時代背景は昭和最後の10年。山あいの村で起こる日常の出来事なのに何故涙するのだろう。法月理栄 『利平さんとこのおばあちゃん』

時代背景は昭和最後の10年。山あいの村で起こる日常の出来事なのに何故涙するのだろう。法月理栄 『利平さんとこのおばあちゃん』

この度マンバから全3巻、27話分が電子書籍化されて読めるようになった『利平さんとこのおばあちゃん』。

お読みになられましたか。

長年苦楽を共にして連れ添った利平さんに先立たれながらも、心の中で利平さんと共に逞しく生きる「おしげさん」が主人公です。

作中の時代は描かれた1979年から1989年とほぼ同じだと思われます。

最初から順に読みましたが、なかなか年代を特定できる描写が無く当初は雰囲気から昭和30年代後半から40年代にかけてだと思ってました。

しかし電子版第21話「寄せ鍋」に出てきたある商品名で確信します。

『利平さんとこのおばあちゃん』(法月理栄/マンバ)3巻より

1983年に発売されたこの商品は、21話が描かれた1985年頃には大ブームとなって日本中に浸透していきます。

現代に繋がるテクノロジーの重要な要素であるこの商品の名前が作中に出てくるのは、何気ない母と男の子(母子家庭です)の会話の中で一度だけ。

商品そのものは描かれてません。

山あいの村が舞台の為、極力現代を感じさせずに田舎の暮らしを描写する作品です。電化製品もテレビくらいでほとんど出てきません。

なんとおしげさん家はガスでなく、かまどでお湯を沸かすのですよ。

とはいえビッグコミックというメジャー雑誌に掲載される漫画です。時代を反映する用語も少しは必要だったのかもしれません。

『利平さんとこのおばあちゃん』が描かれた1979年から1989年は昭和最後の10年です。

私の事で恐縮ですが高校卒業から平成に変わるまでの10年で、若くて濃い日々を過ごした10年と同時期でもあります。

この10年の出来事には忘れられないことが多くありますが、『利平さんとこのおばあちゃん』には時事にまつわる描写はほとんど出てきません。

村の中の日常、ちょっとした出来事、そして村にとっては大事件があったり。

あるいは「おしげさん」が街へ出たり、隣村や隣町へ出かけたりといったお出かけバージョンだったり。

1話完結の話にのめり込むことが出来るのはそれ故でしょうか。

あの時ああだったよな、と考え出せば作中の話にも多少なりとも影響してしまいます。

あくまで山あいの村に住む「おしげさん」の話に徹底しているのが10年間にわたってシリーズ掲載された理由の一つだと考えます。

今回記事を書くにあたって『利平さんとこのおばあちゃん』が掲載された『ビッグコミック増刊号』を1冊入手してきました。

1982年、昭和57年5月23日発行。

他の掲載作品を見てみると、いかにも『ビッグコミック』な並びです。

以前コミックモーニング創刊号の記事で触れましたが、1980年代は戦後すぐに生まれた方々(戦後漫画第一世代と私は呼んでおります)より10年以上後に生まれた戦後漫画第二世代(これも私が勝手にそう呼んでます)へ向けた青年マンガ誌が次々に創刊しました。

1970年代から続く『ビッグコミック』や『ビッグコミックオリジナル』は戦後漫画第一世代をメインの読者層としています。

戦後漫画第二世代、20代真っ盛りの私はこの当時『ビッグコミックオリジナル』は多少目を通していたものの、『ビッグコミック』はほとんど触れてません。

『ゴルゴ13』を別冊リイドコミックで読むくらいでしたね。

『利平さんとこのおばあちゃん』を全く知らずに通り過ぎて還暦となった令和の今、初読みできたのは大きいと思います。

昭和最後の10年を過ごす20代の自分を思い起こすと、ここまで作品の魅力に入り込めたかどうかは疑問です。

令和の今、20代の方だけでなく他の年代の方々が読まれたらどうなのか。知りたいところですね。

入手した増刊号の『利平さんとこのおばあちゃん』。

目次には「俊英読切競作」として4作品が並び『利平さんとこのおばあちゃん』はその一つです。

扉ページの枠外には「気鋭ロマン競作!!4」と書かれ横に「望郷ポエム」と。

他の3作品には「気鋭ロマン競作」の横には何も書かれてません。

この特別扱いは人気の証拠なのでしょうか。

理由はわかりませんが気になりますね。

話のタイトルは「菖蒲節句」。

端午の節句の鯉のぼりから話が始まり、おしげさんと仲良しな男勝りの芸術家先生の恋話からの菖蒲湯と女性に関する話で終わる物語の上手さに感嘆するしかありません。

この話は今回電子化された27話には入ってません。

もうこんなの読んだら他の話も全部読みたくなるに決まってるじゃないですか。

しかし現状は古書店で地道に探すしか無さそうですが、不可能ではないですね。

見かけたら買うスタンスで全話のコンプリートを目指したいところです。

世話焼きでちょっとお節介。心の中の利平じいちゃんと猫のミーコと犬のお杉と共に一人でも逞しく生きる「おしげさん」と村の人々の物語。

ちょっと付け加えますと、「おしげさん」は怒ります。不満も漏らします。

お酒も飲みますし、酔っぱらって村の皆の前で力説したりと只単に人のいいおばあちゃんという訳ではありません。

その喜怒哀楽があるからこそ、この作品は面白く読めるのだと言えます。

ほっこり癒される話。微笑ましく笑ってしまう話。

悲しくしんみりした最後は無いにもかかわらず、何故か多くの話で目頭が熱くなる。

なんとも不思議な漫画です。

まずは試し読みの第一話から読んでみてはいかがでしょうか。

【マンバ通信編集部注】
第1話がまるごと読める『利平さんとこのおばあちゃん』特設ページはこちら!

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