貸本時代の終焉に発刊された遊び心満載のアクション活劇は貸本として使用されずに残った。都島京弥『スパイは2度死ぬ』東京トップ社刊行

昭和30年代、貸本という形態で生み出された多くの漫画作品は無数にあると言っていいくらいです。

貸本専門の出版社から出されたA5サイズの本は多くが現存していますが、全貌を掴むのは不可能に近いのではないでしょうか。

貸本漫画を多く描いて昭和40年代以降も漫画家として作品を発表された方の物は、令和の現在でも漫画専門店のガラスケースに高値で陳列されてます。

例えば「水木しげる」さんや「さいとうたかを」さん、「平田弘史」さん「楳図かずお」さんなどはかなりの高額ですね。

しかし人気漫画家以外の貸本漫画は安い価格で売られ、それでも中々売れないで棚に刺さったまま動かないのが実情です。

今回手に入れた『スパイは2度死ぬ』は、良く行く漫画専門の古書店で売られていたのを購入しました。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

何度も棚を見てはいましたが、ずっと気に留めないでスルーしてた本です。

私が40代に8年ほど経験した古書店での従業員時代、多くの貸本漫画も扱いました。

「都島京弥」さんも沢山扱った漫画家さんです。

いつもは棚にあるのを見て終わりだったのに、何故か手に取る気になったんですよ。

それまで気にしなかったのに何故かその時に興味を示すのは、古書店巡りではよくある事です。

持って帰ってビニール袋から出してから分かりました。

貸本として使用されて無いものです。

古書漫画の世界では「非貸本」という用語で注釈されることが多いですね。

貸本として使用される為の本は、出来るだけ多くの読者に借りてもらい回転させないと利益が上がりません。

ですから紐で綴じたりビニールカバーが貼り付けてあったりと、補強されているのが当たり前の状態です。

何故貸本として使用されなかったのか。

ここは私の個人的な感覚で検証出来ている訳ではありませんが、「非貸本」の多くは貸本の需要が下火になる昭和30年代後半から40年頃の物に顕著な印象があります。

あくまで推察ですが出版社から貸本屋さんに流れる事無く、いわゆるデッドストックとなってしまった。

或いは貸本屋さんが商品として店に並べる前に閉店したというのが理由だと思います。

何度も書いてますが、昭和40年代から漫画週刊誌が勢いを増していきます。

私が子供の頃に利用していた貸本屋さんは『マガジン』や『サンデー』、『ジャンプ』、『チャンピオン』、『キング』を毎週発売される毎に揃えてました。

棚に並ぶ漫画単行本は新書サイズかB6版のコミックスです。

貸本漫画の単行本は皆無でした。

貸本から週刊誌へ移った時代。

貸本業界の終焉と共に多くの在庫が廃棄されたことでしょう。

それでも古書という業界がある限り、書籍として発刊されたものは残っていきます。

たとえ売れ線の本でなくとも時を経て過去を反映する貴重な資料となり生き続け、流通するのが業界の常です。

私が20代の頃に見た漫画専門店の棚には多くの貸本漫画がずらりと並んでました。

令和の今はだいぶ数が減った印象は拭えませんが、それでも貸本漫画は商品として生き続けており昭和30年代を語る上で欠かせない「昭和遺産」だと考える次第です。

では作品の紹介に移りましょう。

作者の「都島京弥(みやこじま きょうや)」さんは貸本漫画を語る上で欠かせない方で、多くの作品を発表されてます。

『スパイは2度死ぬ』は「ストレート・サブ・シリーズ」の第2巻。

残念ながら第1巻は未読です。

表裏の見返しは、出版元の「東京トップ社」で作品を発表している面々の似顔絵的集合画。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

今の方には馴染みがないでしょうが、どなたも貸本漫画で活躍された方ばかりです。

アクション劇画と表紙にある通り、昭和30年代の日本映画界を席巻した日活活劇映画の様な展開。

主人公サブが所属する組織と敵対する悪の組織「シルバー・イーグル」との戦いがメインです。

「シルバー・イーグル」のスパイ、コードネーム「0815」がサブに組織からの逃亡を手助けするよう頼みます。

しかしこれはサブの宿敵「マッカラム」と手を組んでの作戦。

2度死ぬのはサブではなく「0815」です。

と言っても死んだように見せかけるだけなのですが、「シルバー・イーグル」に裏切り者として始末されたと間違えるサブ。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

サブはまんまと騙され捕らわれて拷問にかけられ、瀕死の状態で脱出するも万事休す。

そこへ物語の途中に登場した、峰不二子的な謎の女性に助けられた場面で終わります。

派手なガンアクションやカーチェイス、格闘シーンなどもふんだんに織り込まれた、全編通していいテンポで展開していく秀作でしょう。

第3巻の発刊も広告で出されており、全巻読みたくなってしまいました。

ちょっと面白いというか珍しいと思ったのが、宿敵「マッカラム」についてです。

第1巻で死んだはずの「マッカラム」が生きていたことに驚くサブ。

そのコマの「前号ストレート・サブで崖から落ちて死んだはず」というセリフ。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

第1巻のタイトルが「ストレート・サブ」ですからいいっちゃあいいんですが、「前号」って作中の主人公が言うセリフではないですよね。

貸本漫画の自由さが伺えて笑ってしまいました。

さて「2度死ぬ」という事は、ジェームズ・ボンドシリーズの『007は2度死ぬ』からタイトルを取ったのかと思い調べてみました。

『007は2度死ぬ』は1967年、昭和42年の映画です。

巻末に「都島京弥」さんのアシスタントさんの短編が収録されてますが、最後のコマに「41、10、30日」と書かれてます。

当然昭和41年でしょう。

また第3巻の発売が1月となっており、これも見開きの予告ページに「ひつじ年」と書かれてます。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

昭和42年はひつじ年です。

貸本漫画では珍しくないのですが、奥付はありません。

他には年度の情報はありませんが、発行は昭和41年末頃だと思います。

う~ん、微妙ですね。どっちが先なんでしょう。

いや別にどっちでもいいんですが、翌年公開の映画の情報はあったと考えるのが妥当ですかね。

いち早く取り入れたのではないでしょうか。

見開きのカラー扉ページに書かれた、デザイン性あふれるタイトルロゴもいいですね。

『スパイは2度死ぬ』(都島京弥/東京トップ社)

都島京弥さんのセンスが伺えます。

ストレートがストリートなのは御愛嬌ってことで。

今回は「都島京弥」さんをご紹介しました。

他の漫画家さんも含め、また貸本漫画を入手出来ましたら記事を書きたいと思います。

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