「飲みニケーション」とか言い出すのは『天龍源一郎 酒羅の如く』を読んだ後でも遅くない

「飲みニケーション」とか言い出すのは『天龍源一郎 酒羅の如く』を読んだ後でも遅くない

皆さん、「飲みニケーション」って好きですか。筆者は嫌いです。COVID-19で飲み会とかやってる場合じゃないよとなる前から嫌いです。どれくらい嫌いかというと、前々々職の会社で「会社創立60周年記念飲み会をやるので全員参加」と言われて拒否り、「仕事の一環なので拒否は認められない」と言われたので飲み会の日の有休申請出したら社長室に呼び出されて「この日は有休は認められない」「ワシゃ、前に『用事がある』と言って断ったのに『カタいこと言わないでよ〜どうせ大した用事じゃないんでしょ〜』と言って無理矢理飲みにつき合わせた役員◯◯氏と二度と酒席を共にしたくないんじゃ。だいたい仕事の一環というなら残業手当を出せ」と社長と怒号混じりで言い争った挙げ句、会自体には参加したけどそのあと会社は辞めたという程度には嫌いです。気のおけない友人との飲み会はそりゃ好きですけど、職場の飲み会に強制参加しなきゃいけないくらいなら無職の方がマシなんじゃ(社会性との折り合いを欠きすぎている)。

しかし、そんな筆者でも楽しく読めてしまう飲みニケーション漫画がこの世には存在します(や、前にも『After20』っていう酒飲み漫画紹介しましたけどhttps://manba.co.jp/manba_magazines/11901)。それが今回紹介する、岡戸隆一+叶精作『天龍源一郎 酒羅の如く』です。『BUBKA』に2012〜13年にかけて連載されたもので、13年に白夜書房から単行本が出ていましたが、今年4月に入ってリイド社のコンビニコミック「叶精作セレクション」シリーズ(密かに『叶精作全集』みたいな勢いで出ています。気づいていなかった人は要チェックですよ!)から、時代劇作品『紅娘の海』(原作・篁千夏)とニコイチの単行本として復刊されました。

いやあそれにしても、表紙右下の惹句が最高ですね。「海賊×プロレス×大爆発!!!!!!」ですよ。「説明!」と思わず声に出してしまいそうなビシバシチャンプ的語呂の良さ、この惹句を見て「買いや、買いやがな!」と即レジに本を持っていく人と持っていかない人、あなたならどちらを人間として信用できますかという話ですよ。また、表紙をめくって目次ページを見ると、『紅娘の海』が「この作品は史実を元にしたフィクションです。また、時代劇という作品の性格上、当時の表現を使用しました事をお断りいたします。」と書かれてるのに対し、『酒羅の如く』は「この作品は関係者の実話を元にしたプロレスです。また、酒類の飲み方に関しましては推奨するものではありません。」と書かれてるのが芸ですね。

さて、内容ですが、帯に書いてあります通り、レジェンドプロレスラー・天龍源一郎の酒豪エピソードを漫画化したものとなっています。言うなれば、「プロレスの試合」という仕事が終わった後の「飲みニケーション」の話です。

1話目を読むと、いきなり、「ビール、焼酎、ウイスキーなどあらゆる酒が注ぎ込まれたアイスペールをその場にいる人間みんなで回し飲みする」という「天龍スペシャル」が、天龍の”酒羅場”の定番として登場します。こうとだけ聞くと「ア……アルハラ!」と思われることでしょう。

『天龍源一郎 酒羅の如く』5ページより

しかし、その直後を読むとちょっと印象が変わります。

『天龍源一郎 酒羅の如く』5ページより

ご覧の通り、「飲むフリ」をしても天龍はそれを咎めずニコニコしているのです。なんでこんなことをしているのか。本書には、各話の幕間に天龍本人による解説が挟まっており(これはリイド社版にもちゃんと収録されていて安心です。ただ、白夜書房版では巻末に収録されている、『週刊ゴング』元編集長・小佐野景浩への吉田豪インタビューはリイド社版には収録されていません。「北尾がアニソンを熱唱」とかの面白い話多いんで、プロレス好きな人は白夜版を探した方がちょっと得です)、そこでこの習慣が始まった理由が明かされています。それによると、天龍の飲み会というのは、最初は彼と盟友の阿修羅・原および付け人のみという少数で始まるものの、試合を見に来てくれたお客さんや記者なども加わって二次会・三次会では人数が膨れ上がっていく、しかしそうなると、加わったお客さんの一部には天龍たちレスラーから離れたところに追いやられ、あまり楽しくなさそうになってしまう人が出てきてしまう、そこで全員参加企画として考えられたものだそうで、つまり一種のファンサなんですね。「別に酒の飲み自慢をしよう、ってことでやってるわけじゃないんです」とは天龍の談。

『天龍源一郎 酒羅の如く』35、37ページより

別の回では、このようにファンからのお酌を「プロレスは相手の技を避けない『受け』の美学」とばかりに次々と飲み干していきます。また、先程の引用ページの最後のコマで描かれているように、お客さんの分も含めた勘定は当然のように全部天龍が持っているのです。

このように、天龍の酒は「みんな楽しく」が基本なのです。だから逆に、天龍の友人の頭髪をイジって楽しんでるテレビ局のおエライさん相手には、「テレビ放映の話なんて流れてもいい」とばかりに一撃。

『天龍源一郎 酒羅の如く』8〜9ページより

お客さんは喜ばせ、権力者に媚びたりはしない。これが天龍です。

本作には他にも、天龍の所属(当時)する全日本プロレスとライバル団体・新日本プロレスのメンバーが一同に介し、両団体間で緊迫した空気が流れる「プロレス大賞」授賞式会場での、新日総帥・アントニオ猪木との酒のやり取りなど様々な面白いエピソードが描かれているのですが、

『天龍源一郎 酒羅の如く』80〜81ページより

中でも特に最高なのは、3話目「酒羅の迎酒」。この回では、天龍の愛娘・アヤナが登場し、彼氏を父に紹介するというストーリーになっています。

『天龍源一郎 酒羅の如く』25ページより

まず、アヤナがいかにも叶精作・画な美人(シャン)で描かれてるのがいいですね。天龍も各話解説で、”読んだ後に娘に何度も「……で、この女性は誰なの?」って聞きましたよ。だって、これはキレイ過ぎるだろう(笑)”と言っています。そして「今日は暑いですね」でいきなり脱ぐ天龍。

こんななので、彼氏の方は気圧されてだんだん無口になってしまいます。すると天龍、「僕が美味い酒を作ろう!」と言って、例の「天龍スペシャル」、その彼氏歓迎バージョンを作り飲ませます。

『天龍源一郎 酒羅の如く』28〜29ページより

これを飲むと彼氏の方も緊張が解けて陽気になるのですが、飲みすぎてついには目を回し倒れてしまいます。気を失っていた彼氏が目を覚ますと……

『天龍源一郎 酒羅の如く』30ページより

なんと天龍がその太い腕で腕枕をしながら添い寝をしてくれています。

そして……、

『天龍源一郎 酒羅の如く』30ページより

この眼。もはや何も言うことはありません。

「最近の若いのは飲みに参加しない」などと嘆く人がいますが、そんなことを愚痴る暇があったら、この腕枕ができる筋肉と、そして何より、このようにあたたかく強くて優しい漢の眼を身につける努力をしましょう。人としての器があれば、下の人間は自然とついてきます。筆者も、社長がこの眼をしていたら会社を辞めなかった(と思う)。

記事へのコメント

このマンガを読んだことありますがまさにこの通りの内容でした。最初は「なんだ、このマンガは」と思うけど途中から天龍が徐々にかっこよく見えてくる傑作

酒豪レスラーと言えば天龍さん、という時期がありました。
酒豪としてもレスラーとしても最高で、その二つが合わさって
とんでもなくドリーミーな存在に至ったのが天龍さん。
良くも悪くも、こんな酒豪やレスラーは、他に居ません。
そのあたりをちゃんと漫画化した作品だと思います。

そんな天龍さんですが、かつて全日本プロレス時代は
酒席を好まない馬場・鶴田と違い、
「俺は全日本の広報部長」と公言して、日頃に報道をしてくれる
マスコミをねぎらう意味を込めて?酒を飲んだりしていたそうです。
ときには飲み過ぎて代金が足りなくなり、
馬場さんに代金を宜しくお願いしたこともあったとか。
しかし馬場さんはそれに関して一度も文句を言わず、
天龍さんも一言お礼を述べるだけ。
(ただし一緒に飲んだ人間には
  「おい、馬場さんにお礼を言っておけよ」
 と言っていたそうです。)
お互いにクドクドと言及はしなかったそうで、
そこには馬場さんと天龍さんの信頼関係があったのでしょう。
その後、天龍さんは全日本を飛び出すことになり、
形としては馬場さんに不義理をしたことになるため、
馬場さんがお亡くなりになった時には葬儀に参列も出来ませんでした。
馬場さんの訃報を聞いた夜、天龍さんは
かつて馬場さんと最後に飲んだ御寿司屋さんに行き、
1人で黙って酒を飲んでいたそうです。
天龍さんの酒は、ほんとうに素晴らしいです。

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