細身で、中性的で美しい男子が好きな人はいますか……そんなみなさまは『ダイヤモンド・パラダイス』を読むといいと思います……。
80年代後半、世の中はバンドブームでした。誰もがギターを欲しがり、親にねだって買ってもらったものです。そしてたいていの人はそのまま押し入れに眠らせました。当時の厨二病男子が夢見たのは、ファンタジーよりもロックスターです。好きな女の子の前でドラムを叩く振りをしたり、BOØWYの歌をクネクネ口ずさんだりしておりました。
また、フリーターがかっこいいなんて言われていたのもこの頃です。就職するよりバイトのほうが給料がいい場合もあって、つまらない会社勤めをするよりも夢を追ったほうがいい! なんてムードもありました。
そんな中、連載されていたのが『ダイヤモンド・パラダイス』、略して『ダイ・パラ』です。
主人公は女子高生のひとみ。ちょっとハスキーボイスな彼女は、学園祭でスカウトされ、プロを目指すおじさんバンドAZに入ります。平凡な私がスカウトされるって、女子の夢ですよね。しかもヴォーカルとして迎え入れてもらうんです、紅一点で。
ひとみのAZ初ステージを見に来ていたのが弥樹です。正体不明の不思議な男子で、ひとみのファン第一号なんですって。そして弥樹は、おかっぱだった髪を切ると、髪を切ったアンドレが突然イケメンになったのと同様、突然韓流ばりのイケメンになるのです!
そしてここから本格的にお話がスタートします。『ダイ・パラ』は全3巻(昔のマンガは巻数が少なくていいですねえ)で、1巻は「ひろみと弥樹ラブラブコンテストの巻」、2巻は「弥樹の裏切り、そして新しいスタート」、そして3巻が「どうしても惹かれ合う二人、そして……」って感じの構成です。各巻、それぞれ読みどころが異なり、ぐいぐい引き込まれます。今、これだけの展開を描こうと思ったら倍以上の巻数が必要そう。昔のマンガってテンポがいいんですよね。
和久井が槇村さとる先生作品と出会った作品が『ダイ・パラ』でした。当時、風邪で寝ていた高校生の姉に、息も絶え絶え「本屋さんで『ダイヤモンド・パラダイス』の3巻を買って来てくれ……」と頼まれたのでした。寝てて暇だってのもあるんでしょうが、発売日に読みたかったのでしょうね。
私にとっては、出会ったその日が最終刊発売日です。続きを待つ必要もない。1巻から一気読みしてどハマりしました。その後、『ダンシング・ゼネレーション』『N★Yバード』『愛のアランフェス』と続けて読みあさり、槇村さとる先生作品にドップリ浸かりました。今こうやってラインナップを観てて思いましたが、スポ根系が多いですね。バンドとかダンスとかフィギュアスケートとかに邁進しつつ、自分を成長させ、そして恋も頑張る、というのが槇村作品の主人公なのですね。
というわけで、印象的なシーンをいくつか。
ファッションの流行は30年くらいごとに繰り返すと言いますが、今流行のオーバーサイズも、「ダイ・パラ」連載当時の流行でした。そしてひとみのママの時代の流行なんですね。
そして特筆すべきは、ひとみと弥樹の関係です。
80年代は、女性の処女性が非常に価値のあった時代。そして女子高生がまだ商品化されていない時代でした。だからなのか、弥樹は、
自宅に!
好きな女の子が!
夜に!
ベッドしかないワンルームに来て!
「抱いて」とか言ってるのに!!
黙ってプチプチと靴を履かせて家から出て、手を出さないんですよ。仙人にもほどがありますね!
少女マンガにはときどき、こうした仙人が出場します。「大切にしている証」ってことなんですが、リアルでそんな話聞いたことがありませんね!
だから少女マンガは癒されるというか。
ちなみに3巻巻末に載っている「セブンスアベニュー・ラブ」も感動の短編なので、ぜひ。
なお、3月31日まで弥生美術館にて「デビュー50周年記念 槇村さとる展」が開催中です。