伝説の超・忍犬バトル時代劇―高橋よしひろ『甲冑の戦士 雅武』

伝説の超・忍犬バトル時代劇―高橋よしひろ『甲冑の戦士 雅武』

 私事ですが、昨年11月に当方、「義勇一心 高橋よしひろ画業50周年記念展」を見るために初めて、秋田県にある横手市増田まんが美術館を訪ねました。銭がないので、鍛冶橋駐車場発のクソ安夜行バスで盛岡まで行き、盛岡に住む知人の車に拾ってもらって横手まで往復、その日のクソ安夜行バスで帰る0泊3日という大学生みたいな旅程で……。や、当方、『銀牙』シリーズかなり好きで、特に『銀牙伝説WEED』(『漫画ゴラク』99〜09年連載。シリーズ第一作『銀牙—流れ星 銀—』の子・ウィードを主役とした二世もの)の59巻2〜4話は何度読んでも泣いてしまう人間なものでして。

 

『銀牙伝説WEED』59巻50〜51ページより。ここからの展開、いつ読んでも泣いてしまう

 

 このまんが美術館がある増田という街は、平成の大合併で今は横手市の一部となっていますが、05年までは独立した町で、人口1万人足らずという秋田でもあまり大きくないところです。このような場所になぜこういう施設ができたのかというと、ここが矢口高雄の故郷だからでして、この辺の経緯は『9で割れ!!』の講談社漫画文庫版4巻に収録されている読切「銀行マンの夢」(初出はマンガジャパン事務局発行の同人誌『まんじゃぱVol.2』(99年10月)、電書版には未収録)に描かれております。

 

『9で割れ!!』講談社文庫版4巻246〜247ページより

 

 企画展は、『銀牙』シリーズを中心に、『悪たれ巨人』など犬以外の漫画も含めた高橋よしひろ作品すべての原画等を展示していたほか、「高橋よしひろ先生への100の質問」コーナーや、キャラクター人気投票(筆者は狂四郎、赤カマキリ、GB、スミス、ロケットに投票しました。赤カマキリというのはそういう名前の犬でして、カマキリという名前の犬の息子で、赤カマキリ・カマ次郎・黒カマキリという「命名規則どうなってるんだ」としか言いようがない三兄弟の長男です)などもある立派なもので、また併設のカフェで出されていた期間限定コラボメニューも、『銀牙—流れ星 銀—』の大ボス・赤カブトの鳴き声「ファボォーッ」を使った「ファボォーッロネーゼスパゲティ」とか、プチシューとチョコスティックを岩と木の枝に見立てて赤カブトの「牙城」を再現したデザート「ワシの牙城は崩れはせん!!」とかセンスのあるメニューがあって、感心することしきりでした。

 

横手市増田まんが美術館公式サイトよりコラボメニュー表。筆者たちが行った後に新メニューとして、バウムクーヘンを抜刀牙(シリーズに登場する、ジャンプして回転しながら相手に突っ込んで牙を突き立てる必殺技)に見立てた「絶・天狼抜刀牙」が登場するなど、ほんとセンスあります
『銀牙—流れ星 銀—』超!合本シリーズ5巻28ページより。これは原作での牙城

 

 で、企画の一つとして、

・コラボメニューの注文

・ミュージアムショップでグッズの購入

・増田の街の2箇所を見て回る(観光協会のサイトを見ると分かるんですが、増田は「豪華な内蔵」という東北内陸部の一部以外ではあまり見られない独特の様式を持った建物が多く、見学かなり楽しいです)

ことによりオリジナルグッズプレゼントというのがあったんで、ミュージアムショップで何かグッズを買おうとしたのですが、そこで信じられないものを見つけてしまい即座に買ってしまいました。

 

 

 れ……令和の世に『甲冑の戦士 雅武』のグッズが……!?

 というわけで、今回の紹介は一部でカルト的な人気を誇る高橋よしひろ『甲冑の戦士 雅武(ガム)』です。連載は『週刊少年ジャンプ』88年35号〜50号。この連載期間で分かると思いますが、ヒット作が終了した後に開始され、そして短期間での打ち切りという結果を迎えたという、ジャンプではよくあるパターンの作品の一つですね。

 本作の舞台は戦国時代。他国侵略の戦には加わらず、しかし侵略者に対しては非情なほどの武勇をふるうという忍の集団「陽炎一族」の少年・蘭人(ランド)と、陽炎一族の最大の武器である忍犬「牙忍」の将・雅武のコンビが主役です。「忍犬」という存在自体は『銀牙』の時点ですでに出ており、その代表である伊賀忍犬・赤目は『銀牙』シリーズでもトップクラスの人気キャラ(先述の高橋よしひろ展での人気投票でも、12/30時点の中間結果で4位に入っています)であったこと、また、高橋は時代劇好きらしいということもあっての企画だったのかと思われます。

 ただ、『銀牙』での忍犬は、「ムササビと間違われるくらい俊敏に木の上を飛び回ることができる」「鎌を口にくわえて武器として使うことができる」「敵の頭上から飛び降りて牙を突き刺す『雷花剣』という技が使える」という程度のある程度現実的なものだったのに対し、本作での「牙忍」はかなりスーパーな存在となっているのが違いです。「脳を活性化させる秘薬が塗られた針がある兜を犬にかぶせる」という秘術「牙忍降ろし」によって生み出される牙忍は、作品タイトル通り甲冑を身に着けており、そして人の言葉を喋ります。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻20ページより

 

 さらに、念動力を使って他の人間の体を操ったり、テレパシーで会話をしたりといった超能力も使えます。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻22ページより

 

 さらには馬に乗って敵陣へと切り込んでいきます。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻25ページより

 

 そして侵略軍の大将の首をアッサリと取ると、かっこいいセリフとともに馬で去っていきます。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻37ページより

 

 第1話からこのフルスロットル具合ですよ。あまりにも最高すぎる。しかもこの作品、ここからさらに加速していくのです。

 2話目になると、狼の子で雅武の旧友であったが、「戦国の世では力こそ全て」と悪の牙忍使い「牙魔」に降った「白耳紋怒(ベルモンド)」が登場、口にくわえた幅広の蛮刀を翼にして空を飛び、体から霊光(オーラ)を炎にして放ち龍の姿となります。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻84ページより

 

 さらには、陽炎一族の里を壊滅させるため牙魔が放った、爆弾を背負って空を飛んできては自爆特攻を仕掛ける「羽根蟻隊」という牙忍軍団まで襲ってくる始末。

 

『甲冑の戦士 雅武』1巻136〜137ページより

 

 この後、羽根蟻隊によって里が壊滅した蘭人と雅武は木下藤吉郎に仕えることとなり、桶狭間の戦いで大活躍をします。

 

『甲冑の戦士 雅武』2巻34〜35ページより

 

 とまあ、こんな感じでひたすら面白いのですが、やはりいくらなんでも現実から乖離しすぎていたのが読者には受けなかったのか、牙魔とはあっさり決着がつき、先に書きました通り、あえなく短期打ち切りとなりました。

 この後高橋はしばらくの間、『銀牙』のようなヒット作には恵まれないながらもいくつかの雑誌で継続的に作品を発表する時期が続きますが、99年に『WEED』を開始させるとこれが大ヒット。

 そして、このヒットを受けてか、本作も02年にジャンプコミックスセレクション全1巻で復刊されました。この際には、「銀牙外伝」というサブタイトルが新たにつけられており、「堂々と嘘をつくな」と読者に思わせたものですが、05年には『コミック時代活劇』(ホーム社、04〜06年)で「牙忍」という読切(単行本では、『銀牙—流れ星銀—真・外伝』の、12年に発売された集英社ジャンプリミックス版にのみ収録。こういうのが時々あるからコンビニコミックっていうのは侮れないんですよ)が発表され、さらに09年から連載が始まった『銀牙伝説WEEDオリオン』(ウィードの次男・オリオンに主人公が交代)ではしれっと「牙忍」という言葉が普通に登場するようになり、『オリオン』終了後には”「銀牙」シリーズ誕生30周年記念特別連載”として、天正伊賀の乱を背景に赤目の先祖である伊賀牙忍の活躍を描く物語であり、「犬は人間の言葉を話せない」「犬は刀を使えるが抜いたあと鞘に戻すことができない」など微妙にリアル方向に寄せた「リブート『雅武』」とでも言うべき『銀牙伝説赤目』が短期連載されたことなどあって、気がつくと「『銀牙外伝』と言ってもいいのかもな……」という感じになりました。

 

『銀牙伝説赤目』2巻63ページ、138ページより。しかし、人間は犬の言葉を理解できないのに、犬は人間の言葉を「織田家」とかの概念までのレベルで理解しているので、犬のほうが人間より明らかに頭が良い気がします

 

 なお、『赤目』の終了後、ゴラクでは『銀牙〜THE LAST WARS〜』(赤カブトの子であるモンスーンにより奥羽軍の少なくない犬が殺害される事件が起き、「モンスーンにも、親を殺され、自分も幼少時に犬に殺されかけたという過去がある。憎しみの連鎖を断ち切らなければならない」と対話による和平の道を孤独に説く長兄・シリウスと、「兄貴の理想は正しいかもしれないが、俺たちはそこまで犬ができてない」と徹底抗戦を主張するオリオンを中心とする奥羽軍他犬との対立が起きるという、かなりヘビーなテーマの一作)が連載され、そして今も最新作『銀牙伝説ノア』が連載中です。同作では現在、犬たちが地球を奪いに来た宇宙生命体と戦っています。

 

『週刊漫画ゴラク』2022年1/7・14号214ページ、1/21号216〜217ページより

 

 銀牙シリーズを読んできてなかった方々はにわかには信じられないと思いますが、銀牙シリーズを長年追ってきたオレらだって去年からのこの展開は信じられねえんだ。ただ、ここまでの『ノア』の説明をしようとすると、『THE LAST WARS』終盤の重大なネタバレが不可避となるので、気になった方は『THE LAST WARS』から読んでください(本当はシリーズ全部読んでと言いたいところですが、そうすると軽く100巻超えるので、さすがに気軽には勧められない……)。

 ちなみに、先述の「高橋よしひろ先生への100の質問」コーナーでは、以下のような質問と答えがありました。

 

 

 ……なら、しょうがねえな!

 


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