マンガ酒場【1杯目】これぞ酒飲みマンガの金字塔!◎二ノ宮知子『平成よっぱらい研究所』

 マンガの中で登場人物たちがうまそうに酒を飲むシーンを見て、「一緒に飲みたい!」と思ったことのある人は少なくないだろう。酒そのものがテーマだったり酒場が舞台となった作品はもちろん、酒を酌み交わすことで絆を深めたり、酔っぱらって大失敗、酔った勢いで告白など、ドラマの小道具としても酒が果たす役割は大きい。

 そんな酒とマンガのおいしい関係を読み解く連載。記念すべき1杯目は、泣く子も笑う酒飲みマンガの金字塔『平成よっぱらい研究所』(1995年~96年)をご紹介しよう。

 

『平成よっぱらい研究所』

 

 人は酔っぱらうとどうなるのか。いろんな酔い方があるなかで、最強(最悪?)レベルのトンデモ事例を自らの体を張ってリポートする――というより実践する。それが「よっぱらい研究所」だ。所長は作者である漫画家の二ノ宮知子。ほかに研究員(作者の友人)が何名か。客員研究員というか部活のめんどくさい先輩みたいな漫画家・若林健次おおひなたごう、占い師のマドモアゼル・トキらも登場する。

 とにかく、所長と研究員たちの酔っぱらいっぷりがひどい。ある朝、所長が目覚めると、なぜか家に15人が寝てる。自分は「大売り出し」ののぼりを抱え、ストッキングはビリビリ。開けっ放しのベランダにはギターとウクレレが放置されている。何があったかだいたい想像はつくが、所長は「思い出すのがこわくなってきたので また寝ることにする それが一番いい」「きのうのわたしはきっと楽しく幸せだったにちがいない それでいいのだ それですますのが一番 これが今日の研究結果だ」と二度寝の態勢に入る。

 またある日には、朝から缶ビール13本飲んだうえに編集者からの催促電話をぶっちぎって飲みに行こうとする。研究員に「仕事はどーするんですか まだぜんぜんまっ白で」と言われても「わたしたちはよっぱらい研究員なのよ 日々酒に親しみ よっぱらいのなんたるかを知る それがわたしたちの使命なのよ」とうそぶき、2人で酒場へゴー! 「ったく やってられっか仕事なんかよ」「できない時はできないんだよ」とか言いながら飲んでる流れで「ところで所長 人はなぜお酒を飲むのでしょうか」と問われていわく、「楽しいから でしょ」【図1-1】。このシンプルな答えには(いい悪いは別にして)説得力がある。

 

【図1-1】仕事をほっぽらかして飲む所長と研究員。ただそれだけ。二ノ宮知子『平成よっぱらい研究所』(祥伝社)p17より

 

 とにかく所長らの酒宴は(いい悪いは別にして)楽しそうだ。新宿・ゴールデン街の店でいきなり野球拳が始まり、所長圧勝で高笑い。そのノリでなだれ込んだ2軒目では他の客まで巻き込んでの野球拳大会となり、店内が裸祭りに。別の日には、酔った勢いで公園で花火をしようとしたらカップルだらけでムカついて爆竹による掃討作戦を決行。席が足りないからと知らない客のテーブルに交じってその人たちの酒を飲みまくる。家飲みではエロい服でファッションショーを繰り広げ、乳首の色を競い合う。

 そんな乱行狼藉を働いた翌朝、二日酔いの頭を抱えて一応反省はするものの、結局「まぁいいか♡」で済ませる。「だってよっぱらいだもん きのうのわたしはよっぱらいであってわたしじゃないのよ」と開き直る姿は、ある意味すがすがしい。「明日は朝から仕事なんだけどな~~~~」と思いつつも、「もっと飲め~~~~」と注がれると、「まぁいいか♡」と飲んでしまう。酒飲みなら「だよねー」とうなずくところだろう【図1-2】。

 

【図1-2】「まぁ いいか」ですべては解決。二ノ宮知子『平成よっぱらい研究所』(祥伝社)p4より

 

 とはいえ、作者自身も「なんでそこまでして飲まにゃいかんのか」と我に返る瞬間もある。日々の深酒のせいで血ゲロを吐いたり、酔った自分の悪行三昧に呆れて禁酒を誓ったこともあった。泥酔した友人が深夜に「泊めて~~」とやってきて、廊下で倒れてゲロを吐かれれば、それはやっぱり迷惑だ。しかし、「それでも飲む!! あとのことなど どーーでもいい」「この開放的で投げやりでバカになる時間が人間には必要なのだとわたしは思う…」というセリフには、酒飲みの矜持を感じなくもない。

 本作執筆当時、作者は20代半ば。すでにバブルは崩壊していたが、まだまだ日本も元気な時代であり、酔っぱらいに対して世間は今より寛容だった。そうした時代背景&若気の至りもあって、自由奔放傍若無人に飲み散らかした酒飲みマンガの金字塔(と同時に2000年代に花開くエッセイマンガの先駆けでもある)。この人たちが同じ店にいたら迷惑極まりないが、マンガで読む分には笑いごとで済む。令和の基準からするとコンプライアンス的に引っかかりそうな部分は多々あれど、平成だからこれでいいのだ!

 ちなみに、作者にはもうひとつの酒飲みマンガがある。その名もズバリ『飲みに行こうぜ!!』(1993年~94年)。ただし、こちらはエッセイではなくフィクションだ。

 とある商社の営業二課には、2人のスーパー社員がいる。社内きっての美人と評判の丸山佳子とイケメン・佐野。ルックスだけでなく仕事の面でもズバ抜けていて、ビッグな契約をバンバン取ってくる。営業二課はこの2人が牛耳っていて、課長も頭が上がらない。2人がやりたい放題やるおかげで課の雰囲気は超フリーダム。他部署の人間からは人外魔境として恐れられている。

 そしてこの2人が、とんでもない酒豪なのだ。始業前の景気づけに缶ビールをイッキ飲み。怒濤の勢いで仕事を片付けると、「飲みに行こうぜ!」と営業二課総出の飲み会に突入。二課の面々もよく飲むものの、ビア樽や一升瓶をラッパ飲みする丸山&佐野のコンビについていける者はいない【図1-3】。文字どおり無礼講のどんちゃん騒ぎは、『平成よっぱらい研究所』を彷彿させる。というか時系列的にはこちらが先なので、この酒飲み描写が『平成よっぱらい研究所』につながったのだろう。

 

【図1-3】丸山&佐野コンビの飲みっぷりがすごい。二ノ宮知子『飲みに行こうぜ!!』(祥伝社)p19より

 

 飲み会では毎度みんな酔いつぶれて丸山と佐野だけが二軒目へ。そこでの出来事がきっかけで会社の問題を解決してしまうこともある。そして二人は今日も朝からビールをイッキ飲みし、仕事と酒に邁進するのであった。

 酒さえあれば、この世は天国。ただし、よい子はマネしちゃダメだよ!

 

 

記事へのコメント

あの作品の当時、飲んでバカを晒していましたが、私はあそこまでひどくないと飲み直していた状態でした。

そして今は一滴も飲めません。

バッカスの祟りではないかと思う次第です。

会社の先輩から「面白いから!」と勧められて読んで衝撃を受けた作品でした。

面白くて憧れて(笑)、飲み仲間と楽しいお酒にあけくれましたよ〜
あの域には到底たどりつきませんでしたが。

あのあと作者さんはどうなったのか気になってたところ、のだめカンタービレを描いてらしてまた衝撃を受けました!

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