はじめましての方もそうではない方も、こんにちは、いのけんと申します。こちらのマンバ通信さんでは『黄昏流星群』の記事とかいろいろ好きに書かせてもらっていますが、私はもともと「近代麻雀漫画生活」というブログを更新していまして、その名の通りに近代麻雀や麻雀漫画の感想などを日々書き連ねていました。そんなわけで、私の本来得意とするジャンルは「麻雀漫画」でして、今回はそんな麻雀漫画という深いようで意外と浅く、浅いようで意外と深い特殊ジャンルの話をさせてもらおうと思います。
麻雀漫画と言いますと、同じくマンバ通信で連載をしているV林田さんも私以上に詳しく、彼はまさに「麻雀漫画研究家」という肩書きを名乗るに相応しい蔵書量・知識量です。私はあいにく過去の作品にはそこまで詳しくないのですが、ブログを始めてからずっと現在進行系であらゆる麻雀漫画を追って気に入った作品を応援し続けており、ここ20年くらいずっと「麻雀漫画の新刊は全て買う」という行為をしているのは私と彼以外にまず見かけないため、シンパシーを抱いております。だって、『雀荘に行ったら脱衣麻雀よりすごいことになってしまった』というBL脱衣麻雀漫画を「こ、これも麻雀漫画だから…」と買う男性って、他にどれくらい居ます?
「雀荘に行ったら脱衣麻雀よりすごいことになってしまった」単行本のオビ、どんな麻雀漫画に付け替えても面白くなりそうな最高のオビだな…。買って大正解だったかもしれない。 pic.twitter.com/irK8KbOQMi
— いのけん (@inoken0315) September 16, 2023
さて、みなさんはそもそもどれくらい麻雀漫画を読まれているでしょうか? 麻雀のルールを知らなかったとしても、アニメ化や実写化もされた『咲-Saki-』や『アカギ』あたりはご存知でしょうか。『咲-Saki-』や『アカギ』は発行部数や知名度は圧倒的ですが、巻数にすると『咲-Saki-』は最新24巻、『アカギ』は全36巻とほどほどの冊数です。これらは麻雀漫画巻数ランキングの6位と5位で、上には上がいるとばかりにもっと巻数が多く出ているレジェンド麻雀漫画がまだまだあります。
◯麻雀漫画巻数ランキング(※2023年10月時点)
1位:『天牌』既刊116巻
2位:『むこうぶち』既刊60巻
3位:『哲也-雀聖と呼ばれた男』全41巻
4位:『天牌外伝』全37巻
5位:『アカギ ~闇に降り立った天才~』全36巻
6位:『咲-Saki-』既刊24巻
6位:『麻雀小僧』既刊24巻
8位:『天 天和通りの快男児』全18巻
8位:『HERO -逆境の闘牌-』全18巻
10位:『兎-野性の闘牌-』全17巻
11位:『シノハユ』既刊16巻
11位:『凍牌~人柱篇~』全16巻(※1:シリーズ累計だと既刊42巻)
11位:『ムダヅモ無き改革』全16巻(※2:シリーズ累計だと全29巻)
※1:『凍牌』全12巻+『凍牌~人柱篇~』全16巻+『凍牌~ミナゴロシ篇』全10巻+『凍牌 コールドガール』既刊4巻=シリーズ累計42巻
※2:『ムダヅモ無き改革』全16巻+『ムダヅモ無き改革 プリンセスオブジパング』全13巻=シリーズ累計29巻
連載中の作品は2位『むこうぶち』、6位『咲-Saki-』、同じく6位『麻雀小僧』、11位『シノハユ』の4作品ですが、1位⇔2位と5位⇔6位はかなり離れているため、あと数年は『シノハユ』が順位を2つ3つ上げる以外に変動が無いと思われます。そんなわけで、もうしばらくはこれら巻数ランキング上位作品がそのまま、「もっとも麻雀をしている麻雀漫画」と言ってしまって良いでしょう。
ただ、麻雀打ちというのはなかなかに面倒臭い人間が多いもので、自分たちが4人で麻雀牌を使って打っているものだけが「麻雀」であり、その他の様々な特殊ルールを用いた麻雀は「あんなの(本当の)麻雀ではない」みたいなことを言ったりするものです。リアル麻雀だってネット麻雀だって麻雀ゲームだって、高レートだって低レートだってノーレートだって、東南戦だって東風戦だって一局戦だって、カンターン麻雀だって珍宝麻雀だって咲-Saki-麻雀拡張カードを使ったって、関西サンマだって東天紅サンマだって少牌マイティだってスーパービンゴだって、みんなみんな麻雀なんだ友達なんだ、とはいかないのは悲しいものですね。
また、一般的な四人麻雀のルールで打っている漫画でも、確率的に微小な出来事が頻出しているだけで「××でやってるのは麻雀じゃないから」みたいな発言をする人も多いものですが、それもまた視野の狭いことだなと思います。むしろ、普通の人間ではできないことが平然と起こるのこそが麻雀漫画の良さではないでしょうか。どんなことが起こっていても、物語の主題に麻雀があればそれはもう麻雀漫画でいいでしょうよ。
さて、ではここで考えてみましょう。逆に「もっとも麻雀をしていない麻雀漫画」とはどういうものなのでしょうか? 本来、麻雀をしていない漫画はそもそも麻雀漫画ではないはずです。
麻雀漫画の一部で麻雀をしていないパートがあるという作品はいくつも存在します。もっとも有名なのは、福本伸行先生の名作『天 天和通りの快男児』全18巻のうちラスト3巻の通夜編でしょう。アルツハイマーに冒されて人格が失われる前に自ら死を選ぶことにした天才雀士・赤木しげるが、それを止めようとする仲間やライバル達とそれぞれ対話をしていく物語です。なんせ、麻雀勝負をしようにも肝心の赤木しげる本人が麻雀を分からなくなっていますからね……。
ただ、厳密にはこの通夜編も全く麻雀をしないわけではありません。赤木しげるのライバル爺さん・僧我三威が持ち込んだ麻雀牌で「9(ナイン)」というアルツハイマーの赤木でもルールを理解できる麻雀以上に単純なゲームをしています。えっ? 「9(ナイン)」とか「上海」みたいなのは麻雀ではなくてただの絵合わせゲームだって? 広く普及している四人麻雀だってちょっと複雑なだけの絵合わせゲームでしょうよ!(暴論)
(「9(ナイン)」勝負を提案する僧我さん。近代麻雀で始まったスピンオフ『老境博徒伝SOGA』も大好評連載中です。)
その他に、赤木がひろゆきに「9(ナイン)」勝負で使った麻雀牌から二連発で一筒を引けという勝負を持ちかけたりと、なんだかんだで麻雀(牌)は少し絡んできています。こうなると、厳密には「麻雀をしていない」とは言い切れなくなってきますね。
また、同じく福本伸行先生の『アカギ』では、鷲巣麻雀編のクライマックスで、鷲巣様が血液を抜かれたことで意識を失い、地獄で鬼や閻魔大王との奮闘の末になんとか現世へと帰還する「地獄編」が10話ほど続いたことはあまりにも有名です。
『アカギ』では鷲巣麻雀決着後のエピローグのような35~36巻も麻雀勝負は行われていませんが、なんにせよこれらはあくまで「ずっと麻雀をしている麻雀漫画の中の、部分的に麻雀をしていない箇所」で、元はしっかりとした麻雀漫画です。その部分以外はずっと麻雀を打ちまくっています。
普通の麻雀ルールからの乖離具合で「麻雀をしていない」と判断するのならば、『少年雀鬼-東-』や『すずめの唄』なんかでも異質な麻雀が登場します。でも、これもまた麻雀漫画であることを否定できるほど、麻雀ではない全く別のゲームをしている漫画ってわけではないんですよねぇ。
そんなわけで、意外と定めるのが難しい「もっとも麻雀をしていない麻雀漫画」という矛盾に正面から挑んでいるのが、少年マガジンエッジで連載中(※2023年10月17日発売号で休刊することが発表されていますが、コミックDAYSとかに移籍連載してくれますよね…?)の『あ、それポンです!』です。
(参考:少年マガジンエッジ公式サイト | あ、それポンです!)
高校に入学した東倉詩織・星南せなの2人が麻雀同好会の部室に行ったら、知り合いの先輩である千北棗・西小部小町の2人が部室を占領しており、高校でも集結した仲良し4人組の溜まり場として麻雀同好会を存続するため、麻雀を覚えようとしたりしなかったりする話で、単行本1巻の裏表紙では「ゆるふわ麻雀(?)コメディ」とハテナマーク付きで紹介されています。4人のうち麻雀を知っているのが東倉詩織1人だけのため、麻雀のルールを知らない残り3人の多数派の勢いに押されて、麻雀同好会を舞台にした漫画なのにちゃんと麻雀をしていないことばかりです。
そんなこの漫画も、最新2巻では麻雀ゲームアプリをやり始めたことで、1巻の時よりはもう少しだけ麻雀をやっていることが増えました。ゲームというのは偉大ですね。まんがタイムきららキャラットで連載中のお嬢様麻雀漫画『ごきげんよう、一局いかが?』(既刊1巻)でも、麻雀シーンは基本的にスマホの麻雀アプリゲームで対局していますが、現在は麻雀=麻雀牌ではなくて、麻雀=ゲームというのが自然な時代なのですね。
まぁ多少は麻雀ゲームをやるようになったところで、本質的には「ゆるふわ麻雀(?)コメディ」なので、麻雀牌を使って仲間たちでふざけていることばかりですが……。
麻雀漫画なんてものを読む人は当然「麻雀をしている漫画」を読みたいと思っているのでしょうが、麻雀に疲れた時の息抜きに「麻雀をあまりしていない麻雀漫画」を読みたくなったら、ぜひ『あ、それポンです!』を読んでみてください。きっとあなたが思う以上に麻雀をしていないし、それでもいちおう麻雀漫画というジャンルに入れられる作品になっていますので!