現実に実行不可能とはいえ「熱血カンニング劇画」が許された時代。聖日出夫『試験あらし』

『試験あらし』

以前『魔太郎がくる』の記事で1960年代から70年代は漫画が発展し、多くの作品が発表され何でもありの状態だった事に触れました。

その「何でもあり」の時期に人気を博しながらも、現在では読む事が叶わない作品が存在します。

『試験あらし』は正にそれで、掲載誌か最初のコミックスでしか読めません。

1974年から『週刊少年サンデー』に掲載されて、少年サンデーコミックスとして全5巻が発行されてます。

主人公は「嵐次郎吉」。

ドヤ街に母と二人で住む中学3年生です。

中学卒業後は同じドヤ街に住む奇術師の「天宙」先生に弟子入り志願をしてますが、母親のたっての希望で進学校「大竜高校」を受験することに。

勉強が得意ではない次郎吉はカンニングでの入試突破を目論見ます。

合格した次郎吉は次に授業料が免除になる特待生試験で主席を獲得し、以後は大事な命運がかかった試験になると奇想天外なカンニング手法を駆使して乗り切っていきます。

現実に行おうとしても無理でしょ、となるカンニング手法が話のメインではあります。

しかし教員や招待講師による不正発見への対応や、ヒロインの「鬼頭しのぶ」との絡み。

後の「なぜか笑介」と同様のギャグやドタバタ等、漫画として普通に面白い作品です。

連載された当時私は中学生で、毎号『週刊少年サンデー』は貸本屋さんで借りて読んでました。

『試験あらし』は漫画好きのクラスメイトと面白さを語ったことを憶えてます。

毎話ごとに披露される奇抜で実現不可能なカンニング手法は、読んでいて感心させられる大胆な発想のものばかり。

新しい必殺技や魔球がその都度繰り出されているような感覚で、中学生になっても漫画を止めない私のお気に入りの作品でした。

第1話で出された手法を紹介しておきましょう。

薄切りにした消しゴムにびっしりと書き込む。

『試験あらし』(聖日出夫/小学館)1巻より
『試験あらし』(聖日出夫/小学館)1巻より

10個作成し身体の中に紐を通して正解が書かれた消しゴムが出てくるまで回すという物。

第1話だけあって少し現実的です。

消しゴムを薄切りにして中に書き込むのは1個くらいなら使えそうではありますね。

奇術師志望だけあって、第2話以降は奇抜なアイデアが加速していきます。

当時この作品が問題になった記憶はありません。

私が知らないだけかもしれませんが、連載終了後も特に何かしらの批判を受けた事は無いのではないかと思います。

現在私はコミックスの1~4巻を所有してます。

残念ながら最終巻の5巻は持ってません。

4巻まで読んでみてこの漫画は、カンニングでしか試験の結果を残せない次郎吉と周りの人物との物語と言っていいと思います。

ただ実現不可能な手法とは言え、カンニングを駆使すれば毎回満点やそれに近い結果を出す事。

最終巻は所持してませんが、最後に次郎吉はカンニングで最高学府までいく事。

更に読者から作中で使う事を前提に大胆なカンニング手法を募集している事。

いくらフィクションとは言え「カンニング」ですからね。

再版されないのは80年代以降変わっていく世の中とも相まって、現在まで来ているのかもしれません。

そのコミックス、それなりに売れたと思うのですが所有する4冊は全て初版第1刷の為どれくらい版を重ねたのかは不明です。

ただ古書店ではあまり見かけない部類の本で、全巻セットが高いプレミア価格の時もありました。

店頭でバラで揃えるのは難しいと考えた方がいいでしょう。

現在はネットで売られてますがコーティングされてないカバーの為、購入の際は破れや擦れに注意が必要です。

もっとも読む事が優先であれば問題はありませんが。

さてもう1冊、『週刊少年サンデー』1976年第7号を紹介しましょう。

『週刊少年サンデー』1976年第7号

これは2年ほど前に、表紙に書かれた大きな『試験あらし』の文字に惹かれて購入した物です。

表紙にも扉ページにも「熱血カンニング劇画」と書かれてます。

『週刊少年サンデー』1976年第7号

更に扉ページには「受験界注目の劇画」と、少年誌でありながら劇画を強調しているのは何故なんでしょうね。

他の掲載作にも見られ、

つのだじろうさんの『メギドの火』は超常劇画。

男組』は熱血青春劇画。

あだち充さんの『がむしゃら』はスポーツ友情劇画。

天下一大物伝』はバイオレンス劇画。

この「劇画」の強調は当時のサンデー編集部の意向なのでしょうか。謎です。

最終巻を所持してないので確証出来てませんが、掲載の「受験請負人」はこの号から10号まで4週連続で掲載されたシリーズ最長編と言っていいでしょう。

受験請負人でありカンニング発見人の「魔虫 一心(まむし いっしん)」との話は、聖さん御自身が柱で言及してます。

別の柱には担当記者からの情報も。

『週刊少年サンデー』1976年第7号より

こんな柱の言葉を読めるのが当時の雑誌の大きな楽しみです。

ついでと言ってはなんですが目次の画像もお届けしておきます。

『週刊少年サンデー』1976年第7号より

豪華でサンデーらしいラインナップですが、ここから2年後に高橋留美子さんが『うる星やつら』の連載を始めます。

『試験あらし』の最終巻が発売されたのも2年後の1978年。

ただし検索して出た情報だと1月発行なので、実際は1977年の終わり頃かもしれません。

この1978年頃の事はいずれ題材や諸々の作品の情報が集まり次第、記事で書きたいと思ってます。

何でもありの時代に描かれた「カンニング」という行為を題材にした漫画。

復刊は叶わぬ願いなのでしょうか。

ある程度の年齢層であればそこそこ知名度は高いとは思いますが、それでもこんな漫画があった事を知って欲しくて記事を書いた次第です。

 

 

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