声に出して読みたい日本語—滝沢解+川崎三枝子『極悪美女軍団卍』&沢田一矢+好奇真『おんな警察』

声に出して読みたい日本語—滝沢解+川崎三枝子『極悪美女軍団卍』&沢田一矢+好奇真『おんな警察』

 前回(「デレ」だからできるコミカライズ—廾之『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』&半二合『アイドルマスターシンデレラガールズ After20』)『U149』と『After20』という女性グループもの2作品を紹介しましたので、今回も女軍団もの2作品を紹介します。

 まずご紹介するのは『極悪美女軍団卍』(滝沢解+川崎三枝子)。タイトルになっている「卍」というのは、「忌子」と呼ばれる美女をリーダーとし、下水道を根城にしてワイルド&フリーダムな生活を行う美女軍団です。具体的に言うと、桜色に勃起した天使の乳首と殺しに濡れる悪魔の隠毛、大都会の毛穴から滲み出る美しい殺意を持つ世紀末の女獣です。いや作中でそう書いてるんですよ!

『極悪美女軍団卍』78ページより

何者だ………

桜色に勃起した天使の乳首

殺しに濡れる悪魔の隠毛

大都会の毛穴から滲み出る美しい殺意!

見よ 今めざめる世紀末の女獣

これが卍だ!

 思わず書き起こしてしまいましたが、本当に素晴らしい文章ですね。よくわからないと言えばよくわかりませんが、しかしとにかくパワーはある。「これが卍だ!」と力強く断言されたら、こちらとしても「これが卍か!」と応えざるを得ません。

 本作の、「なんだかよくわからないけどとにかくパワーだけはある」感が最も出ているのは第3話「悪魔をたため!!」でして、下水道のマンホールから出てきた卍一同は「割礼——っ!」と叫びながらポーズを決めます。このシーン、最後まで読んでも本当に何だったのか分からないのですごいとしか言いようがありません。

『極悪美女軍団卍』88ページより。100回読んでも100回意味が分からない名シーン。アシンメトリーなのは第1話で一人が殉職してるためかなと思うんですが、シンメトリーだったらどうなんだと言われても困る。

 まあ、原作者の滝沢解(1933〜2003)という人は、他の作品でもときどきマジで意図不明なシーンを入れてくることがある人でして、『人魚海域 マーメイドゾーン』(作画:松森正)のラストシーンの地蔵なんて、漫画史上最強レベルの難解さと言っても過言ではありません。誰か、生前の滝沢氏にこのシーンの意味を訊いた人っていないものですかね……。

『人魚海域 マーメイドゾーン』252〜253ページより。別にここだけ抜き出してるから意味不明なんじゃなくて、全体通して読んでもマジで分からないですからねこの地蔵! ちなみに本作は今はなき(株)スコラから単行本が出ていたのですが、「本作が売れたのでスコラは本格的に漫画へ進出するようになったそうです」と、この当時スコラから単行本をいくつか出していたほんまりう氏にインタビューを行った際に聞きました。

 そして、今回紹介するもう一本は、『おんな警察』(沢田一矢+好奇真)。『コミックmagazine』(芳文社)83年7月号から連載されたもので、単行本は芳文社コミックスから全2巻で出ています。ジャンルは、いわゆる「仕置人」もの。テレビドラマ「必殺」シリーズに代表される、「法で裁かれぬ悪に対し、被害者に代わってその無念を晴らす私刑執行人」を主人公にしたものですね。70年代〜90年代前半の芳文社劇画は仕置人ものが多く、他にも、女占い師が筮竹を武器に悪党を始末する『新宿夜泣き川』(志村裕次+ももなり高)、昼は普通の料理人だが夜になると食えない悪党を料理するという『夜の料理人』(たがわ靖之)、タイトルだけで概ね内容が分かる『暗殺刑事』(山本恵三+みね武)、シンプルイズベストすぎるタイトルがもはやズルい領域にまで入っている『殺人鬼』(西塔紅一+いしだ晋一)など色々あります。

この表紙見て買わない選択肢がありますか、あなた。ちなみに、第1話が「幸せな家庭を持つ平凡な刑事だった主人公・天堂烈は、家族で海に遊びに行ったある日、妻子を暴走車に轢き殺されてしまう。犯人への憎しみを募らせる天堂だったが、その犯人は特に悪人というわけではなく、父危篤の報を受け暴走してしまっていただけで、父の死に水を取ったあと自首し、天堂にも「何度お詫びしても済むことではありませんが……」と心から謝るような大学教授だったため、情状酌量の余地ありということで下りた判決は執行猶予付き。判決を聞いた瞬間天堂は逆上し教授を射殺、そのまま自殺を図るもこれは失敗して刑務所入り。5年後、出所した天堂は教授の弟と再会し、「俺は、お前が俺の兄に死刑を執行したようにお前にも死刑を執行してやりたいほど憎い。だが、俺は兄の遺児を養育しなければならないし、技術的にも執行は不可能だろう。だからその代わり、お前は俺のような人間のために人を殺す私刑執行人となれ」と命令されることになるという、誰も悪人じゃないが故に救いがない話で最高です

 ついでに書きますと、上で挙げたタイトルを見て分かるかと思いますが、この時期の芳文社コミックスは、近年の漫画やラノベとは別のベクトルでタイトル見るだけで内容が一発で分かるものが多いです。『組長射殺』(飯干晃一+城野晃)とか『魔性の女』(東史朗+成沢功)とか『ソ連軍日本侵攻』(都島京弥と有事研究グループ)とか。

ソ連軍が日本に侵攻してくる話です。作者の都島京弥は貸本時代から活動しているベテランで、現在は本名の北村清士の名で川崎市のカルチャースクールでパステル画を教えているとのこと

 あ、でも、『処刑地帯』(西塔紅一+ほんまりう)だけは、タイトルだけ聞くと絶対に仕置人ものに思えますが、実は「下町を舞台に型破りな医者が活躍する人情もの」で処刑要素0なので要注意です(面白いんで読んで損はない作品ですけどね。なお、先述したほんま氏インタビューの際にタイトルについて伺ったところ、「編集さんがつけたんだと思うけど、自分もなんでこんなタイトルにされたのかわからない」とのことでした)。

 話がだいぶ脱線しましたが、『おんな警察』の話に戻ります。本作の主人公は、表向きは何の変哲もない小さなクラブ・スコーピオンのママとホステスですが、「美しい花の命より醜い花のほうが命永らえるなんて私には耐えられない」という妙に語呂が悪い(「美しい花より醜い花のほうが命永らえるなんて」と、前半の「命」削ったほうが……)決め台詞とともに、法が裁かぬ悪党を様々な方法で始末する殺しのプロフェッショナルです。表紙ではホステス4人がレオタード姿ですが、本編では別にそういう場面はないあたり、当時の『キャッツ・アイ』人気というものを考えさせられなくもないところですね。

『おんな警察』2巻147ページより。ママは基本的にサソリ柄の着物を着ています。……作中でそう書かれてるので書きましたが、ママがいつもサソリ柄の着物着てるクラブ、本当に「何の変哲もないクラブ」なのか? 怖くありません?

 本作、決め台詞こそ語呂が悪いですが、最終話のサブタイトルは最高です。何しろ、「女軍団 最後の総攻撃」ですからね。声に出して読み上げたくなってしまう。「好きな『最終話のサブタイ』ランキング」をやったら、筆者の中では相当上位に入ります。

『おんな警察』2巻121ページより。まあ話の内容としては通常の回と特に変わりはなく「最後の総攻撃」感は全然ないんですが……

 また、本作で見られる作画の特徴として、「真円のコマをテレビ番組のワイプみたいな感じでしばしば使う」というのがあります。例えば2巻第1話「プレゼントは血染めの生首」では、多くの人を苦しめてきた悪徳不動産会社の社長がターゲットで、クライマックスではご覧のように日本刀で一閃、悪党の首を飛ばす!のですが、首が飛んだ先を丸ワイプで抜いてる。生首が飛ぶ漫画は世に色々ありますが、これはちょっと見たことない形です。

『おんな警察』2巻29ページより

 そして、この話のラストは、不動産会社の入口にある社長の胸像の頭の部分を生首に置き換える(胸像のこの部分だけ切り取るの面倒そう)というものなんですが、ここでも生首のアップが丸ワイプで抜かれております。……作者にその意図はなかったと思うんですが、昔のアニメのズッコケ落ちみたいになってますね……。

『おんな警察』2巻32ページより

 昔の漫画を読んでいると、ときどきこのように、表現の進化の袋小路というか、現代の漫画に特に受け継がれなかった「何か」に出会えて新鮮な驚きを得られることがあります。近年は電書化されてるものも意外と多い(今回名前を出した作品の中だと、『極悪美女軍団卍』『夜の料理人』『組長射殺』『処刑地帯』は電書化されています)ですし、時には思い切ってよくわからない作品に手を出してみると、あなたの漫画生活がより豊かになるかもしれません。と、適当なことを言って今回は終わりです。

 あと、「昔のアニメのズッコケ落ち」がよく分からないという若い方は、東映公式で配信されている「きんぎょ注意報!」の第1話あたりをご覧になってください。いやー、「わぴこの元気予報!」は何度聞いても名曲っすなあ!

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