いしかわじゅんも影響を受けたと語る少年の叙情——ほんまりう『与太』

 夏コミの季節ですね。というわけで、紙面を私物化しての筆者のサークルによるほんまりう同人復刊作品紹介シリーズの3発目です。前2回は、『息をつめて走りぬけよう』『原色の街から』の記事を読んで下さい。いや本当、筆者はこのほんまりうという天才漫画家は再評価されなければいけないと思っているんですよ!

 

『与太』

 今回の夏コミ合わせで復刊するのは、『与太』。『増刊ヤングコミック』および『ヤングコミック』に掲載されたデビュー直後の短編群を集めたもので、青林堂から74年に「現代漫画家自選シリーズ」の一冊として刊行された初単行本を復刊したものとなります。
 表題作でもある「与太」は、戦前の新潟(ほんまりうは新潟(旧巻町)出身なので新潟が舞台の話が多いのです)を舞台に、少年・逸郎とそれを見守る姉の叙情的な物語。後の作品に比べるとさすがに絵はまだ荒削りですが、「姉さんは知らないんだ こんななんにも出来ないヤツのつまらなさやしみったれ加減は」と自ら言うような「優秀ではない、普通の多感な少年」の心情の繊細な描き方はこの頃からすでに完成されたものを持っています。

『与太』17ページより

 この「坂道ってヤツさ 変にかなしいって考えたことない?」「少し哀しいのがいつも浸みついてるんだよ オレに」ってセリフとか、本当にいいですね。なかなか出てこないですよ。シリーズは続編として「与太風の中を走る」「与太海を見に行く」「与太驟雨に立つ」と続きますが、それぞれ、十四番町(新潟に昔存在した遊郭)の芸者、旅先で出会う行商人の親子、草競馬(現在の公営競馬につながる「公認競馬」とは別の、テキ屋的な色が濃い私設競馬)とともにやってきた流れ者と、逸郎の前を通り過ぎていく人との出会いと別れが描かれ、そして姉が結婚する最終話「与太鈴の音を聞く」へとつながります。

『与太』81ページより、「与太驟雨に立つ」のワンシーン。こういう会話の雰囲気が本当にいいんですよ

 本作について、明大漫研の後輩だったいしかわじゅん氏は「年齢は1年ちょっとしか違わないほんまに、漫画家としては唯一影響を受けた。ほんまには、美しい叙情があった。少年のナイーブな心を、繊細に表現できた」といったように本作のことを再三褒めていますし、

 増刊ヤングコミックの編集長だった橋本一郎氏は「私が編集者として、これこそがいちばん素晴らしいマンガだと心を射貫かれた」と書いています。そういう作品です。

 なお、青林堂単行本には「与太」シリーズの他に、主に『ヤングコミック』で発表された初期の短編が5本と、明大漫研の先輩・かわぐちかいじ氏の解説が入っていましたが、今回の復刊ではそのうち「えちごへそ穴口説」の1本を除く(これだけ原作付きのため)4本と解説(ちゃんとかわぐち氏に許可取りましたん)を再録しています。そして、1本ない代わりに、デビュー作「海へ出る蝶」および「北国街道」「野良犬の町」「緑色の鯉」という単行本未収録の初期短編4本を追加収録しています。青林堂版を持っているという方が買っても損はさせませんぜ(まあ青林堂版、紙と印刷の質が悪くてマジでボロボロなのしか見たことないんで、美本で出直すだけでも価値あるとも思いますが)

『与太』273ページより

 収録作のうち、表題作「与太」を以下に特別掲載します。百聞は一見にしかず。読んで「良い……」と思ったらコミケ(日曜東へ03a)かコミティアか筆者の自家通販か委託書店さん(メロンブックスコミックZIN)でぜひとも買ってくださいませ。筆者の限界ワンルームアパート(南武線の線路脇に建っているため1日のうち20時間くらいは走行音が響き続ける)に保管されてる在庫入ダンボールの量もだいぶになってきたのでこっちも必死なんや……。

 

 

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