実録的かフィクション的か。実名長編格闘技マンガの草分け。高森朝雄・辻なおき『ジャイアント台風』

実録的かフィクション的か。実名長編格闘技マンガの草分け。高森朝雄・辻なおき『ジャイアント台風』

私は子供の頃からヘタレです。胃腸が弱く体型も痩せ型で、力も無し。

だからこそですか。子供時代から今も変わらず「強い」キャラクターにとても惹かれます。

俳優さん演じる画面越しの超人でいうとブルース・リーや松田優作さん。

実際の俳優さんのリアルな強さは問題ではなく、演じるキャラクターの理不尽な強さが大好きです。

アニメだと『ソードアートオンライン』のキリトくんですね。

特に好きな演出が、そんなに強くなさそうな見た目だから侮って挑むと大変な返り討ちに合う場面。

ブルース・リーの『ドラゴンへの道』はご覧になったことがありますでしょうか?

ブルース・リー演じる主人公タン・ロンの強さを知らない仲間が、ならず者数人を相手にするのを止めますが格闘になってしまいます。

心配する仲間をよそにとてつもない強さを見せるタン・ロン。叩きのめされるならず者達。

この場面、何度見ても痛快です。

『ソードアートオンライン』だと『黒の剣士』のタイトルの話が同様ですね。

子供の頃も還暦間近の今もこういう場面での主人公を自分に重ねて妄想するのが楽しいのですよ。

5歳の頃から永遠に中二病です。

そんなフィクション世界の強キャラ好きの原点は間違いなく昭和のプロレスです。

昭和40年代前半、マンガ雑誌のプロレス関連の記事や特集は人間離れしたレスラーの能力に重点を置いた内容が多かったと思います。

そのイラストや煽り文は子供にとって現実の格闘技でありながらまるで異世界の超人達を思わせる内容でした。

もちろんゴールデンタイムに放送されるテレビ中継もよく見てました。

馬場・猪木の黄金タッグに熱中していたのは良く憶えてます。

 

『ジャイアント台風』は昭和43年から約2年に渡っての連載です。当時スーパースターのジャイアント馬場さんを描いたマンガ。

熱中して読んだのですが、雑誌連載ではなくヒットコミックスという単行本を貸本屋さんで借りて。

今回の記事を書くにあたって1巻だけ入手しましたがもう小学生以来ですよ、読むのは。

子供の時はジャイアント馬場さんの実録だと思って読んでました。

調べましたが結構脚色していてフィクション性も高いようですね。

でもそこはいいんですよ、面白いから。

テレビで見る馬場さんは子供にとって特別な方でした。他のレスラーさんとの大きな違いは何といっても2メートルを超える身長です。

それ故か派手な動きは無いものの長い手足を使った技は豪快でわかりやすく、プロレスといえば馬場さんといってもいいくらいの方でした。

(もちろん猪木さんも大好きでしたよ)

その馬場さんの修業時代のマンガ。正直に言うと最後の方まで憶えてません。

しかしこの1巻の内容だけでも十分に子供の頃熱中して読んだ記憶が蘇ります。

馬場さんが巨人軍に所属したプロ野球選手であり、大洋ホエールズ(というチームが昔セ・リーグにありました。現在の横浜DeNAベイスターズです)に移籍後お風呂場で滑りガラス窓に突っ込んで大けがをした。

怪我の完治後はプロ野球をあきらめ力道山の下、プロレスラーを目指していく。

『ジャイアント台風』(高森朝雄、辻なおき/少年画報社)1巻より

この知識は『ジャイアント台風』で手に入れました。

あの馬場さんがプロ野球選手(ピッチャー)だったのはプロレスラーとしての馬場さんしか知らない私にとって結構な驚きでした。

もしもの話ですが怪我をせずに野球を続けていたらどうだったんでしょうね。

2メートルの長身から投げ下ろされるのを想像するとメジャーリーグのランディ・ジョンソンを思い浮かべますが、馬場さんもピッチャーとして活躍されたのではないかと信じます。

力道山にこれでもかというくらい鍛えられてその後アメリカへ武者修行に行きますが、アメリカ修業の描写はかなり脚色されているそうです。

この脚色具合がいかほどなのか全容は不明ですが高森朝雄さん(以後は「梶原一騎」で統一します)の本領発揮ですね。

太平洋戦争、特に真珠湾攻撃に恨みを持つ米国民からの執拗なバッシングや日本人差別がリング上の馬場さんへ向けられる。

『ジャイアント台風』(高森朝雄、辻なおき/少年画報社)1巻より

それに負けじとフェアプレーを続け耐えていく馬場さん。

梶原的浪花節が十分に織り込まれた読者の子供にとても刺さる展開です。

残念ながら2巻以降が手元に無い為この後はアメリカでの修業の後日本プロレス界で活躍していくという程度の紹介しかできません。

話の内容だけでなく、辻なおきさんが描く馬場さんや力道山の顔がまたいいのですよ。

『ジャイアント台風』(高森朝雄、辻なおき/少年画報社)1巻より

マンガの登場人物でありながら似顔絵的で味がある。何とも奇妙なバランスです。

『ジャイアント台風』は同時期に同じコンビで連載された『タイガーマスク』と相まって我々世代にプロレスという世界を刷り込んだ大事な作品であるのは間違いないでしょう。

私と同世代で子供の頃プロレスに熱中した方はとても多く、後の空手やブルース・リーブームに熱中する下地を作ってくれたと言っていいマンガです。

 

梶原一騎さんはプロスポーツ選手を実名で主人公に据える作品を多く発表されてます。

この『ジャイアント台風』と入れ替わるように始まったの格闘技マンガが『空手バカ一代』。

大山倍達さんを描いた作品。こちらも熱中しましたよ。

実在の人物を実名で主人公にする作品はそのドキュメント性とフィクション的脚色のバランスが難しいと思います。

梶原一騎さん原作の作品群はその点が実に良く出来ていて、良い意味で違和感を感じないマンガ作品として完成しているのではないでしょうか。

馬場さんも梶原さんもすでに鬼籍に入られてます。

遠くなった昭和を振り返り、子供の頃の色々を思い出しました。

あの頃はよかったなんてこれっぽっちも思ってません。

技術や様々な事が進んだ今の方がいいと本気で思ってます。

それでも年齢のせいでしょうか。郷愁に浸れる過去のマンガに触れると小さな幸せを感じる次第です。

記事へのコメント

とても興味深い記事でした。
プロレスブームやジャイアント馬場さんの活躍ぶりって世代的にピンと来なかったのですが、今で言ったら大谷選手みたいな感じでしょうか。
そんなスターの人生を事実と脚色が入り乱れる半フィクション(?)な漫画があったら、そりゃあ子どもたちは夢中になりますよね。
ぜひ読んでみたいです。電子化してくれないかな…

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