「おまんら、許さんぜよ」
の名ゼリフを毎週放つ南野陽子さん、可愛かったなあ。
80年代にドラマ化された『スケバン刑事』、一世を風靡しましたね。斉藤由貴さん、南野陽子さんと、風間三姉妹の浅香唯さん、大西結花さん、中村由真さん主演で3シリーズ放映されてました。
80年代はまだ「原作リスペクト」なんて言葉はなかったので、ドラマはシリーズが進むほどに原作ガン無視でした。今の『仮面ライダー』シリーズ並みにアレンジされてます。
そんな『スケバン刑事』、連載開始は1976年です。現在電子版が毎月刊行中で、大人になって初めて読み返しています。懐かしいったらありゃしません。しかしこれがまた、時代を反映していてツッコミどころが満載なのです……!
主人公の麻宮サキは、なにをしでかしたんだか少年院に入ってます。そこから脱獄し、シャバに出て学生刑事として母校へ通うようになるのです。よく考えたらこの設定もすごい。入ったら最後、なかなか出られない少年院地獄城は、とても恐ろしい場所です。院長に気に入られないと勝手に刑期を伸ばされたり、喧嘩すれば拘禁服着せられて独房に入れられたり。人権とは? ってレベルで少年少女の更生どころの話じゃないんだけど、脱獄すれば追っ手も来ないし堂々と学校に通えて、刑事にまでなれるんですよ。みんな勇気を出してさっさと脱獄するといいよ! ちなみに「シャバ」とか「シャリ」という単語は『スケバン刑事』で覚えました。
子どもの頃は疑問に思わなかったけど、ロン毛サングラスの神恭一郎も、拳銃バンバン撃ってますが職業・探偵です。
まあでもこの種の妄想大爆発な設定は70年代のマンガにはよくありました。それに、少年院があんなふうに恐ろしい場所だと思っていたら、絶対に悪いことはしないぞと思うかもしれないし……。
そんななか、出番は多くないけど印象的なのが鷹ノ羽高校の生活指導教員の沼先生です。この高校唯一の正義漢。片目の周りに大きな火傷の跡があり、ユルユルとカールした髪の毛の片側だけを伸ばして片目を隠してます。隠してるほうではなくて堂々と見せてるほうに火傷があるのは沼先生のこだわりですかね。
さて最近は、未成年者の飲酒や喫煙の取り締まりがとても厳しくなりました。これらの行動が明るみになって活動を自粛するタレントがいたりグループから脱退したり。昔は「高校を卒業したら飲んでよし」みたいな雰囲気もあって、大学サークルの新歓コンパでベロベロなんて当たり前だったものです。高校生ががんばってカルピスサワーを飲んで大人っぽい気分になってましたよね。
ここで沼先生です。生活指導教員だけあって、生徒の喫煙は許しません。見つけた生徒はフルボッコです。生徒の喫煙は命がけ。
沼先生、生徒の喫煙には厳しいけど飲酒には大らかです。沼先生がBARありすで飲んでいると、サキがやってきてウィスキーだかなんかの水割りを奢ってくれます。カウンターをシャーッとグラスを滑らせて「あちらのお客様からです」ってヤツですよ。サキはバーテンに「おかわりだ、そちらのかたにも」と言っているので、サキも飲んでるっぽいですが、沼先生はサキの飲酒にはノータッチ。「いつかお前を鑑別所にぶちこんでやる」が沼先生の口癖なんですが、先生、今めっちゃチャンスじゃないんですか? それよりサキからもらったグラスを叩き割ってるので、沼先生の方がよっぽど問題児っぽいです。生活指導教員なのに。
また海槌三姉妹の企みによって、サキの乗っていたバスが崖底に転落したときのこと。ひとりヨーヨーを使ってバスから脱出してきたサキを捕まえて「てめえがこの事故をたくらんだんだ!」「さもなきゃなぜおまえひとりが生き残る!」とか叫んでサキを警察に連れて行き、拘留させます。『名探偵コナン』の毛利小五郎なみの乱暴な推理です。どうやらサキは沼先生のせいで少年院に入ってたみたいなんだけど、なにをやらかしたのかちょっぴり謎です。えん罪だった可能性もありそうな……。
とまあ、もともとのトンデモ設定に時代の変化という掛け合わせがあり、ものすごーくこってりした物語となっています。むしろ潔くて面白いです。それなのに三平の初夜シーンは何度読んでもウルッとしちゃいます。
現在、秋田書店では『スケバン刑事』祭を開催中で、完全版の出版と並行して、リメイク版の『Re:スケバン刑事』(福井あしび)、『時をかけるスケバン刑事』(室長サオリ)、『スケバン刑事Pretend』(漫画:細川真義、脚本:猪原賽)が出版されてます。
個人的には『スケバン刑事Pretend』を楽しみにしています。現代らしい闇を描いていたり、かと思うと蛇の紋章が出てきたり、沼先生が出てきたり(後ろ姿だけど)で、普通のミステリとしても面白いし、『スケバン刑事』ファンならさらに楽しい展開になっていてお勧めです。
トンデモ設定とは言え、『スケバン刑事』がもたらしている共通認識ってすごいですね。間違いなく、昭和の名作のひとつです。