潔くカッコ良く生きて行こうとする女子のかっこよさ—タヤマ碧『ガールクラッシュ』

潔くカッコ良く生きて行こうとする女子のかっこよさ—タヤマ碧『ガールクラッシュ』

 筆者は暇があるとTwitterに入り浸っているろくでなしなんですが、先日知人が、「かっこいい女の子が、超かっこいい女の子になるために超がんばる超かっこいいお話」とある漫画を薦めているのが目に入りました。そこでほうほうと読んでみたら、こんなよい作品を今まで見逃していたとは汗顔の至り。というわけで、今回紹介するのはタヤマ碧『ガールクラッシュ』です。「LINEマンガ」で連載されており、単行本(電子書籍のみ)は3巻までが出ております(4巻は夏頃発刊予定とのこと)。

 タイトルとなっている「ガールクラッシュ」というのは、「韓国アイドルでいうところの、女子が憧れるかっこいい女子」みたいな意味だそうです。

 

『ガールクラッシュ』1巻32〜33ページより

 

 本作の主人公・百瀬天花は、文武両道、容姿端麗、所属しているダンス部でも、文化祭のステージでビジュアル・ダンスともにキレッキレなところを披露(かつ、ミスった仲間のフォローにまで入る)するという、まさに「ガールクラッシュ」な高校1年生です。

 

『ガールクラッシュ』1巻56〜57ページより

 

 天花がそんな人間になったのは、恋をしていたから。小学生の頃、家庭のゴタゴタなどもあってナイフのように尖っては孤立していた彼女に、クラスの中心人物的な同級生・湊晴海だけは「百瀬は性格も考え方も違うから面白いよ」と屈託なく分け隔てなしに接してくれたため、「晴海くんにふさわしい人になりたい」「かっこいい人になるの」と一念発起、中学デビューを機に勉強・運動・コミュニケーションなど全てにおいて自分を磨き上げ、今の状態となったのです。

 

 

『ガールクラッシュ』1巻9、16〜17ページより

 

 だがしかし、そうやってがんばってきた天花に運命の女神は微笑んではくれません。天花はある日、同じ高校の佐藤恵梨杏という子と出会います。彼女は一見すると小柄で地味で弱々しいですが、でも「自分に自信のある、かっこいい人」に憧れ、K-POPアイドル(めちゃくちゃシビアな実力主義の世界です)になるという夢に向かって真っ直ぐな子です。

 

『ガールクラッシュ』1巻74〜75ページより

 

 文化祭の日、晴海は、そんな恵梨杏のことが好きなんだと天花に告げます。この辺、晴海は天花の気持ちには全く気付いておらず、かつ彼女を大事な友人とは思ってるからこうして大事な気持ちをさらっと打ち明けてしまうのがなんとも残酷ですね。天花さん、WSS(私が先に好きだったのに)です。

 

『ガールクラッシュ』1巻50〜51ページより

 

 そして天花は、文化祭のステージで自分たちダンス部へのアンコールが止まない時に、恵梨杏に対し「あのステージを譲る」と言い出します。「晴海の気持ちを奪うのなら」とは口に出しませんが、「覚悟見せてよ 納得させて」と。

 

『ガールクラッシュ』1巻62ページより

 

 恵梨杏は、天花の気持ちにも晴海の気持ちにも全く気付いていませんから、「チャンスなら 面白そうなら なんでも わたしやるよ」と堂々とステージに上がり、荒削りながらもまっすぐで心をつかむパフォーマンスを披露(この子、主人公体質なんですよねえ)、「怖い まっすぐな気持ちが こういう子が 全部かっさらっていっちゃいそうな予感が」と天花を怯えさせます。

 

『ガールクラッシュ』1巻80〜81ページより

 

 で、この後に天花は、最初は恵梨杏への対抗意識から、そして一度挫折した後に、「本物のかっこいい人になりたい いつだって自分を信じて 堂々と胸を張れるような」という思いのため、渡韓してK-POPアイドルのオーディションを受け、練習生としての日々を始める——。これが既刊分のストーリーです。

 

『ガールクラッシュ』2巻92〜93ページより。本ページの左端がカラーになっていますが、次のページは見開きでカラーと、色のない世界から色のある世界へ変わる演出となっています。最初に書いたように本作は単行本が電子書籍のみですが、カラーをこういう風に使えるのは電書ならではの強みですね

 

 本作で魅力的なのは、なんといっても主人公・天花のキャラクター。ここまでのストーリー紹介で分かるかと思いますが、とにかくかっこいいんですよ。真面目でストイックに努力を積み上げてかっこよくあろうとする、物語のスタートの時点ですでに「ガールクラッシュ」と呼ばれるに足る(いやまあ筆者は女子ではないので、判定をする権利はないですが)存在です。寂しがってほしい、引き止めてほしいというようなことをどこかで期待しながら、「K-POPアイドルのオーディションを受けにいく(=高校を辞めて、しばらく日本には帰ってこないかもしれない)」と晴海に告げ、「お世辞じゃなくてさ 日本のアイドルより百瀬の雰囲気に合ってる気がする」(K-POPアイドルは、もともと実力のある人間が、さらにストイックに努力を積み上げていく世界なので)と望んでいない背中の押され方をしても、そこで弱さを見せてすがるような真似はしません。ストイック。

 

『ガールクラッシュ』1巻137ページより

 

 そんな天花が、一度挫折を経て、自分の中にある弱さを見つめ、さらに高みへ、かっこよくあろうとし続けるのですから、そのかっこよさといったらもう天井知らずですよ。

 

『ガールクラッシュ』2巻83、110〜111ページより

 

そして3巻からは、イム・ミンチェとチャン・ジウという練習生仲間二人とともに、グループとしての活動を始めていくことになります。

 ダンスが得意なジウは、登場シーンを見るだけでいいキャラしてることが一発で分かります。

 

『ガールクラッシュ』2巻12〜13ページより。「ケンチャナヨ」というのは「大丈夫」、転じて「いんだよ細けぇ事は」みたいな感じです

 

 ギタリストと歌手の両親のもとに生まれ、歌が得意なミンチェは、弱々しくて依存的ですが、そんな自分から変わり、かっこよくなりたくてこの道に入ってきた、芯はある子。なので、すでにかっこいいにもかかわらず、さらに高みへと研鑽を続ける天花のことを崇敬します。

 

『ガールクラッシュ』3巻128〜129ページより

 

 なお、ここで出てくる「オンニ」というのは、直接には「お姉さん」という意味ですが、「(同じ女性の)先輩」くらいの意味も持つ、親しみを込めた敬称になります。儒教の影響が強い韓国では、長幼の序が日本とかよりも重要視されるので、こういう表現が出てくるんですね。筆者は昔、韓国語版の『あずまんが大王』を読んだことがあるのですが、滝野智が谷崎ゆかりのことを「ソンセンニム」(先生)と呼んでいて(読んだことある方なら知っていると思いますが、オリジナルでは智はゆかりのことを「ゆかりちゃん」と呼んでいます)、「担任の先生をちゃんづけで呼ぶとかはまずない文化なんだな」と思ったものでした(20年近く前の話なので最近の若者がどうなのかは分かりませんが)。

 とまれかくあれ、この3人が今後さらにかっこよく羽ばたいていくさまが、非常に楽しみな一作であることです。

 あともう一つ重要な点として、天花さん、表情が良いです。よく三白眼になります。かっこいい女子が三白眼になるのが好きな人はそれだけで買いや! 買いやがな!

 

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