「デレ」だからできるコミカライズ—廾之『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』&半二合『アイドルマスターシンデレラガールズ After20』

「デレ」だからできるコミカライズ—廾之『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』&半二合『アイドルマスターシンデレラガールズ After20』

「アイドルマスター」(THE IDOLM@STER、以下アイマス)……本コラムを読むような方なら、触れたことはなくても、名前くらいはご存知の方が多いでしょう。シリーズ15周年を迎えた、バンダイナムコのゲームシリーズです。以下、「ゲームのことはよく知らない」という方のために基本的なことを書きますが、一口に「アイマス」と言っても現在動いているラインは大まかに言って4種類あります。初代からの世界観(プロダクション)の流れを汲んでいる「ミリオンライブ!」(以下ミリ)、ソシャゲとしてのアイマスの走りである「シンデレラガールズ」(以下デレ)、2018年にスタートした最新のラインとなる「シャイニーカラーズ」(以下シャニ)、他3つと違い男性アイドルものである「SideM」、この4つです。今回話をするのは、このうちの「デレ」です。

デレのコミックスといっても色々ありまして、一番代表的なのはゲーム内で連載されている熊ジェットによる5コマ漫画『シンデレラガールズ劇場』(これは単体でアニメ化もされております)。

 

過去の作品では、『がっこうぐらし!』の千葉サドルが『ヤングガンガン』で連載していた4コマ漫画『あんさんぶる!』なんてのもありまして、これも良作です。

……前置きが長くなりましたが、本題。今回紹介しますのは、デレの運営をしているCygamesが運営しているウェブコミック誌『サイコミ』で現在連載中である、廾之『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』と半二合『アイドルマスターシンデレラガールズ After20』、この2作です。

この2作が、上で挙げた『劇場』『あんさんぶる!』と違うのは、あるテーマに基づいてメインとして登場するアイドルを絞ったストーリー漫画になっていること。そのテーマはタイトルに現れています。

まず『U149』です。タイトルの「U」は「Under」、「149」は「149cm」を表します。身長が149cm以下、つまり本作は、「小学生アイドル」たちが主人公の成長譚なのです。メインとなるのは、とにかく元気いっぱいな龍崎薫(9歳)、着ぐるみ大好き市原仁奈(9歳)、無邪気で天真爛漫な赤城みりあ(11歳)、やや気弱で引っ込み思案気味の佐々木千枝(11歳)、ファザコンでオマセな的場梨沙(12歳)、ボーイッシュでサッカー好きの結城晴(12歳)、ややのんびり屋でイグアナの「ヒョウくん」が友達の古賀小春(12歳)、超お嬢様で大人びた櫻井桃華(12歳)、そして「大人」に憧れ自分の名前にちょっとコンプレックスを持っている橘ありす(12歳)という、一口に小学生といってもバラエティに富んだ9人(途中でメンバーが更に加わります)。アイドルの卵として事務所に所属したものはいいものの、デビューにも至らず宙ぶらりんな立場に置かれていた彼女たちのもとへ新たなプロデューサーが着任し、ともにアイドルへの道を歩いていく。それが本作のメインストーリーとなります。もちろんその道はただ平坦なものではないのですが、子どもたちが一生懸命にがんばってそれを乗り越えようとしていく姿は素直に応援したくなる輝きに満ちており、ビルドゥングスロマン的な魅力にあふれております。

おまけに、百合成分も意外と美味しくて、例えば「大人びた」存在と「大人に憧れる」存在として互いを強く意識している桃華とありすの組み合わせ(ももあり)などはかなり良い感じです。

『U149』6巻50〜51ページより。「ご心配なさらず」とお嬢様言葉で喋っているのが桃華、その彼女を強い瞳で見つめる(この表情がとても良いですね)のがありす。なお、左下のコマにいるとてもカワイイ子は、筆者が最も推している存在である輿水幸子です。山梨県が生んだスーパーアイドルであり、武田信玄の「人は城、人は石垣、人は堀」という言葉の「人」とは輿水幸子ちゃんのことであったと言われています。

また、ももありのような同世代同士だけでなく、脇役として登場する歳上の先輩アイドルとの歳の差絡みもいいんですよね。この辺は、登場キャラの年齢幅が広い作品ならではの味わいです。

『U149』2巻162〜163ページより。一ノ瀬志希(18歳)と結城晴・的場梨沙。「梅に鶯、柳に燕、塩見に橘、志希に晴」は良い取り合わせだと昔から言われています。

一方、『After20』の「20」は「20歳」という年齢を表します。20歳以上に許された楽しみ——そう、本作は、アイドルたちが酒を飲む、これがテーマとなっています。「酒飲み漫画」というジャンル、ラズウェル細木『酒のほそ道』や新久千映『ワカコ酒』など今ではすっかり定番の一つではありますが、本作も、実在の様々なお酒を出しつつ、登場するアイドルの個性や悩みなんかと話をうまく組み合わせて丁寧に作られており、コミカライズ企画ものだからといって決して先行のジャンル作品群に後れを取るものとはなっていません。「デレのことはよく知らないけど、お酒は好きで色んなお酒のことが知りたい」という方なら読んでみて損はありませんよ。

『After20』1巻85ページより。「アル中か?」ってくらいの酒飲み・高垣楓と、お酒には弱い三船美優。

さてこの両作品、実はデレだからこそできるものなんです。デレは登場するアイドルが190人という超大所帯なのですが、そのうち小学生は14人(7.37%)、20歳以上が44(+1)人(23.16%)、25歳以上でさえ31歳の高橋礼子・柊志乃を筆頭に14(+1)人います(「+1」というのは、プロフィール上は「永遠の17歳」ということになっているが、明らかに約10歳サバを読んでいるように描写されるキャラがひとりいるためです)。これ、他のアイマスと比べるとキャラの年齢のレンジがとても広いのです。

例えば、ミリでは52人(初代からの流れで登場する13人+ミリ時代から登場する39人)のアイドルが登場しますが、小学生は中谷育(10歳)・周防桃子(11歳)・大神環(12歳)の3人(5.77%)、20歳以上は北上麗花(20歳)・二階堂千鶴(21歳)・三浦あずさ(21歳)・豊川風花(22歳)・百瀬莉緒(23歳)・桜守歌織(23歳)・馬場このみ(24歳)の7人(13.46%)です。最新のシャニでは23人のアイドルが登場(2020年11月現在)しますが、小学生は小宮果穂(12歳)の1人(4.34%)、20歳以上は有栖川夏葉(20歳)と桑山千雪(23歳)の2人(8.69%)です。小学生の割合はまだ誤差の範囲に入るかもしれませんが、20歳以上、25歳以上の割合は誤差に入るものではないと言えましょう。

なんでこんなことになるのか。「選択と集中」です。年齢設定なんて数字だけのもの(「24歳だけど小学生にも間違えられる外見」とかだってあるわけですし)だと言ってしまえばそうなのですが、しかしこれは人気にはっきりと影響する——要するに、この手の作品のキャラで人気が出やすいのは女子高生が中心であり、小学生や成人は人気が出にくいのです(このことの是非はここでは問いません)。こういう「当たりやすい傾向」「当たりにくい傾向」というのは他にもあって、例えば「黒髪ロング」「巨乳」なんかは当たりやすいですし、「緑髪」「小学生」「眼鏡」などは当たりづらい。後者のファンの声がネット上などでしばしば大きいのは、逆説的な言い方ですが、少数派だからこそなのです。もちろん、これはあくまで「傾向」であり、例外はいくらでも存在します。ただ、全体の傾向としてはどうしてもそうなっている(「一塁手は打撃成績が優れていることが多く、捕手は打撃成績が悪いことが多い」は真ですが、「2012年の読売ジャイアンツは、一塁手はみな大して打てなかったが、捕手の阿部が打ちまくって優勝した」という例外もあるようなものですね)。なので、普通に当てにいくなら、こういう作品(別にアイマスに限らず)の年齢設定の分布はたいていこうなるものであり、デレはその辺が異常なのです。

これを「多様性」とか「エイジズムの超克」とかいったきれいな言葉で言うつもりはありません。単純に、デレの初期はあまりノウハウが確立しておらず「とりあえずキャラ増やしたれ」くらいの感じでバンバン新キャラが追加されていっており、そんな乱造の中でキャラの特徴を出すために、異なるタイプの小学生を出したり、社会人出身設定(元アナウンサーとか、元婦警とか、元飛行機CAとか)を色々使ってみたりしただけだけ……というあたりでしょう。実際、2015年に放映されたアニメ版の場合、メインを張っていたのは「シンデレラプロジェクト」という14人のグループなんですが、これは島村卯月(17歳)・渋谷凛(15歳)・本田未央(15歳)を中心に(この3人はデレ全体の看板娘でもあります)、小学生は赤城みりあ(11歳)1人、最年長は新田美波(19歳)と、女子高生主体で構成されている、そういう意味では普通の企画となっています。もちろん、普通だから別に悪いというわけではなく、アニメ版はきちんと良いものに作られていますよ。(ここから先はアニメ版を見ていない人にとっては意味不明ですし、また、これからアニメを見ようという人にはネタバレになりますので、次の段落まで飛ばしていただいて構いません)筆者はこのアニメ版の終盤の展開が本当に好きで好きで仕方ないものでして、個々のアイドルだと輿水幸子と姫川友紀が推しなんですけど、カップリングとなるとこのアニメ版終盤設定のうづりん(島村卯月×渋谷凛)が一番好きなんですよ。いやですね、道を歩いててスカウトされたとかではなく、「養成所出身」という、自分で自分のことをかわいいとある程度評価してないと取らないだろうコースでアイドルになったのにもかかわらず、信頼できる人たちから「笑顔が素敵」と褒められながらもそれに自分の自信を載せきることができなくなってしまうという、経歴とある種矛盾したイップスに陥ってしまう島村さんと、そんな島村さんの笑顔に惹かれてアイドルになったのに、「カッコ悪い」と自嘲するほど島村さんの自信回復にマジで何の役にも立たなくてひたすらカッコ悪いしぶや、この二人がもう見ててあーとかうーとかしか言えなかったんですね筆者。この辺、「待っているファンがいるのを見て自信を取り戻した」とか「しぶやの渾身の励ましで自信を取り戻した」みたいな普通の展開でも普通によかったと思いますし、筆者もそれでも別に満足はしたとは思うんですけど、島村さんはそういう他者からの何かではなく、ほとんど後ろ向きと言ってもいいエゴを原動力として前に進むことを選ぶんですよ。そこがたまらなくよい。そして放映版最終話の「M@GIC」歌ってるときの最後、「ここで巡り会えた〜」でニュージェネの3人がアップになるところ、島村さんと本田は目を閉じた状態からまっすぐ客席に向けて目を開けてるのに、しぶやだけ最初に島村さんが視界に入るように目を開けてから首を少し回して客席の方を見るのが、「しぶや、お前、お前……」って感じで、俺は、俺は……。

話を戻します。

経緯はどうあれ、結果としてデレは、このようなコミカライズ作品を産めるような懐の大きいコンテンツとなったのですね。『After20』の企画が成立するのも、一般に人気の出にくい大人勢が一定以上の——というか、先だっての引用部に登場し、『After20』1巻の表紙も務めている高垣楓(25歳)などは、おそらくこのゲームの一番人気です。25歳のキャラが一番人気になるの、この手の作品では滅多にないことですよ——人気を得ているからこそなわけですし、そういう意味でこの両作は、デレだからできる、デレでしかできない良コミカライズと言えましょう。

『After20』3巻49ページより。酒という主題とは関係ないんですが、「江ノ島に行くなら大船から湘南モノレールに乗るのが一番楽しい」というのは筆者も常々思っているのでつい引用を……。あと、高垣楓という人は、この最後のコマのようなくだらないダジャレを言うのが趣味という人です。

と、ここまで褒めましたが、この両作、実は問題もひとつあります(作品自体に責はない話なのですが)。『サイコミ』、当初は講談社と提携で本を出していたのですが、途中で提携先が小学館に変わっておりまして、その結果、kindleなどの電子書籍は「新装版」としてこれまで出たものと連続性がないものになり、紙の本の既刊は絶版になって「◯巻だけ買い忘れてた」みたいになっても買うことができない状態に。しかも、紙の本は新刊もISBNコードの付いた「本」ではなく「グッズ」扱いになってしまって、一部の専門店等でしか買えなくなった上に、刷り部数も絞られているみたいで、「欲しいのに手に入れられない」難民が発生してしまっている状態になっているのです……。

『サイコミ』での連載の方についても、以前はブラウザでも最新話が読めたのですが、今は専用アプリでないと読めないようになってしまっており……。この辺の漫画雑誌アプリ、先読みとかがインストール必須となるのはまあしようがないにしても、しかし何でもかんでも「アプリで囲い込み」みたいなのは一読者としては正直あまり良い気持ちのしないところです。筆者はスマホ画面よりPCのブラウザで読みたいタチですし、「これ、いい作品だから読んでみて!」と人に勧めるのにもハードルがちょっと上がってしまってよろしくない。こういうところ、外部からは見えない事情というのももちろんありましょうから「知らないやつは好き勝手言える」と思われるようなことかもしれませんが、しかしそれでも、あまりケチケチしないでくれというか、なんとかならないもんでしょうかとは思うところであります。我々、ガシャやら何やらでCygamesはんにはおぜぜを結構突っ込んでいるわけですし……。具体的には、筆者もこの原稿を書いている期間中のガシャでああああああああああああ。

この原稿を書いている途中の、筆者の「アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ」のワンシーン。ソシャゲのガチャを知らない方のために説明しますと、これは一見SSレアといういいものが当たってるように見えますが、俗に「天井」と呼ばれる、言うなれば「箱の中身が空っぽになるまでくじを引き続けたが、最後の一枚まで当たりが出なかった」状態の画面です。要するに、いわゆる「爆死」です。デレステを知ってる方向けに詳細を書きますと、300連の間で出た新規SSRは2枚、あとメダルが1枚。これ、この原稿書くための経費ということで落ちねえかなぁーーー!

それにつけてもソシャゲのガシャ、「金が増えることがある」という夾雑物なしに射幸心のみ煽られる、ある意味で最も純粋なギャンブルだよなーと筆者としてはときどき思います。一回回し始めるとスカが続いてもコンコルド錯誤でなかなか止められないし、だいたい「チャララランララ〜」という音楽とともに画面がピカピカ光るとそれだけでドバドバ脳内物質が出てしまうことパチンコとかと同じで、そう考えると我々は『連ちゃんパパ』を笑ってられない位置にいるわけですよ。

というわけで、今月は漫画紹介に加えてもう一本、『連ちゃんパパ』の作者・ありま猛氏へ、麻雀漫画『御意見無用』の復刊を記念してのインタビューも行っております。こちらもどうぞ。

記事へのコメント

何故サイコミはコミックス販売をアニメショップ専売にして一般書店扱いを無くしたのでしょうか?
その旨サイコミに意見を求めても返答無し。
何故!!!!?

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