「望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろ!」福本伸行が『カイジ』に込めた人生哲学|川島・山内のマンガ沼web

「望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろ!」福本伸行が『カイジ』に込めた人生哲学|川島・山内のマンガ沼web

麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、先日放送された「マンガ家ガチアンケート・福本伸行編」の模様をお送りします(放送を見逃した方はTVerもご覧ください)。

カイジ』はそれまでやってきたことの最後の仕上げ

川島 今回のテーマは「マンガ家ガチアンケート」。マンガ沼がスタートした時からわれわれがずっと熱望していた、あの先生が来てくれました。『カイジ』シリーズ、『アカギ』『銀と金』『賭博覇王伝 零』など多数の名作の作者・福本伸行先生です!

 

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

福本 よろしくお願いします。

川島 今日はマンガ家として正面から出てくださって、すごくびっくりしたんですけど。アンケートだけ参加される先生もいますが、今日はなぜ来てくれたんでしょうか?

福本 川島さんと山内さんに会ってお話ししたいっていう。

 

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

川島 うれしいわ。ほんま初回から言ってたもんね。言わずもがななんですが、さっそく先生のプロフィールから紹介させていただきます。

福本伸行先生
・神奈川県出身、64歳。
・1980年『月刊少年チャンピオン』にて、読切『よろしく!純情大将』でマンガ家デビュー。
・1989年『近代麻雀ゴールド』にて『天 天和通りの快男児』を連載。

川島 デビュー作の『よろしく!純情大将』は、別にギャンブルは関係なかったですか?

福本 そうですね。絵が丸っこくて、普通の人情マンガというか、コメディーというか、そんな感じでしたね。

川島 そして『天』から麻雀というのが大きく出てきます。

山内 1992年『アクションピザッツ』にて『銀と金』を連載。さらに同年『近代麻雀』にて『アカギ 〜闇に降り立った天才〜』を連載。このへんは、もうギャンブルまみれですね。でも珍しくないですか? 同じ年に2つ連載が始まるって。

福本 この時、『天』も描いてたわけですよ。『天』をやって、『アカギ』を始めて、最後が『銀と金』だったんじゃないかな? その頃いろんな雑誌があって、もちろん麻雀だったりパチンコだったり、そういうマンガを描いていて、『銀と金』を描くことになって。こんなこと言っちゃなんだけど、『天』と『アカギ』でその時そこそこ……。

川島 もう売れてて。

福本 『アカギ』は始まったばかりだったけど、もう最初から人気が出て。『天』はその雑誌の柱みたいになってて。でも読み切りのパチンコマンガとかは、少しだけゆるーっと描けたんですよ。当てようとか意識せずに。でも『銀と金』は絶対ちゃんとしなきゃいけない、期待に応えなきゃいけないっていう。このへんから週刊ペースがずっと続く形になって、ずっと大変でしたね。

山内 1996年『週刊ヤングマガジン』にて『賭博黙示録カイジ』を連載。その後『カイジ』シリーズが大ヒットされて、2023年『モーニング』で最新作の『二階堂地獄ゴルフ』を連載中です。

川島 福本先生といえばやっぱりギャンブルマンガですが、ギャンブルマンガを始めたきっかけはあるんですか?

福本 売れないマンガ家の時に、仕事が取れるものがパチンコマンガだったり、麻雀マンガだったり、時には競馬マンガだったんです。そういうギャンブルに特化した雑誌が、あの頃いっぱいあって、そこが一番仕事が取れたんです。僕は話を作って読み切りを描けるから、雑誌からすると原作を付ける必要がないわけです。だから使い勝手がいいということで、それでギャンブルばかり描いてたんですね。

川島 先生ご自身で思う、転機になったマンガはあるんですか?

福本 まずやっぱり『天』だと思うんですよ。それまでも単行本になったマンガはあったんですけど、ずっと巻数が続いて、かつ雑誌で柱になるほどカチッと当てたのは『天』が最初で。で、次の転機が『銀と金』。

『天』はギャンブルマンガで、『銀と金』はギャンブルもするけどいろんなことをやるマンガで、最後が『カイジ』。もうホップ・ステップ・ジャンプっていう感じでした。『天』と『銀と金』でやったこと、その最後の仕上げが『カイジ』。これは絶対当たるぞと。

川島 いろんな作品のノウハウが全部ここに入っていると。

山内 で、ウイニングランが『最強伝説 黒沢』(笑)。

福本 僕も『黒沢』大好きなんですよ。

どうせ人生、頑張んなきゃいけないんだから、頑張りたいもので頑張ろう

川島 先生がマンガ家になろうと思ったきっかけというのは?

福本 僕は横須賀の工業高校卒業で、工業高校というのは卒業する頃になると、就職先を学校が決めてくれるんです。あんまり働きたくなかったんだけど、ある建設会社に就職することになって。3カ月で辞めちゃうんですけど、3月から働いてたんです。4月じゃなくて。

山内 早いっすね。

福本 3月ってもう学校行かなくなるじゃないですか。その時「早く来い」って言われて、それで働いてたんですけど……。簡単なこと言うと、18歳で「俺、これで人生終わる」……っていう言い方はおかしいけど……。

川島 人生決まっちゃいそうだ、っていう。

福本 そんなにやる気もないというか、それほど情熱を燃やせない仕事をして……もちろん建設って仕事は、本当は面白い仕事だと思うんですよ。でもそこでのし上がるには、最終的に一級建築士ぐらい取らないと駄目じゃないですか。それがすごい大変だっていうのが分かったんですよね。その会社は一級建築士が1人しかいなくて、各現場を仕切ってるけど、二級の人たちが現場の監督で、僕らはその下で職人に缶コーヒーを買ってくる役目みたいな。

川島 ここでのし上がるのは大変やと。

福本 だから「どうせ人生、頑張んなきゃいけないんだから、頑張りたいもので頑張ろう」と思って。

 

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川島 幼い頃からマンガ家という夢があったんですか?

福本 あったと言えばあったですね。ただ、僕らの頃は本当にミーハーに、できるできないはともかく、マンガ家とか、フォークシンガーとか、お笑いの人とか、役者とかが人気で。それを含めて、若い男の子が憧れる職業を一通り全部眺めてみて、「さてどれが一番自分に向いてるかな?」と思った時に、「もしかしたらマンガ家が一番向いてんじゃね?」と思ったんですよ、何となく。

山内 先生の学生の頃のメジャーマンガって、何になるんですか?

福本 僕の子どもの頃って、まず『ジャンプ』はなかったんです。『マガジン』と『サンデー』があって、次に『チャンピオン』が出てきた。『チャンピオン』で「わあ、面白い!」となって。

川島 その時は『ブラック・ジャック』とか載ってました?

福本 それはだいぶ後ですね。僕が読んでたのは『チャンピオン』創刊の頃。

川島 絵はその当時から描いてはったんですか?

福本 子どもの頃は、よくあるやつだけど、教科書のはじっこにいたずら描きみたいなことをしてた。いろんな自分のキャラクターを描いたり、鉛筆だけで7ページぐらいのマンガ描いたりとか。そういうマンガを描くのは好きだったことは間違いないですね。

川島 そこから何となく就職してみたものの、ちょっと違うと。それでどうマンガ家につながったのか。

福本 とりあえず持ち込み原稿を描いたんですよ。それを講談社に持ち込んで。いま思えばひどい作品でした。スクリーントーンの存在も知らなくて。雑誌のマンガを見ると、「ちょっと色付いてるな」と思ったから、墨を薄く塗ってスクリーントーンみたいに……。

山内 自作のスクリーントーン(笑)。

福本 「こういうことだろ?」みたいな(笑)。全然違うんですけど。ともかくひどい作品で、下手くそなくせに、それが剣道マンガなんですよ。しかも32ページぐらいあるんだけど、読み切りじゃなくて連載ものなんですよ。最初から。

 

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川島 持ち込みやのに(笑)? やる気満々っすね。「続く」で終わったんや?

福本 続く、続く(笑)。

福本 すごいヒーローがいて、そのヒーローはまだ活躍してないわけ。剣道大会を見学しに来て、木刀を下げて眠ってるやつがいて、そいつが実はすごいやつだ、みたいな。もうしょっぱい話なんですよ。何にも考えないでそういうの描いて。で、あまりにも(実力が)至らないので、「福本君はとにかく、どこかのアシスタントに入ったほうがいい」と。

川島 まず修行しなさいと。

福本 そうそう。少なくとも「もうちょっと絵がうまくならないことには」という感じでしたね。

川島 そこから誰かのアシスタントになるわけですか?

福本 そうですね。その頃の雑誌って、マンガ家の仕事場の住所が載ってたんです。

川島山内 ええええええ!

福本 そこに電話したらアシスタントがいて、「先生に会いたい」と言って。それで、かざま鋭二先生に。

山内 『風の大地』の! おやじが読んでました。

川島 あったわ! 散髪屋に置いてあったわ。この方のところに修行に入るということで。

福本 自分の絵を持って行って、先生からするとレベルが全然達してないんだけど、だけど俺は18歳でやる気はあったんで。2〜3秒、目と目が合って「お願いします!」って言ったら、「うーん……頑張れ」みたいな感じで。

川島 入れてくれはったんですね。

福本 上達すると思ったらしい。けど上達しなかったんです(笑)。

川島 だって全然、画風が違いますよね?

山内 かざま先生とは違いますね。

川島 どれぐらいアシスタントやられたんですか?

福本 1年半です。

川島 ただ、いろんなことは吸収できたわけですか?

福本 最低、線の画力は付けていただいたかなと。仕上げはまあまあできるようになりましたね。最低限ベタ塗ったり、ホワイトやったり、トーン貼ったり。その後にバックもそこそこ描かせていただいたから。やっぱり人間、バックがそこそこ描けると、人物もそこそこまともになってくるもんなんですよね。

山内 へえー。

福本 美意識が。

アシスタントを辞めた日の夜、二十歳の誕生日を迎えた

川島 先生自身がデビューするから、1年半でアシスタントを辞めたわけですか?

福本 とにかく僕が上達しなくて。辞めたのは12月なんですけど、その後の4月に高校生が入ってくることになってたんですよ。それで「福本は彼に一瞬で抜かれるだろう」と。抜かれるだけじゃなく、そのことで俺が苦しむだろうと。「福本は1年半いてそんなにうまくなんないし、別の仕事したほうがいいんじゃないの?」っていう感じで……。

川島 優しさで言ってくれはったんですね。

福本 喫茶店に行って、先生がそう言うんですよ。ちょっと言いにくそうに。「どうしようかな」と思ってトイレに立って、ちょっと考えて戻ってきて。「分かりました。辞めます」と答えたんです。でも高校生が入るのは来年の4月だから、「じゃあ3月までやりますよ」と言ったんです。仕上げだけでもいたほうがいいだろうから。そしたら、「いや、かざまプロのことは一切考えるな」と。「自分の辞めたい時に辞めていいから」って言うんですよ。

川島 それもう「出ていって」ってことじゃ……(笑)。

福本 そうそう。それが12月だったんで、「じゃあせめて年内までいましょう」って再度言ったのね。そしたら「いや、ほんとに君の自由な時に……」。

川島 実質「すぐ辞めてくれ」と(笑)。

山内 「察してくれっ……!」っていう(笑)。

福本 それが12月8日か9日だったのかな? 今年いっぱいまでいなくていいということだから、「じゃあ今日辞めます」と言って。そしたら先生がちょっとびっくりして「え、そんな急?」みたいな。それで翌日、12月10日が僕の誕生日なんですよ。12月9日に言われてから、職場の仲間に「そういうことで辞めることになった」と告げて。住み込みで働いていたんですけど、その日のうちに家賃9,000円の共同トイレのアパートを見つけてきて。

川島 引っ越した。

福本 荷物もたいしたことないから、かざま先生が車で荷物運んでくれたんですね。新しく借りたアパートに。

川島 アフターケア、バッチリや(笑)。

福本 それが12月9日の夜で、夜中の0時に時計が回ったら12月10日になるじゃない?  それが僕の誕生日で。これはちょっと身震いするというか。その時、二十歳になったんです。

川島 一番の節目やったんですね。

福本 で、こんなこと言っちゃなんですけど、貧しいアパートで、これから絶対マンガ家に……なれるかどうか分からないけど、ここから頑張るぞと思って、夜中の0時半ぐらいに、本当にナチュラルに鼻血が出てきたの。

 

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

山内 興奮で?

福本 「やる」って気持ちで。そのままスッて出て「あれ? ヤバい」と思って。

川島 燃えてたんだ、体が。よく辞めなかったですね、マンガ家というものを。

福本 高校卒業の時に持ち込みを描いたとはいえ、ろくなマンガちゃんと描いてないから、とりあえず何本か描かなきゃと思って。1本目は新聞配達しながら描きました。3、4カ月で描いて持ち込みして、いろいろ言われて。でもね、分かるんですよ。編集にいろいろ注意されて変えるじゃないですか。普通の人間だったら、5本目ぐらいまでは必ずうまくなってきますよ。

川島 ああ、そうですか。真剣にやってれば。

福本 まず絵がうまくなってくる。確実に4、5本目までは上がるんで、上がってるうちは辞めなくていいじゃないですか。で、3本目か4本目が、さっきの『よろしく!純情大将』。これを描いて持ってったら、相手が『チャンピオン』の副編集長だったんですね。そしたら、読み終わった原稿をトントンってやって「面白い!」と言ったの。初めて「面白い」と言ってくれて。

川島 これはうれしかったでしょ。

福本 うれしかったですね。あの頃、秋田書店の脇に喫茶店があったんですよ。最初の持ち込みは、秋田書店の1階ロビーに簡素な机があって、そこで打ち合わせをした。で、ちょっといい感じになると、初めて編集部がある階に行って、「ああ、これが編集部か」と思って。で、『よろしく!純情大将』のあたりからちょっと待遇が良くなって、喫茶店に行くようになったんです。そういうの、ちょっとうれしかったですね。

川島 この読み切りの評判はいかがだったんですか?

福本 そんなに良くないでしょうね。この後に2、3本、『チャンピオン』の月刊で描かせていただいて、相手が副編集長だったもんだから、一応『少年チャンピオン』で連載のチャンスを頂けるんですよ。それこそ『がきデカ』の頃。『がきデカ』の入れ替わりだったような気がするんですけど。でも全然人気がないんで、4週か5週で終わってしまうんですけど。

川島 デビューはしたものの、まだ順風満帆とは言えない状態が続くわけですか。

福本 『よろしく!純情大将』でデビューが決まった時に、かざま先生のところに挨拶に行ったんですよ。辞めてちょうど1年後に。そしたら、かざま先生も仲間たちも「福ちゃんはどう考えても3年は無理だろう」と思ってたらしいんですよ。なぜなら下手だから。だけど1年でデビューが決まって、「『チャンピオン』でデビューすることになりました」と言ったら、先生が「ん? 『チャンピオン』ってどこだ?」って言うんですよ。先生は『チャンピオン』で連載してたこともあるんですけど、自分が連載してたメジャーな『チャンピオン』だと思ってないわけ。

川島 「福ちゃんがデビューするなら、あの『チャンピオン』ではないだろう」と。

福本 たぶん秋田書店のじゃなくて、別の出版社の「●●チャンピオン」みたいなのがあるのかなと思ったんでしょうね。

川島 だから「この『チャンピオン』です」と言ったんですね。

福本 そう。そしたら「え?」っていう感じになって。仲間は俺がデビューすると思ってないわけ。僕より先輩の人も、アシスタントしてるけどデビューしたいわけじゃないですか。それで「え? 福ちゃんがデビュー?」となって、僕が帰ったあと、みんなどよーんとしてたらしいです。

川島 言うたらクビにした子が、1年でデビューしちゃったわけだから。

正しい人生ではなく、気持ちのいい人生を

川島 それでは福本先生に書いていただいたアンケートをもとに、福本先生の最大のヒット作『カイジ』シリーズを中心に、作品の魅力に迫っていきたいと思います。『カイジ』シリーズ、ご覧になってる方も多いでしょうが、念のためあらすじを。

カイジ』シリーズ
・1996年から『週刊ヤングマガジン』にて、『賭博黙示録カイジ』が連載。
・その後、『賭博破戒録カイジ』、『賭博堕天録カイジ』など、これまで6シリーズ合計90巻を発売。
・アニメ化、実写映画化もされ、累計発行部数は2,100万部以上。
・現在は『賭博堕天録カイジ 24億脱出編』が連載中。
・ギャンブル好きで自堕落な生活を送っているお人よしのフリーター・伊藤カイジが、自らの破滅を賭けた危険なギャンブルに勇気とひらめきで挑戦していく。

山内 これはもう生き様にも影響受けてるというか。アルバイトしててお金がなくなって疑われた時に、強気で「じゃあ疑うならお前勝負だぞ」みたいな感じでいくのとか、ネタにすごい影響受けてるんですよ。

川島 この世代は特にそうですよね。ではガチアンケート行きましょう。最初の質問はこちらでございます。

カイジ』シリーズの中で福本先生が気に入っている、「これはいいセリフが描けた!」という名言・名セリフを教えてください。

川島 先生の回答はこちら。

 

「迷ったら……望みだろ……!  望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろ……!  仮に……地…地の底に沈もうともだっ……!」
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迷ったら……望みだろ……!

望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろ……!

仮に……地…地の底に沈もうともだっ……!

 

川島 これはもちろん伊藤カイジのセリフでございます。『賭博破壊録カイジ』第11巻の82〜83ページ。1玉4,000円という悪魔のパチンコ「沼」。これにカイジたちが挑戦してるシーンでのセリフでございます。このセリフを選ばれた理由は?

福本 僕が建設会社で働いてたときに思ったことなんですけど、人間って、一応就職したからということで真面目にやってるうちに、1年たち2年たつと、どんどん辞めにくくなるじゃないですか。給料上がったりとかいろいろあって。そのまま5年たち10年たつと、「マンガ家になりたいと思ってたけど、俺はそういう人生じゃないな」となってしまうこともあるじゃないですか。

川島 もちろんです。

福本 で、このセリフですよ。「望みに進むのが気持ちのいい人生ってもんだろ!」っていう。あの時の初心ですね。自分の生きたいようにまず生きようと。「地の底」っていうのは、地の底までは行かないだろうけど、「仮に失敗したとしても自分はこうなりたいんだ」という方向に進むのが「気持ちのいい人生」だと僕は思うんですよ。「正しい」ということではなく、「気持ちいいよね」って。そのほうが。

川島 「気持ちのいい人生」という言葉がすごく象徴的なんですね。先生にとっては。

福本 損得ではないと思うんですね。要するに役者の方とか、お笑いの方とか、マンガ家の方もみんなそうですけど、つまり給料よりはまず自分のやりたいこと、そっちに張ってるわけじゃないですか。

川島 そらそうです。

福本 それが僕の言うところの「気持ちのいい人生」という。

山内 めっちゃ分かるわ……。どうせなら攻めたほうをチョイスして、それが駄目でも自分で選んでるし、納得いくしという。

「自分は天才じゃない」と受け入れるところから、芸人はスタートする

川島 先生の作品には、印象に残る名言がめちゃくちゃ入っています。セリフを考える時、気を付けてることは何でしょうか?

福本 いろんなパターンのセリフがあるんですけど、強い言葉を言う時……例えばアカギとかが勝負のことを言う時、あるいはカイジが「手痛く負けた時こそ胸を張れ」みたいなセリフを言う時。ああいう時に「押す」というか。「そんなのダサい」とか、「そうじゃなくて、こういうふうに立ち回るのが正しいんだ」という意見があったとするじゃないですか。強いセリフでそれをはねのける。つまり、「俺、ここから一歩も下がんないよ」というこっちの決意が読者を押すと思ってるんですよ。

川島 それが正解じゃなくても、熱意で押し切るっていうことはできるだろうという。

山内 カイジが負けて指を切られそうになるとき、「絶対、謝ったほうがいいのに」って思いましたもん(笑)。「助かる可能性はちょっとはあるから、一応言うといたほうがいいんじゃない?」って。

川島 アカギは勝負の天才ですけど、カイジはめちゃくちゃクズじゃないですか。追い詰められて追い詰められて大逆転はあっても、やっぱり基本クズ。博才も本当はない。このカイジを主役にしようという発想はどこから来てるんですか。

福本 言うなら少年誌というか。「駄目なやつが頑張って努力して勝ちを勝ち取る」みたいな、少年誌の鉄板ストーリーがあるじゃないですか。だからその意味では『カイジ』って、少年誌なんだろうなとは思うんですよね。

山内 でも……痛快な勝ち、あんまりなかったですよね。指をやられたり、耳切られて包帯巻いたりして。

福本 そうですね。けっこう負けてますよね。

山内 負けながら何とか次のステージに向かってるみたいなイメージある。

川島 せっかくなんで、われわれも『カイジ』シリーズの好きなセリフ、1個ずつ選ばせてもらいました。僕はもう大好きなセリフこれなんですけども。『賭博黙示録カイジ』13巻205ページです。

 

負けを受け入れることが…敗者の誇り…オレは……負けをぼかさないっ………!

 

川島 この後、指を切り落とすことになるから、「ぼかしとけ」と思うんですけど(笑)。でも僕らの世界もそうなんです。だいたいこの世界、みんなダウンタウンさんに憧れてるわけですよ。あの天才2人に憧れて、あの2人が4年、5年で売れてるのを見てるから、「われわれも4年、5年で売れないといけない」という思い込みがあった。でもそうはならなかった。その時に「自分は天才じゃなかったんだ」と受け入れるところから、芸人というのはスタートすると思ってるんです。天才という勝負には負けた。だけど辞めるわけにはいかないので、そこでいちから再スタートする。そのことと、このセリフがすごくリンクしてて。「負けをぼかさないこと」というのは、やっぱり「天才にはできない努力ができる」ということにもなるので、僕、大好きなんです。

福本 僕もいいと思います。いいというか、そういう覚悟というか。負けがぼけちゃったら、もう何がなにやらって話ですからね。全部が戯言ざれごとになってしまう。だから「手痛く負けた時こそ胸を張れ」という話になるんですけど。

山内 僕の好きなセリフはこちらです。『アカギ』になるんですけど、アカギの敵役で出てきた浦部のセリフです。第5巻の46ページ。

 

手がきとる時はガメらんかい…!

 

山内 これ、麻雀してる時、めっちゃ言うんすよ。カンをする時も「きとる時はガメらんかい!」。リーチがかかってる時も「きとる時はガメらんかい!」。

 

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

川島 強気で行けよという。

山内 ギャンブルでも何でもそうなんですけど、せっかく勝ってきた時にちょっとビビって、「この利益分をキープしよう」というよりも、「ちびちび稼ぐためにギャンブルしてるんじゃないから、このすごいところをつかむためにいま来てんねんから、その道中でキープしたらもったいないやん」と。それでいつも「きとる時はガメらんかい!」で、結局ゼロになるっていう(笑)。でも「それでいいや」と思うんですよ。

川島 頂上を目指したんやからな。

福本 こういうギャンブルしてる人たちの言葉って、ちょっとカッコいいんですよね。ちょっと破滅的で。でも「ガメらんかい!」で頂上まで行く時もあるけど、まあ十中八九、途中で終わる。痛い目見るっていうケースのほうが多いじゃないですか。正直言うと。

川島 多いです。

福本 でもその浅はかさも含めての、ギャンブルのおやじが言うセリフってちょっとカッコいいというか、胸を打つというか。

山内 きとる時はガメらんかい!

本当に謝りたい気持ちがあるなら、熱い鉄板の上でも頭は下げられるよね?

川島 続いての質問です。

カイジ』シリーズの中で福本先生のお気に入りのキャラを教えてください。

川島 先生の回答はこちら。

遠藤
僕は何というか…あれくらいの男が描いてて好きで、手練れでもあるけど残念なところもあり、ちょっとカッコいい。丁度いい。

川島 このキャラクターは帝愛グループ傘下企業「遠藤金融」の社長で、カイジを命懸けのギャンブルの世界に引き込んだ男なんですけど、遠藤が好きなんですか?

福本 僕は昔……その頃、遠藤という存在はいなかったにしても、遠藤ぐらいの男にはなりたいと思ってたんですね。要するに「手練れ」って言葉が好きで、そもそも手練れになりたかったんです。何かの手練れ。「マンガの手練れ」でいいんですけど。「あいつは性格悪いし、女に駄目だし、ギャンブルで金も返さないけど、でも職人でこれだけはうまい」っていうと、ちょっとカッコいいイメージがある。

川島 カッコいいですね。

福本 人間的に駄目でも、せめて手練れにはなりたいなと。

川島 そういった意味では、遠藤は完璧ではないし、裏切る時もあるんですけど、これがやっぱり惹かれる理由ですか?

福本 等身大というか、東京の下町の金融業にいそうじゃないですか。そういうある種のリアルさがある。『アカギ』が好きな女性のファンが「赤木しげるみたいな人と結婚したいんです」と言っても、「あんな人はいないよ」とアドバイスするんですけど、この遠藤はそれぞれの町にいそうな感じがする。

山内 いますよね。

川島 遠藤がこんなに重要なキャラになっていくと思ってました?

福本 というより、『カイジ』がこんなに続くってまず思ってないですからね。最初は限定ジャンケンのアイデアができてただけで始めたわけですから。

山内 へええええ!

福本 「じゃあ次何やる?」ということで、鉄骨渡りの話になってくる。

川島 われわれも好きなキャラを回答したんですけど、相談もせず、たまたま一緒のキャラになりました。利根川幸雄。やはり利根川でしょ! 気持ちいいですね、彼は。

山内 今、利根川のTシャツが一番欲しいですよ。

川島 紹介しますと、帝愛グループ最高幹部の1人になります。最初のシリーズ『賭博黙示録カイジ』におけるカイジ最大の敵です。Eカード編でのカイジとの壮絶な心理戦や、敗北後の焼き土下座など、とにかく名シーンが多数。初期のラスボスと言っていいでしょう。「一発儲けるぞ」みたいなクズの集まりに対して、ズバッと言うじゃないですか。「ぶち殺すぞ………ゴミめら………!」。ただ、それが正論でしかない。「こんなんずるい」とか言ってる生ぬるいやつに対して、そんなもんで勝てると思うなって演説する様が、もうぐうの音も言わさんほどの正論で。ある意味、一番まともな人なんじゃないかなと思うんですよね、この方。幹部みたいな感じで出てくるんですけど、一言で空気変えて全員が黙ってしまって。説教でもない。ズバッと本音を言ってくれる。僕はもうこれが大好きですね。山内君が好きなセリフは?

山内 僕が好きな利根川のセリフがあります。それがこちら。

 

世間の大人どもが本当のことを言わないならオレが言ってやる。金は命より重い。

 

山内 拍手ですよ、本当にこれは。きれいごとは言えるけど、金は命より重い。この時ちょうど、baseよしもとに出ている時で。

川島 若手や。

山内 合間があればパチスロに行ってて。このセリフがもう身に染みましたね。金がないと何にもできないんで。

川島 先生はどんな利根川にしたかったんですか。

福本 帝愛グループの総帥で兵藤というのがいて、利根川はその下で一番頭が切れる役。兵藤にしても、『アカギ』の鷲巣にしても、「本当のトップは幼児化する」というイメージがあって。だから「ナンバー2がしっかりしてないと」という意味合いで利根川がいる。

川島 実質この方が回してくれてる。利根川の名シーンで、熱い鉄板の上でおでこをつけて土下座させられる「焼き土下座」がありますけど、あれはどういう発想なんですか?

福本 不祥事があった時、みんな謝りますよね。そういう時に「本当に謝ってんのかな?」と思ってて。「頭を下げて、10数えたら上げる」みたいなことをやってるだけじゃないかと。本当に謝りたい気持ちがあるなら、「どうしても俺は頭下げたいんだ」という心があるなら、熱い鉄板の上でも頭は下げられるよね?という発想です。

山内 普通はそうならないです(笑)。でも利根川は自力で行ったじゃないですか。そこはカッコいいなと思います。

福本さんなら、ジャンケンでも面白くできちゃうんじゃない?

川島 続いての質問はこちら。

福本先生の中で『カイジ』シリーズの最終回の構想はありますか?

川島 回答はこちら。

24億脱出編』のだいたいの流れ、ネタはあります。さすがにもう終盤です。その後…もう一つ大きな戦いを描こうと思ってますが、その構想は不確定。ムムム…って感じ。

福本 最初は「こういう話にしよう」って構想があったんですよ。でも『24億脱出編』とか、その後に黒崎が出てきたりとか、スピンオフの『トネガワ』とか、いろんなものが出てきたじゃないですか。あと、『ハンチョウ』も。そうすると、最初に想定してたことができにくくなってくる。簡単に言うと………兵藤は悪いやつなんですよ? 悪いやつなんだけど、今はかわいげがあるところも空気として出ちゃってるから。もう「ちょっと憎みきれない」みたいな感じになっちゃって。

川島 絶対悪じゃなくなってしまったんですね。

福本 例えば、カイジが指を切り落とされるシーンの兵藤って、ひどいやつじゃないですか。あれだったら「絶対、完膚なきまでに倒す」という空気はあるんだけど、愛されキャラみたいなのが出てきちゃってどうしよう……みたいなのが今はあるんで。

川島 やってきたことはとんでもないので、どっかでけじめはつけないと……っていう感じですよね。最終戦のギャンブルは、もう決まってるんですか?

福本 決めてるっていうか、こうしようっていう構想は何となくはあったんですよ。でもそれをそのまま使えるかどうか。さっき言ったように兵藤も愛されキャラになっちゃったんで、微妙という感じはありますね。

川島 カイジ対兵藤ということですね。

福本 それを最後は描かなきゃいけないんじゃないかな、というのはありますね。

川島 さあ続いての質問、こちらです。

カイジ』シリーズをはじめ、数々の作品に登場するオリジナルギャンブルは、どのように考えてますか?

川島 先生の回答はこちら。

なるべく単純で分かりやすいネタを心がけています。ルールもさることながら、突破の仕方が大事なので、そこを熟考します。鉄骨渡りの時は、試しにブロック塀の上を歩いてどれぐらいヤバいか確認しました。

川島 先生自らがブロック塀を歩いたんですか?

福本 ブロック塀ってどこにもあるじゃないですか。で、ちょっと歩いてみましたね。でもブロック塀って基本はたいした距離ないじゃない? 歩くことはできますよね。

川島 幅はだいぶ細い?

福本 靴の幅よりも狭くなると、急に安定が悪くなる。靴の幅よりも広いと、全く平らなところにいるのと一緒じゃないですか。極論で言えば。それがちょっと細くなるだけでも厳しくなるなと。

川島 限定ジャンケンなんかは、どうやって思いつくんでしょうか?

福本 限定ジャンケンに関しては、そもそも『カイジ』を始める前、『ヤンマガ』から「とりあえず読み切りを描いてほしい」という依頼があったの。その時の編集から「福本さんなら、ジャンケンでも面白くできちゃうんじゃない?」と言われたんです。でもジャンケンをそのままやっても面白くない。だからカードのジャンケンにして、全体の数が決まっていて……というふうに縛りを作ったんです。そういう仕組みを作ると、突如面白くなる。グーのカードがなくなってチョキとパーだけしかない状況って、ちょっと嫌じゃないですか。だからグーは残す。そういうのが人間の心理だよね、みたいな。

川島 このゲームがおもろかったのは、あいこでカードを消費して終われるのに、絶対勝ちにくるやつがいるっていう。この心理はやっぱりすごかったですよね。言うてもクズの集まりですからね。

一生懸命やって、その結果「つまんない」と言われてもいい

川島 さあ、続いては私から質問です。

先生自身が人生で一番ヒリヒリした瞬間は?

川島 先生の回答はこちら。

連載を始める時が一番ヒリヒリします。特に『カイジ』『銀と金』の時は、「絶対一発当てるぞ」とヒリヒリしました。いま連載中の『二階堂地獄ゴルフ』が始まる時もヒリヒリしました。

川島 このキャリアになっても、「今から連載始まるぞ」っていう時はヒリつくもんですか。

福本 そうですね。興行を打つみたいなもんなんで。だから外れることも当然あるし。でも僕は思ってるんだけど、僕のような立場の人ほど冒険するべきだと思ってるんですよ。

 

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

川島山内 ははあ……。

福本 新人はとにかく当てなきゃいけないじゃないですか。そうすると、いろんな戦略を考えるし、編集の人も知恵を出してくれるし、そうやって絶対に当てに行こうとする。僕らはもうそこはいいんで、どんどん無茶していいんだと思うんですよ。

川島 いや、でもファンの人の期待のハードルも上がってるじゃないですか。

福本 それでうまくいかなくてもいいんですよ。もっというと、失敗して、ちゃんとつまんないマンガ描くことも、もしかしたら大事かもしれない。もちろん一生懸命やりますけどね。一生懸命やるけど、その結果「つまんない」と言われてもいいんじゃない?という感じはあります。

山内 攻めた結果、失敗はオッケーと。

福本 例えばギャンブルマンガもネタが変わるじゃないですか、ギャンブルの。そうすると、「今度のギャンブルはあんまり面白くないな」ということも起こる。どう評価されるか分かんないけど、結局「自分が思ったとおりやるしかないな」という結論に達しちゃうんで。

川島 さて、連載中の『二階堂地獄ゴルフ』。今までいろんなギャンブルやってきましたけど、ゴルフで勝負するというのはかなりの挑戦ではないんでしょうか?

二階堂地獄ゴルフ
・2023年から『モーニング』にて連載中。
・主人公は所属クラブに支援を受けつつ、プロゴルファーのテストに挑戦するも、10年連続不合格の二階堂進(35歳)。
・プロゴルファーの称号を諦めない彼の未来は天国? or 地獄?

福本 そうですね。僕はスポーツマンガみたいなの、ほとんど描いたことないんで。でもこれはゴルフというよりも、人間の心の話なんで。ゴルフって人間の心が出るんですよ。心理戦だし、プレッシャーが高まると、できるはずのこともできないしね。プロゴルファーって本当に大変だなと思います。

川島 読ませてもらったんですけど、二階堂がまた哀愁漂うキャラで。ゴルフの申し子と呼ばれてプロテストを受けるんですけども、大事な場面でパットを決められなかったせいで、とんでもない人生になってしまうという。つらい男ですね。このキャラ設定は?

福本 「目標を持ってる黒沢」みたいな…。

川島 めっちゃ黒沢やと思いましたもん!

福本 結果としてそうなってるんですけど、黒沢には目標がないんですよ。何となく生きてて、かわいい女がいると、ホワホワしちゃうところがある。でも「目標を持っているのに、それがうまくいかない」というのが、多くの人が抱えた悩みですよね。それを二階堂で感じていただければ。

 

最後に、福本先生に色紙を描いていただきました。

川島・山内のマンガ沼 |読売テレビ

 

次回は「夢の最強ラインナップ モーニング編」をお届けします。

 

(構成:前田隆弘

 


【放送情報】
マンガ沼 公式サイト
次回放送
読売テレビ●1月20日(土)深夜1:32~2:02
日本テレビ●1月25日(木)深夜3:29〜3:59
「夢の最強ラインナップ 「モーニング編」①」を放送。
TVerでも配信中!)
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