2023年の文化功労者に選出された里中満智子先生。
ほかの候補はズラリと男性陣が並び、先生は紅一点でした。
そしてタイミングよく先生の自伝本『漫画を描く 凛としたヒロインは美しい 』が発売されました。
この本の編集のお手伝いをしたのですが、マンガ好きなら、マンガ家同士の交流やマンガ史を知りたい! と思っています。なので戦後からの昭和の歴史と、マンガ家先生たちとの思い出、里中作品の本人解説をたっぷり入れてもらいました。今ではもうあまり知られていないマンガ家さんのお話もあり、マンガ創生期のお話もとても興味深いです。
それから食いしん坊な里中先生の、昭和のお食事事情も面白い。平成生まれの人たち、鯨って食べたことあります? 昔はそこら辺のお店で売っていたようなのです。
また高度成長期の日本の様子なども丁寧に語られています。1980年代まで「米穀通帳」なんてものがあり、買えるお米の量が決まっていたそうです。確かに昔はお米屋さんでしかお米が買えなかったけれど、そんな配給制度が戦後も残っていたとは!
里中先生は戦後のマンガをとにかく大量に読んでいらしたとのこと、インプットしなければアウトプットは難しいですよね。マンガに限らず大変な読書家でいらっしゃいます。
少女マンガ家の大御所というと、『ベルサイユのばら』の池田理代子先生、『アラベスク』の山岸凉子先生、『あさきゆめみし』の大和和紀先生、『ポーの一族』の萩尾望都先生、『風と木の詩』の竹宮惠子先生などが思い浮かびます。
里中満智子先生は彼らより少し先輩です。数々のドラマチックな物語を描いています。40代以上の少女マンガ読者には、どえらい影響を及ぼした方(たぶん)なのです。
自分を振り返ってみると、まず恋愛に関しては「遊び」なんてありえません。
愛のない男女関係なんて絶対NGだし、愛とは命そのもの! みたいな。
漬物石より重い恋愛感覚なのです。
これは里中イズムそのもの。
また男に媚びない姿勢も、仕事に対する責任感や情熱も、里中作品から学びました。
『あした輝く』『あすなろ坂』など戦時中を舞台にした物語も多く、もしかしたら戦争に対する興味も学んだかもしれません。
物語に学びを多く取り入れる方なので、お子さんにもお勧めです。
先生の代表作はいくつもあります。
一番有名なのは『天上の虹 持統天皇物語』でしょうか。
持統天皇を主人公にした大河です。
これ、連載開始時に「奈良時代は人気ないからなあ」なんて編集者に文句言われたとか。
それを「山岸凉子先生の『日出処の天子』は飛鳥時代で大ヒットです」と説得したというのが胸熱です。
ちなみに空前の大ヒットとなった『ベルサイユのばら』も、ネタ提出時に「女子どもに歴史を読ませてどうする」と編集に言われたそうなので、「編集に反対されたら大ヒット」という掟ですかね。
里中満智子先生の作品の特徴のひとつは、すごく粘度の高そうな涙、それから、作品のいくつかは主人公を思春期から亡くなるまでを描く大河だということです。
本編終了から何十年か経って続編が描かれ、10〜20代だった主人公の壮年期を描く、みたいな物語はありますが、本編でいきなり人生描く作家さんはあんまりいないのでは。
『スポットライト』がアイドルを目指す少女の物語と見せかけて実はホラーだった話は、すでに書きました。これも大ヒット作です。
近年は、聖書やオペラ、ギリシャ神話など、「教養だから知っておいたほうがいいけど、本を読むのは面倒だよね」という作品をたくさんコミカライズされています。
とくにギリシャ神話は、物語の基本だとのこと。里中先生はギリシャ神話を高校時代に読みあさり、「物語とは、作者自身の考えをドラマとして表現すること」だと気づいたのだとか。
南野陽子さん主演でドラマ化された『アリエスの乙女たち』に登場する愛馬エレクトラはギリシャ神話から取られているのですね。むちゃくちゃ南野さんが言いづらそうにしてたなあ……NG連発してたらしいし。
里中イズムで育った和久井は、これからもご意志を継いでまいります。