50周年を迎えた『ベルばら』。本当は◯◯していなかった悪女の真実

『ベルサイユのばら』

誕生50周年記念 ベルサイユのばら展 -ベルばらは永遠に-」が開催中です。
また劇場アニメの制作も発表され、次は宝塚歌劇で再演されるのではと期待が高まっています。

ベルばら』は、ざっくり言うとオスカル様という男装の麗人がフランスの腐れきった貴族社会と戦うお話です。権威を恐れない正義感っぷりがすごい。1970年代は、女性の権利運動が盛んな時代でして、オスカル様はまさに「女に権利よこせ」と男性社会にもの申す女性そのもの。女としての悩みも持ちながら、男性としても理想の姿をしています。人気が出るに決まってますね。

さて今回は、『ベルばら』に登場する悪役たちのその後を史実で追ってみたいと思います。

オスカル様に「オールドミスのおば君たち」と呼ばれたアデライード、ヴィクトワール、ソフィー。ルイ15世の3人娘です。それにしてもオールドミスって死語かな……。昔は結婚しない女に対する風当たりが本当に強そうですね。彼女たちは3人とも同じ髪型、同じドレスを着ていて、いかにもな脇役です。作中ではアントワネットにデュ・バリー夫人の悪口を吹き込んでいます。

このオールドミスのおば君たち、1巻でなんとなくフェイドアウトしていますが、その後どうなったのでしょうか。
ルイ15世が天然痘で死去した後、ルイ16世からムードンにあるベルヴュー城を与えられ、革命が勃発するまでそこで暮らしていたそうです。革命前にソフィーが亡くなり2人になりましたが、アントワネットにないがしろにされた貴族たちがベルヴュー城に集い、そこで彼女の悪い噂をせっせと流していたとか。おば君たち、相変わらずの悪口好きですね。

その後2人は亡命し、各地を転々とした後、ヴィクトワールは1799年に、アデライードは1800年にイタリアのトリエステで亡くなりました。遺体はフランスのサン=ドニ大聖堂に埋葬されたそうです。アントワネットがギロチンにかけられたのは1794年なので、彼女より長生きしたんですね。

それから気になるのは、オーホホホホと高笑いしてアントワネットを苦しめた、デュ・バリー夫人。ベルばらでは、ルイ16世の死の間際、ベルサイユから遠ざけられ、ポン・トーダム修道院に送られたとあります。いかにもそのまま不遇の人生を送ったかのようですが、彼女は不死鳥の如く蘇っていたらしい。高位の人脈を頼って優雅に暮らすようになり、その後、何人もの愛人になっていたとか。なんなんですか羨ましい。

しかし革命が勃発するとイギリスへ亡命します、しゅわっち! なのに1793年にうかうかとフランスに帰国し、革命派に捕らえられるとギロチンに送られたとか。コンシェルジェリー牢獄にマリー・アントワネットと同時期に入っていたそうで、「あっ! お前……!」みたいな再開があったのか気になります。アントワネットは冷静に死を受け入れたようですが、デュ・バリー夫人は死刑台に上がるときも泣いてわめいて大暴れしたとか。帰国の理由は自宅にあった宝飾類を取りに行くためという説もあり、なんというか我欲に満ち満ちた人って感じですね。モテモテで羨ましいですが(2度言った!)。

ところでデュ・バリー夫人がルイ15世から贈られた城が国定史跡になっていたそうです。資金不足で荒廃していたところを、高級ホテルとしての再生利用を条件にして日本の実業家横井英樹氏に売却されたとか。横井氏って、1982年に大火災を起こしたホテルニュージャパンのオーナーなんですね。これ、子どもの頃ですがちょっと覚えてます。家事の真っ最中をテレビ中継していて、部屋の窓から外壁に逃げた客が炎に追われて飛び降りるところが放送され、めちゃくちゃ怖かったです。デュ・バリー夫人の城をめぐっては、横井英樹氏の娘など関係者が逮捕されたそうです。城までもが我欲に満ちた人たちを集めちゃいました。

最後はポリニャック伯爵夫人。『ベルばら』ではわかりやすく王妃の寵愛を失い失脚していますが、実際はそんなことはなかったよう。革命が起きると、超王党派として王妃を支えていたようです。フランスでから亡命し、各地を流浪した後1973年に病で死去。ヴァレンヌの逃亡のときには国境付近で国王一家を待っていたとも言われていて、アントワネットを利用しただけの悪者というわけでもなさそうな感じです。娘も史実では自殺したり逃げ出したりせずにちゃんとギーシュ公爵と結婚しています。

ベルばら』はノンフィクションとフィクションのバランスが非常によくて、物語をさらにドラマチックにしています。作中で悪者扱いした人たちがわかりやすく凋落したように描かれているのは、子どもたちへの教育的な意味もあったのかもしれません。

最後に、最も印象に残ったシーンをご紹介します。随所に50年の歳月を感じるセリフがあるのですが、想定外なのはここです。
ロザリーが母とジャンヌとの貧しい生活を振り返り、こう言います。

私の母は…
それこそほとんど
パンくずしか食べられないような……
下着さえも
食べもののために売らなくては
ならないような
そんな貧乏の
どん底で

この当時、まだブルセラなんてものは世の中になくて、一般的に女子が下着を売るなんて感覚のない時代でした。
このロザリーのセリフ、「下着なんて価値の低いものすら売らなければならなかった」という意味なのか、それとも時代の先端をいっていて「女の子の下着は商品になるのよ」って言っているのか。だとしたらブルセラ的に売っていたのならそこそこ稼げてるんじゃないかと思ってみたり……。

70年代の少女マンガらしく、『ベルばら』の登場人物たちはものすごく崇高な貞操観念をお持ちです。オスカルとアンドレのラブシーンを読み、「こういうことは一生に一度しかしないもの」だと思ってました。そりゃ勇気がいりますね。

50年の文化の違いを感じながら読む『ベルばら』も最高です。

 

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