麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、先日放送された「マンガ家ガチアンケート・我妻幸編」の模様をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。
日本語がわからないまま『ドラゴンボール』を読んだ
川島 今回のテーマはマンガ家ガチアンケート。昨年末にやりました「マンガ沼大賞2023」で第1位に選ばさせていただきました、山内さん推薦のあの作品の先生が来てくれました。『血を這う亡国の王女』作者・我妻幸先生です!
我妻 お招きいただいて、ありがとうございます。我妻幸です。
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山内 男性でした。
川島 男性でございました。まだ性別もわからないまま、作品に2人ともがハマっておりまして、呼ばさせていただきました。我々から言うのもあれなんですけど、反響というのはあったんでしょうか?
我妻 はい。それまで連絡取れてなかった友人とかも……。
山内 ショーレースの優勝みたい(笑)。
我妻 「これから先生って呼ぶよ」と言ってきて。「やめろよ!」と言いました(笑)。
川島 まだ始まったばかりの作品なので、聞きたいこともたくさんあります。先生は、テレビには出演されたことはあるんですか?
我妻 ないですね。今回初めて表に出てきて賞を取れて、本当にありがとうございます。
川島 じゃあメディア初登場だ。貴重な機会をありがとうございます。まずは我妻先生のプロフィールから紹介して参りましょう。山内さん、お願いします。
山内 我妻幸先生、ブラジル出身の39歳。日系ブラジル人三世です。
川島 え? そうだったんですか?
我妻 そうですね。でも血自体は全部日本ですね。日系人なんで。生まれがブラジルで、小学3年の夏に日本に。
山内 小学3年の夏に日本に移住。で、日本語がわからない状態で読んだ『ドラゴンボール』に感動して、マンガに興味を持つようになると。
川島 小3のときは、ポルトガル語しかわかんないという状況ですか?
我妻 そんな状態でした。でも『ドラゴンボール』は絵だけでわかるんですよ。
川島 すげえな、やっぱ鳥山先生! なんと言っても絵の美しさもあるし、ストーリーにわかりやすさもあるし。そういう作品はブラジルにはまだなかったんですかね?
我妻 ブラジルには『クレヨンしんちゃん』みたいな家族ものがあったりしたんですけど、手からかめはめ波出すとか、「何このでっかい波動拳!」みたいな。
川島 まずマンガに興味持ったのは『ドラゴンボール』ということですよね。
山内 そして大学卒業後、介護の仕事やマンガ家のアシスタント、学習用マンガで食いつなぎながら、34歳のときに投稿したマンガ『360°の思い出』が、アフタヌーン四季賞2020春・準入選。
川島 先生、34歳で準入選って、マンガ家さんとしてはけっこう遅いかなと思っちゃうんですけど。
我妻 そうですね。マンガは大学卒業する頃に始めたんですけど、一度離れたりもしてて。
川島 いろいろ他のお仕事をやろうかなと。
我妻 ちょっと遠回りして、また描こうと思って出したのが、アフタヌーン四季賞だっだという。
川島 ちなみに、どなたのアシスタントをやられてたんですか?
我妻 『烈火の炎』の安西信行先生です。安西先生が『MIXIM☆11』というマンガを描いてるときに、アシスタントしたことがあります。それに以外にもいろいろヘルプでやってました。
川島 いろいろな先生のところで勉強を兼ねて。
山内 そして、36歳のときに現在の担当編集者と出会い、『血を這う亡国の王女』でマンガ家デビュー。すごい、これがデビュー作なんですね。
川島 これ、あまりにもストーリーと絵がきれいで、「前に何か描いてはったんかな?」って調べたりはしたんですけど、これがデビューだったと。
我妻 そうですね。それまでは学習塾のマンガを……。
川島 学習塾?
我妻 こちらにあります。
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川島 え、こういうの描いてはったん?
山内 激レアじゃないですか(笑)。
我妻 書店で売ってるわけじゃないんですけど……。
川島 塾で配布されるやつということですよね。
我妻 そうです。子供たちに必要な情報をわかりやすく伝えるという。
山内 これ、めっちゃいいですやん。『おくのほそ道』なんか活字で読むとなったら、もう子供は無理じゃないですか。これをこのクオリティでやってくれるって、これ読みやすすぎるでしょ。
川島 だって、芭蕉にこんな躍動感いる(笑)?
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川島 すごいですね。『枕草子』『徒然草』も。このマンガやったら、我々もめっちゃ勉強したやろね。でも今見たら、やっぱ幸先生の絵だわ。『血を這う〜』の感じだわ。当たり前やけども、こういうのもマンガ家の先生が描いてるんだね。
山内 こういうのをどれぐらいの期間されてたんですか?
我妻 2、3年ほど。イラストとそのマンガを制作させていただきました。
川島 こういうの描いてはったんや。
我妻 はい。それが何冊もあります。
川島 初めてのパターンですね。これ描いてる人いるんや。こういうの読んでたもんね、ちっちゃい頃。こういうのを仕事としてやって、やっぱりこのときは「オリジナルも描きたい」という気持ちがあったんですか?
我妻 描きながら思ったんですね。「もう1回商業誌やってみたい、やっぱりマンガは面白いな」って。
川島 やっぱり描いてて楽しい。じゃあ自分のストーリーやったら、もっと楽しいだろうという。だからこれも修行の1つよ。
山内 現在の担当編集者と36歳のときに出会ったということですけど、どう出会ったんですか? 持ち込みしたんですか?
我妻 僕、「描きたい」と思った瞬間に、ネームいっぱい描いたんです。自分の思いで。
川島 まずは溜まってたものをバーンと描いたんや。
我妻 で、それを送ったらすぐ連絡が来て、「一生懸命責任を持ってやりますから、担当させてください!」って。
川島 すげえ! そうなんですか!
担当編集 言いましたっけ(笑)?
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川島 本人が言ったと供述してますよ(笑)。「ぜひやらしてください! 全部責任を持つ!」。言ったたんですよね?
担当編集 言いましたっけ……(笑)。じゃあ、そういうことにしといてください
川島 ネームを最初、読まれたんですか?
担当編集 最初、新人賞で応募してくださったときに、ネームと、あと『おくのほそ道』と『枕草子』が作画見本で送られきて。
川島 なるほど、これが作画のカタログになったわけだ。
担当編集 そこで「すごい絵を描く人いるな」と思って、手挙げさせていただいて。
川島 やっぱりよかった。こういう(学習マンガの)仕事もちゃんと真面目にやってて。
山内 つながってますよね。
川島 もったいない画力ですもん、これ。遠回りしたけど、これも全部意味あったんですよ、人生で。
「まず姫をとことんいじめましょう」から始まった復讐劇
川島 続いては、現在連載中の我妻先生のデビュー作『血を這う亡国の王女』の作品紹介です。山内さん、お願いします。
『血を這う亡国の王女』(スクウェア・エニックス)
●2023年3月〜「ガンガンONLINE」にて連載中。
●単行本は現在第2巻まで発売。
●物語の舞台は「ハリ王国」の「サンミサ娼館 特別自治区」にある娼館。
●主人公は娼婦のプリシラ(エビータ姫)。
●小さな国で慎ましくも幸せに暮らしていた「バタリア王国」のエビータ姫。
●しかし隣国の「ハリ王国」から襲撃を受け、領地を奪われ家族も殺されてしまう。
●生き残ったエビータ姫は娼館に売られ、「娼婦のプリシラ」となり、領主の第三王子に平伏す日々の中、復讐の時を待っていた。
●娼婦となった王女による復讐マンガ。
山内 これが1巻からもうぶっ飛ばしの内容で。展開もスピード感ありましたし、画力もすごいというので、吉本興業の伝説の社員・高山さんに僕は聞いて読み出したんですけど(笑)。
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川島 あいつ吉本なんですかね(笑)? マンガ読んで楽屋におるだけやないですか。
山内 川島さんも僕が読んですぐ読んでましたよね?
川島 山内くんが「これおもろいっすよ」と言ってくれて、空き時間にすぐ楽屋で読んで。おもろいわ。やっぱりとんでもない画力じゃないと、これ表現できないですもん。この豹変っぷり。そういったところも全部含め、掴まれたなあ、ということで、大賞になりましたが、もうちょっと深掘りしたい。ここからは先生に書いていただいたアンケートをもとに、作品の魅力に迫っていきたいと思います。最初の質問こちら。
『血を這う亡国の王女』の作品の設定を思いついたきっかけは何ですか?
川島 先生の回答はこちら。
数年前に男女が互いに殺し合う戦争マンガを考えていたことがあり、『血を這う亡国の王女』にところどころ反映させたかも。
でも、それよりも、大部分は担当編集との打ち合わせで一から作り上げました。
川島 まず、男女が互いに殺し合う戦争マンガを考えていた?
我妻 当時、「MeToo運動」もあって。「でも近代兵器だったら腕力関係ないから、男女が互角に戦えるじゃないか」と思って。「人類を男と女に分けて殺し合ったら面白いんじゃないか」と思ったんです。
川島 なるほど。ありそうでないなと。
山内 ないですね、確かに。
我妻 そういったところで反映させたところもありますね。でも本当に最初から担当編集さんと一緒に作っていったんですよ。「復讐ものがいいんじゃないか」という話をしたので、自分の思ってる復讐を反映させていった、みたいな。
川島 先生と編集さんでディスカッションされたということですけど、なぜ復讐をテーマにしたんでしょうか?
担当編集 やらしい話、売れるので……。
川島 売れるんだ! でも確かに復讐ブームですよね。山内さんが紹介するやつも、だいたい復讐……。
山内 いま言われてみて気づきましたね。だいたい復讐(笑)。
川島 いかに残酷に復讐するかという。
山内 痛快さもあるし、うわーっていう気持ちになるの復讐ものですね。
川島 見てて気持ちいいし。連載を軌道に乗せるためには、トレンドとして復讐というのがまずはいいだろうと。ただ、これは設定がちょっとSFですし、存在しない国の話ですよ。これは誰が出したんですか?
我妻 2人で話し合ったのもあるんですけど、最初、娼館街を作るときに、日本の吉原や遊郭を西洋に持ってきたら何かいろいろこねくり回せるなと思ったのが始まりかもしれない。ただ、主人公が王女というのは、最初から決まってました。
山内 「王女の復讐劇」というのがまず決まっていた?
我妻 担当編集さんから、「まず姫を、とことんいじめましょう」と。
川島 そうなんですよ。そのほうが復讐の幅がね。いわゆるフリの部分。
我妻 だからやれるところまでいじめました。
川島 主役がここまでいじめられるってあんまりなくない?
山内 ど頭がもうめちゃめちゃ苦しい気持ちでスタートして、復讐始まった瞬間の反転具合が……。
川島 確かにね。けっこう「復讐貯金」貯まってますもんね。ひどいよなっていう。簡単に体も売られてしまってますし。表現としては残酷なものも多いですけど。
山内 最終話の構想は、もう結構決まってるんですか?
我妻 大まかにはあるんですけども、でもほとんど決まってない状態で、担当さんと一緒にその間を埋めていくっていう。
我妻 だからよろしければお2人で、『血を這う〜』がどんな方向に行ったら面白いかを……。
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川島 こんなにプライドない人初めて見ました(笑)。うかつに喋れないですよ。売り上げ下がっても嫌やし。それぐらい、作りながら進めてるという。
我妻 本当に「読者が選ぶゴール」なので。
川島 すごいっすね。このタイプの先生、今までいなかったね。「だいたいラストは決めてます」という人が多いけど、めっちゃ模索中?
我妻 模索中であります!
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『半沢直樹』のように、やり切ったほうが面白い
川島 続いての質問こちらです。
『血を這う亡国の王女』の中で、先生のお気に入りシーンを教えてください。
川島 回答はこちら。
2巻目98、99ページ、見開きの出産シーンです。
山内 これはサンミサから脱出中、行き止まりとなっていた岩を破壊したときに、妊娠していた娼婦が出産したシーンです。
川島 命の誕生というのを描き表したシーンですね。これは、どういったところがご自身がお気に入りなんですか?
我妻 このマンガ、ただ復讐して殺すだけじゃないというか。それ以外のところも、1話1話いろいろ見つかるんですよ。女性の戦いってそういうことだけじゃないなって。だからネタが狭められるんじゃなくて、広がっていくんですよ。いろいろなことが描けるなという。
川島 出産も、戦いといえば戦いですよね。これは時間かけて描かれたんですか?
我妻 そうですね。1日かけて、線を引き続けたような気がしますね。
川島 さて、我々も大好きなシーンを、1個ずつ提出したんですけど、なんと2人とも同じでした。それがこちらです。
1巻48ページ
ハリ王国で生きるために娼婦として体を売ってきたプリシラが、男への復讐の第一歩を踏み出したシーン
山内 ここがびっくりしたんですよね。
川島 これが(本来は美しい顔の)プリシラなんですよね。もうこの世のもんじゃないですよね、顔が。やめたんですよ、人間を。さっきまですごい可愛らしい表情で、娼婦のときなんか、偽りの姿なのでめっちゃ可愛いんですけども、一発でこんな表情に変わっちゃったじゃないですか。
山内 読んだ人全員だと思うんですけど、このページ見た瞬間に、「あれ、俺、何ページか飛ばしたかな?」ってちょっと戻りますよね(笑)。
川島 だから復讐に燃えるとこういう顔になってしまうという。これはインパクトがすごかったんですけど。
我妻 ありがとうございます。僕も好きで、素敵な笑顔だなって。もう自分だったら、ここまで追い詰められれば多分こういう顔になるだろうなという思いで。ただネットの反応で、「あまりにゴブリン顔しすぎじゃないか」「造形しすぎじゃないか」って。
川島 クリーチャー顔になっちゃってる。
我妻 その意見もあった。担当編集さんからも、「先生、表情もうちょっと抑えましょうか」って。
川島 でも、これはやり切ったんですね。
我妻 これはもう勢いでいきましたね。
山内 俺はこれ見たときに、『半沢直樹』のときの香川照之さんの演技を思い出しました。そのぐらいやってくれたほうが楽しいという。
川島 誇張という面でも、インパクトは大でしたね。先生はどうなんですか? このプリシラのように怒りを溜めて溜めて溜めてドン!って爆発させるのか、それでも怒らない人もいるし。
我妻 バッチリ溜めて、いつの間にか消えていくような感じです。
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川島 消えます?
我妻 自分で消化しながら、いつの間にかその怒りはどっか行っちゃうんだろうなっていう。
川島 言うたら編集の方とも一緒に作るわけで。そりゃ人間なんですから、ストレスも溜まるでしょう。
我妻 それはもちろん溜まります。
川島 そういうときはどうしてるの?
我妻 でも基本、1日経つと脳内で整理されるんで。相手が言いたかったことと自分が考えてることの違いがちょっとずれてるときがあるから、そういう怒りが出てくるのかなって。
川島 なるほどね。目的は一緒なんだから。
我妻 そうです。だから絶対合うんです、どっかでは。
妻の影響でマンガ家に?
川島 さあ続いては、マンガ沼恒例の質問です。
マンガを描くときの七つ道具教えてください。
川島 先生の回答こちらです。
・液晶タブレット
・パソコン
・タバコ
・コーヒー
・ガム
・イヤホン
・スマホ
川島 電子機器多いですね。これはお写真あるんでしょうか?
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山内 え、机どうなってます?
我妻 手前に引っ張ってる状態ですね。
川島 だから座りながら描いておられるという。
我妻 そうです。カラーボックスとかテレビ台で組み立てた机なんで、ちょっと不格好ですけど。
川島 大量にガムもある。ガムも噛むし、タバコも吸う。
我妻 タバコを減らすためのガムです。
川島 アスカのフィギュアがありますけど……。
我妻 これは、うちの妻が一時期エヴァンゲリオンにハマってて、大量に買って、侵食してきてます。
山内 奥様は、マンガ家になってから出会ったんですか?
我妻 いや、マンガ家になる前ですね。
川島 学習マンガのときはもう出会ってる?
我妻 出会ってますね。大学生のときに出会ってます。
川島 結婚はおいくつでされたんですか?
我妻 結婚は最近ですね。2年ぐらい前かな。大学のときから同棲を始めて、ずっと一緒に暮らしてて。
山内 まだヒットしてないときに結婚したってことですか?
我妻 そうですね。
川島 同棲が10年以上ってこと?
我妻 20年ぐらいです。
川島 それはでも、奥さんからしたら、就職というか堅い道に行ってほしいと思ったと思うんですよ。
我妻 それはですね……うちの妻もマンガ家なんですよね。
川島 なるほど。
我妻 『レプリカ 元妻の復讐』の作画を担当している、ひらいはっちがうちの妻で。
山内 復讐してる!
川島 復讐夫婦や。でも、画風めっちゃ似てますね。
我妻 そうです。ちょっと手伝ってます。
川島 奥様は我妻さんよりデビュー早かったんですか?
我妻 連載自体は僕より早いんで。でももともと先に、妻がマンガを描いてたんですよ。小学校のときに。それを大学生のときに見せてもらって感動して。それで「俺もマンガ家を目指す!」となって、妻も「じゃあ私も!」って、気づいたら妻になってました。
川島 すげえな。お互いで刺激し合って、勇気をもらってということだ。職場の写真、もう一度ご覧いただきたいと思います。
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我妻 右側の机、手前が妻のです。
川島 フロアとしては一緒なんだ。
我妻 そうです。同じ空間で描いてます。
川島 だからエヴァンゲリオンが侵食してくるんだ。仕切りがないからね。作業現場が、夫婦一緒っていうの珍しいですね。
山内 気散らないですか?
我妻 いや全然。お互いに自分の区域でやってます。何年もやってるんで、こういう状態です。
川島 そうか、同棲してるときから当たり前なんですね、夫婦で作業するのは。
最後に、我妻先生から直筆サイン色紙、オリジナルTシャツをいただきました。
川島 我妻先生、今日はお忙しい中貴重な回答、そしてTシャツまで、本当にありがとうございました!
*次回放送は「細かすぎるマンガクイズ王」をお届けします。
(構成:前田隆弘)
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