みなさんは消したい過去の振る舞いはありますか。えるぽぴ先生の『~解放の刻来たれり~ えるぽぴの楽しい黒歴史ライフ』は、平成をオタクとして過ごしたえるぽぴ先生自身の体験を思う存分共有した作品です。えるぽぴ先生はその日々を「黒歴史」としていますが、高校生でコスプレをして同人誌即売会に参加しているので、非常にアクティブで楽しそう。みなさまも是非、自分のオタク遍歴を共有してみませんか。
黒歴史とは、恥ずかしくてなかったことにしたい過去の言動とのこと。例えば腕に包帯を巻いて投降したり、眼帯をつけて外出したりすることを含むそうです。(えるぽぴ先生はノートにオリジナルキャラクターなどの設定を描くことを含めて「全部やった」と断言されています。尊敬します)
その黒歴史には個人サイトの運営も含まれます。そのためこの作品も1ページ目は、かつての携帯サイト風イラストからスタート。
これだけで、平成時代にオタク文化に浸っていた人は叫び声をあげてしまいます。ローマ字の「Enter」、気の遠くなるぐらい押しました。その名の通り、ホームページに入るためにクリックするところだったのですが、なぜみな英語表記だったのですかね。かっこいいと思っていたのでしょうか。そしてほぼ必ずタイトルの横にゴシック風の十字マークがついていました(本作もサブタイトルの横にすべてゴシック風の十字マークがついているのが細かくて好きです)。
本作で描かれるえるぽぴ先生のオタクライフのスタートは2004年。昭和からオタクをやっている人からすると「比較的最近の2000年代だよね」と思いつつも、当時まだSNSが普及していない時代です。pixivやX(旧Twitter)がない時代のオタクたちはいったいどこで交流していたのかを教えてくれます。
それは個人サイト。絵を描く人も字を書く人も、当時のオタクは一人1サイト持っていたわけです。読むのが専門のオタクは、ひとつひとつのサイトをブックマークしておいて、日々作品の更新がないか回遊。サイトに設けられたBBS(掲示板)でサイト運営者やほかのファンと交流していたのです(なお、2004年には国産SNSであるmixiがスタートしており、個人サイト同様、オタクのたまり場となっていました)。
サイト運営者が発行した同人誌が欲しいとき、同人誌即売会で入手できなかった場合は、サイトにある連絡先に直接メールを送って郵送をお願いしていました。そして「キリ番」カルチャー。多くのサイトは訪れた人を数えるカウンターを設置していて、そのカウンターの数がキリのいい数だったとき、サイト運営者に絵や小説をリクエストできるというシステムを導入している人がいたのです。なかなかクリエイターに「自分のために書いてください」といえる雰囲気ではないなか、クリエイターとファンの交流を促すきっかけになっていたと思います。
自分で絵をかいて個人サイトを運営し、その個人サイトでつながった人とオフ会(しかもお相手のお母様も参加。まあ未成年ですし)をして、ガラケーでコスプレした写真を撮影して、「踊ってみた」の動画を撮影。ニコニコ動画にコメントを書き込み、コスプレして友達と同人誌即売会で同人誌を頒布――正直、えるぽぴ先生は、日本に住むオタクならできるオタク活動をほぼ網羅されていると思います。えるぽぴ先生は黒歴史とされていますが、非常にアクティブで、漫画にまとめられると充実した青春を過ごしていたなとも読み取れます。
自分では黒歴史と思い込んでいても、人と共有すれば「あの時はそうだったね」と意外といい思い出話になるもの。私たちオタクはどのようにコンテンツを楽しんできたのかを積極的に共有していきたいものです(ただし、写真や動画など生の記録を振り返ると、致命傷になる可能性があるので注意しましょう)。