「どこを探しても肉声が見つからないんです」「インタビュー記事が検索できない!」という小社の「マンガ読みマン」の興味から始まった今回のインタビュー。「『ツヨシしっかりしなさい』は実写ドラマにも、アニメにも、映画にも、ゲームにもなった巨匠ですよ! あんなビッグヒットを当てた漫画家は一体どんな人なんでしょう?」。行方を探し当てて、人となりと制作の秘密を、肉声を聞いてこい!と指令が下った。連載中の『テツぼん』執筆の多忙のなか時間をいただいて、都内某駅の喫茶店で会うことができたのだった。後編です。
(前編はこちら)
取材/文/撮影:すけたけしん
永松潔(ながまつ・きよし)
1950年1月5日、福岡県福岡市生まれ。1971年「コミックmagazine」(芳文社)に掲載された『望郷』でデビュー。1986年に「モーニング」(講談社)で連載を開始した『ツヨシしっかりしなさい』が大ヒット。テレビドラマ化、アニメ化、映画化、ゲーム化を成し遂げる。近年は2008年から描き始めた『テツぼん』(原作:高橋遠州)が、連載300回を突破。現在も「ビッグコミックオリジナル」(小学館)で連載中だ。
主人公は”その辺の顔”がいい。
永松潔その人は、照れくさそうで、そこがとてもチャーミング。謙虚に静かに、自分を”小さく”見せる人だった(でも大きさがあふれ出してしまう!)。ともかく、目の前の人間をリラックスさせてくれる。何をやっているわけではないのだが、人当たりが柔らかく、自然体。大の大人に対して言うのはおかしいが、とにかく「大人びている」と感じさせるのだ。そして”福岡モン”特有の、筋がビシッと通ったところがある。それをきっとダンディと言うのだ。話をしているうちに取材時間が予定より延びていったのだが、「いいよ、今日、たくさん話をしましょうよ」と言ってくれました。
──先生はツヨシに似ているんですか?
あーーーー(6秒ほど)。似てるとは言わんけれども。半分くらいは該当することがあるよね。兄弟多いでしょ。上の兄貴が凶暴でしょ(笑)。
──ツヨシのところの井川家も上のお姉ちゃんが凶暴ですね(笑)。
そうそう。こっちは男ばっかし5人だから。母親の手伝いする人が家の中にいないから、かわいそうだと思って。俺は母親贔屓だったかもしれない。小学生の時点で台所に立って味噌汁を作ってた。すごいでしょ。そういう意味では、若干、ツヨシが入ってんじゃないか。今でもキャベツの千切りくらいならすごいよ、早いよ(笑)。キャベツはね。キャベツだけね。
──ツヨシが描かれたのは1986年(昭和61年)から1990年(平成2年)ですけれど、ツヨシみたいなヒーローこそ、令和の時代にみんなが求めているヒーローじゃないですか。料理ができて、家事全般ができて、段取りごとができて、アテンドできる、アレンジできる、サプライズできる……、ツヨシと付き合いたい女性は多いと思います。
(モーニングを創刊した)栗原(良幸)編集長が、「ベースはスーパーマン。普段はクラーク・ケント、何かがあればスーパーマンに変身する話でやろう」という軸を打ち出したんです。スーパーマンはいつでもモテるでしょう。変身前もモテる。それがうまくいったんだと思います。
──テレビドラマ(1989年)、アニメ(1992年)、映画(1993年)、ゲーム(1994年)、と4つ次々と展開したじゃないですか。全部というか。すばらしい大ヒットですね。
そうですね。
──漫画家さんにとっては夢。
そうですね。すべてクリアしてますね。ありがたいですね、1本の作品でそれをクリアしちゃうと。でも、重版はかかってたんだけど、大量の印税はなかったなあ。100万部とかまでは、部数は行ってないから、そこはまだ漫画家人生の心残りですね。
ともかく、あの頃は体力もあったし、心身ともに捧げてましたね。寝てないってことはないけれど、寝るのは楽しみだったね、ああ、寝れるーーーって。
──売れっ子アイドル並みの睡眠時間?
ツヨシを連載している途中で、子供が学校に行き始めたから、夜型生活から朝型生活に戻したんだったなあ。子供が「ただいま~」という声で目を覚ましていましたからね、いかんな、と思って。漫画家は30代までは夜型で通用するんだけど、40代からはカーテンを開けたら日差しが入ってという生活に戻さないとね。体内時計を修正したほうがいいですね。
──先生の主人公は顔に特徴があると思うんですけど。
ええ。
──なんていうか、顔はフツーのひと。そして、『ツヨシしっかりしなさい』の井川強も『テツぼん』の仙露鉄男(せんろてつお)も、そこはかとなく似ていると言いますか。先生の作られる主人公の顔って長く愛されるじゃないですか。主人公顔のこだわりを教えてください。
僕はそんなに器用じゃないから。自分のなかで割と普通の、毒のない顔を描く。主人公は”その辺の顔”、それを描いたらあの顔なんですよね。個性のない顔がいい。
──普通の顔を描こうと考えるんですか。
そうですね。狙わない。年寄りでも悪役でもおばあさんでも赤ん坊でも、誰が主人公でもいいんだけど、主人公は本当に毒のない顔がいい。ごく一般的な顔がいいですね。
──何年も描く顔ですね。
うん。でも、どの漫画家さんも主人公はそんなに変わった顔じゃないと思いますよ。弘兼憲史さんが描く主人公にしてもそうですよね。みなさん描く顔は、自分のなかの「かっこいい顔の範疇の顔」に入っている顔のなかから、いちばん普通の顔を選んでお描きなんじゃないですかね。
いやいや、水島先生はああいう顔は貸本時代から多いですね。山下清風と言いますか。んー、もしかしたら、波乱万丈の人生を送ってきた漫画家はクセのある顔を描くかもしれないですね。僕みたいない波風立たない育ち方をしたときは、あんな顔になるんでしょうね。
──永松流の主人公顔は「穏やか顔」ですね。
そうですね。自分のなかの至極真っ当な部分だよね。自分のなかのいちばん面白くないやつを描いている。
──それが長く愛されるミソなんですね。
俺、10代の頃は男子校だしねー。人生に波風がとくなかったよなあ(遠い目)。
──いやいや、親の反対を押し切って上京して、手塚治虫さんところをピンポンして(※前編参照)。どう考えても通常の人生じゃないでしょうけれど。しかし、そう言われてみると、ツヨシも鉄男も、「男子校顔」なのかもしれませんね。だから、読者の”男子校生”部分をくすぐられると言いますか。時に男子校出身の漫画家さんがヒロインを描くときには人一倍ドキドキするんですか?
ははははは! 割と苦手だったねー、女の人を描くのは。あんまりにも男のドラマをたくさん描いてきたから、女の子を描くのは下手くそ。
──いやいや、それはご謙遜を。魅力的な女性たちがたくさん登場していますから。男子校的な”やせがまん男の物語”を堪能させていただいておりますけれど、面白くも美しい女性キャラをたくさんお描きじゃないですか。
いやいや(照れ笑い)。
──いやいや。
いやいや(さらに照れ笑い)。
車輪を描くのは避けてきたはずが…
──では、『ツヨシしっかりしなさい』から、その後、『テツぼん』をお描きになるまでをお聞きしていきたいのですが。先生は読み切りの作品も多い作家さんですが、読み切りが達者なんですか。
なるほど、多いですね。読み切りを描くのは大好きでしたよ。まあ、漫画家のスタートというか、持ち込みは読み切り作品だからね。読み切りのものを持っていかないと、取ってくれないから。各雑誌のゲスト枠にどうやって頭をこじ入れるかでしたからね。
──漫画を作っていて、行き止まったり、詰まったりすることはないんですか。
原作があるとないですね。オリジナル作品のときは必ずありますね。
起承転結の、「テン」で必ず壁にぶつかる。これを乗り越えないと、話をしまえない。「結」はもうあるんですよ。先にできてるんです。「テン」が普通のテンじゃいけないからね。読者の誰もが想像しないようなテンを思いつきたいんですよ。びっくりするような「テン」ね。そこんときは、僕はひたすら歩きます。川っぺりを何度も何度も往復する。思いつくまで歩いてました。
詰まったら、違う物を考えようとする人もいるけれど、やっぱりうんうん言って、こじ開けていかないと先につながらない気がしますね。乗り越えないと力がつかないというか。僕は、いいアイデアを思いつくまでずっとそれ一本槍で推し進めます。ずーっと、やってますよ。
──先生らしさなんですね。
それで、テンを思いついたら一話できるんです。うん。それとは別に、作家生活の計画性としては、『ツヨシ』を描いているあいだに、次をどうしようか考えなきゃいけなかったなあという反省がありますね。当たっているうちに次のネタを練りたかったんですけど、準備できないままに、次々と「読み切りを描いてください」と仕事が来ちゃったんですよね。今、あの頃を思い返すと。
──”売れっ子作家”状態になっちゃったんですね。順番待ちをしている編集者がいて。
きれいに言うとそうだけれども、その時その時で、無理矢理考えちゃうんですよね。それで出てくるし描けてましたから。
でもそれではいけない。後輩漫画家に言っておきたい! 泥縄系は絶対によくないです。一個、大事に考えて、かなり前から考えておいて、何回も読み直して、それでも面白くて、これはOKだな、と心が決まるものを持っておかなければなりません。それは伝えたいですね。
特に、「原作ものをやりませんか」となると、おんぶに抱っこになっちゃいますからね。
──川っぺりを歩かなくなる?
そうですね。
──1990年代以降、…ざっくりいうと”平成時代”前半は…、ツヨシの横展開があって、スピンオフ作品で中学時代を描いた『ツヨシもっとしっかりしなさい』(1993-1994/平成5年-6年)、父親になった『ツヨシしっかり2しなさい』(2001-2002/平成13年-14年)、などがあって。「モーニング」では天才奥様と発明家夫の”愛妻”喜劇の『虎男さんのお気に入り』(1991~1993/平成3年-5年)もありました。
ええ。
──『虎男さんのお気に入り』や『名犬リンタロウ』にもツヨシが出演していましたね。
そう考えると、ずっとツヨシはそばにいたんでしょうね。
──そんななか、いわゆる業界で言うところの”講談社系”だった永松さんが、小学館で描くようになったきっかけはなんだったんですか。
小学館の熊田正史さんという編集者が「『孫がゆく』をやりませんか?」と声をかけてくれたんです。それが最初だったかなあ。雑誌は「ビッグコミックスペリオール」ですね。
──ソフトバンク創業者の孫正義さんの伝記の漫画化(作:鶴岡雄二/単行本は2000年/平成12年の発売)です。
そうです。それで、これは『テツぼん』を始めた後の話だけれど、土田和之さんという編集者と知り合ったりして。その人が競馬好きでね、「一口馬主になりませんか」と来た。それで、僕も競馬は好きな口だったから、やってみたんだよね。ノーザンファームの馬。
──一流の牧場ですね。
未勝利戦を1回勝ちました。10回以上は無事に走りました。
──無事是名馬を地で行く馬を選んだんですね。
結果的にそうでしたね。馬はいいとして、話を戻すと…『テツぼん』のきっかけは…、「ビッグコミックオリジナル」の編集者の島村英司さんが、「うちでやりませんか。面白そうな原作を3本用意してあります」と。それですね。「どれがいいですか?」となって読んでみたら、いちばんまとまっていて、安定して面白かったのが、高橋遠州さんが書かれた『テツぼん』でした。裏話としては、編集部からはそれとは違うあるネタも勧められたんです。でも、書かれた方が行方知らずになられて。それで、「『テツぼん』で行こう」となったんです。
──まあ、そんな運命的なエピソードが! 永松先生は鉄道にはそんなにお詳しくないと耳にしました。
そんなに、じゃないです。”まるで”詳しくないです(キッパリ)。
──えーーっ。
だってねー。単なる移動手段だからねー。連載前は、タクシーとどう違うの?と思っていました。今は魅力を感じる人がいることを十分に理解できますが。当初はね。
──そこまで、ですか!
そうなんですよ。鉄道に愛情を持とうと思わずにスタートしちゃったから、最初はものすごく不安でしたねえ。それでも、鉄道を抜きにして、話がとても面白かったんで、これをやりたいと思ったわけなんだけれども。
だってね、電車の下の部分? メカというかマシーンの部分? どう描くのかって。まるで見当がつかなくて。最初は自分で描いてみましたけれども、すぐに編集部に言って得意な人を探してもらいましたね。
──確かに、それまでの永松作品にメカが出てきたことがありませんもんね。虎男さんの発明品には多少あったかもしれませんが。
そう。だって、僕、車輪が嫌いだもん。
──車輪が。
まず、自転車が嫌いでね。自転車を描く人が信じられない。あれに人が乗るんですよ。人が乗って、かつ、バランスよく描ける人がいまだに信じられない!
──ここにきて、よもやの力説ですね(笑)。
自転車と、料理は、漫画家人生で描かないように、描かないように、努力してきたんです。料理? 美味しく描けない! このふたつは徹底的に避けてきました。それが……鉄道は、車輪がいっぱいでしょう? 人生、妙なことになってきたなと。躊躇しました。
──(笑)それが…とんとん拍子で、キャリア最長連載になるんですから…人生はわかりませんね。
そう。最初は増刊号の不定期連載だから、「単行本が1冊出るといいねえ」と言っていたんだもん。それが「調子いいですよ」となって、「単行本の3巻まで出るかねぇ」と言っていたら、30巻を超えるわけですから。
──おめでとうございます。人気が出ましたね。
スタート時の期待値と比べたら高かったってことなんじゃないでしょうか。何回かは1位や2位と争う回があったと聞きましたけれども。
──単行本21巻の熊本編、22巻の山形編では、大人になったツヨシが登場して、夢の共演でファンを喜ばせましたね。ツヨシはやっぱり将来社長になったなあと、とても腑に落ちました(笑)。
また出てきましたね(笑)。
──昨年11月の連載300回記念回では、『釣りバカ日誌』(作・やまさき十三、画・北見けんいち)とのスペシャルコラボレーションがありました。鉄男がハマちゃん(『釣りバカ日誌』主人公の浜崎伝助)と漫画内で会話するという、漫画ファンには夢のオールスター戦が!
長いことやってるうちに、不思議なことになっちゃいました(笑)。
──鉄道にそこまで興味がなかったという永松先生が、『テツぼん』を描いていて感じるいちばんの面白味はどこですか。
なんだろうな(…想像中…)。結局、ほとんどが原作が手元に来て知るようなことばっかりなんですよ。
──はい。
そこがやっていて、普通に面白いんですよね。初めて知ること。「この鉄道にこういうドラマがある」とね。”鉄道に詳しくない読者”と同じ速度で、「へええ! そうだったんだ」と僕が知るんです。そういう勉強になる部分がやっぱり面白いですね。
そして、原作が届いてからドラマを考えるのが楽しいです。原作を読んだときに「えーっ、これをどう漫画に描くんだ!!!!」ってことはまあまああるけどね……(笑)。高橋さんは鉄道に関する知識は本当にすごいね。よく知っているんです。
──それを人間同士の話にしたり、掛け合いの面白さをつくっていったり?
そうですね。高橋さんは鉄道に愛情を入れてくれて、僕は人間の掛け合いが好きだから。これは、考えてみたらいいコンビですよね、鉄道担当と人間担当で作っている作品です。
人間は面白いですよ。僕はこれまでずっと人間のことを描いてきましたしね。(遠い目)人間、いいですね、うん。次は人間の話を描くかなあ…。
──いやいや先生、次は…って、すでにこれまでずっと人間ドラマを描き継がれてきたじゃないですか。汲めども汲めども描きたくなるのはそこですか。
そうかな。やっぱり人間なんですよね。うん、結局ね、人間同士の絡みがいちばん面白いんですよ(腕組みして超納得)。
──人はどうして面白いんですかね。願いが叶わないからですかね。
いや、面白い人間がいますよ。世の中には。本当にね。この界隈でもいるね。変わったの、いるよ。ドトールに朝コーヒーを飲みに行くんですよ。あの人、よくもまあ飽きずに毎日来てるなあって人がいてね、毎日。待てよ、向こうもこっちを思ってるかもしれない(笑)。
それと僕は「ポケモンGO」が大好きでしてね、毎日”ポケモン散歩”をするんですけど、川べりで缶コーヒー飲みながら、ずっと何かを言ってるおじさんがいつもいるんですよ。彼にはそそられますね。どんな人生を送ってきて、いま何をお考えなんだろうなあと。よく想像します。待てよ……向こうもこっちを思ってるかもしれない(笑)。お互い様か。でもまあ、魅力を発していて、つい目がそっちへ行っちゃう人ってのはいますよね。いろんな人の人生があるなあと思います。
──そういう人物スケッチが熟成されて、いつか自然に先生の漫画に出てくるんでしょうか。
そうですね。話のなかに新しいキャラクターが出てきたときに、いちばん近くにいる人が「あ、あの人だ。あの人がここで出てきた」とふいに思うことがあるんですね。
だから、僕が描いている人物ってのは、まるっきりの嘘じゃなくて。モデルがあったり。「あの人に似ている」とふと思う人がいたり。そういう本当のエピソードが事前にあると、描くときに多少の脚色で済むから、いいですね。
──まるっきり、一からの人工的ではないんですね。だから、先生の描く人物には血が通ってる感じが……
そうかもわからない。最近、コロナもあって人付き合いが増えていかないですけれども。そういうの、自然と見ているというかキャッチしているかもしれないですね。
──そういう人たちやキャラたちが、先生の頭のなかで勝手にしゃべるんですね。会話して、絡んで。
そうですね。それが面白いんですよね。
──先生は人がお好きなんですね。
うん。好きですね。特に知らない人が好き。離れて見てる分には……特にいいですね(笑)。でも、そういう人たちがしゃべる場面を、会話する場面を、いつも想像しているんでしょうね。それが僕にはいちばん楽しいんですね。
──取材は終わりに差し掛かりました。先生の今の趣味はなんですか。競馬や、ポケモンGOの話は出ましたけれど。
犬を車で散歩に連れて行ったりはよくしていましたけれどね。助手席に載せると、箱乗りするんですよ。窓から顔を出すのが好きな犬でね。風を感じて、気持ちよさそうにしてて。赤信号で止まるでしょ、そしたら、ハンドルを握っている僕の左腕をちょいちょいってやるんです。「止まるなよ、行けよ、動けよ車」って合図する犬。それでドッグランに連れて行って、ひとしきり走らせて、また箱乗りで帰ってくる。犬はいいですね。女の人よりもいいと思うね(笑)。
──ははははは。鉄道漫画を作っていたら、旅に出たくなったりするんじゃありませんか。タモリさんと漫画家さんは”二大旅に出づらい職業”でしたが。
職業病と言いますか、”もったいない病”がありましてね。「1日あれば5枚進むな」なんて勘定しちゃいますからね。昔は体力があったから、かなりの速度で描けたけど、それは変わってくるからね。今は、旅はテレビで十分だな。
──それでは最後の質問を。今叶えたい夢はなんですか?
夢?
──夢です。
夢か。いやいや、夢らしい夢はないですよ。そうだ、この仕事が終わって時間ができたら本を読みたいですね。この10年、ろくに読んでないから。読みたい本がたまってるの。それをさあ、読む楽しみがあるね。本を読む集中力が続くかなあ。衰えているのかなあ。まず、村上春樹を読まなきゃ。あれを読むね。今の僕の夢は、村上春樹を読むことですね。
(了)