「オレたち何を見せられてるんだ!?」が氷解する頃には、きっと『古代戦士ハニワット』にハマっているに違いなく…

「オレたち何を見せられてるんだ!?」が氷解する頃には、きっと『古代戦士ハニワット』にハマっているに違いなく…

先日、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』監督の庵野秀明が『プロフェッショナル仕事の流儀』でこう言っていた。

「謎に包まれたものを喜ぶ人が少なくなってきている」

「謎に包まれた作品=面白い」とは限らないとしても、早い段階で「これは確実に面白さのある作品ですよ」とわかりやすく提示されないと、ついていくことをあきらめる人が増えている……というのは体感的にも納得できる。

その流れでいうと、『古代戦士ハニワット』は時代に逆行したマンガなのかもしれない。なにせ第1話を読んだ時点では「でっかいクエスチョンマーク」が浮かぶだけなのだから。

このタイトルと表紙を見た人はまず、「埴輪をモチーフにしたヒーロー物なんだな」と予想するだろう。その予想は間違いではない。しかし。

『ハニワット』は、土偶のような物体が長野県の長野善光寺市に現れる場面からいきなり始まる。すでに機動隊が周囲を取り囲んではいるが、おそらく手も足も出ない状態なのだろう。土偶の背後を見ると、なんか建物が派手に壊れてるし。

「なるほど、この土偶を退治するためにハニワットなるヒーローが登場するのだな」と思いきや、現れたのは大勢の巫女や神職たち。

弓のような楽器を一斉にビョイイイイン、ビョイイイインと鳴らしたり、鈴のようなものをシャアアアアン、シャアアアアンと鳴らしながら舞い踊ったり。それが何を意味するのか特に説明されることもなく、場面は進んでいく。

巨大な土偶と、それを取り囲む人間たちの不思議な儀式。わけのわからない光景を目にした機動隊員は、思わずこう漏らす。

そう思うよね。そしてきっと読者もそう思っている。

楽器や舞による謎の祭祀を経て、表紙に出ていたヒーローらしき存在(作中では埴輪土【はにわど】と呼ばれる)が登場、巨大土偶とがっぷり四つで組み合う。その光景をトラックの車中から見ていた少女が一言。

彼女の発した言葉の中に、「伽耶系」「オグナ」「特殊祭祀」と知らない用語が3つも出てくる。ますます何が何だかわからなくなる。これはどういうことなんだ。

そこから物語は回想シーンに突入。場面は30時間前に巻き戻る。

ここまでの展開は「つかみ」としては圧倒的であるものの、これが何なのか、最終的に「面白い」に結びつくのかどうかは何とも判断しようがなかったのだが、しかしここから物語は着実に面白くなっていくのだ。

授業内容が完全にベールに包まれた「特殊祭祀専攻学科」とはいったい何なのか。

この2つの御輿……「一ノ輿」「二ノ輿」は何のために存在するのか。

「真具土」「仮具土」とは何なのか。この2つの違いは何なのか。そして「剣技型」「光撃型」とは。

回想シーンではこんな風に、さまざな用語・設定が登場するのだが、この作者は特殊な設定を一つ一つ見せていくのが非常に上手い。書き忘れていたが、作者は『鈴木先生』でおなじみの武富健治。

物語における独自の設定について、設定を「説明」するマンガはよくあるが、『ハニワット』ではその設定を「説明」するというよりは、それら一つ一つが明かされていく過程そのものがストーリーになっている。謎は徐々にしか明かされていかないのだが、「なるほど、こういう理で動いているのか」という大枠がだんだん呑み込めてくる。

30時間前の回想が今の時制に追いついて、機動隊員の「オレたち何を見せられてるんだ…!?」に戻ってくる。そのときには、最初の時点で何が何だかだった読者にも、事の次第がきちんと分かっている。ちなみに1巻の序盤で登場したこのセリフが、再び登場するのは3巻の終盤。つまりその「30時間」を、時間をかけて丁寧に描いている。

ついでに言うと、冒頭のシーンの決着がつくまでには4巻を費やしている。物語の進行スピードは遅いけれども、そのぶん物語世界へ着実に、ズルッ、ズルッと引きずり込まれていく……『ハニワット』がもたらすマンガ体験はそういう類いのものだ。

4巻の巻末にある作者コメントによると、初代ウルトラマンでたとえるなら「第1話に登場する宇宙怪獣ベムラーとの戦いを映画1本分の間合いで演出する」というコンセプトで描いたとのこと。たしかに1巻から4巻までの展開は、(マンガではあるが)映画1本分に匹敵すると言われると非常に納得できる。

初代ウルトラマンのたとえを用いたが、映画1本分の間合いで「人知を超えた存在に組織がどう立ち向かうか」を描いたという意味では『シン・ゴジラ』的なものを感じるし、古代からよみがえった意思疎通のできない存在と対峙するという点では『仮面ライダークウガ』的なものも感じる。魂を鎮めるために大がかりな儀式を用いるという点では、映画『来る』を思わせるものもある。

実際、それらの作品名は巻末のあとがきにも登場している。では『ハニワット』がそれらの作品の影響下にあるのかと言えば、一概にそうとも言えない。実はこの『ハニワット』、作者が中学生時代に書いた同名マンガを下敷きにした作品なのである(一時期、その中学生時代の作品が公開されていた)。作者から見れば後発でも、世間の人からは先発に見えるに違いないそれらの作品とかぶらないように苦心したそうだが、避けようのない部分についてはもう腹をくくって描いたらしい。

ストーリーや設定の話ばかりしてしまったが、絵も非常に特徴的だ。冒頭に登場した土偶らしき存在は、実存する「仮面の女神」という土偶をモチーフにしたものだが、似たような見た目のはずなのに、マンガでは得体の知れない不気味さを感じる存在になっている。武富健治の作品は濃いタッチの絵で知られるが、この『ハニワット』はその濃いタッチが作品の魅力をより強いものにしているように感じる。

というわけで、最初からスイスイ呑み込める口当たりのよいマンガではないが、読めば読むほどその魅力から離れられなくなる武富健治『古代戦士ハニワット』、試し読みからでもいいのでぜひ一読をおすすめする。本音を言うと、本当の意味で「第一話」にあたる部分は1巻~4巻までの内容なので、できればまず4巻まで読んでみてほしい。

ちなみに、5ちゃんねるなど他のマンガ系掲示板にはスレがないのに、なぜかマンバにはハニワットスレがあり、わりと書き込みがあるので、こちらも参照してみてください。

▼『古代戦士ハニワット』のクチコミ一覧
https://manba.co.jp/boards/92882/topics

記事へのコメント

マンバのハニワットスレの者です。アプリの通知でハニワットについての記事が公開されたと知って興奮しながら読んだのですが、「古代戦士ハニワット」のプレゼンとしてあまりにも完璧で感動しました…!

特にこの部分

物語の進行スピードは遅いけれども、そのぶん物語世界へ着実に、ズルッ、ズルッと引きずり込まれていく……『ハニワット』がもたらすマンガ体験はそういう類いのものだ

もう、激しく頷いてしまいました(笑)
本当にたくさんの人に味わってほしい感覚です。

古代の埴輪戦士ということでモロ被りしてる「カムヤライド」も面白いぞ こっちは古墳時代のヤマトタケル伝説を元に、古代に存在した仮○ライ○ーの活躍を伝奇色たっぷりに描いている

古代の埴輪戦士ということでモロ被りしてる「カムヤライド」も面白いぞ こっちは古墳時代のヤマトタケル伝説を元に、古代に存在した仮○ライ○ーの活躍を伝奇色たっぷりに描いている

@名無し

いやホント併せて読むべき
久正人先生と武富健治先生の対談もおすすめ
https://comicborder.com/episode/10834108156668424669

読み返せば読み返すほど面白くなるのがすごいんだが、人に薦めるハードルは高いなーと思ってたからこういう記事出てくれるの嬉しいわ。

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