現在雑誌KISSで連載中の『古オタクの恋わずらい』、この記事を書いている時点で第9話まで進んでます。
現在の漫画を全て同時進行で読んでいる訳では無いヌルい漫画読みの私が言うのもなんですが、イチオシ中のイチオシ作品です。
本当に面白いですよ。
舞台は1995年の女子高生、佐東恵(通称サトメグ)と42歳になった2021年のサトメグの二つの時系列で進みます。
1995年、17歳高校2年生のサトメグは仙台から神奈川の高校へ転入します。
サトメグはガチオタ(1995年にこの呼び方はありませんが)です。
第1話では前の学校ではオタクであることでいじめのような経験をした描写も。
新しい学校ではオタクであることを隠し、ばれないように取り繕う努力をします。
転校早々世話してくれたイケメン(これも当時はそんな言い方ありません)で喧嘩が強く、人望も厚い委員長に恋をします。
しかし委員長の口から「オタク?死ぬほど嫌い」と聞かされ(第1話)、オタク隠しに必死になって悪戦苦闘していく。
大まかな話の流れです。
といってもニコ・ニコルソンさんのギャグがこれでもかと炸裂する陽気な作品なので、陰鬱な雰囲気は微塵もありません。
では何故こんなにも、とにかくバレないようにサトメグはオタクであることを隠そうとするのでしょうか。
勿論いじめを受けたことが大きな原因ですが、それだけではありません。
そして第9話までに作中で、オタクが迫害される理由には触れられてません。
今回の記事では単行本第1巻に収録された第4話までの内容と共に当時を振り返りたいと思います。
しばしお付き合いください。
(『KISS』のバックナンバーは最新話まで所持してますが第5話から第9話には触れません。第2巻の発売を待ちましょう)
1989年1月7日、元号が昭和から平成に変わります。
私は27歳です。この頃はとある商材の夜間処理をする作業所でバイトして生計を立てておりました。
バブル真っ盛り。色んな事を印象深く憶えておりますがバブル景気の諸々の話はいずれ語ります。
前年の1988年から、ある事件が世間を騒がせてました。
そして平成元年。犯人が逮捕されます。
オタク第一世代の私と同年代でした。
オタクが世間からバッシングされ犯罪者予備軍の様に扱われ、気持ち悪い存在として受け取られる様になったのは明らかにこの事件の犯人が逮捕されて以降です。
逮捕された犯人が漫画、アニメなどの熱心なマニアだったことから「オタク」という呼称が世の中に広まります。
内々の呼称であった「オタク」はあっという間に浸透し、当時バイトしていた作業所のパートのおばさんが「オタクってなぁに」と若い子に聞いたりしてました。
更に別のパートさんの友達が子供に「ロリコンって何?」と聞かれて困ったなんて話も聞きました。
この事件の事が知りたい方は御自身で検索してみてください。ここではこれ以上触れません。
漫画はこの頃大人が読んでもとりあえず大丈夫なくらいには市民権を得ています。
しかしアニメは残念ながらまだ子供、せめて10代後半までの年齢層が観る物としての認識が強かったと記憶してます。
これは私の個人的な主観ですが、世間的に大きく価値観が変わったのは『もののけ姫』の称賛からではないかと記憶してます。
1997年です。
そして4年後の2001年『千と千尋の神隠し』以降はご承知の通り。
42歳のサトメグが生きる2021年に繋がっていきます。
では『古オタクの恋わずらい』の舞台である1995年に移りましょう。
戦後50年というワードがメディアでは多用されてました。
1995年を検索して改めて思いましたが、大変な年でしたよ。
3月に起こった大事件の日。
ニュースで大変なことになっているのを知りながらローリングストーンズの公演を観に東京ドームへ午後から出かけたこともあり、特に印象深く残ってます。
私は33歳です。
人生には30ショックという言葉があり(ありません。私の造語です)、30歳になったときに「とうとう30になっちまった」と若さからの決別を自覚させられます。
柳沢きみおさんの『妻をめとらば』という作品の主人公が30歳になったときの描写がとても心に残ってます。
連載終盤だったと思いますが、そのすぐ後に私も30歳を迎えました。
主人公の八一と同じ様に「30になっちまった」と落ち込みましたよ。
30ショックから3年後、『週刊少年ジャンプ』は5月に『ドラゴンボール』の連載が終わりますが『スラムダンク』は続いており毎週欠かさず買って読んでました。
若さから決別したからと言って漫画を辞めるわけありません。
『古オタクの恋わずらい』第1話。
転校早々自己紹介でやらかして孤立気味のサトメグは、教室内でスラダンのルカワ君との妄想に逃避。
しかし委員長が面倒を見てくれクラスのみんなとも打ち解けて、学校からの帰りに委員長にジャンプを読む事を熱弁するサトメグ。
委員長は「女もジャンプ読むんだな」と言いますが、1995年当時ジャンプを読む女子高生はどれくらいいたんでしょうね。
他にもサトメグは『アニメージュ』『ガンダム』『エヴァ』『ドラクエ』等々オタク要素満載です。
そこを必死に隠すサトメグの正体を見破る、同じクラスで更に上位オタクのミコさん。
ミコさんはオタクであることを隠してません。それ故にクラスでは孤独で浮いてます。
ミコさんは校舎の屋上でサトメグと対峙してこう言います。
「オタクでなぜ悪い」
刺さりますね。
映画を観て感動する。小説を読んで叡智を養う。音楽を聴いて癒される。お笑い番組や落語で笑う。
何故か漫画やアニメでそうなると気持ち悪いと言われ続けてきました。
2022年の今「なぜ悪い」と堂々と言えますが、それでもその感情を否定する人たちはいなくなりません。
今でも私より年上は勿論、10歳以上年下にも美少女系のアニメの話をしている私を揶揄する方は存在します。
この方々に何をどう熱弁をふるっても無駄です。
私の50歳以降の人生を変えた『咲-Saki-』という麻雀漫画があります。
物語の緻密さや設定の細かさ、何より麻雀の展開の凄さをどれだけ説明しても絵柄が美少女系というだけで嫌悪感を示し、こちらの話を聞こうともしません。
別の話ですが、7年前『四月は君の嘘』という作品のアニメが放映されました。
原作は未読でしたがアニメの話を妹にしたところ、私が漫画やアニメが好きなのを承知しておきながら「いい年してその手のアニメ見ないで。気持ち悪い」と言われました。
妹だって漫画やアニメが好きなのですよ。息子(私の甥っ子です。当時高校生)が観ているから一緒に『四月は君の噓』も観ていた上での発言です。
この妙な偏見はきっとこれからも受け続けると覚悟はしてます。
還暦過ぎてアニメや漫画に熱中するのを止めないなんて前例が無いですからね。
ローリングストーンズは彼らが30歳を超えたあたりから、いつまでもロックなんかできないと言われ続けてきました。
40歳を迎える頃には、まだやってるとも。
ところが今も活動を続け70歳を超えてなおライブツアーも行ってます。
ローリングストーンズに例えるのが正しいかは置いといて、オタクだって70歳80歳になってもアニメや漫画に熱中して生きていく。
オタク第一世代の我々が切り開いていけば、きっと後の世代の方々は当たり前になっていくと信じます。
繰り返しますが、何故漫画やアニメで感動しては気持ち悪いと言われるのか。
先述した「子供対象の物をいい大人が」という、ずっと世間にあった価値観からでしょう。
忘れもしません。1985年、24歳の時です。
喫茶店にあったちばあきおさんの『キャプテン』を読み、条件反射で涙が出るある場面で涙ぐんだのを一つ年下のバイト仲間に笑われました。
マンガ読んで泣いてる、と。
反論しましたよ。でも聞く耳無しです。
彼だけじゃありません。漫画を読んで泣くなんて信じられない、は大多数の考えだったと思います。
そして1989年の犯人逮捕以降は「漫画やアニメに熱中する奴」は気持ち悪いになります。
1995年には少しは和らいだと記憶してますが、サトメグが何とかして隠そうとするのは大いに理解できます。
私のツイッターにはニコ・ニコルソンさんがリツイートする『古オタクの恋わずらい』の感想ツイートがたくさん入ってきます。
ほとんどがサトメグに共感するもので、同じような趣味で10代を過ごした方がこんなにいるんだと実感してます。
社会で働いていた私と違い、学校という閉ざされた世界ではきっと大変だったのではないかと推察します。
この先個人の趣味嗜好(法に触れるのはダメです)に「気持ち悪い」などと言われない世界がきっと来ると信じて『古オタクの恋わずらい』は読んで欲しいですね。
なんといってもニコ・ニコルソンさんの描写が上手すぎるのですよ。
喜怒哀楽を50倍くらい増し増ししたサトメグの表情やセリフ、こんなに私の好みにハマる漫画はなかなか出会えません。
八重歯のサトメグちゃんが可愛くてたまらないですよ。
『KISS』を買ってて良かったと毎月発売日の25日に実感してます。
さて単行本第1巻の最後に出てくる謎の人物。
第5話以降この人物を交えて怒涛の展開になっていきます。
気になりますか?
既に人気の作品ですが、もしも未読で興味を持たれたなら是非ともお勧めする作品です。