命をかけた120メートル。壮絶なる「京都三十三間堂通し矢物語」平田弘史『弓道士魂』

『弓道士魂 〜京都三十三間堂通し矢物語〜』

2000年代に登場したコンビニコミック。

多種多様の漫画がこれまでに刊行され、過去の名作や知る人ぞ知る作品などを世に送り出してきました。

昨年(2022年)のいつ頃だったか憶えてませんがコンビニコミックとしてこの『弓道士魂』が発売され、コンビニの店頭に並んでいるのを見たときは少し驚きました。

「ついにこれが出たのか」と感心したのも束の間、買わなきゃと思っているうちに店頭から姿を消してしまいました。

その少し前に最初の単行本である大都社版を入手していた為、すぐに買わなくてもと思ったのが間違いでした。

弓道士魂』は『週刊少年キング』に1969年から1970年にかけて連載された作品ですが、とても当時の少年と呼ばれる子供に楽しめた内容とは思えません。

私もこの頃の『キング』は多くの作品に馴染みがありますが後になって貸本屋さんで借りたりアニメで見たりした為で、雑誌そのものをリアルタイムで熱心には読んでません。

本格的に『キング』を読むのは小学校高学年になって、毎日の様に貸本屋さんを利用するようになってからです。

ワイルド7』や『サイクル野郎』が盛り上がっている頃ですね。

その少し前に連載された『弓道士魂』を初めて読んだのは、高校生になってからだと思いますが記憶は曖昧です。

貸本屋さんにあった大都社版のコミックス、初版は昭和49年4月です。

児童向けや少年向けの漫画を中心に読んできた私は劇画調の時代物をあまり面白いと感じず、それまで「平田弘史」さんを知りませんでした。

白土三平さんも『サスケ』や『ワタリ』は馴染みがありましたが、『忍者武芸帳』や『カムイ伝』のような本格物は敬遠してました。

なのに何故この『弓道士魂』を借りたのかは覚えてませんが、「通し矢」という武士が挑んだ競技にとても引き込まれて初読みでかなり面白く読みましたよ。

最後のページにこう書かれてます。

「この通し矢の話は実際にあった歴史であるが真実を訴えるため各人の年令その他に若干事実とずらしてあることを付記しておく」

カバーの折り返しにも平田弘史さんが資料を集め、苦心してこの『弓道士魂』を描いたとあるのでほぼノンフィクションと言っていいのでしょう。

『弓道士魂 〜京都三十三間堂通し矢物語〜』(平田弘史/大都社)より

ただし登場人物は平田タッチで描かれている為通し矢に挑む武士も周りの武士も、ほぼ質実剛健な男衆です。

史実に基づいた平田劇画という方がしっくりくるかもしれません。

私は『弓道士魂』以外で「通し矢」について聞いたことがありません。

私だけかも知れませんが、日本史においてこの「通し矢」はそれほど語られることは無いように思います。

でも面白いんですよ、通し矢。

『弓道士魂 〜京都三十三間堂通し矢物語〜』(平田弘史/大都社)より

ここまでで興味を持たれた方、まずは「通し矢」を検索してみてください。

ここで少し脇道へ逸れさせてください。

現在私は好きな作品の聖地巡礼を楽しみの一つとしてます。舞台探訪とも言いますね。

ただ年齢を考慮して予算の範囲内で無理せずに、を心がけてますのでそんなに頻繁には行ってません。

真っ先に挙げるのは『咲-Saki-』という作品です。

麻雀漫画としての内容もさることながら、スピンオフ作品も含めるとその背景に描かれた場所の多様さは北海道から沖縄にまで至ります。

南フランスのとある場所まで登場したのは正直驚きました。

作中に描かれた背景全て(場所が不明なのを除いて)を訪れて、現在も尚新しい場所が登場する、或いは不明だった場所が判明すると真っ先にそこへ向かう猛者も一人いらっしゃいます。

勿論南フランスも行ってらっしゃいます。

流石にその方は例外として自分が行きたいと思い、行けるときに行くのが舞台探訪の楽しみ方です。

咲-Saki- 阿知賀編』の舞台である奈良県の吉野へは2回行きました。

2回目は還暦の誕生日を丸一日吉野山で過ごすという贅沢なお祝いです。

とてもいい経験でした。

還暦前年、59歳の誕生日は大井川鉄道を往復し『ゆるキャン△』の探訪もしました。

漫画ではありませんが『水曜どうでしょう』というテレビ番組に登場する場所も数か所行ってます。

漫画もアニメもテレビ番組も実際にその場所へ訪れると「ここが! ついに来た!!」と感動しますね。

そんな私の人生初の聖地巡礼が『弓道士魂』、三十三間堂です。

高校2年の修学旅行でした。『弓道士魂』読了後です。

九州からまずは京都で2泊。

丸一日、班ごとに自由行動。

何処をめぐるかの事前計画の際に「とにかく三十三間堂だけは絶対に行きたいから」と激押ししました。

そして実際に行った三十三間堂。

感極まって涙ぐんだ、なんて書けたらいいのですがほとんど覚えてません。

たくさん並ぶ仏像と120メートルにわたる縁を見た記憶は、うすぼんやりとしか思い出せません。

なんなら清水寺や知恩院のほうが、もう少し訪れた事を憶えてます。

これはその後の行程が奈良、伊勢、東京と続いて、最初の訪問地の京都が霞んでしまったのもあります。

でも人って感動のあまりそこが記憶から抜ける事ってありますよね。それとも私だけですか。

あまり憶えてないのはそうに違いないと信じてますが、初の聖地巡礼から45年ほど経った今も三十三間堂は再訪出来てません。

今回の記事を書いたからには、生きているうちに又訪れなければと思ってます。

咲-Saki-』関連の聖地巡礼に関しては色んな方のとても面白くて突拍子もない話が沢山あるのですが、また折を見て書きます。

そんな私にとって記念すべき人生初の聖地巡礼を行った漫画『弓道士魂』。

検索したら全25話となってます。

全話収録された物は2006年に刊行された「完全版」だけの様ですね。

所有する大都社版は5話分が収録されてません。

高いプレミア価格では無く、珍しい本ではないのですが古書店ではそれほど見かけません。

お店の在庫事情なのでしょうが、店頭に並んでいたらラッキーと考えていいでしょう。

完全版は残念ながら読んだことが無く、何故カットされたのかも不明です。

この大都社版はページ表記が漢数字です。

『弓道士魂 〜京都三十三間堂通し矢物語〜』(平田弘史/大都社)より

凝ってますね。こういうの好きです。

カラーの口絵も素晴らしいですね。

『弓道士魂 〜京都三十三間堂通し矢物語〜』(平田弘史/大都社)より

他の版はどうなんでしょう。気になります。

武士が命を懸けて挑んだ「通し矢」。

その壮絶さを見事に劇画長編として仕上げた『弓道士魂』。

お読みになるのであれば完全版をお勧めします。

 

 

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