ロシア革命を音楽と愛で味つけ。大作の影に隠れた名作『オルフェウスの窓』

『オルフェウスの窓』

池田理代子御大といえば『ベルサイユのばら』がなんといっても有名ですね。アニメ化はもちろん、宝塚の定番演目になり、本場フランスで映画化され、翻訳されたコミックは「レディ・オスカル」として世界中で読まれています。そして日本は、世界で一番フランス革命に詳しい女性が多い国でしょう。

一方でその「べるばら」の次に書かれた作品『オルフェウスの窓』(オルフェ)も、めっちゃ人気の高い作品です。全18巻と話も長いし、舞台となる場所も多く、手の込んだ構成。「べるばら」がなかったらもっと注目されていただろうなと思います。

タイトルになっている「オルフェウスの窓」は、とある音楽学校の塔にある窓のことです。その窓から男性が階下を見下ろしたとき、最初に目に入った女性と恋に落ちるけれども、それは必ず悲劇に終わる、という言い伝えがあります。「カップルが吉祥寺でボートに乗ると別れる」みたいなやつですね。作品に登場する男性も女性も、みんなこの言い伝えをガッツリ信じていて初々しいです。

物語は1部から4部までに分かれています。

1部は、ドイツ・バイエルン王国のレーゲンスブルクにある音楽学校での生徒たちのヤキモキと、フォン・アーレンスマイヤ家の謎をめぐる物語です。主人公のユリウスは、母親が長年の愛人待遇から妻の座に格上げになったため、アーレンスマイヤ家に跡継ぎとして屋敷に住むことになりました。しかしこのアーレンスマイヤ家には色んな謎があって、元妻、当主に続いて次々に人が亡くなったり、当主の遺産をめぐって誰かが暗躍していたりします。ミステリアスな展開です。一方で音楽学校で若者たちが恋したり楽器の腕を競ったり、ズルしたりと青春大爆発。ユリウスの秘密を知っているのは誰なのか、命を狙っているのは誰なのか、青春キュンキュンとハラハラの合作です。

2部は、音楽学校でユリウスと一緒だったイザーク・ゴットヒルフ・ヴァイスハイトのウィーンでの生活が舞台です。貧しい奨学生だったイザークは、ピアニストとして鍛錬すると同時に、私生活も充実。恋だの愛だのがモリモリと描かれていきます。恋の裏切りあり、再生あり、片想いありと、モノローグもめっきり哲学調になります。ここが一番物語の中で昼ドラ風味です。

3部は、ロシア革命を詳細に描いていきます。2部で登場をお休みしていたユリウスが復活。架空の人物を織り交ぜながら、革命の様子を、貴族側、労働者側の双方から見つめて物語を作り上げていきます。思想によって人々が分裂したり、ロミジュリばりの恋に胸を痛めたり。物語の中でもっとも殺伐としたつくりで、『ゲーム・オブ・スローン』も真っ青な容赦のない展開です。淡々と人が死にます。

4部は、風呂敷を畳むとき。1部で語られなかった謎や、2部のイザークのその後、3部のロシア革命を経てすっかりメンヘラになっちゃったユリウスがどうなるのか、始末がつけられます。アーレンスマイヤ家の残された謎もようやく明らかに。このラスト、何度読んでも「えっ!?」ってなります。

各部に共通するのは「愛」というテーマです。70年代の、そして御大の作品らしく、人生を揺るがし気も狂わんばかりの愛と挫折の様子がこれでもかと描かれていきます。登場人物は各部で重なるもののメインテーマは明確に異なり、飽きさせません。全18巻一気読みですよ。

ベルサイユのばら』も壮大でドラマチックでしたが、『オルフェウスの窓』は舞台も広範囲だし、2部と3部は同時期の話なので、完全に時系列では物語が語られないなど、圧倒的に構成が複雑です。「オルフェの方が好き」というファンがいるのも納得ですね!

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