マンガ酒場【22杯目】「そこまで呑むか?」と呆れるエッセイ4コマ◎あっきう『あっきうのどこまで呑むの?』

 マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。酒そのものがテーマだったり酒場が舞台となった作品はもちろん、酒を酌み交わすことで絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。

 そんな酒とマンガのおいしい関係を読み解く連載。22杯目は、常識破りの酒飲みエッセイ4コマ『あっきうのどこまで呑むの?』(あっきう/2001年~04年)をご紹介しよう。

『あっきうのどこまで呑むの?』

 タイトルからして「どこまで呑むの?」と呆れ気味だが、中身を読むと「そこまで呑むか?」と開いた口がふさがらなくなる。朝からビールは当たり前。昼酒、晩酌どんと来い。酒が飲めるとあらば、38度の高熱を押しても駆けつけ、結局、朝まで飲んでしまう。

 お笑いライブに行っても、その後に飲む酒のことばかり考えてロクに内容も覚えてない。ぶどう狩りに行けば、ぶどうそっちのけでワインをガブ飲み。2泊3日のスキー旅行では、滑った時間3時間に対し、飲んでた時間が40時間……。

 そんなに飲んで遊んでばっかりで、いったいいつ仕事してるのかと思ったら、締め切りぶっちぎって出かけた飲み屋でバッタリ担当編集者に出食わして、その場で原稿を描かされたこともあるという。伝票の裏にお店のボールペンで描いた原稿はさすがにボツで描き直しさせられたが、酔いつぶれて目が覚めたらいつのまにか原稿が完成していたり、ネームができていたりすることもあるらしい【図22-1】。しかもそれが「まず、ボツらない」というんだから、酔えば酔うほど強くなる酔拳ならぬ“酔ペン”だ。

【図22-1】酔っぱらっても仕事するだけ立派!? あっきう『あっきうのどこまで呑むの?』(ぶんか社)p4より

 が、そんな結果オーライばかりとは限らない。できたてホヤホヤの原稿にビールをぶちまけ、「乾かせば何とかなるだろ」とベランダに干したら、風で飛ばされ跡形もなくなっていたことも。締め切り間近なのに河原でのバーベキューに参加、一応ネーム用紙は持参したものの、飲みまくり食いまくりで当然仕事などせず、夜には花火ではっちゃける。気がつけばネーム用紙は焼け焦げていたという。

 べろべろに酔って帰った翌朝、カバンから謎の物体が出てくるエピソードは酒飲みマンガの定番だが、作者の場合もご多分に漏れず。灰皿や塩のビンはまだいいとして、ビールが少し残ったジョッキが出てくるのはひどい。ほかにも、ゲイバーの店員からむしり取ったTバック、オブジェとして飾られてたバイブ、サトちゃん人形の頭部、三角コーンなど、いろんなものをお持ち帰り。

 さらには、酔いつぶれて寝てる間にストーブに近づきすぎて毛布が燃えて死にかけたり、人間ドックを受ける数時間前まで飲み続けたりと、暴飲ぶりはエスカレートするばかり。そもそも「(人間ドックの)前日夜9時以降飲食はお止めくださるようお願い致します」との注意書きを見て「てことは今日は昼から呑んで9時には帰ればいーんだ!」と飲み始めるのが間違ってるし、水分は少量ならOKというのを拡大解釈して、午前2時を過ぎてもビールをがぶ飲みするのだから処置なしだ【図22-2】。

【図22-2】ビールがぶ飲みは「少量の水分」ではない。あっきう『あっきうのどこまで呑むの?』(ぶんか社)p62より

 飲みすぎで吐いて胃をカラにして検査に臨んだものの、当然のように再検査。原因は肝臓ではなく血便で、大腸の検査を受けることに。ところが、またしても前日夜まで飲んでいて、あわてて下剤で腸をカラにしようとする。おかげで腸の粘膜が傷ついて、またまた血便が出るという悪循環で、医者にも呆れられてしまう。

 そんな調子で自分の飲んだくれ話をダラダラ描いてるだけのように見えるし実際そうなのだが、ここまで命がけで飲めば、もはや立派な芸である。飲み仲間の一人として登場する格闘家のアレクサンダー大塚に「プロレスラー並に呑まないでください」と言わしめるのだから、“自称杉並区一の酔いどれ漫画家”との肩書きもダテじゃない。

 酒飲みエッセイマンガといえば、【1杯目】で紹介した『平成よっぱらい研究所』が有名だが、それに優るとも劣らないデタラメさ。こんな酔っぱらいが飲み屋で隣にいたら迷惑極まりないけれど、マンガの中で眺めている分にはマヌケで笑える。

 しかし、そんな作者も2007年に結婚。家庭ができてお酒も控えめになったか……と思いきや、結婚生活を描いた『ハピハピ漫画家ふうふ』(2010年~12年)では、相変わらず飲んだくれている。本人は「結婚してようやく人並レベルの酒量にはなったかな!?」と言ってるものの、夫(『ホーリーランド』『自殺島』などで知られる漫画家の森恒二)もなかなかの酒好きとあって、新婚旅行の沖縄でも夫婦で飲みまくり【図22-3】。

【図22-3】ラブラブ夫婦はお酒にもラブラブ。あっきう『ハピハピ漫画家ふうふ』(ぶんか社)p36より

 とはいえ、夫のほうは比較的まともな感覚の持ち主で、結婚当初ファミレスで朝から当たり前のようにビールを飲む妻に「朝はコーヒーとかにしようよ…」と提案。そこで初めて自分の非常識さに気づいた作者だったが、懲りずに買い物帰りにファミレスで飲んでたら、モラルなさそうな女子高生に「あの人、昼から酒って、モラルなくね?」と言われ、さすがにショック。そこで「朝酒いい日はお正月! 昼酒解禁日よう日!」と決めて「モラルある呑んべえ」になったと主張する。

 それでも特別ゲストとして寄稿する夫・森恒二の描くあっきうは(めっちゃ可愛く描かれているにもかかわらず)常に缶ビールを手にしていて、やっぱり酒は手放せないんだなあ……と、ある意味感心するのだった。

 

 

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