そこにすごい絵が合わさって。喉ものすごい膨張してましたもんね(笑)。あと、来賀さんの原作が届かないって時もあったから、このスタイルがはまったっていうところはありますね。
——やっぱり来賀さん遅かったんですか。遅かったって話はまあ聞くんですけど。
嶺岸 前はちょっとイライラする時もあったけど(笑)、このスタイルでやり始めてからあんまり気にならなくなったかな。
編集A イライラというか、週刊だと本当にやばいですからね。危なかった事など、一回や二回の話じゃないんじゃないですかね(笑)
——まあ来賀さんは良くも悪くも全力投球型ですからね。
編集A 入り込むと周りが見えなくなってしまうタイプだと思います。
嶺岸 そうそうそう。
編集A あのスタイルだと、嶺岸さんじゃないと描ききれないっていうところは。
——来賀さんが神江里見さんと組んだ時は、神江さんが編集部に怒って電話かけたって話は聞いてますね。
編集A 嶺岸さんは電話かけたことあったんですか。
嶺岸 あったかもしれないな(笑)。怒ってはいないけど、どうなってんですかって。まあ言われても編集さんも困るだろうけど(笑)。すごいな、神江さんにそんなことさせたんだ。
——天牌は、ファンブックの『天牌皆伝』が出たの珍しいですよね。中に収録されてるセルフパロディの「漫画家疲労伝説 限界」も本当に大好きで。
嶺岸 これね、俺も大好きです(笑)。うまいことやったなと思って。初代の担当さんが原作を考えたんですよ。
——私も、自分の原稿の締め切りが近づくといつもこの「エンドレス」のコマが頭をよぎりますね(笑)
編集A 初めて嶺岸さんの事務所にお伺いした時、仕事場のビルを見て「『限界』のあのビルだ!」って思ったんですよね。「本当にいい本だから2も作ってほしい」ってよく言われます。
嶺岸 「2」のときは「限界2」の原作書いてね(笑)
編集A 僕は7代目の『天牌』担当編集なんですけれども、『天牌』の担当はまあそれこそ『天牌』読んで日本文芸社に入ったような麻雀好きが多いんですよね。僕はまさしくその典型です。
——それはやっぱり麻雀好きな人の方がやりやすいですよね。作品作るのとしても、間違いをチェックするのとしても。
嶺岸 来賀さんは牌を並べてチェックしてましたね。ただ気を使っててもやっぱりミスが出る時は出ちゃいますからね。
——まあそれはもう誤植みたいなもんですからね。どうしても5枚目が出ちゃうとか、筒子の模様を間違えて描いちゃうとか。
編集A 親の逆転条件を間違えてて指摘されたことありましたね。見つけてあげましたって親切心から来るご指摘だったと思います。
——ある意味読者がそれだけしっかり読み込んでるって事ですからね。
嶺岸 本当ですよね。怖いです(笑)
——嶺岸さんでもミスるんだったらもうしょうがないっていう感じですよ。人間が描く麻雀漫画の限界みたいな話に。
キャラクター造形について
——嶺岸さんがキャラを描くときに気をつけてることとか、力を入れてる箇所みたいなのはありますでしょうか。
嶺岸 やっぱりそうですね。一番気になるのは髪型ですね。顔のパターンってそんなにないんですよ。例えば黒沢と津神は同じような造りなんです。鼻の形とか。基本的に5パターンないのかな。ちょっといい男だとどうしても瞬みたいな目になっちゃう。そうすると何で変えてるかっていうと、髪型で変えてるんです。それが正しいのかどうかわからないけど(笑)。他の人がどうやってるかわかってないですし。
編集A 麻雀はバストアップが多くなりますし、髪型の印象は大きいですよね。
嶺岸 変えてることは変えてるんですよ。そうじゃないとアップでみんな同じになっちゃうから。まあ俺全体的にアップが多いんだけど。だいたい後ろ髪が長いんですよね(笑)。なんか知らないけどみんな長い。鳴海に関しては、モデルの渡邊(和弘)さん(注33:大阪の雀荘「ジャンプ」を経営していた、関西麻雀界の伝説的な人物。関西出身の麻雀プロには弟子筋・孫弟子筋の人物も多く、麻雀漫画家では押川雲太朗氏も孫弟子に当たります)もこんな感じの長い髪してましたよね。案外似せた方なんです。あと全体にデコが出てる(笑)。北岡はちょっと特殊ですけど(笑)。あとはやっぱり目力。
編集A 大事ですよね。
嶺岸 北岡なんかはこういう、前をまともに見ないっていうか、なんかチンピラっぽい感じの構図が多いんですよね
編集A 歌舞伎の見得切りみたいな感じですよね。
嶺岸 八角さんは俺の中で、マカロニウエスタンによく出てたリー・ヴァン・クリーフっていう役者さんがイメージです。でも、出てくる度にひげを描き忘れてよく指摘されました(笑)。ついうっかりね。
——来賀さんから、新キャラ出た場合にイメージって指定とかあったりしたんですかね。
嶺岸 井河くらいですね。あれは珍しく指定がありました。中村獅童って。でも気に入らなかったのかな(笑)。キャラの格が徐々に低くなっていって(笑)。でも珍しかったんですよ。ほかは「こういう感じ」とかあんまりなかったんで。
——『オールド・ボーイ』で缶詰になって作ったっていうのが珍しい感じで、やっぱり基本はお任せという感じなんですかね。
嶺岸 主人公に関してはさすがにある程度何枚も描いて案を出しますけど、ほかはあんまり何もないですね。もう少し個性的な人も出せればいいんだけど。『天牌』はまあ出せた方かな。
——『天牌』は本当もう個性の塊ですよ。
編集A 今『オーラス』も個性の塊が出てきているところです。
——名前が出た所で、連載中の、押川雲太朗さん原作の『オーラス』についてもお聞きしたいです。ちょっと今後の展開になるかもしれないのでどこまで言えるかっていうのはあると思うんですけれども、主人公の柳のキャラクター像はまだあまり詳細不詳じゃないですか。年齢とかはどうお考えになってる感じでしょうか。
編集A その辺りは押川さんにお任せしてる部分が多くて、麻雀だけでしか生きられない孤独な青年がどう変わっていくかっていう感じですよね。人付き合いが悪いとかそういうところからスタートしてて。
嶺岸 あまり喋らないけど思いやりもあるんですよ。
——3巻でちょっとそういうところ出てますね。
嶺岸 まあちょっとこのままだと、主人公である柳のバックボーンが分かりづらすぎる、何者かが見えてこないってところはあるから。
——20代の若者っていう感じではあるんですよね。
嶺岸 そうですね。
編集A 若者ですが、どこか達観してる。ロン毛ってのはある種のやさぐれ感の表れでもあって。
嶺岸 ここ難儀して、色々作りましたよね。やさぐれというか世捨て人感というか。
——ロン毛は今までの嶺岸キャラの中で珍しいですよね。
嶺岸 だいたい主人公は短いですよね。瞬的なのになりますけども。でも目は昔と案外違うんですよ。天牌の時から目がだいぶ変わりましたね。
編集A 『オーラス』の柳は今までの嶺岸さんの作品の中でも珍しい主人公像だと。あんまり喋るわけでもないっていう。
嶺岸 喋らないですね。押川さんの中では高倉健みたいなのがあると思うんですけど、なかなか難しいですね。
編集A 喋らないから難しいっていうのは押川さんもちょっと同じこと思ってるみたいで(笑)。モノローグでも喋らないですからね。
嶺岸 「腹ん中割れよ」みたいな(笑)。無口なキャラは難しいんですよね。そこ行くと押川さんのキャラは喋らないでいてもなんかオーラが出るんですよ。押川さんは絵上手いですよね。俺の足りないところというか、押川さんの『不死身のフジナミ』のタイガー(注34:過去記事をご参照ください)とか、何も言わないシーンでもすごい存在感ありましたよね。
——タイガーさんは本当にすごいですよね。大好きです。
嶺岸 何も言わずにいてもドスが効いちゃうってすごいです。俺もああいうのを描けたらいいなと思うんだけど。羨ましい。押川さんのキャラってリアルだよね。大げさなコマはないんだけど、普通に真っ正面のアングルでも顔とか表情がリアルだからドスが効いちゃう。本当劇画だよね。うまいなーって思ってて、でもできないんですよ。すぐ首ひねったりとかのハッタリやっちゃう(笑)
編集A 何もしない正面の顔でドスが効くってのはいい言葉ですね。
嶺岸 それだけで存在感っていうか、劇画してるんだよね。
——押川さん、高校の時も漫研じゃなくて美術部入ってたってお話ですし、そういうのがベースにあるんですかね。それにしても、私なんかから見たらもう雲上人の会話というか、嶺岸さんでなお絵の向上心があるっていうのは本当にすごいことだと思いますよ。
嶺岸 頑張ります(笑)
編集A ちょっと今後の展開になっちゃうんですけれども、柳を中心に若者が集結してくる感じで、柳の感情がどうほぐれていくのか、それを嶺岸さんがどう描いていくかですね。
嶺岸 サブキャラの方が個性が立っちゃうかもしれないけれど(笑)
——でもまあ、麻雀漫画はやっぱり4人で打つ以上、みんなの個性が立ってないと面白くならないですから大事ですよね。まさに『天牌』なんてそうですし。
嶺岸 だから瞬がいなくても不思議じゃなくなるっていう(笑)。全然成立しちゃう。
——それはもう、良い麻雀漫画の宿命みたいな感じがしますね。
編集A 新宿で遼がずっと頑張ってるけど、瞬は一切出てこないみたいな(笑)。表紙は瞬だけど中には出てこないっていう。
——天牌表紙カルタって作ってもいいと思うんですよね(笑)。116巻にわたって表紙はずっと瞬ですけど、最初はまさか100巻続くと思ってなかったからっていう感じだったんですかね。
嶺岸 どっかからは、もうこれでずっとっていうことになったんですけれども、どこだったかな。最初は別に単色って決めてたわけではないんですけどね。メインぽい色が1つあって、あとはその色がブレないように、全体のバランスを取る感じで。
編集A 途中からですね。メインカラーを特色としたデザインに。だから100巻の時はモノクロと銀の箔押しがすごく光りました。それで現状最後の116巻に。「現状」というのは僕の希望になっちゃうんですけど(笑)。まだあるかもしれない。
嶺岸 なんか黒沢みたいになってるね。まだ生きてるかもしれない(笑)
——そんな感じですね。帯のキャッチも「最終巻」じゃなくて「最新刊」ですもんね。
編集A 僕が本能の赴くままに「最新刊」と入れました。まあ、歴代の担当者も皆、「最終巻」とは打たないと思います。
嶺岸 天牌、136巻までじゃないかっていう話はしてたんですよね。麻雀牌の数。そう言われると納得したというか妙に気持ち入ったというか。あーそうか、そうだなって。急に会話の中で出たんだけど、もし続けてたら多分その辺を目指してやってたんじゃないかなと。
編集A 来賀さんも「あと20巻ぐらいだね」みたいなことを言ってたんですよ、チラッと。「どう終わらせようかな、終わるかどうかわかんないけどね」って(笑)
嶺岸 押川さんとか浜田さんもそうだけど、あの人たちって麻雀の裏付けがあるっていうか、麻雀がしっかりしてるじゃないですか。それはやっぱり一緒に仕事してて楽しいなっていうのがありますね。
——浜田さんといえばで、ちょっと時間が戻りますけれども、双葉社での『麻雀放浪記』のコミカライズの話も。本家双葉社でのコミカライズは北野英明さん以来ですしね。竹書房では井上孝重さんと原恵一郎さんがやってますけど。あ、話がまたどんどん戻っちゃいますけど、原さんが最初のアシスタントだったんですよね。
嶺岸 本当はもう1人いるんですよ。いるっていうか、初めてスタッフが来てもらった時は後ろで仕事してもらうっていう状態が初めてで、なんか精神的に落ち着かなくて仕事にならなくて(笑)。だからその人はすぐ終わってもらったんだけど、迷惑かけましたね。その後で原さんが来てくれてやってもらいました。原さんは漫画うまいからね。
——嶺岸さんのところでアシスタントやって、その後近代麻雀の新人賞でデビューと。
嶺岸 そうだよね。新人賞の最初の頃ですよね。原さんは「俺は原帝国を作るんだ」って言って出て行きました(笑)
——師弟で『麻雀放浪記』をコミカライズしてるってのもすごいことですよね。
嶺岸 あー確かに。彼は青春編は描いてないけれども。でも俺もあんなぶっ飛んだのは描けない(笑)
——嶺岸さんのは本当に正統派ですもんね。浜田さんのお話では、編集部は嶺岸さんか本そういちさんかっていうので候補立ててたけど、本命はやっぱり嶺岸さんだったと。
嶺岸 他の候補の話は俺知らなかったんだけど、でも要はまあ「やりたい」って思ったんだよね。
——何度か短編のコミカライズはやられてますもんね。「天国と地獄」とか。
嶺岸 あの辺はかなり面白かったですね。「海道筋のタッグチーム」とかもやって。それで、『麻雀放浪記』の青春編ってやっぱかっこいいじゃないですか。
——正統派な成長譚ですもんね。それにしても週刊連載2本って本当にすごいですよね。70年代とかはそういう人いましたけど、いま週刊2本やられる方っていないので。
嶺岸 だんだん歳取って手も遅くなってくるし、なかなか大変だよね。ゴラクも今8回やって1回休むみたいな感じでやってますし。結構きついですよね。
編集A 結構どころじゃないと思います(笑)。ゴラクは今3週やって1週休みって人が多いので、8週やって1週休みっていう人はほとんど毎週みたいなものです(笑)。嶺岸さんと、『ミナミの帝王』『白竜』『江戸前の旬』とかくらいですよ。
嶺岸 前はもっとやってたのかもしれない。『麻雀放浪記』始まる時にはまだ『天牌外伝』やってたんですよ。あの時はどうしてたんだろう。考えたら月産で300ページぐらいになってたんじゃないですかね。300はないかな(笑)
——月産200も今やってる人はいないと思うんですよ。70年代とかならまあいますけれども、現代はいないですよ。
嶺岸 死ぬからね(笑)
——本当にお体は大事にして、今後も素晴らしい麻雀漫画を描き続けてください。
編集A 『オーラス』、魅力的なサブキャラが動き始めてますから、今後とも付き合っていっていただければと。
——本日は長い時間、本当にありがとうございました。