馬が喋べった!あんた信じるか—ツインターボの晴れ舞台、その舞台裏(?)を描くやまさき拓味『優駿劇場』

馬が喋べった!あんた信じるか—ツインターボの晴れ舞台、その舞台裏(?)を描くやまさき拓味『優駿劇場』

テレビアニメ『ウマ娘 プリティーダービー Season 2』が始まりましたね。筆者にとって何より驚いたのは、新キャラとしてツインターボが出てきたことです。なぜなら、筆者はちょうど、ツインターボを主役とした回がある漫画であるところの、やまさき拓味『優駿劇場』を本コラムで紹介する漫画として選んだばかりだったから……(これはマジで偶然でして、当初は単に年末の有馬記念と絡めるというつもりなだけだったんですよ。それでマンバ編集部に「次回は『優駿劇場』で行きますわ」とメール送った数日後、ウマ娘2期の番宣でツインターボが出てきてビックリ仰天、「世界は俺のために回っているのか……?」と思いました。俺のために回ってる割には、デレステの無料10連ガチャでここまでSSRが全然出てきてないのはおかしいので、これはなにかの巨大な陰謀が働いているのではないかと思いますが……)。

というので、作品紹介の前にちょっと自分語りを。筆者が競馬というものを初めて意識して見たのは、忘れもしない94年の有馬記念でした。別に馬に興味があったわけではなく、適当にテレビつけたらたまたま競馬中継が行われていたんです。普段ならチャンネルを変えるところでしたが、聞き覚えのある名前が聞こえたのでその手が止まりました。ナリタブライアン—その年の皐月賞・東京優駿(日本ダービー)・菊花賞を制した、シンボリルドルフ以来10年ぶり5頭目のクラシック三冠馬です。一般のニュースなんかでもさんざ報道されてたんで、馬に興味のない筆者でも名前だけは知っており、「ナリタブライアンというのはずいぶん強いらしいし、いっちょ見てやろうか」となったんですね。

で、いざレースが始まってみると、筆者の目はナリタブライアンではなく、別の小さな馬に釘付けになりました。それがツインターボです。好スタートを切ると、あれよあれよという間に2番手以下の馬との差が開く開く。レース(2500メートル)の半分である1200メートルくらいの地点では、後続との間は○馬身とかの次元ではない、数十メートルくらいのものになっていました。競馬の展開というものを知らなかった筆者は「ナリタブライアンが強いと聞いていたけど、こっちの馬の方が信じられないくらい強いじゃん!?」とビックリしたわけです。

で、レースは、4コーナーのカーブで先頭に立ったナリタブライアンがそのまま最後の直線でグングン伸びていき、下馬評通りの横綱相撲で圧勝(あとになって競馬の知識がある程度ついてからこのレースの映像を見ると、2着の”女傑”ヒシアマゾンも十分に凄い末脚見せてたんですが、ブライアンがあまりに完璧すぎ)しました。「ははあ、ナリタブライアンというのは本当に強い馬なんだなあ」と思いつつ、「それにしても途中までダントツだったあの馬は何位だったんだろう」と結果を見てみると、なんとビリ。しかもブービーとの差が1馬身とか2馬身とかではなく「大差」という圧倒的なドンケツ。二度ビックリしました。

これで競馬にちょっと興味を持った筆者は、このツインターボという馬が、大逃げを打っては終盤で失速するというのを繰り返す「悲壮感なき玉砕」の馬として競馬ファンから人気を得ている(2000年にJRAが行った「20世紀の名馬大投票」では91位にランクインしております。GIどころかGIIにも勝ったことがない馬でベスト100以内に入ったのはツインターボが唯一です。いかに成績の割にファンに愛されていた馬かというのが分かることでしょう)ということを知り、『ダービースタリオン』や『ウイニングポスト』といったゲームを買っては逃げ馬を育てることに精を出すようになったのでした。

 

で、そんなツインターボですが、別に全部のレースで玉砕していたんでは有馬記念のような大レースに出られるわけありません。彼の競争生活のハイライトと言える93年の夏には、七夕賞と産経賞オールカマーというGIIIレース(現在のオールカマーはGIIですが当時はGIII)に連勝しております。特にオールカマーは、前年の菊花賞とその年の天皇賞(春)というGIレース2つを制した”淀の刺客”ライスシャワーという一流馬を押さえ込んでの金星でして、そのオールカマーの様子を描いた漫画が、今回紹介する(やっと本題に入った!)『優駿劇場』です。『漫画ゴラク』04〜05年に掲載されたもので、90年代〜00年代前半の様々な名レースを描くオムニバスとなっており、オールカマー編は2巻に収録されています。

まず舞台となるのは大井競馬場。地方招待馬としてオールカマーに参戦することになったハシルショウグンが、新聞を読んで当時の社会情勢を解説してくれています。

『優駿劇場』2巻105ページより。どうでもいい話ですが、乙倉悠貴ちゃんの『追い風Running』サビの「走る青春の 1ページ」という歌詞を聞くと筆者はいつもこの馬のことが頭をよぎります

 

……そう、この漫画、馬が普通に人間の言葉を理解し喋る『みどりのマキバオー』(つの丸)的世界観になっており、馬の視点からレースの内幕を(勝手に)描くものとなっているのです。絵柄が、デフォルメ寄りの『マキバオー』よりかなりリアル寄りなので、その分しゃべることの違和感がかなり出ていますが……(なお、本記事のタイトルは、時代劇『翔べ! 必殺うらごろし』第15話のサブタイを拝借しました。うらごろし、オカルト要素を取り入れた異色作で、放映当時はシリーズ打ち切りの危機を招くほど低視聴率だったそうですが、市原悦子の殺しのシーンが異常な迫力だったり、和田アキ子が悪人を素手で殴り殺すシーンの殺陣が凄かったり、今見るとめちゃくちゃに面白いです。テレ朝動画で配信してる(https://www.tv-asahi.co.jp/douga/uragoroshi)ので一度見ていただきたい。うらごろしがいつでも見れるとはいい時代になったと思うので、あとは『破れ奉行』とか『おしどり右京捕物車』とかも配信されてほしいものです)。なんというか、リアル版『馬なり1ハロン劇場』(よしだみほ)という感じもしますね。馬のキャラ付けも結構極端で、例えばダイワテキサスは競輪狂い、ホットシークレットに至っては風俗狂いにされています。まあ馬は名誉毀損で訴えてこないですしな……。

『優駿劇場』2巻68ページ、73ページより

 

ハシルショウグンに話を戻しますと、彼は同僚の馬から、「オールカマーはライスシャワーが断トツの一番人気になるだろうが、大井の代表として頑張れよ」と励ましを受けます。するとショウグン、「ボクは勝つ! しかし怖いのはライスくんのほかにもう一頭いる。七夕賞を快勝したツインターボくんが怖い。2年間勝ち星から見離されていた馬が突然勝ち上がるのにはそれなりの理由があるはずだ」と言って、美浦トレーニングセンターへ単身偵察に向かいます(上述のダイワテキサスの通り、馬が新幹線に乗る世界なので気にしてはいけません)。そこでハシルショウグンが見たのは、蒸し暑い馬房に籠もりっきりになっているツインターボの姿でした。「レースに勝つためにストレスを溜めてんだ 七夕賞もそうやって勝った!」と言うツインターボに、それはどういう意味なのか尋ねるハシルショウグン。するとそこにオールカマー最大の敵であるライスシャワーが現れ、「競走馬(オレたち)はレースに出ていないときは厩舎に閉じ込められたままでほとんどの時間を過ごしている オレたち馬がレースで走るのは 長く閉じ込められストレスというエネルギーが蓄えられ爆発寸前になっているからだ」と解説をし、「オレにはそんな作戦は通用しねえぞ」と言って去っていきます。GI馬の洞察力に感心するハシルショウグン。しかしツインターボは、そんなライスシャワーの後ろ姿を見ながら不敵な笑みを浮かべるのでした……。

『優駿劇場』2巻122ページより

 

そしていよいよ始まったオールカマー本番。ツインターボがいつものように好スタートからの大逃げを見せ、ハシルショウグンやライスシャワーを含む後続馬集団は「3コーナー入り口でターボは必ず失速する」「あんなハイペースを追いかけていったらオレたちも道連れだ」と静観。しかし第3コーナーに入ってもツインターボのペースは落ちる様子を見せません。そこでライスシャワーは異変に気づき、「ターボ……にッ 欺かれたーーッ」「オレたちはターボの作戦に嵌まったんだッ」と叫びます。

『優駿劇場』2巻138〜139ページより

 

ここで史実に基づく解説をしておきますと、前走の七夕賞はツインターボが超ハイペースで逃げを打っており、他馬もつられてペースを乱された結果、最後の直線では全頭ヘロヘロという珍しいレース展開(そういう意味では、「吼えろツインターボ! 全開だターボエンジン逃げ切った!」という名実況も合わせて、こっちの方がツインターボ最高のレースという気もあるんですが)になって逃げ切りを許したという形だったんですが、本レースでは、ツインターボの逃げはそこまでハイペースではなかったのに、他馬が七夕賞の二の舞を恐れてついていかなさすぎた結果、セーフティーリードを許してしまったという形だったんです。本作ではそれを、「ハイペースで逃げてるように見せかけて、後続馬の足を止める」という作戦だったというストーリーに仕立て、ツインターボをずいぶんクレバーな馬のように描いているというわけですね。まあ、この後ツインターボは、七夕賞・オールカマーでの騎手だった中舘英二が「オールカマーで燃え尽きちゃったような気もする」と語るように、筆者が見た有馬記念のような「バカ逃げ→失速惨敗」を繰り返す馬となり、バカ馬という印象が強くなるのですが……(ウマ娘はこの辺が反映されていますね)。

なお、本作では他にも、キャリアわずか3戦目のフサイチコンコルドがゴール直前でダンスインザダークを差し切り、「コンコルドだ! コンコルドだ! 外から、音速の末脚が炸裂する! フサイチコンコルド!」という名実況(個人的には、テスコガビーが桜花賞史上唯一となる大差勝ちを収めた時の「後ろからはなんにも来ない!」と並んで好きな実況です)を生んだ96年の日本ダービーや、故障で1年間休養していたトウカイテイオーが奇跡の復活(前回の出走から1年のブランクがあってのGI勝利を果たした馬はこの時のトウカイテイオーが唯一)を果たした93年の有馬記念などといった名レースの回もあり、特に後者は、「3度めの骨折から復活したテイオーさんは、走れる喜びだけで満足してしまうはずだ。オレはテイオーさんにそんな走りをしてほしくない。みんなで野次ってテイオーさんの闘争心を蘇らせるんだ」というビワハヤヒデの発案により、

『優駿劇場』3巻86〜87ページより。ビワハヤヒデ、漢よ……

見開きで12頭の馬がトウカイテイオーに罵声を浴びせるシーンがあり、これが他の漫画で見たことがない凄い絵面になっていて素晴らしいです。

『優駿劇場』3巻74〜75ページより。ちなみに先頭のメジロパーマーも90年代を代表するバカ逃げ馬の一頭です。ツインターボと違うのはたまに宝塚記念や有馬記念というGIでも勝ってるところ。ウマ娘的にはナイスネイチャやマチカネタンホイザもいますね

 

ちなみに、本作掲載時の『漫画ゴラク』は、同時に『銀牙伝説WEED』(高橋よしひろ)も連載されていたため、「犬が喋り、馬も喋る」という異様な誌面になっていました。

 

記事へのコメント

追記:ライスとパーマーについてウマ娘の話がないのは、この原稿書いてた時点ではまだアニメに出てなかったからです。パーマー、ヘリオスとのズッ友コンビバカ逃げでまさかの大穴となった有馬、バカ逃げから直線でナイスネイチャにつかまったと思った瞬間二の足で差し返して逃げ切った阪神大賞典、春天もアニメの描写よりずっとマックイーンに食らいついてての3着と、この頃は本当強いし面白いレースをしていました。

やまさき拓味やまさき拓味先生の作品には何度も感動させられました。
そして私は競馬好きです。
しかし、やまさき拓味先生の競馬漫画だけは・・
馬が人間以上人間以上に感情的で、他の馬の情報とかレース情報とか
それどころか世相とかまで熟知している。
厩舎の人達の努力やファンの愛情を理解していて涙を流しながら走る。
ダービーの価値を認識しているからこそプレッシャープレッシャーに負ける。
サンドイッチマンじゃないけれど
「ちょっと何言ってるのかわからない」
の世界でした。
素直に楽しめるならそれでいいでしょうし、
実際にそうして楽しんでいる人が多いから
漫画はヒットしているわけですが。

それと、ゲームも私はやりませんが、
十年以上前に「競走馬育成ゲーム」に手を出しました。
ダービーを狙える馬を育成したくてそういう血統の馬を
購入しようとしたら、ゲームキャラの牧場主とかエージェントが
「私は(他の馬を)お勧めします」
と、どう考えても1200mまでの血統の馬を押してきて、
「なんで買わないんですか」
「私がこんなにお勧めするのに」
とか言い始めたので、ゲームを開始して一時間も
たたないうちに、ソフトをゴミ箱に叩き込みました。
あれ以来、ゲームはひとつもやっていません。

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