木村政彦はなぜ水戸黄門を殺さなかったのか—みのもけんじ「嵐山スターウォーズ 最強タッグ伝説 助&格」は俺達が見た幻覚じゃない

木村政彦はなぜ水戸黄門を殺さなかったのか—みのもけんじ「嵐山スターウォーズ 最強タッグ伝説 助&格」は俺達が見た幻覚じゃない

プロレスという格闘技があります。近年では一時期の人気低迷を脱していることは知られておりますが、昭和の昔、その人気は今よりもはるかに国民的なものでした(いや筆者も、力道山の頃とか猪木の異種格闘戦の頃とかはまだ生まれてないので、リアルタイムでは知らないところが多いんですが)。そんな昭和プロレスの実在スターたちを主人公にした漫画というのもありまして、中でも筆者が二大巨頭と思っているのが、『少年サンデー』で80〜83年まで連載されていた梶原一騎+原田久仁信『プロレススーパースター列伝』と、『フレッシュジャンプ』で84〜87年まで連載されていた、原康史+みのもけんじ『プロレス・スターウォーズ』です。

『列伝』は、言うなれば史書です。各章ごとに名レスラーの半生を描く、伝記っぽいスタイルとなっています。ただ、これをただの伝記としないのが梶原マジック。例えば、リック・フレアー編で描かれるキラー・コワルスキーのエピソードをみてみましょう。

『プロレススーパースター列伝【デジタルリマスター】』17巻134〜135ページより

「コワルスキーが試合中にニードロップでユーコン・エリックの耳をそぎ落としてしまい、エリックはノイローゼから自殺、一方のコワルスキーも肉を見ると血まみれの耳を思い出してしまい肉が食べられなくなった」というストーリーが描かれています。これ、「耳そぎ事件」「エリックの自殺」「コワルスキーの菜食主義」はそれぞれ事実なんですよ。ただ、コワルスキーは元から菜食主義者だったし、エリックは見舞いに来たコワルスキーに「あれはアクシデントだから気にするな」と声をかけたように耳そぎのことはそう気にしておらず、自殺は10年以上経った後に、妻との離婚など私生活上の問題から発生したものだったのですが……。このあたりの虚実をないまぜにしたノンフィクション風の梶原作劇は、野球など他のスポーツを題材にした作品でもあるのですが、プロレスとは特に相性がよくはまっている感がありますね。また、「ひょっとするとある意味で……おれにとってイノキは……永遠の恋人なのかな?(ニヤリ)」「も……もうプロ野球は……断念するしかないッ……ウウッ!」「それともカール・ゴッチは超大物ではないかな?」といった、妙に不自然だが印象に残る梶原ゼリフも全編にわたって冴えており、後期カジ・センセのベスト作品と言ってもいいんじゃないかと思います。

『プロレススーパースター列伝【デジタルリマスター】』6巻44ページ、7巻19ページ、8巻110ページより

『列伝』が史書とすれば、『プロスタ』の方は「スーパー・リアル・フィクション」を謳っている通り、リアルを超えたフィクションであり、言うなれば神話です。神話なので、ショーグン・KY・ワカマツは人柱となり、馬場さんは天に召され、ブロディはイエスとなって「聖地ブロディ・ランドの奇蹟」を起こします。

『プロレス・スターウォーズ』6巻74〜75ページ、6巻80〜81ページ、8巻50〜51ページより。6巻の馬場さん対アンドレのジャイアント血戦は、若松のかっこよさもあってこの作品のベストバウトだと思いますね

あと自由の女神が血の涙を流して爆散し第三次世界大戦が起こります。

『プロレス・スターウォーズ』9巻8〜9ページ、20〜21ページより。第三次世界大戦、最終戦争(ハルマゲドン)と言ってますがプロレスの話です。日本のマット界を攻める合図としてアメリカの象徴を爆破するの、冷静に考えなくても意味がわかりませんが……

この二作は、掲載媒体が大手出版社のヒット作であったこともあり、一定以上の歳の方なら読んだことある人は少なくないと思います。しかし、『プロレス・スターウォーズ』を読んだという方でも、もう一つの「みのもけんじ・スターウォーズ」が存在することを知っている人は多くないでしょう。それが、今回紹介する「嵐山スターウォーズ 最強タッグ伝説 助&格」です。

本作の掲載誌は、2004年に水戸黄門のドラマ放映1000回突破を記念して日之出出版から刊行されたムック『水戸黄門REVOLUTION』。おそらくこれを読んでいる方の99%くらいは「し……知らねえ!」となると思います。日之出出版、『Safari』『Fine』『FINEBOYS』といったファッション雑誌をメインで出してる会社で(本誌も『FINEBOYS』の別冊扱いです)、漫画なんて普段出してませんから……。そんな会社がなんでこんな本を出したのかは筆者も知りません。

でもこうして表紙を見てみると、結構メンツ凄いです。カラーイラストには里中満智子のような大御所の名前も見えますし、江口のセンちゃんも4ページだけど漫画を描いてます(これは後に『江口寿史のお蔵出し 夜用スーパー』に収録)。

『水戸黄門REVOLUTION』49ページより

さて、本題である「嵐山スターウォーズ」の紹介に入りましょう。舞台は◯◯◯年嵐山山中、崖を登っている半裸の助さんと格さんが「気合いッ!! 一発ッ!!!」とリポビタンDのCMをやるところから話はスタートします。

『水戸黄門REVOLUTION』184ページより

なんでこんなことをしているのかというと、「今日も黄門様の護衛をきちんと果たせるよう体作りは欠かさない!! 基礎練習を終え山中へロードワークに出かけて来ていたのだった———」だそうです。が、ロードワークも一段落し、崖の下で休憩していた助さん格さんへ突然の落石が! 犯人は、この山中を縄張りとしている山賊・野下猪羅(ノゲイラ)兄弟でした(雲行きが怪しくなってきた)。

『水戸黄門REVOLUTION』189ページより

と、その兄弟の後ろから「とうとうシッポを出したな 野下猪羅兄弟!!」と現れる助さん格さん。彼らの真の目的はロードワークそのものではなく、野下猪羅兄弟の成敗だったのです。そんな二人に野下猪羅兄弟は「そうでなくっちゃ面白くもねェ!!」と不敵に笑い、「黙ってついて来い! 貴様の死に場所を用意してやるぜッ!!」と逃走します。

そうして助さん格さんが誘い込まれたのは、四方に木が立った平らな土地。するとそこへ縄が飛んできて、四方を縄で取り囲まれてしまいます。異様な圧迫感に不安を覚える助さん格さん(さらに雲行きが怪しくなってきた)。

『水戸黄門REVOLUTION』194〜195ページより

そして現れた野下猪羅兄弟は「どうだ 助に格よ これで逃げ場は無くなった 山賊の俺達に山での闘いを選ぶことの愚かさを後悔させてやるぜ」と宣言し(山関係あるか?)、「これが 我等野下猪羅兄弟の戦い方… ”なんでもあり”ってやつで勝負をつけてやるぜッ!!!」「覚悟しろッ!!!」と、わざわざ刀や鎧を投げ捨てて助さん格さんと同じく半裸になるフェアプレー精神を見せながら襲いかかってきます。

先制攻撃を仕掛けたのは格さん。ローリングソバットを放とうとしますが、そこへ飛んできたのはケムリ玉! ひるんだ格さんに「これが”なんでもあり”ッてやつだあッ!!!!」と野下猪羅兄の右ストレートが炸裂! 卑怯な手に憤る助さんでしたが、ロープを使った野下猪羅兄弟のツープラトン必殺技「二重(ダブル)豪腕爆弾」を浴びてダウンし、「とどめだあ———ッ!!」と「野下猪羅秘術 三角地獄」にとらえられてしまいます。

『水戸黄門REVOLUTION』203ページより

助さん格さん、絶体絶命のピンチ。これを物陰からこっそり見ている姿がありました。黄門様に言われて差し入れを持ってきたうっかり小鉄です(完全に雲行きが怪しくなってきた)。「こ…このままじゃ助さんと格さんが殺されるッ…!!!」と焦る小鉄。そのとき、彼の後ろから二つの影が現れ、さっそうとリングへダッシュ!

『水戸黄門REVOLUTION』205ページより

そして、影のうちの一人による延髄斬りが野下猪羅兄に炸裂!

『水戸黄門REVOLUTION』207ページより

「何者だッ!!! ジャマだてすると容赦せぬぞっ!!!」と激昂する野下猪羅兄に対し、乱入の2人組は、

「汚ねえ技を使い最強2人組の名を手に入れようなんて外道のすることだな……」

「2人組の真髄って奴を俺達が教えてやるよ!」

と言いながらリングイン。それを見て小鉄、「やはり そうだッ!! あの2人組はッ…!!!」

「徳川将軍に仕える伝説の2人組!! 馬場と猪木ッ!!!」

『水戸黄門REVOLUTION』210〜211ページより

こうしてBI砲と野下猪羅兄弟の戦いがスタート! 「寛ちゃん!! でかい方は俺がやるッ!!」と構えた馬場さんへ、「たとえ巨人だろーが 寝かせてしまえばただのデクの坊よッ!」とタックルに行く野下猪羅弟。迎え撃つ馬場さんが右手で放った逆水平チョップを「遅いッ! 遅いぞッ! ハエも殺せぬわ———ッ!!!」と軽くかわしますが、それは撒き餌でした。馬場さんの左腕が野下猪羅弟の首をとらえ、ジャンピング・ネックブリーカードロップが炸裂! そこから間髪を入れずに飛び上がっての脳天唐竹割りというコンボが決まり、野下猪羅弟は「お… 重い…」と一発でKO! 猪木の方は、野下猪羅兄を「ダアアア———ッ!!!」とドロップキックからジャーマンスープレックスと一方的に攻め立てます。「な… なんだ この圧倒的な強さは…」と戦慄する小鉄と助さん格さん。最後は完全にグロッキーとなった野下猪羅兄を猪木が馬場さんへと振り、十六文キックが炸裂して完全KO! こ…これが伝説の最強2人組!! 馬場・猪木なのかッ…!!!

『水戸黄門REVOLUTION』218〜219ページより

そして後日、事の顛末を黄門様の元へ報告に行く小鉄。野下猪羅兄の胸に刻まれた馬場さんの「十六文わらじの印」を確認した黄門様は、

『水戸黄門REVOLUTION』220ページより

「そうか そうか… ワシも昔みたいにもうひと暴れしたくなってきたわい」と言うと、「キエエエ〜〜〜〜ッ!!!」と気合とともに空手チョップで石灯籠を粉砕! 黄門様!? 黄門……さ……ま……!?

『水戸黄門REVOLUTION』221ページより。この黄門様、南蛮渡来のギヤマンのグラスとか食ってそう

そしてラスト、馬場さんと猪木が「黄門様 助三郎と格之進はまだまだ成長するでしょう いつか私達さえも越える2人組になるでしょう!!」と取ってつけたように助さん格さんを褒め、「今日も助さんと格さんは鍛錬に励む 力道山…いや黄門様の護衛を務めあげることと 伝説のあの2人組を越えるために…」とのナレーション、そして「気合いッ!! 一発ーッ!!!」の掛け声で漫画は終わります。

いかがでしたでしょうか。「最強タッグ伝説 助&格」のサブタイに全力で偽りがありますが、そんなことがどうでもよくなるくらい「すごい」としか言えません。画像がないと実在を信じてもらえないというか、読んだ我々でも「あれは……現実だったのかな……」となりますからね。星野茂樹+石井さだよし『解体屋ゲン』655話の「なんだろうな 全部が夢みたいな体験だったよ」という名台詞が似合う、そんな作品です。どこかで単行本化もしくは電書化してほしい。

『解体屋ゲン』66巻106ページより。この回、ソシャゲとかの「サービス停止」があるゲームを遊んでいる人間に刺さる超名作回なので、そういうのやってる人は全員読みましょう

 

 

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