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「劇画の技術的進化の頂点」とまで呼ばれたバイオレンス劇画の極み—東史朗+前田俊夫『地獄の戦鬼』

「劇画の技術的進化の頂点」とまで呼ばれたバイオレンス劇画の極み—東史朗+前田俊夫『地獄の戦鬼』

 去る11月6日、映画評論家の西脇英夫氏が6月4日にがんのため亡くなっていたことが公表されました。映画ファン以外にはあまりピンとこないかもしれませんが、『キネマ旬報』などで映画評論を長く発表し続け、日活アクション映画などをメインに扱った『アウトローの挽歌—黄昏にB級映画を見てた』などの著作がある方です。『だっくす』(後の『ぱふ』)で「B級劇画講座」という、当時は(今も)あまり評論の土俵に上がらなかった、芳文社雑誌などで発表されていた劇画の評論を行ってもいました。そして、この人のもう一つの顔として、主に「東史朗」名義で漫画原作者をやっていたということがあります。こちらの方では職人的な仕事をする人で、今回紹介する『地獄の戦鬼』のような超バイオレンスもの(ドラマ『西部警察』シリーズで脚本を書いた回(「煙突倒し」で有名な「決戦・地獄の要塞 —名古屋篇—」など)もあるくらいの人ですしね)から、『味なおふたり』(作画:藤みき生)のようなほのぼの寿司漫画(義理の弟さんが寿司職人をしており、また幼少時に魚市場の近くに住んでたことなどもあって始まった企画だそうです)まで、ジャンルを選ばず幅広く作品を発表しております。筆者はこちらの顔のファンなもので、少し麻雀漫画の原作(作画・嶺岸信明の『ほおずき』等)も書いていることを理由に、むかし同人誌でインタビューをさせてもらいました(https://vhysd.booth.pm/items/128023)。
 ところで、急に話題が変わってエロ話になり恐縮ですが、「触手」というエロジャンルがあることは多くの方が御存知なことかと思います。そして、その触手の大家として世界的に有名な人といえば、これはもちろん前田俊夫です。や、「もちろん」と書きましたが、まあジャンルがジャンルなので知らないという方も居りましょう。しかし、この人が80年代に『漫画エロトピア』(ワニマガジン)で連載した『超神伝説うろつき童子』とそのアニメ版がこのジャンルの開祖とされており(正確に言えば、前田は同作の10年近く前から触手エロ作品を描いてはいるのですが、一般的には同作が触手をジャンルとして成さしめたとされます)、世界的にも有名なのです。いやホント。例えば、シアトルのAlternative newspaper(これ日本語に訳語がないのでWikipでも読んでください)であるThe Stranger紙の”Sexy Beast The Mysteries of the Giant Pacific Octopus“というタコについての記事でも、北斎と並んで”Tentacle Master” Toshio Maedaの名が出ています。
 で、そんな「世界のMaeda」ですが、別に触手ものしか描いてない、見るものがないというわけではありません。今回紹介する、『うろつき童子』より前に『エロトピア』で連載されていた「タクシードライバー」(芳文社コミックスで単行本化された際に『地獄の戦鬼』に改題)は、「本のマークの芳文社コミックス」(※)全作品が紹介されている古書目録『まんだらけトラッシュNO.03』において、「個人的に芳文社コミックスの最重要作品」「劇画の技術的進化という面では頂点だと思う」とまで書かれた、東史朗原作作品としても前田俊夫作画作品としても最高傑作級の一品です。

※芳文社コミックス、現在は背表紙のロゴが「HC」というものになっていますが、70年代後半から96年までの約500冊は「本を開いた形に『芳文社コミックス』と書かれている」ものになっており、この「本のマークの芳文社コミックス」は内容・装丁・題名などの全てが70〜80年代前半の「劇画らしさ」を体現しております。

本のマークの芳文社コミックス、タイトルロゴのデザインも全体的に素敵なんですよね

 さて内容紹介。本作の主人公・矢島は、悪徳にまみれた故郷・美濃輪市で暮らす元刑事のタクシードライバー。この街の悪徳っぷりときたら、冒頭でタクシー会社の同僚が「また車ン中に小便されちまった」「小便ならいいぜ 俺の客なんか車ン中で生娘強姦しやがって シート血だらけにしやがった」と会話をしてることからも分かります(血だらけにされる前に目の前の犯罪を止めろ)。

『地獄の戦鬼』1巻12ページより

 警察も「この街は県下(うち)の癌だな 麻薬 売春 密売 組織暴力…… 事件というときまってここだ」「10年間で22人もの警察関係者が殺される街なんてそうざらにはありませんからね」と言ってる始末で、ソドムとゴモラも真っ青です。

『地獄の戦鬼』1巻40ページより

 まあこのスキンヘッドの県警刑事部長・黒川も大概まともではなく、美濃輪の裏の首領・橋爪を捕まえたいが証拠が上がらないのに業を煮やし、強行突入して身柄をさらい自宅に監禁、拷問を加えたりしますので、この街にしてこの警察ありという具合です。

『地獄の戦鬼』2巻72〜73ページより。ノックをしないでトイレに入ってきたことに怒るあたりウィットに富んでいますね
『地獄の戦鬼』2巻78〜79ページより。「法にふれることは何も無いぜ!」(断言)、遵法意識がなさすぎる

 そんな街でなぜ矢島はタクシードライバーをしているのか。それは愛娘のためです。彼の娘・舞子が、「常に血液の交換をし続けなければならず、完治の見込みも立っていない」という難病にかかり、奥さんは逃げてしまったため、彼一人で毎月多額の入院費を稼がねばならなくなり、刑事よりは給料の良いタクシードライバーになったのです。が、それは表の顔。刑事よりは良いといってもタクシードライバーの給料だけではとうてい入院費は稼げないため、彼は橋爪から定期的に暗殺を請け負い、その報酬でなんとか毎月の入院費を賄うという自転車操業をしていたのでした。ウワーッ救いのない無間地獄! そりゃ自分でも「いつ終わるとも知れぬこの果てしなき殺戮の日々はメビウスの輪のごとく…… そして手元のこの熱い弾倉(シリンダー)のように空回りが続くのか…」って言ってしまいますよ。

『地獄の戦鬼』3巻65ページより

 この救いゼロな地獄の設定は、連載時のタイトル通り、スコセッシ監督の映画「タクシードライバー」(76年)が元ネタです。筆者が西脇氏にインタビューした際にこのことを聞いたところ、「もちろん意識しています。あれをもっと日本的なじめじめした感じでやりたかった」と仰ってました。この基本設定の時点でさえ救いがないのに、街の治安が終わってるので世紀末モヒカン族のような若者軍団が病院に乱入して舞子を誘拐したりするので、矢島はほんと気の休まる暇もありません。まあこの若者軍団、まさか誘拐相手の父親が拳銃持っててしかも殺しを全くためらわない奴だとは思ってなかったので、全力で後悔して命乞いをしながら死んでいくんですけど。

『地獄の戦鬼』2巻49〜50ページより

 で、この悲惨極まりないストーリーを彩るのが、超絶としか言えない前田作画。決めとなるシーンの迫力ときたらないです。これに関してはもう、実際の絵をいくつか見ていただくよりないでしょう。奇跡(ミラクル)としか言えません。

『地獄の戦鬼』1巻152〜153ページより
『地獄の戦鬼』1巻208ページより
『地獄の戦鬼』2巻138〜139ページより

 本作には欠点として、明らかに1巻がピークで、3巻に入るとテンション落ちてくるという問題があるにはあるのですが、それでも最終話になると、本当に一切の救いがない陰惨なラストを迎えてくれるので、もはや乾いた笑いしか出てこなくなくなります(まあこの設定の殺し屋にハッピーエンドがあっても困るのですが……)。なお、先述の『まんだらけトラッシュNO.03』によれば、さらに救いのない続編「タクシードライバー2」もあるそうです(これは未単行本化のため筆者も未読)。

 以下余談。80年代の麻雀漫画『掏摸人(すりっと)ワニ』(小堀洋+笠太郎)は本作を参考にしてると個人的には思ってるんですが、『地獄の戦鬼』と『掏摸人ワニ』を両方読んだことがあるという人に今まで会ったことがないので誰にも同意してもらえません(というか、『地獄の戦鬼』はまだともかく、『掏摸人ワニ』を読んだ人をほとんど見たことがない)。

刑事のアゴの長さがちょっとユーモラスな感じさえ漂わせますが、中身は麻雀漫画界屈指の陰惨な話です

 

記事へのコメント

(血だらけにされる前に目の前の犯罪を止めろ)
「法にふれることは何も無いぜ!」(断言)

メチャクチャ読んでみたくなった

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