先日、双葉社から『石川賢マンガ大全』(https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31632-2.html)という凄まじい本が出ました。筆者が以前にも『マンガ神州纐纈城』を紹介しました(https://manba.co.jp/manba_magazines/11501)永遠の鬼才・石川賢について、1970年の単独デビュー作「それいけコンバット隊」(単行本では『それゆけコンバット』に改題。また、永井豪との共作という形ではそれ以前にも『学園番外地』などの作品あり)から、遺作となった06年の『戦国忍法秘録 五右衛門』まで、単行本化されたものはもちろんのこと、単行本未収録の連載や読切も含めた可能な限りの全作品レビューが載っているという、まさに「大全」の名にふさわしい本です(「可能な限り」というのは、80年代あたりの麻雀漫画雑誌やゴルフ漫画雑誌などに掲載の作品は、「原稿が残っていない&雑誌が国会図書館等に入っていない」という事情から、存在を忘れ去られてしまっているものが存在する可能性があるためです。例えば実際、辰巳出版が85〜86年の約1年だけ出していた『劇画麻雀王』という雑誌に掲載されていた「カンチャン・ナイト」というギャグ読切などは、筆者が2010年に再発見(https://twitter.com/vhysd/status/24125874248)するまでファンサイトなどでも知られていない一品でした)。
というわけで今回は、賢先生の作品の中でも主に語られるシリアスでSFや伝奇の系統である作品ではなく、麻雀やゴルフという趣味をモチーフとした、ギャグ寄りの作品について紹介しようとお思います。
まず紹介しますのは『ザ・ジョークマン』。『漫画ゴラク』に79〜83年にかけて連載されたもので、単行本は日本文芸社ゴラクコミックスから2巻(序盤のみ収録の未完)が、後に双葉社から全1巻(1話と最終話を含む30話をセレクトした選集版)が出ています。内容は、若きバクチ打ち・冗句万太郎(連載途中から「丈苦万太郎」に表記変更)が様々な勝負を行うナンセンス・ギャグでして、麻雀やチンチロリンをはじめとした一般的なバクチはもちろんのこと、銭湯の一番湯を争ったり、はては駅便所の使用をめぐって便所掃除のおばちゃんとバトルをしたりまでします(昔は、掃除中は立入禁止になる便所多かった気がしますなー)。
賢先生、こういうウンコとかのくだらないギャグもだいぶ好きな人でして、本編はドシリアスな『ゲッターロボ』にも、98年に発表された特別読切「がんばれ!ムサシ!!」という、「主人公たちほぼ全員が食中毒による下痢でダウンし、ウンコを漏らしまくる」という、本人の筆じゃなきゃ到底できないようなギャグ作品があったりします。そして最終回ではなんと、当時ゴラクで連載が始まった永井豪『バイオレンスジャック』の世界に接続。同じダイナミックプロだから許されるとはいえ、他作者の漫画の世界に入って終わる漫画、この世にそうそうないのではないでしょうか。
ちなみに本作、麻雀漫画史的にも実はちょっとした重要ポイントが2点あります。1つ目は、連載初期の「笑撃の麻雀」(双葉社版では「笑撃の動物麻雀」に改題)の回で、動物が麻雀を打っていること。筆者の知る限り、これは日本で初めて動物が麻雀を打つシーンが登場した漫画です。動物が麻雀を打つの、ギャグ麻雀漫画では片山まさゆき『ぎゅわんぶらあ自己中心派』など80年代以降は多く見られますし、シリアスでも五條敏(来賀友志)+沢本英二郎『無法者』(長く未単行本化だったのを筆者が同人で単行本化したので気になった人は買ってくだされ https://vhysd.booth.pm/items/95378)なんてのがあります。また、非麻雀漫画でも小林まこと『What’s Michael?』でマイケルたちが麻雀を打つ回なんてのがあったりします。しかし元祖は本作なのです(未発見の読切でこのネタをやっているのが今後発掘される可能性は0ではないですが、少なくとも単行本になっている作品では本作以前は存在しません)。
もう一つは、「笑撃の忍法麻雀」という回で、白土三平パロの麻雀をやっていること。これは連載中期の回なので、先述の『ぎゅわんぶらあ自己中心派』内で登場した漫画パロ麻雀回とどっちが早かったかは掲載誌をきちんとローラーしないとわからないのですが、ほぼ同時期であり、最も早かったものの一つであることは間違いありません。こっちはその後、喜国雅彦『mahjongまんが王』、上野顕太郎「漫画麻雀」(単行本『謹製イロイロマンガ』収録。漂流教室パロ回が出色です)、錦ソクラ「3年B組一八先生」(個人的にはエアマスター回が一番好きです)など、麻雀漫画内のサブジャンルとして連綿と続いています。
そしてもう一つ紹介しますのは、03年に学研『パーゴルフ』の別冊として刊行された『コミックビッグゴルフ』に連載された『超護流符伝ハルカ』(ちなみに「護流符」で「ゴルフ」と読みます)。本作の主人公・春野遙は、テクニック・パワーともに一流のものを持ちながら、ここぞというところで極端に弱くなるメンタルを抱えているというダメ若手プロゴルファー。そんな彼が、怪しげな精神科医の施術を受けて無意識下に封じ込められていた鬼神の封印を解かれ、「伐折羅(バサラ)降臨」の掛け声とともに鬼の一打を打てるようになり、日本のゴルフ場を狙う悪の結社「デストラップ」が送り込んでくる敵(サイボーグゴルファーなど)との戦い(ゴルフ)に身を投じていく……というのがメインのストーリーです。
「ファミコンで世界征服を狙う悪の組織」が出てくる子供向けホビー漫画的な荒唐無稽な設定ですが、それを聞かされた人の「あらら」という反応でも分かる通り、分かってやっている、真剣な顔で下らないことをやるタイプの作品です。ちなみにデストラップの真の目的は、日本のゴルフ場を手中に収め、その土地に立っている社などを破壊することで日本を守護するオーラを消失させる(そんな大事な場所をゴルフ場にする日本サイドにも問題があるとしか言いようがない)ことにあり、最後は「その悪魔どもがきさまの肉を喰い骨をくだき!! 魔空に引きずりこんでくれるわ!!」とおよそゴルフ漫画で出てこないようなセリフが出てくる展開になっていい感じに終わります。
このあたりは、ギャグ漫画の頭身だった『ザ・ジョークマン』に比べて、頭身高く描き込み密度も高いシリアス絵柄なのがいい方向に作用していますね。
というわけで、賢先生はシリアス以外も面白いんですぜというのが今回の話でした。ただ残念な点を挙げますと、両作ともに絶版なんですよね……。特に『ザ・ジョークマン』は単行本未収録が100話以上あるので、電書オンリーででも完全版が出てほしいところなのですが……。