タイガーさんのカニファシズムに酔え!—個人的な「マイケル・ベイ監督で映画化してほしい漫画ランキング」ナンバーワン・押川雲太朗『不死身のフジナミ』

『不死身のフジナミ』4巻144ページより

早いもので今年ももう秋となり、カニ漁解禁の季節となりましたね。皆さんカニは好きですか。好きじゃないという人は気をつけたほうがいいですよ。銃で撃たれて死にます。

あと、カニが好きという人でも、量はそんなに食べれないという人はやはり気をつけたほうがいいです。バースにバットで殴られて死にます。

『不死身のフジナミ』4巻158〜159ページより

というわけで今回紹介しますのは押川雲太朗『不死身のフジナミ』。今はなき『ヤングマガジンアッパーズ』で2000〜03年に連載された作品です。

作者の押川といえば、『根こそぎフランケン』『リスキーエッジ』『麻雀小僧』など、本格派麻雀漫画の描き手としてもっぱら知られています。筆者も一麻雀漫画愛好家としてこれらの作品は非常に好きで、特に『根こそぎフランケン』第2部ラストの「長生きしろよフランケン そして永遠に勝ち続けろ」や、最終回の「いつもそうだな おれ達のやる事はいつも… 適当に平和が保たれていた場所をひっくり返してぶち壊すだけだ」「おれ達が何かを生み出してどうする バクチ打ちってのは人の物を奪うのが仕事なんだぜ」とかは本当に名シーンだと思っています。

『根こそぎフランケン』8巻210ページより

ですが、押川作品で一番好きなのは何かと訊かれたら、実のところ筆者としてはこの『フジナミ』の方を挙げてしまうんですね。

本作の舞台はいちおう日本、猛子炎という球場が出てくるので兵庫県の西宮市あたりがモデルと思しき架空の街です。ですがこの街には(なぜか)警察がなく、治安が完全に終わっております。どれくらい終わっているかというと、サラ金強盗がバズーカで粉々にされるくらい終わっています。

『不死身のフジナミ』4巻110〜111ページより

まあ、田中哲弥の超傑作小説『大久保町の決闘』でも、兵庫県明石市大久保町ではガンマンが決闘をしているということでしたし、兵庫県というのはそういうものなのかもしれません。

で、この街にある日突然現れたのが、タイトルにも謳われている自称武器商人のロドリゲス藤波。彼がどういう人間かというのは、このあたりのコマを見ると一発で分かりましょう。

『不死身のフジナミ』5巻32ページより

『不死身のフジナミ』5巻145〜156ページより

本作は、この頭のネジが外れた男・藤波と、クールな情報屋・田村、他人を疑うことを知らないお人好し・山下という3人が、それぞれの思惑から結託し、この街最大最強の裏組織である「信販タイガース」と戦うというのがメインストーリーなのですが、そこで彼らの前に立ちはだかるのが、冒頭引用コマで好き嫌い許さない宣言をしている七三分けにメガネの男・タイガーさん。彼は本作の裏主人公と言ってもよく、全篇を通してとにかく魅力が横溢しております。

愛用武器は一応デザートイーグルAE50ということになっていますが、別に素手で殴るだけでも普通の人間は一発で即死する身体能力を持ち、

『不死身のフジナミ』4巻77ページより

偏食でカニしか食べません。

『不死身のフジナミ』1巻177ページより

そして、他の人間がカニを食べないことも許しません(食べ物の好き嫌いはよくないですよね)。

『不死身のフジナミ』4巻83〜84ページより

いやー何もかも素晴らしいですね。個人的に一番好きなフィクションのメガネ男子です。

で、主人公側の藤波も先述の通りの人間なわけですから、この二人が直接ぶつかることになる最後の戦いはそりゃもう大変なことに。街は景気よくドッカンドッカン爆発し、巻き込まれた人がじゃんじゃか死んでいきます。ただただバカバカしくて最高。それでいてラストは、藤波・田村・山下のメイン3人がそれぞれ得るものを得て、爽やかというかいい感じに〆られるのもエンタテインメントとして心憎いところです。実写映画にしてもかなりいける内容だと思いますんで、どなたか英訳してマイケル・ベイみたいな監督に送って頂けないものでしょうか。

ちなみに、タイガーさんがなぜこのようなとてつもない人物になれたかというのは、意外なところに理由があります。それは、「阪神が地獄のように弱かったから」。

『不死身のフジナミ』6巻192〜193ページより

このあたり、「野田・松永のトレード」「グレンとクールボー」「グリーンウェル神のお告げ」「平塚・桧山・新庄のクリーンナップ」「F1セブン」あたりを覚えている方は涙なしでは読めないことでしょう……。や、若い方やプロ野球詳しくない方は知らないと思いますが、85年に日本一を達成した後の阪神ってのは本当に弱くて、本作の連載期間となる02年までの16年間の成績が、2位1回(92年)、3位1回(86年)、4位3回(93・94・02年)、5位2回(89・97年)、最下位10回(87・88・90・91・95・96・98〜01年)というとてつもない暗黒っぷりだったんですよ。押川という人、デビュー作が『なにがなんでも阪神ファン』(当時は押川雲太名義で発表)という暗黒時代阪神ファンの悲喜こもごもを描くコメディーだったりする、熱烈な阪神ファンでもあるんです。

余談ですが、川原泉『メイプル戦記』、こせきこうじ『ペナントレース やまだたいちの奇蹟』という90年代のプロ野球漫画2作でどちらも阪神がそれなりに強豪として描かれているのは、連載時期がたまたま、この暗黒時代の中で唯一優勝争いに絡む活躍を見せた92年と重なっていたためです。

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影絵が趣味
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2019/02/02
漫画史に煌々と輝く魔球、その名もハクション大魔球!!
マンガとはひとつに夢をみさせてくれるものでしょう。そして魔球とは正しくすべての野球ファンにとっての夢……。そんな夢をみさせてくれるマンガとは、あるいは魔球とともに歩んできた歴史なのかもしれません。 そもそも事の始まりはこうなのです。プロ野球界に女性だけで構成された新球団ができる、その名も「スイート・メイプルス」。もうこの時点で夢のような話なのです。こういって差し支えなければ、メイプルスの面々は、男だらけの球団を相手にまったく出鱈目と積極的に言っていきたいほどの懸命さと天真爛漫さで勝ち上がっていきます。この途方もない出鱈目さ加減がほんとうに感動的で胸を打つ。男たちを相手に女性だけのチームがどうやって勝っていくのか、なんていう、説明責任はこのマンガには端から存在していないのです。 マンガに関わらず、いま、あらゆるものに説明責任なるものが蔓延しているように思われます。しかし、それはなんと窮屈で不自由なことだろうとも思うのです。説明責任とは、アレはしていけない、コレはしてはいけない、というふうな否定的で不自由に方向にしか物語を運んでいかないことでしょう。そんな説明責任なるものから始めから自由になっている『メイプル戦記』は、それ故に感動的としか言いようがないのです。私たちはまだ見たことのない魔球を見てみたくてマンガに熱中するのではなかったか、私たちはまだ見たことのない夢を目の当たりにしたくてマンガに熱中するのではなかったか。私は『メイプル戦記』ほど自由で豊かで感動的なマンガを他にあまり知りません。