友情・希望・勇気 子供たちによる宇宙放浪と困難克服劇 さいとう・たかを『サイレントワールド』

『サイレントワールド』

子供たちだけで異世界の困難を克服していく漫画作品で真っ先に上がるのは、楳図かずおさんの『漂流教室』ですね。

また宇宙船という閉ざされた空間の中に入り込んだ異生物との戦いは、漫画ではありませんが映画『エイリアン』が有名すぎるくらい有名です。

その両作品の要素を兼ね備えた秀作SF漫画が、さいとう・たかをさんの『サイレントワールド』です。

アポロ11号が人類初の月面着陸を行う2年前、『週刊少年マガジン』にて昭和41年から連載開始。

新書版コミックスは秋田書店のサンデーコミックス。

現在のコミックスよりやや分厚めで全2巻です。

 

子供の頃、私にとって「21世紀」と「宇宙」は心ときめく言葉でした。

30年以上先に訪れる未来は20から21へ変わり、科学技術が発達したまさに漫画内で表現されている世界になる。

子供ですからね、そう信じてました。

アポロ11号の月着陸は夢あふれる未来へ向かうその第一歩です。

昭和45年の大阪万博に月から持ち帰った石が展示され、子供向けの雑誌だけでなく大人向けの雑誌や新聞でもアポロと宇宙は大特集されてます。

私も少ない小遣いの中から着陸した宇宙船のプラモデルを買って組み立てましたよ。

早く21世紀にならないかなと子供の頃はずっと思ってました。

もっともその直前にノストラダムスの大予言の月があり、そちらに戦々恐々としてましたがその話はまた別の機会に。

 

昭和36年生まれがオタク第一世代に分類される大きな理由は、幼少期にテレビで特撮番組の秀作が立て続けに放送されたからだと思います。

『ウルトラQ』『ウルトラマン』『マグマ大使』『キャプテンウルトラ』などは明確に宇宙への憧れと宇宙人に対する恐怖を植え付けました。

だって地球を侵略しに来る宇宙人ばっかりですからね。

少年マガジン少年サンデー、少年キングは巻頭のカラーグラビアにもこれらの特撮番組をよく取り上げ、漫画とも密接な関係であったと言えます。

特撮番組、宇宙、21世紀、漫画。

未だ中二病の私は、これらで作られたと言ってもいいくらいです。

少し後に超能力やオカルトブームがきますが、いずれその辺の漫画や時代背景も記事にしたいですね。

 

その宇宙が舞台の『サイレントワールド』はマガジン連載時には読んでません。いつもの貸本屋さんで借りました。

小学生のかなり早い段階で読んだと記憶してます。その後も何度か読んでいる筈です。

しかし今回改めて読んでみて、1巻の前半部分と1巻最後の方から2巻の終わりまで展開される話は全く記憶からとんでました。

そんな程度の印象なの、と思われる事なかれ。

あまにりも1巻中盤で展開される宇宙船内に入り込んだ異生物との戦いが強烈なのですよ。

『サイレントワールド』(さいとう・たかを/講談社)より

子供心にこの30数ページで解決するエピソードは斬新で、真面目に考えれば考えるほど恐怖を感じ脳内に刷り込まれました。

このエピソードだけが刻まれたまま成長したのは致し方ないと思ってます。

 

映画『エイリアン』はご覧になってますか?

この展開は第1作の『エイリアン』にかなり似ています。

『エイリアン』封切り時は、高校生でした。当時バイトしていたレストランのコックさんに突然映画を観に行くから付き合えと誘われて観ました。

この時私何の知識もなかったのですよ。

そんな映画が話題になっている事など全く知らずに観た『エイリアン』はこれまた強烈でした。

後に全シリーズを観ますが、最初に何の知識もなく観た第1作の衝撃は超えられません。

『サイレントワールド』は乗組員が子供たちだけ。他にも違いは多いのですが、宇宙船内での異生物との戦いは『エイリアン』を思い起こさざるを得ません。

そして学校ごと異世界に移動した『漂流教室』と同じ子供たちだけで困難を乗り越えていく展開。

『エイリアン』も『漂流教室』も初見時に『サイレントワールド』との共通点を感じることが出来ませんでした。

どちらも作品としての完成度が高く、他の作品との比較など考えもしなかったからだと思います。

 

では未読の方の為に、最低限の範囲で内容を紹介しましょう。

最新鋭の宇宙船フジ1号。テスト飛行前にこっそり見学のつもりで入り込んだ「宇宙開発基地日本少年隊」の男の子5人と女の子1人(少年隊と言いながら女の子がいるのは昔の作品ですから受け入れましょう)。

『サイレントワールド』(さいとう・たかを/講談社)より

テスト飛行を開始したフジ1号が発射して、知らずに入り込んだ6人はパニックになりますが教官の対応で落ち着きます。

しかし直後暴走を始めるフジ1号。地球からは遠く離れた未知の宇宙へと飛ばされます。

そして乗組員の大人たち全員の死亡。

6人で必死になって操縦を覚え、困難に立ち向かっていく。

全2巻という長さはちょっと物足りなさを感じます。

もっと未知の宇宙や宇宙人とのエピソードを読みたかったと思いますが、これはどうしようもありません。

仮に科学技術が比べ物にならない程進んだ現在の知識で続編が描かれたとしても、きっと違和感を感じると思います。

その時代時代での知識と想像力を目一杯働かせているからこそ、その描写が過去のSF作品の面白さの要因でもあると言えます。

 

象徴的な場面を一つ紹介しましょう。

死を予感した教官が残される子供たちの為にフジ1号の仕組みと操縦方法を録音して残し、教官の死後子供たちがそれを聞く場面。

『サイレントワールド』(さいとう・たかを/講談社)より

録音機械はテープレコーダーです。しかもオープンリール。

作品が描かれた当時、録音機器といえばこれです。最新鋭の宇宙船に搭載されているのを笑ってはいけません。

ウルトラマンでも科学特捜隊の本部内に大型のコンピューターを模した設備が作られてますがしっかり磁気テープらしき物が回ってます。

フジ隊員がパンチテープを解読しながら通信内容を皆に伝える場面もあります。

私、過去のSF作品でのこういう描写が大好きなんですよ。

当時の技術と知識で未来を想像して創作する。

小説でも映画でも「この頃はこう考えるしかないよなぁ」とか「なんでこの時代にこんな事を考えられるの?」とか、こちらの想像力も掻き立てられます。

特に小説だとかなり奇抜な、あるいは先見に優れた発想が見られ、読んでいてストーリーとは別のまた違った面白さを感じます。

手元に収録された本が無い為題名を思い出せず申し訳ありませんが、昭和30年代に気圧の差を利用して屋根を膨らましたドーム施設が出てくる日本のSF小説もあるんですよ。

私東京ドーム完成後にこの小説と出会い、噓でしょと驚愕しましたよ。

映像作品だとCGなど無い時代で、発想を具現化する難しさはあったと思います。

録音メッセージと別に教官は「友情 希望 勇気」と書かれた紙を残します。

『サイレントワールド』(さいとう・たかを/講談社)より

この言葉が困難に立ち向かう子供たちの支えとなり、皆で考え、時にはぶつかりながらも一致団結して前を向いて進んでいきます。

コミックスのカバー折り返しに書かれたさいとう・たかをさんの言葉。

 

宇宙は無限で孤独である。

『サイレントワールド』という作品名に納得です。

この作品以降、漫画もテレビの特撮も小説もSFというジャンルを確立して成熟していったように記憶してます。

『サイレントワールド』が影響したとまでは言えませんが、SF漫画として重要な作品である事は間違いないでしょう。

記事へのコメント

うわ面白そうと思って値段調べたら2007年に出てるやつが上巻だけで9800円とかしてたまげた
読んでみたいなぁ…電子で出して欲しい

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