マッチングアプリで知り合ってから、なんやかんやで交際ゼロ日でいろいろすっ飛ばしていきなり東京と浜松の遠距離婚をすることになった健太と千尋の新婚夫婦が、肉などを焼くことを通じてお互いの仲を深めていくという漫画なのですが、この「焼き」要素と「夫婦」要素のバランス、とても素晴らしいですね。
近年はオタク趣味は独身の若者だけのものではなく、既婚者オタクや高齢独身オタクも多くなり結婚というものが身近な存在になってきているからか、夫婦漫画というジャンルの作品自体が多くなってきていますよね。昔は夫婦漫画と言うと『うちの妻ってどうでしょう?』や『となりの801ちゃん』のような実録エッセイ漫画の印象が強かったですが、最近は完全フィクションの夫婦漫画が増えてきている気がします。同じモーニング系の連載でも『あせとせっけん』や『ざんげ飯』、本作と同様に交際期間をすっ飛ばしていきなり結婚した系では『トニカクカワイイ』や『結婚するって本当ですか』、食べ物系でも前述の『ざんげ飯』の他に『お酒は夫婦になってから』や『いぶり暮らし』、ギャップ夫婦モノとしては『ゆうべはお楽しみでしたね』や『極主婦道』など、夫婦漫画は各種よりどりみどりになっています。
そんな各種ジャンルが存在する夫婦漫画の中から、食べ物系といきなり結婚した系のいいとこ取りをしている本作ですが、読むと「夫婦っていいな……」とじんわり染みてきますね……。今まで現実でもマッチングアプリでもなかなか女性と出会えなかったこともあり自分に自信が無い夫・健太が、大好きな妻のために楽しそうに火をおこして料理の準備をする優しさも好感が持てますし、クールビューティに見えるけどそんな隙の無い外見に反して実は抜けてる所も多い妻・千尋さんは、もうただただ可愛らしいの一言です。あんたら本当お似合いだよ……!
そして、これはいきなり結婚した系作品ならではの反則技のようなものかもしれませんが、夫婦という関係性が構築されていながらも交際期間は経ていないことで、ラブコメ漫画初期のドキドキ感を活用できるのですね。手を繋ぐだけでドキドキ、隣同士で居眠りして頭がコツンと当たるだけでドキドキという、中高生のような恋愛感覚を描写されており、実に初々しくて尊いものです。今どきは中高生の恋愛漫画だってもっと思い切った行動するぞ! でも、そんな今どきの中高生以下の初々しさが可愛い! こういうのでいいんだよ、こういうので!(恋愛感覚中高生以下おじさん)
そんな初々しさを保ちながらも、国もお墨付きの「夫婦」というわりと強固な関係性が担保されているので、「進展」も半ば保証されているわけです。焦らずに、でも少しずつ、自分たちのペースで関係性を進めていこう、と。これは大きいですよ。ある程度から先は進展が無くなってしまいサブヒロインだけ無数に増えていくようなラブコメ漫画は、もはやゴールを見失ってグルグルと回り続ける虚無と成り果てますが、こちらは制度上だけではない真の夫婦という関係性のゴールがハッキリ見えている分、一歩ずつ着実に関係性が進展していく様子を安心して待つことができます。お泊まりをして、デートをして、そして1巻ラストの千尋さんのちょっと思い切った行動には観客(読者)総立ちですよ。思わずガッツポーズです。このまま着々と仲良くなっていって、いつか「夫婦がよく夜にしている行為」まで見せてほしいものですね!(最低)
また、「夫婦」要素と並ぶもう一つの柱である「焼き」要素についてですが、作中に出てくる焼き料理がどれもこれも美味しそう!と、こちらも完璧に仕上がっています。現代の料理漫画は、描かれる料理が美味しそうであることはもはや必須条件みたいな所もありますが、ただ美麗に描かれているというだけではなく、「食べたい!」「実際にやってみたい!」と強く食欲をそそられる描かれ方をされていますね。ただ綺麗なだけではなく、キャラクターを通して「幸福感」がこちらにまで伝わってくる描かれ方と言いますか。BBQは食べようと思ったらすぐ食べられるタイプの料理ではなくある程度の準備が必要になるものなので、空腹時に読むことはあまりオススメできませんw
「焼き」料理と一言で言っても種類は様々で、第1話の焼肉やスペアリブに始まり、第2話はパンケーキ、第3話はラムチョップ、第4-5話はアヒージョに、第6話はリブアイのレアステーキ、第7話はジャークチキンと、とてもバリエーション豊かなラインナップになっています。
BBQに馴染みがないと「カルビやロースや野菜を網で焼くこと」くらいしかパッと思い浮かばないのですが、考えてみれば「焼く」という行為は調理中の一工程としてあらゆる料理に出てきますし、そこだけピックアップすればこうしていろいろなことをできるのは当たり前といえば当たり前なのですね。料理漫画の中では多少手狭にはなるのかもしれませんが、まぁ世の中には寿司とかラーメンとかパンとかワインとかの枠組みの中だけで何十巻も続けてしまう漫画がいくらでもあるのですから、料理漫画というのはそんなにすぐネタ切れになってしまう狭いジャンルではないのかもしれません。よーし、目指せ100巻超えだ!(クッキングパパ・美味しんぼ・江戸前の旬)
冒頭で、実生活に基づいて今年の漢字を選ぶなら「焼」という話をしましたが、この2020年は新型コロナウイルスの感染拡大によって、各種イベントがバンバン中止になって不要不急の外出自粛が推奨されたりもしました。それによって、一時期は同人イベントや飲み会やライブや旅行や麻雀などの週末・連休の趣味がほとんど行えなくなってしまいました。そんな中で唯一行うことができたのが、私の実家(無人)の庭で妻と行うBBQでした。買い出した食料と酒をクーラーボックスに詰め込んで、車で実家へ直行して、肉を焼く!酒を飲む!という、密どころか他の誰とも顔を合わせることがない悠々自適な週末BBQ生活を、一時期は毎週のように行っていました。『焼いてるふたり』を連載開始前から実演していたようなものですw これがとても最高で、半ば引きこもりのようになっていた平日の在宅勤務からの良いストレス解消になっていました。
第1話のスペアリブと第3話のラムチョップは、早速実際に食べてみました。ビール(プレモル)との相性も最高!!! 他のメニューもいろいろ試してみたいですし、状況次第では浜松へ聖地巡礼バーベキュー旅行にも行ってみたいと思います!