麒麟・川島とかまいたち・山内が「面白いマンガ」に沼のようにハマって楽しむマンガバラエティ『川島・山内のマンガ沼』。今回は、次回放送の「マンガ家ガチアンケート・花沢健吾編」を、放送に先駆けて紹介していきます。
今の自分があるのは『アイアムアヒーロー』11話のおかげ
川島 山内君、お帰りなさい!
山内 前回の収録の後コロナに感染して、ちょっと休ませてもらいました。体感だと、半年ぶりくらいの感じですね。
川島 撮り溜めしてるから、1回収録休んだだけで3、4回休んだことになりますからね(笑)。休んでる間、いろいろ大変だったと思うんですけど、どうですか? マンガとか読んでた?
山内 むちゃくちゃ読みました。血が出てないマンガまで読みました(笑)。せっかくだからいろいろ広げておこうと思って。
川島 それでは今回のテーマは「マンガ家ガチアンケート」です。アンケートに答えてもらった先生は、以前おすすめマンガでも紹介させていただいた大人気のマンガ家、花沢健吾先生でございます! もう周知の事実かもしれませんが、まずは花沢先生のプロフィールからご紹介します。花沢先生は、青森県八戸市出身の47歳。高校卒業後、家族と共に上京してコンピューター関係の専門学校に進学されました。卒業後は印刷会社に就職し、3年間勤められました。その後、マンガ家を目指し、魚戸おさむ先生……『家栽の人』などで有名な先生ですね、そのアシスタントを経験して、いろいろ修行を積まれて『ルサンチマン』で連載デビューに至る、ということでございます。代表作の『アイアムアヒーロー』は、ビッグコミックスピリッツで2009年から2017年まで連載して全22巻、累計発行部数が800万部。大泉洋さん主演で実写化もされましたから、マンガを読まない方でも知っている作品だと思います。
山内 僕もこの作品のイメージがめっちゃ強いですね。
川島 僕も『アイアムアヒーロー』からですね。で、この番組でも紹介しました『アンダーニンジャ』も連載中……なんですが、私が紹介した『たかが黄昏れ』(1巻発売以降、ずっと休載が続いている)、こちらも連載中です。
山内 それ、連載中になるんですか(笑)?
川島 連載中ですよ! 今日はその決着を付けに来たんですから! 「『たかが黄昏れ』は今後期待していいんですか?」という、ビデオレターを送るような気持ちでいます。
山内 『たかが黄昏れ』、僕もここで紹介されて買ったんですけど、「えっ、ここで止まってんの!?」っていう。
川島 一番盛り上がるサビ前で終わってる。そういう『たかが黄昏れ』への愛を伝えたら、スタッフさんが先生へのアンケートをオファーしてくれたという。だから今日ガチアンケート受けてくれたということは、その決着が付くということです。ではガチアンケート、順番に見ていきましょう。最初の質問はこちら。
「ご自身の作品の中で一番好きなキャラクターは?」
川島 これは「全作品の中で」ということですね。
山内 僕は『アンダーニンジャ』に出てくる、おじさんに見えて中身が違う人ですね。
川島 どうしようもない男かと思いきや、実はめちゃくちゃすごい人やったというパターンですよね。さあ、先生の回答はこちらです。
「なんだかんだで『アイアムアヒーロー』の主人公、鈴木英雄(すずき・ひでお)が一番自分に近い存在なので、好きというか、動かしやすいキャラでした」
川島 先生の作品の良さは、主役がスーパースターじゃないというところですよね。見た目や性格がちょっとダサめの野暮ったい男が、のし上がっていくという感じ。ここで『アイアムアヒーロー』のストーリーを簡単に紹介します。主人公は35歳の鈴木英雄。ある日突然、謎の感染によってZQN(ゾキュン)と呼ばれるゾンビが街にあふれだす。そこで生き残りをかけて決死のサバイバルを繰り広げるSFゾンビホラー、でございます。主人公についても言っておくと、この鈴木英雄は売れないマンガ家なんです。かつては連載を持っていたが、単行本2冊で打ち切りになり、今は作画アシスタントとして別のマンガ家のもとで働いている。内向的かつ臆病な性格で、妄想癖がある。この妄想癖が読者にとっても、いい意味で混乱させるところなんですけど、山内さんはどうですか?
山内 最初に読んだとき、妄想癖があったんで「これは現実と妄想、どっちなんやろ?」としばらく判断がつかないのが、まず楽しかったですよね。
川島 僕はこれ、すごく呼吸を大事にしてるなと思ったんですよね。焦ってすぐテンパる性格であるが故に、散弾銃をかまえたときに「はーーー」とちゃんと言うようにしてる。そういう呼吸にリアリティを感じましたね。続いて、『アイアムアヒーロー』について、こんな質問をぶつけてみました。
「一番のお気に入りのシーンは?」
川島 先生の回答はこちらです。
「1巻の第11話の連続見開きシーンですね(*)。当時、読者の反応を見るのは2ちゃんねるでした。それまで「マンガ家マンガはつまらない」など否定的意見が多かったのですが、この回で肯定的な意見にひっくり返ったのは気持ちが良かったです。今、自分がマンガ家として生きているのも、この11話のおかげだと思っています」
*英雄が彼女の部屋のドアポストを覗くシーン。4連続の見開きで描かれた。
川島 あれはなかなか勇気が要るところですよね。8ページ使って4コマですから。場合によっては叩かれてもおかしくない演出ですけど、これぞ花沢節というのがあのシーンですよね。それまでなんとなくおかしなことが起こりつつはあったけど、あそこからどんどんどんどんおかしなことが起こっていくわけですよね。あのシーンで一気に評価を上げて、その勢いのまま『アイアムアヒーロー』から今は『アンダーニンジャ』に続いているという。すごいシーンです。もう一つ、ファンとして質問させていただきました。
「『アイアムアヒーロー』の「僕はヒーローじゃなくていいんだ。せめて自分の人生くらい主役になりたいんだよ」というセリフはすごく良いのですが、これもまた見開きで描かれています。でもそれを言っている主人公はただの後ろ姿なんです。寄りで描くのではなく、こういう描き方をしているのは何かのメッセージなんですか?」
川島 先生の回答はこちらです。
「さすが川島さん!」
川島 出ました! これ言われてめっちゃうれしい言葉ですよ。
「さすが川島さん! 鋭いご指摘ありがとうございます。これは後背技法という作画方法で、あえて登場人物の表情で描かないことで、読者にその状況を想像させ増幅させる、貸本マンガ時代から主に青年誌で使われている技法です」
山内 へええええええ!
川島 そうなんや。ずっと前から使われているんや。あ、続きがある。
「ウソです。正直、なんでこんなふうに変えたのか覚えてません」
山内 はははははははは!
川島 揺さぶるやん……。
山内 たまたま意味深な感じになっちゃったということ?
川島 そうなんだ。だけど、逆にこれが響いちゃってますね、僕には。
『アンダーニンジャ』の独特なアクションシーン
川島 続いては花沢先生の最新作、『アンダーニンジャ』についても掘り下げていきましょう。その前に簡単に作品紹介をお願いします。
山内 『アンダーニンジャ』なんですが、2018年からヤングマガジンにて連載中で、現在5巻まで発売中です。ストーリーは「戦後GHQによって消滅した日本の忍者たちは、実は今でも秘密裏に存在し、一部の精鋭忍者は国家レベルの争いごとの裏で暗躍していた。ある日、ニート同然の暮らしをしていた末端忍者・雲隠九郎(くもがくれ・くろう)にも重大な任務が任されることになる」という、極上の忍者アトラクションエンターテインメントです。
川島 設定がやっぱりリアルですよね。ずっとまことしやかに言われてるやん、「戦国時代、実は徳川では忍者が暗躍してたから天下を取れた」とか。そこにGHQというワードが出てくると、真実味がグッと増しますよね。
山内 個人的には、忍の任務が「忍務」という言葉になっているのがいいんですよね。
川島 ちなみにこの『アンダーニンジャ』は、マンガ沼で企画した「このマンガがすごい!芸人楽屋編」で見事、第3位に選ばれております。では『アンダーニンジャ』についての質問はこちらです。
「この作品でアクションシーンはすべて『静』で描かれていますが、アクションシーンを描くときのこだわりを教えてください」
川島 このマンガだけじゃないんですけどね。先ほどの『アイアムヒーロー』の見開きもそうなんですけど、相手が向かってくる感じが1コマ1コマ描かれている。『アンダーニンジャ』のアクションシーンも、バババババッ!じゃなくて、スッスッという動きを1つ1つ見せている。でも動線はわかるんですよ。たとえば1巻で、同居人の女性がトイレで用を足しているところに雲隠九郎が入ってきて、離れたところにあるトイレットペーパーを取ってあげる、というシーンがありますよね。あれも見ていると、どんな動きをしているのかがちゃんと脳内で再現されるんですよね。これに対する先生の回答はこちら。
「なかなか説明が難しいのですが、例えばキックを描くとき、蹴り足のブレだけではなく、反対の足の地面を回転するブレ、腰の回転のブレ、太ももなど、各部位によって回転する方向が違うので、それぞれを描き分けます。時間があれば」
川島 言われてみると、足には効果的な線が入ってたりするんですけど、体の動きにはちょっとひねりが入ってますね。
山内 この回答は本当なんですね?
川島 これはウソじゃないです(笑)。続いてもう一つ質問しました。
「アパートの住人・大野さんの外見モデルは『さや侍』などに出演されていた野見(隆明)さんなのですか?」
川島 これはそう思ってるというより、もう野見さんにしか見えない。松本(人志)さんが見つけた『働くおっさん劇場』の野見さん。だってほくろの感じとか、絶対野見さんやん。そして先生の回答はこちら。
「さすが川島さん!」
川島 また出ました。これは信じていいんですか先生?
「その通りです。僕はキャラクターを作るときに、ネットで画像検索して探します。野見さんは魅力的な顔だったので、使わせていただきました」
川島 ちなみに『アンダーニンジャ』で、先生の一番のお気に入りキャラは、川戸さんらしいです。「これは戸川純さん、美保純さん、桃井かおりさんなどをイメージした、あっけらかんとした女性キャラ。ストーリーが動かない時でもこの人がいると間が持つのでありがたいです」とのことです。
これからどうなる?『たかが黄昏れ』
川島 続いてはお約束の質問です。
「マンガを描くときの7つ道具は何ですか?」
川島 先生の回答はこちら。
「やはり、まずはGペン、シャーペン、消しゴムですね。今も人物の作画はアナログで、背景との合成とトーン仕上げはデジタルなので、この3点は今も現役です。あとはホームジムとトレッドミルです。もう40代後半なので、健康には気をつかわないといけなくなりました」
川島 次の質問はこちらです。
「影響を受けたマンガ家は誰ですか?」
川島 これは気になりますね。回答はこちら。
「『宮本から君へ』の新井英樹先生は生々しいキャラクターに憧れます。『ゴリラーマン』のハロルド作石先生の絵柄には、現在も影響を強く受けています。他にも『ザ・ファブル』の南勝久先生、『BE FREE!』の江川達也先生など、たくさんいます」
山内 江川達也先生は「『BE FREE!』の江川達也先生」なんですね。
川島 『東京大学物語』とか『まじかる☆タルるートくん』じゃないんですね。花沢先生に毎週読んでいるマンガについてもお聞きしました。
「基本的に単行本派。桜玉吉先生の大ファンで、玉吉先生の本が出たら買ってしまいます」
川島 僕も大好きですよ、玉吉先生。
山内 桜玉吉先生のマンガって、どういうマンガなんですか?
川島 いろんな作品を描かれてますけども、ここで言われてるのはたぶん、ご自身の実体験のマンガだと思います。玉吉先生はそういうのが得意で、ちょっと自分の心が苦しくなったときも、それをマンガに描いているんです。
「他には、高校時代から『ファイブスター物語』を追いかけています。今年は16巻が出そうなので楽しみです。周りで読んでいる人がいないので、FSS話ができないのが残念です」
山内 どういうことですか? 先生の高校時代からやってるマンガでまだ16巻?
川島 休載とかいろいろ挟んで、ということですね。さあ、ここからは「あの質問」をぶつけます。最後に私が花沢先生にどうしても聞きたい質問がこちらです!
「『たかが黄昏れ』が再開することを待っていてもいいんですか?」
山内 こんなに真っ正面から聞いたら、先生もう逃げられない。
川島 1巻がおもろすぎて設定がすごすぎて、「うわあ、これからどうなるんだ!?」ってところで、『アンダーニンジャ』のほうに行かれてしまった気がする。『アンダーニンジャ』も面白いからそれはそれでいいんだけど、『たかが黄昏れ』が再開されるのを待っていていいのか、もしくはもうごめんなさいなのか。回答見るのが怖いんですけど……回答はこちらです!
「昔、僕がSNSなどで、『この社会は女尊男卑だ』と言っていたんですが、いろいろと本を読んで、男性に有利な社会構造だと考えを改め、それならいっそ男が存在しない世界で、女性はどのように生きるのかをテーマに描き始めました。すみません。上記のテーマから今の自分には難易度が高く、挫折してしまいました。読んでくれた皆さんには大変申し訳ありませんが、再開の目処がたっておりません。本当にすみません」
山内 ええええええええええええええ!
川島 いやいやいや……。
山内 1巻の最後からまったく頭真っ白ってことあるんですか?
川島 いや、こんなのないですよ。これはダメですよ。認めない! 今日は『たかが黄昏れ』の担当編集さんがいらっしゃっているので、いろいろお聞きしたいと思います。率直に今、どういうお気持ちですか?
担当編集 僕が一番ショックです……。
川島 ですよね? そりゃそうですよね。担当して「絶対売れるぞ」と思ってた芸人が飛んじゃったようなもんですから。
担当編集 「連載やりましょう」というのは、数年かけて口説いていたんですけども、設定をいただいたときに手が震えるような設定で。ストーリーをいただいたときには「これはもう勝ちだな」と。
川島 絶対ヒットするぞと。
担当編集 で、1巻が素晴らしかったんですけど、結果こうなって。でもすごく難しいテーマでもあるので。今すぐにはたぶんできないんじゃないかと解釈してます。いつかまた時期が来たらやってくれるといいな、と今は思ってます。
山内 これの続き、ちょっとは見てるんですか?
担当編集 ちゃんと考えはあるみたいです。
川島 ……いやいやいや、納得しないですよ。俺も編集さんと同じ気持ちですよ。これだけのテーマを扱ったマンガはないと思うんですよ。無意識のうちに男性が優位に立ってしまっている今の時代にこそ、意味があるという。でも先生は「目処が立ってない」という言い方をされてるから、いつか目処が立てば……ということですよね。そのあとの「すみません」が、ちょっと気になってるんですけど。
山内 いや、ないですって(笑)。
川島 それだけは言わんといてくれ! 無しなら「無し!」って書いてくれればええやん。
山内 しかも編集の方が、我々と同じ情報をいま握りしめているという(笑)。
川島 複雑じゃないですか? 『アンダーニンジャ』がこんだけおもろいというのは。
担当編集 複雑ですけど、すごく面白いんで、今は一読者として楽しませてもらっています。
川島 やさしい人やなあ。いや、でも僕は信じてますから。信じるのは勝手ですからね。だって先生が好きなさっきの『ファイブスター物語』なんかも、高校から追いかけ続けて、やっと今年また動き出したわけですから。だからこれはそういうサインですよ。
山内 みんなが『たかが黄昏れ』をこれから一斉に買うことによって、先生にプレッシャーを与えましょうか?
川島 ぜひみなさん『たかが黄昏れ』の1巻を手に取ってほしい。俺はもう署名活動しようと思ってますよ!
最後に、先生から番組宛てに色紙をいただきました。『アンダーニンジャ』6巻は9月6日発売です。
「マンガ家ガチアンケート・花沢健吾編」の模様は、次回放送の「川島・山内のマンガ沼」にて(2週にわたって放送)。花沢先生の仕事場風景も公開されます。
(構成:前田隆弘)
【放送情報】
次回放送
読売テレビ●8月28日(土)深1:38~2:08
日本テレビ●9月2日(木)深2:09~2:39
「マンガ家ガチアンケート・花沢健吾編」を2週にわたって放送。
(Tverでも配信中!)
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