マンガの編集部に赴き、編集者が今おすすめしたいマンガやマンガ制作・業界の裏側などを取材する連載企画「となりのマンガ編集部」。第2回は、双葉社のwebアクション編集部にお邪魔しました。今回は双葉社でマンガ編集生活28年目の平田さんと、第1回で取り上げたトーチwebの立ち上げメンバーでもあり現在はwebアクションで熱い志を燃やす中村さんにたっぷりとお話をうかがいました。
取材:マンガソムリエ・兎来栄寿
狩撫麻礼から始まった編集者人生とwebアクション
——元々webアクションさんは単体の編集部としては存在しておらず、双葉社内の複数の編集部の方々でなっていたとお聞きしたのですが。
中村 2021年6月から単独の編集部になりました。それまでは有志で運営していましたが、現在は平田、堀江、私の3人が専属です。
——それでは、まず平田さんと中村さんのこれまでの経歴、担当作品などを教えていただけますか。
平田 僕は『漫画アクション』にずっといて。23年ぐらいいたんですかね。その後マンガ何でも編集部みたいなところに行って、そして中村がリイド社から、堀江が芳文社から来て。元々全員タバコを吸うんで、喫煙所で何となく話をして(笑)。それまで双葉社にあったwebコミックアクションという媒体があって、それに対して中村が「双葉社のweb媒体は改善の余地しかありません!」と。
——中村さん、熱いですね。
平田 中村の発言からwebアクションの構想が始まってます。僕は狩撫麻礼(土屋ガロン)さん・嶺岸信明さんの『オールド・ボーイ』が独り立ちして初めての担当作品でした。その後、たなか亜希夫さん・橋本以蔵さんの『軍鶏』、押見修造さんの『漂流ネットカフェ』『ぼくは麻理のなか』、清野とおるさんの『ウヒョッ!東京都北区赤羽』、田亀源五郎さんの『弟の夫』、櫻井稔文さんの『絶望の犯島―100人のブリーフ男vs1人の改造ギャル』、末田雄一郎さん・吉本浩二さんの『昭和の中坊』などを担当し、また現場に戻って中村・堀江と出会いwebアクションを立ち上げ、現在は『「たま」という船に乗っていた』、小骨トモさんの『神様お願い』、高橋聖一さんの『われわれは地球人だ!』、福満しげゆきさんの『ひとくい家族』など、自由にやらせてもらってます。
——Twitterでも平田さんは担当された作品の一覧を載せていらっしゃって、面白い作品ばかり担当されてるなと思いました。28年前、双葉社に入る前は何をしてらっしゃったんですか?
平田 学生です。新卒で漫画アクションに配属されました。28年間、仕事内容は変わってないです。
——webアクションが創刊したときの最初の挨拶文でも冒頭に狩撫麻礼さんの作品のセリフが熱く引用されていましたが、あれもやはり平田さんが書かれたのでしょうか。
平田 僕が書いて中村がチェックしてます。狩撫さんの追悼本を作ってた時に中村と堀江が中途で入ってきまして。二人とも狩撫作品が大好きだったので、すごく手伝ってくれて、何ていいタイミングで入って来てくれたんだと(笑)。そう、タイミングがすごくよかった。webアクションの構想を考えるときに、挨拶文の冒頭に掲げた『ハード&ルーズ』の一節「感動してしまったら人は容易に道を踏み外す」が頭から離れませんでした。
——あの文章を読んだ瞬間、このレーベルは間違いなく面白くなりそうだなと思いました。実際に面白い作品がどんどん出て来て感動しています。
中村 平田の存在が本当に大きくて。私と堀江は平田の担当してきた作品に触れて編集者として育ってきました。そういう意味で大事な存在というのは入社当時から今も変わりません。築いてきた世界、発する言葉の重みを考えると挨拶文は平田が書く以外ないと思いました。
平田 僕と堀江と中村の年齢がちょうどみんな10歳ずつ離れていて、入ってきたときは40代、30代、20代で今は50代、40代、30代。そこもバランスがいい。
——皆さんご出身はどちらなんですか。
平田 僕は神奈川県。
中村 私が千葉で、堀江が東京です。
大人になってからも青春はあった
——では、続いて中村さんのお話もお聞かせください。
中村 私は美術系の大学に行っていたのですが、卒業したら社会に出て働かなくちゃいけないんだってことに卒業間際に気付いて、そこですぐに就ける職業として大学病院の夜間の受付で働き始めました。そこに4ヶ月ぐらいいた後に出版に絞って転職活動を始めたんですが、その当時はマンガ編集者は新卒しか募集してなかったのでそもそもマンガ編集者になるという道はなく、当時はパソコンも好きだったことからまずはパソコン誌の編集者になりました。
それから3年半ぐらい経って、マンガに関わる仕事がしたいんだよなっていう根源的な欲求に立ち返り、当時編集者を募集していたリイド社に応募し、時代劇専門のマンガ誌『コミック乱ツインズ』でマンガ編集者のキャリアをスタートしました。時代劇は50〜60代の男性が主な読者で、自分が当時20代後半から30代前半だったので、自分たちの同世代に向けた作品を届けたいという欲求があり、同世代の同僚たちとともにトーチというサイトを立ち上げたんです。 もう楽しくてしょうがなかった! 青春って学生時代に終わったものだと思ってたんですけど、全然大人になってからでもあるんだみたいな。それまでは時代劇しか作ったことなかったので一般マンガの作法なんて全く知らなかったんです。知らないからこそみんなでゼロから考え、他社の本を参考にしたり、仲間と話し合って互いに刺激を受けながら本を作っていました。それで単行本作業で悩んだときに私が必ず見ていた本が『弟の夫』だったんです。
『弟の夫』は平田が担当していたんですけど、内容を踏まえたカバーの見せ方、帯に入っているキャッチコピーやリードの言葉の加減など、すべての調和がとれていて、今でも完璧な作りの本だと思っています。ですので平田に心を掴まれちゃってる、そんな感じです。トーチ時代の担当作品はRENAさんの『本橋兄弟』、つゆきゆるこさんの『ストレンジ』、カシワイさんの『107号室通信』、鮫島円人(鮫島圓)さんの『蓬莱トリビュート 中国怪奇幻想選』など、時代劇だと『鬼役』『仕掛人 藤枝梅安』『軍鶏侍』、webアクションでは『シェアーズ』『スケバンと転校生』『風街のふたり』『ののはな語らず』『お守り女房』などです。
作家性に唸ってきた僕らの課題
——先ほど双葉社のwebは改善の余地しかないと仰っていたということだったんですけど、そのあたりはどのように改革していったんですか。
中村 私が入社した3年前は双葉社がWEB媒体に力を入れていませんでした。
平田 10何年か前に立ち上げたけれど、そこに編集部があったわけじゃないので。作品を載せるだけの場所になってしまってました。
中村 WEBコミックアクションという媒体に各種紙媒体の情報を載せつつマンガの連載も載せていたのですが、マンガの連載は本当に細々とやっている状態で。双葉社って外から見ていたときはすごく好きな出版社だったんですが、当時で言うところのWEB系の作家さんを上手く掴めてないなっていう印象はずっとあって。僕や堀江が入社し、その流れもありWEBをしっかりやっていこうっていう話に会社としてもなっていったことは個人的にすごくありがたいし嬉しい出来事でした。
そのときに3人で話して、狩撫さんの先ほどの言葉を自分たちなりに解釈した結果、作家性を大事にしようとなりました。ただ、読者が作家性を楽しむにはマンガをどれだけ雑多に読んできたかが問われると思っています。今は雑多に読む機会が少なくなっていて、読者は好きなジャンルに絞ってマンガを読む。現在の読書をめぐる環境や読者側の感覚を考えるとそうなることは必然で、ジャンルにとらわれないで作家性に反応してくれる読者の数というのは確実に減ってきている印象です。
それを踏まえて、ここ最近は作家性は大事にしながらも、より多くの人に届けるためのアプローチというものを自分たちなりに考え、実践していこうと話してます。これまで刊行したマンガに関してはいい作品を世の中に届けられたっていう手応えもあるのですが、単純にもっと読んでもらいたい、もっと買ってもらいたいと思っています。トーチ時代は「これはもう最高の才能でしょう!」って自信を持って本を出せば納得のいく売れ方をしていました。ですけど、最近は以前よりも作品の魅力や本を読者に上手く届けられていないと感じていて、そこが課題です。
——その辺りについては私自身の課題でもあります。さまざまな方法で読者に作品を届けられるよう、共に頑張っていきましょう。
今webアクション編集部が推すマンガ3選
——次の質問に移りますが、そんなwebアクション編集部が今推したいマンガ3選を教えてください。
中村 3人の趣味嗜好がバラバラで整合性が取れないんで(笑)。ひとり1作品選ぶ方がいいんじゃないですか。
平田 (石川浩司・原田高夕己『「たま」という船に乗っていた』と、小骨トモ『神様お願い』で非常に迷って)どっちかなぁ。連載中なので『「たま」という船に乗っていた』にします。
——では、『「たま」という船に乗っていた』の魅力や推したいポイントを語っていただけますか。
平田 元々Twitterで発表していたマンガで、「たま」ファンの小骨トモさんに教えてもらいました。毎月更新してたんですけど、気づいたらすごい楽しみにしてる自分がいて。掲載媒体を募集してたので名乗りを上げました。こんなに楽しみにしているなら自分で担当すれば早く読めるぞ、と。「たま」はリアルタイムでドはまりして夢中で聴いてました。「イカ天」出場以前の話はほとんど知られてないし、「『さよなら人類』しか知らない」という人が多いのですが、いちファンとしては忸怩たる思いがありました。貧乏だけど好きなように音楽活動を続けている「たま」のみなさんが、一夜にしてシンデレラストーリーが始まる怒涛の展開は興奮しますね。この展開は今の若い人、音楽にしろマンガにしろ映画にしろ芝居にしろ好きなことをやりたい人たちに読んで欲しいです。元メンバーの石川浩司さんが原作を担当していて、最近ご一緒することが多いんですけど、何をするにもすごく楽しそうなんですよね。
——作中の通りですね(笑)。
平田 マンガ通りなんです。本のプロモーションでいろいろなお願いをしても、「いいですよ!」と楽しそうに引き受けてくれて、こういう人になりたかったなって思います(笑)。好きなことをやり抜き通した人の強みのようなものを身近にいて感じます。そのパワーを今の若い人にぜひ感じてほしいです。今はちょっと世知辛い世の中ですけど、自分のやりたいことを貫き通して、表現力を磨いていくと夢が叶うということを、「たま」ファンや「たま」の歴史を知りたい人以外にも読んで感じてほしいです。
——あとがきでもお金なんてなくたって幸せに生きていければいい、と力強く書かれていましたね。イカ天のシーンなども、聴衆の顔をいろんな作家さんが描いていてすごく印象的でした。
平田 実はあのシーンは原田さんの模写なんです。原田さんから好きな作家さんのキャラクターを描きたいというリクエストがありまして。印刷所の人からも「個人的な興味なんですけど、この絵は各作家さんご本人が描いたんですか?」と聞かれました。原田さんの「イタコ漫画家」としての実力が発揮されましたね(笑)
中村 校正をしてるときに心の奥底から「とんでもない回だな!」って思うことって1年に1、2回ぐらいなんです。イカ天の回はまさにそれで。マンガってすごいなって改めて思わせられて、その感動をすぐ平田に伝えました(笑)。
平田 あの回をやりたいがために名乗りを上げたようなものですね(笑)。狩撫麻礼さん・たなか亜希夫さんの『迷走王ボーダー』のライブシーンを原田さんにも読んでもらったりして。マンガで音楽を表現してみたかったんです。原田さんが見事に応えてくれました。
中村 あれ、何稿までいったんでしたっけ?
平田 ネームは4稿くらい。石川さんのパーカッションソロは主人公最大の見せ場なので絶対見開きで入れたくて。
——普段、他の話もそれぐらいネームに手を入れてたりするんですか?
平田 いえ、基本一発OKで、いっても2稿なんですけどあの回だけは特別で。ちょっとした動きやポーズにも「これじゃない、こうじゃない!」と議論しました(笑)。
——やはり、それだけのこだわりがあの回にはあったんですね。
中村 堀江案件は立ち上げという意味では双見酔さんの『ダンジョンの中のひと』ですけど、『BADDUCKS』ですかね。僕と堀江でコミティアに行ったときに武田登竜門さんに出会って。
——コミティアがきっかけだったんですね。
中村 そこで一目惚れして。
——武田登竜門さんを見つけ出すのは素晴らしい目利きだと思います。
中村 武田さんの作品が放つ簡単に言語化できない魅力をちゃんと感じ取ったところに堀江の目の確かさを感じています。
——武田さんは美大を出てるわけでもなく普段から何か描いてたというわけでもないということなんですが、何故一介の主婦だった方がこれを描けるのかと天才性を感じずにはいられないですね。
中村 本当そうなんですよね。得体が知れないんですよ、武田さんという作家さんに関しては。底が全く見えないんです。
——どういった感じの方なんでしょうか。
中村 何度かお会いしましたが感度がすごく高い方で、人をよく見ている。なのでお会いするときは毎回ちょっと緊張します。商業で単行本が出たばかりとは思えない、人間的な迫力があります。
——短編を読んでいても引き出しがものすごく広くて、まだまだどれだけでも物語を生み出せる方なんだろうなという確信しかないですね。
中村 エネルギーの量が違いますね。
——機会があれば、別で武田さんのルーツを訊くインタビューなどもさせていただければ幸いです。
中村 武田さんはぜひ聞いていただいた方がいいですね。この『BADDUCKS』も武田さんはエピソードごとに語れることがものすごいあるんですよ。特典用に作られた著者による解説文があるんですが、作品に関するディテールを含めたすべてが頭に入っていてすぐに言語化して説明できてしまうんです。
——あれらは即興で出たものなんですね!
中村 ちなみに『BADDUCKS』は社内で自然発生的に盛り上がっていった作品なんです。話題になった読切の『大好きな妻だった』の前から企画は進んでいて、営業の若手の子が「これ、すっごい面白いんで売りたいです!」っていうところからどんどん輪が広がっていって、書店員さんにもその熱が届き、結果的に読者にも届いたという印象です。嬉しかったですね。
——『BADDUCKS』がちゃんと売れる世界は安心します。
平田 安心しますよね。
中村 『BADDUCKS』以外もそうなんですけど、なぜ売れて欲しいのかといえば、売れたらこの世界がもうちょっと好きになれるからです。こういう作品がアリと思える人たちがいっぱいいると思ったら。
平田 まだまだ大丈夫だと思いますよ。
——では最後に中村さんの選ぶ1冊を教えてください。
中村 今は7月に刊行したということもあり『スケバンと転校生』です。この作品とはpixivで出会いました。世間的には百合マンガにカテゴライズされるのですが、私は百合マンガではなく「性別もバックグラウンドも関係なく無条件で好きになっちゃった人と一緒にいたいふたり」という作品だと思っていて、そのフラットでラブリーな価値観がいいなって心から思っています。
——読んでいて、本当に幸せになる作品ですね。
中村 自分が担当している他の作家さんもそうなんですけど、人として持ってる価値観そのものが良いことが多く、それが作品に出ている方に編集者として惚れてしまう傾向があります。
——ありがとうございます。この3作品が横に並ぶところにWebアクションの良さが出ていますね。
webアクションが誇る強靭な組織体制
——次は編集部のことについてお聞かせください。最近編集部内で流行っていることってありますか?
中村 今ぱっと浮かんだので言うと、編集部の会議を喫茶店でやることにしたんですよ。近くにある双葉社の人間がよく使ってるお店にしてから、よりふたりのことを好きになりました。タバコ吸いながら、アイスコーヒー飲みながらくつろいであれやこれや話してて、会社で話してるとどうしても真面目にしなくちゃいけない雰囲気になっちゃうんですけど。そこは何か楽しいですね。
平田 会議会議してるのが全員苦手で(笑)。自然と盛り上がるような。
——まさに昭和の編集者のような(笑)。かしこまらない雑談形式のほうが出しやすい話やアイディアなどもありますもんね。ちなみに双葉社の周りでおすすめのお店やグルメとかってありますか?
中村 「珈瑠で」じゃないですか?
平田 「珈瑠で」はそう、最近珍しくタバコも吸えるし。あとはモツ焼き屋の「加賀屋」。飲みに行くときは「加賀屋」一択です(笑)。閉店の30分前とかギリギリに行くときは歩きながら電話して注文しちゃいます。「ホッピーとタンの塩、シロのタレお願いします!」と伝えておけばお店に着くと用意されてるっていうシステムです。
——素晴らしいですね。
中村 編集部ができる前に3人で行ったんですけど、すごくにぎやかなお店で。誰かが何か喋っても全然聞こえなくて、お店でてから平田に「ほとんど聞こえなかったんですけど」と言ったら「ここはそういうお店だ」と(笑)。
平田 酒飲んでると聞こえるようになるんですよ。加賀屋に限らずですけど、30分くらい経ってくると不思議と(笑)。
——続いて、webアクション編集部が自慢できることを一つだけ挙げるとすると何でしょうか。
中村 これは僕の理想的な組織のスタイルに近いのですが、出自もキャリアも異なる3人がいて、肩書きや年齢・キャリアとかいろいろあるけれど、作家性を大事にしているところは共通している。それに各自が自立しているので余計な摩擦が起きづらい。水平にみんなが配置されているような感覚です。
平田 ふたりにネームの相談とかするんですけども、信頼できるんですよ。「何か適当なこと言ってるな」「見せる相手を間違えた」と思ってしまうようなことがない。ふたりとも視点がしっかりしているので、絶大な信頼を置いてますね。チーム感がすごくあるので、ひとりでやってる感じがしないですね。
——『たま』の4回の改稿もそうなんですが、webアクションは編集部内でも作家さんとも本音を出した上ですごく上手にコミュニケーションを取って意気揚々と作品を作ってらっしゃるイメージです。
平田 3人とも編集者としてのタイプは違いますが、作家さんとの付き合い方は確立してるんじゃないでしょうか。
webアクション編集者の人生の1冊
——最後に、編集者が繋ぐ思い出のマンガバトンということで、人生の中で思い出のマンガを1作品ずつ教えてください。
平田 その日によりますが、今日の気分で行くと『迷走王 ボーダー』になるのかな。『「たま」という船に乗っていた』は『ボーダー』に通じる所がある作品なんですね。蜂須賀たちの貧乏だけど、楽しく生きてる姿。僕は人生を楽しめる人に対してすごく憧れがあって。「今日もあれが出来なかった」とか考えちゃって、自分を責めて勝手に落ち込んじゃうタイプなので、生活を楽しめる人に憧れるんですね。
中村 ネガティブですね(笑)。
平田 狩撫さんは生活を楽しんでる人でした。例えばテレビで料理番組を観ると、美味しそうだなって、作って食べさせてくれたりして、興味があることをすぐに実行する狩撫さんに感動したことがあります。自分もそういう事をやりたいんですけども、絶対やらないんですよね。石川浩司さんもまさにそういう人ですね。拾った太鼓があるからパーカッション担当になるとか、自分の興味があることに忠実なんですね。『ボーダー』の蜂須賀、久保田、木村はみんな楽しそうにしていて、この作品の中に入りたいなって思います。でも、「たま」のみなさん、『ボーダー』3人組に共通しているのは既成概念への反抗なので、「生きづらい世間からの打破を描く」ということでは小骨トモさんの作品も根は同じだと思っています。
——ありがとうございます。中村さんはいかがですか。
中村 私は水木しげる先生の『河童の三平』です。河童みたいな見た目の三平と三平にそっくりな河童、それにタヌキや死神たちが、学校に行ったり、水泳大会に出たり、喧嘩したり、秘宝を探す旅に出たり、三平の母親を捜したりと、方向性の違う話がひとつの作品の中に入っていて一言では言い表せない読み味なんです。読者をどこに連れて行こうとしているんだ、と。でも読むと確実にハマります。
——『河童の三平』とはどのように出会ったんですか。
中村 私はいちマンガ読者として恵まれてる世代なんじゃないかと思っていて、赤塚不二夫先生の『おそ松くん』の単行本をお年玉で買いに行ったり、中学生のときに手塚治虫先生の『来るべき世界』や『メトロポリス』といった初期作品の出し直しが始まったり、それでいて同時進行的に『ドラゴンボール』とか『スラムダンク』や『幽★遊★白書』、ジャンプ・マガジンの全盛期があり、それこそトキワ荘のレジェンドたちの作品とジャンプなどの大人気作品が入り混じった世界でいろんな作品を読んでいったんです。そういう状況の中でもっと自分にしっくりくるマンガを探しに古本屋にも出入りするようになり、そこで出会ったと思います。
——水木先生の作品は『鬼太郎』しか読んでないという人も多いと思いますが、それはもったいないですし本当にあの辺の作品もぜひ多くの方に読んでほしいと私も思います。それでは最後に、何かお知らせなどありましたらお願いします。
平田 高橋聖一さん『われわれは地球人だ!』、るぅ1mmさん『怪獣くん』の単行本が9月15日(木)に発売なのでよろしくお願いします。
中村 8月に発売した『ようきなやつら』も推したいです。
——最後にwebアクションの読者の皆様に一言お願いします。
平田 これからも皆さんが楽しんでいただけるような作品をお届けしますので、ご期待ください。……これじゃつまらないね(笑)
中村 ちょっと話ずれちゃうんですけど、平田から「最近読者に会えてないでしょ」と言われてハッとしちゃって。読者と会いたいですね。どんな方法でもいいんですけど、生の声を聞きたいです。Twitterの感想も嬉しいので当然見てるんですけど、もっと温度が高いものを欲しくなっています。
——現在こういう情勢なのがもどかしいですね。
平田 『「たま」という船に乗っていた』の出版記念イベントを東京と大阪で開催したんですが、たくさんの人が来てくれて。直接読者と会うと元気が出ますよね。どういう人が読んでくれているのかわかると、とても嬉しいです。
——本日は長時間、貴重なお話をどうもありがとうございました。
webアクション編集部の方々はマンガを、そしてマンガを生み出す営みを心から愛している方々なのだと話の端々から強く感じました。時代によって変わり行くものや取り巻く外部の状況、以前はできていたことが情勢によって厳しくなってしまっているなど乗り越えるべき困難もありますが、この方々なら今後も間違いなく素晴らしい作品を世に送り出し続けてくれるという確信を得られるインタビューとなりました。webアクションの更なる飛躍に期待します。
以下は取材時の写真です。
「となりのマンガ編集部」第3回もお楽しみに!
記事中でも紹介した『「たま」という船に乗っていた・さよなら人類編』の原画展イベントがただいまマンガナイトBOOKSにて開催中です。サイン本の販売などもあるとのこと。こちらも要チェック!
『「たま」という船に乗っていた・さよなら人類編』原画展
◎開催期間:9/7(水)~9/25(日)
◎会場:マンガナイトBOOKS・E Gallerry(東京都豊島区南長崎3-4-10 味楽百貨店)
◎公式サイト:https://books.manganight.net/tamatoiu/
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