『動物のお医者さん』以前。初期から変わらない不思議けだるい佐々木倫子ワールド『林檎でダイエット』

『動物のお医者さん』以前。初期から変わらない不思議けだるい佐々木倫子ワールド『林檎でダイエット』

子供のころから漫画漬けで今に至る私ですが、姉と妹がいたことが少女漫画に抵抗なく育った大きな要因だったと思います。

大きな目の中に星空が描かれ、舞台は主に外国で女の子の夢にあふれた作品が多い時代から触れてきました。

昭和30年代から40年代前半の雑誌には、赤塚不二夫さんや横山光輝さんなどの男性作家も多く描かれてます。

やがて24年組と呼ばれる漫画家さんたちが次々と名作を発表し、少女漫画という世界が確立されていきます。

ずっと少年漫画を読む傍らでその発展を見てきましたよ。

 

とはいえ主に妹が貸本屋さんから借りてくるのを読むだけで、大きく入れ込んだわけではありません。

竹宮恵子さんの『風と木の詩』は新連載から雑誌で読んでましたが、寄宿舎での少年愛の世界を理解するのは難しかったですね。

『ガラスの仮面』も新連載から読んでました。こちらは中学生男子にも入りやすい世界でなかなかに熱中しました。

一人芝居、恐ろしい子、紫のバラの人、リアルタイムで読めたことは今も私の漫画歴としての財産だと思ってます。

 

成長するに従い自分の漫画読みとしての技量も少しは幅を広げ、面白いと思えばジャンルなんて関係なく求めてきました。

ジャンルフリー、面白いんやったらどっからでもかかってこんかい、の私の前に『動物のお医者さん』という漫画が現れたのは衝撃でした。

『花とゆめ』に連載されているなら少女漫画? いや動物漫画? それとも獣医漫画?

どれとも言えないですね。何とも不思議な漫画で、とてつもなく面白い。

(参照:『動物のお医者さん』読まれてないんじゃないか疑惑について

 

妹がらみなのかそれとも話題になっていたから読んだのか。残念ながらもう30年前のこの作品との出会いを思い出すことが出来ません。

雑誌の連載は追いかけずに単行本を新刊で買ってました。

連載終了後、どんな最終回を迎えたのか。最後の12巻の発売を心待ちにしていたのをよく憶えてます。

現在は『動物のお医者さん』を所有してないのが残念ですが、またいずれ手に入れるつもりです。

 

当時はあまり漫画を読まない層にも広がって大人気でした。

あの頃、ハスキー犬は至る所で見ました。北大の受験者数が増えたという話も記憶してます。

バブル時代ということもあって私の青年期の思い出と重なって遠い目になってしまうのは許してください。

その『動物のお医者さん』が始まる前の佐々木倫子作品。なかなか読む機会がないと思います。

またまた妹がらみなのですが当時実家にありましたよ、全て。

読んだのは『動物のお医者さん』の前だったか後だったかを憶えてません。

あのなんか不思議な漫画を描いてた人が動物漫画で盛り上がってる。どれどれ面白いかね。

 

作者のブレイク前か後か、どっちで読んだかは作品の受け止めにとってとても大事なのですがここを覚えてないのは残念です。

しかし初期作品も佐々木節といいますか、不思議な作風で今読んでもとても面白い。

 

現在、初期佐々木倫子さんのコミックは全部所有してます。

全2巻の『ぺパミント・スパイ』。

初コミックとカバー折り返しに書いてある「食卓の魔術師」は人の顔と名前が覚えられない主人公の話。

ところどころに佐々木さんらしいキャラクターの画が現れますが、全体に違った画風です。

太字の漢字をバックに据える効果が初期から使われているのが、らしいですね。

その後、忘却シリーズとして続く「家族の肖像」「代名詞の迷宮」。太漢字の使用も増え徐々に佐々木節は強くなります。

 

そして『動物のお医者さん』の前作『林檎でダイエット』は、絵柄もほぼ後の佐々木倫子さんの画風が確立されてます。

『ぺパミント・スパイ』は外国が舞台ですが、忘却シリーズと『林檎でダイエット』は北海道が舞台なのも読んでいて佐々木さんらしさを感じるところです。

『林檎でダイエット』は佐々木倫子さんとリアルの妹さんをモデルとして描かれてます。

姉が雁子(かりこ)、妹が鴫子(しぎこ)の姉妹が主人公。

 

『動物のお医者さん』を読んだ方、菱沼さんという大学の先輩でなんか困った美人キャラを憶えてますか。

もうお姉さんの雁子さんが菱沼さんを彷彿とさせるいいキャラなのですよ。

そのお姉さんにイラっとしてキツくなってしまう妹の鴫子さん。

その姉妹に振り回される同じアパートの管理人さんの息子や他の登場人物。

とてもいいバランスで話が作られてますが、残念ながら5つの短編だけです。

1本目は植物好きの雁子さんがちょっとしたトラブルを起こす「椿館」。

2本目は気が強い妹の鴫子さんが主役の「美人」。

短編の合間に挟まれる指を怪我したエピソードのエッセイも面白く、さらに3本目の短編「白衣の天使」のネタになっているというお得さ。

日常のちょっとした出来事をなんか変な風に解釈して少しだけ大げさになって周りも巻き込まれていく。

終わってみれば姉妹も周囲も「なぁ~んだ」と特に変わった風でもなくまた日常へと戻っていく。

短い話なのに奇妙な面白さを存分に振りまいてくれる。

まんま『動物のお医者さん』と同様です。

表題作の「林檎でダイエット」は4本目の短編。少し太ったと妹の鴫子にさらっと言われた姉の雁子が林檎ダイエットをするという話です。

『林檎でダイエット』(佐々木倫子/白泉社)より

あくまで日常の中で話を膨らまし、なんか面倒なことになる展開。

でもよくわからないうちに解決しているんだか、してないんだかで話が終わります。

この終わらせ方は実に佐々木さん特有で、『動物のお医者さん』『おたんこナース』など後の作品も変わりません。

この『林檎でダイエット』からどのようにして『動物のお医者さん』に発展していったのかは定かではありませんが、確実に前夜としての匂いを感じます。

振り回されるハムテルと、パートナーとしてチョビを作中に登場させればもう違いがわかりません。

最後の5本目の短編「既視感のおかず」は12ページの一番短い作品。姉妹以外登場しません。

『林檎でダイエット』(佐々木倫子/白泉社)より

姉妹の会話だけで進みますが、決してお腹がよじれる様な笑いはありません。でもなんか可笑しいのですよ。

不思議な可笑しさに包まれた佐々木倫子ワールド。その初期作品、機会があればぜひお読みください。

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