マンガで(ひとまず)満たす「『好き』を突き詰めた人の仲間になりたい欲」

マンガで(ひとまず)満たす「『好き』を突き詰めた人の仲間になりたい欲」

こんにちは、Mk_Hayashiです(※いつものごとくネガティブな俺語りから始まりますので、お読みになりたくない方は画像が表示されるまで、スクロールしていただければ幸いです)。

秋まつりや文化祭のシーズンですが、各種イベントを皆さん楽しんでいるでしょうか? 自分は少し前に、昆虫をテーマとした某クリエイターイベントに参戦してきました。

会場にいた数時間、ひたすら圧倒され続けたのが、虫愛あふれる人々のキラキラとした表情。来場者の方々も、貴重な虫の展示や標本、様々なアーティストが制作した昆虫モチーフの作品などを前にキラキラしていたのですが、それ以上にキラキラしていたのが出展者である、いわば“昆虫のプロ”の方々。

何か質問をすれば、こちらの知識レベルにあわせた面白い話を交えながら答え、好奇心をグングンと増幅させてくれる出展者の皆さん。そういったとき彼らは、ほぼ100%笑顔なのですが、日陰者ライターとして生きる自分にしてみれば、もう直視できないくらいの輝きを放っていたのですよ。

いきなり四半世紀以上も前の話となり恐縮ですが、中学生の頃の自分は当時『花とゆめ』(白泉社)で連載されていた佐々木倫子さんの『動物のお医者さん』にハマり、「獣医学部に進学した〜い」と思っていました。しかし数学・生物・化学など、理系の必須教科の成績が壊滅的だったゆえ、獣医学部への進学はあきらめて文系の道へ進むことに。

そんな過去もあり、理系分野で『好き』を突き詰めている研究者さんたちは、自分にとっては憧れの存在。「機会あればお近づきになって、あわよくば研究にまつわる面白い話を聞かせて欲しい……」と思うものの、「理系分野の知識がほぼゼロに等しい自分が、そう気安く(取材や仕事でもないのに)関わりを持とうとするのは失礼に当たらないか?」という迷いもあり、なかなか積極的に関係性を持てずにいます。

こんなこじれた悩みを共感してくれる人なぞ、この世にいないだろう……と、ずーーーっと思っていたのですが、なんといたのですよ。いたといっても、マンガの中にですが。

というわけで、今回は自分と同じ「『好き』を突き詰めた人の仲間になりたい欲」を持つ主人公が登場する、早良朋さんの『へんなものみっけ!』をご紹介します。

『へんなものみっけ!』1巻・2巻 早良 朋/著(小学館)

“100年後に届く仕事”をする人々と、思わずワクワクする博物館のウラ側

原生林を抜けた先に拓けた小さな地方都市、奏山市。その街にある《かなでの森 博物館》が舞台となる『へんなものみっけ!』。税金頼りという《かなでの森 博物館》は閑古鳥が鳴きっぱなしで、出入りする獣医にすら「ここは市民にも 忘れられた 存在だからネ──無用の 長物って やつサ」と言われている。

そんな博物館に市役所から3年間の出向でやってきたのが、主人公の薄井透(うすい とおる)。その名の通り存在感がどこか希薄で、「ついムダだと思うと整理するクセがあって…」という事務職らしさあふれるスキルを持った人物です。

また第1話の冒頭で博物館へと出勤する薄井の「ムダを省くのは使命だ。──と思ってたら省かれた。」という物悲しいモノローグから、博物館への出向に本人はあまり乗り気でないことが伺える。

(『へんなものみっけ!』1巻 第1話「この出会い、運命カモシカ?」より)

そんな薄井が出向早々(正しくは初日の出勤途中に)出会うのが、博物館の鳥類・ほ乳類担当の清棲あかり(きよす あかり)。若くして独創的な論文を発表する新進気鋭の研究者である清棲だが、好きなことに対してはとことんのめり込むタイプゆえ、薄井の目には“奇人”にしかうつらない。

(『へんなものみっけ!』1巻 第1話「この出会い、運命カモシカ?」より)
(『へんなものみっけ!』1巻 第2話「飛ぶ苦労を探すクロウ」より)

とはいえ、清棲だけが“奇人”ではないのです。《かなでの森 博物館》で海生動物を担当する研究員の鳴門律子(なると りつこ)は《海の清棲》というふたつ名を持ち、サンプリングなどの調査時に見せる豪快なふるまいで薄井を石化させる。

(『へんなものみっけ!』1巻 第3話「深海魚を採取シナサイヨ」より)

DNA担当の堀内は歴代カレシの塩基配列ネックレス&ピアスを身につけている上、どこかハイ・テンションな雰囲気で薄井をちょっとひかせてしまう。

(『へんなものみっけ!』2巻 第9話「この子はコノハ」より)

鉱物担当の千々岩晶(ちぢいわ あきら)は初対面の薄井に「僕 人間嫌い じゃないよ。生物全般 嫌いなの」と言い放ち、鉱物に比べたら「人間なんて(地表の)カビのさいたるもの、相手にしないだけさ」と、自身のポリシーを(別に質問してもいないのに)説明しだす。

(『へんなものみっけ!』2巻 第14話「鉱物は好物です」より)

まぁ、千々岩が登場するのは第14話で、その頃には薄井もすっかり“奇人”慣れしていて、そんなに驚かないんですけどね……。

そんな清棲をはじめとする研究員たちの、研究対象への(良い意味で)タガが外れた『好き』っぷりに、最初は戸惑いを隠せなかった薄井。しかし博物館の存在意義を語る清棲の言葉などに静かに心を動かされ、次第に「職員として博物館のことをもっと知りたい!」と思うようになります。

(『へんなものみっけ!』1巻 第1話「この出会い、運命カモシカ?」より)

しかし『好き』を突き詰めた、キラキラとした表情を見せる研究員たちに囲まれているがゆえに、薄井はあることに気づいてしまう「──僕、語れるもんないんですよね」と。その様子が描かれるのが第4話、博物館でお花見が開催されるエピソードです。

各研究員が担当分野の「海の調査(サンプリング)で余った魚介や、海外出張先の珍酒・珍味」を持ち寄るという、“理系あるある”ともいえる形式のお花見。ほろ酔いになった研究員たちは楽しそうに担当分野のトリビアを披露しあい、満開の桜にまけじと話題に花を咲かせる。

(『へんなものみっけ!』1巻 第4話「ケッキョク南極」より)

そんな中、どこか所在無さそうにしている薄井。そんな彼を気遣い、清棲と鳴門が声をかけると「…みんな…“好き”をつきつめてて 語りがつきないなーって…」と返し、子どもの頃は人並みに生き物(昆虫)好きだったものの、成長と共に日々に追われ、何かを『好き』になる気持ちすらなくしてしまったことを2人に打ち明ける。

(『へんなものみっけ!』1巻 第4話「ケッキョク南極」より)

その後、清棲があるものを使って薄井をはげますのですが、その様子がなんとも詩的で美しいのですよ……。“普通”であることにコンプレックスを抱く薄井の心を、どのようにして清棲が溶かしたかは、ぜひ単行本にてお確かめください。

薄井と同じコンプレックスを抱いている自分にしてみたら、この時点でもう涙がこぼれそうになるのですが、さらに泣かせにくるのが、このお花見に続いて展開する様々なエピソード。

清棲のはげましの効果もあってか、より積極的に研究員たちの活動に関わっていく薄井。その折々で、“普通”の自分だからこそできる研究員のサポート方法を見つけていくんですよ。

警察からの捜査資料の同定(*1)依頼をしぶる研究員に対して「才能は人のために いかすべきです!!」と、“普通”である薄井が言うからこそ説得力のある言葉で訴えかけたり……

*1 同定:既知の種と比較しながら、生物の分類上の所属や種名を調べる作業。

(『へんなものみっけ!』1巻 第5話「咲きまじる花はいずれとわかねども」より)

海生動物担当の鳴門が、子どもたちへの教育普及活動で余裕がなく、助成金などの手続きができずにいると知れば、市役所時代に培ったスキルを活かし、代わりに時間のかかる各種手続きを率先して引き受けたり……

(『へんなものみっけ!』2巻 第11話「ホエールを掘えーる(その1)」より)

持ち前の几帳面さと整理整頓スキルを駆使しながら、博物館の財産がつまった標本庫の整理を手伝ったりするようにもなる。

(『へんなものみっけ!』2巻 第15話「“Bulbul”ってどんな鳥?」より)

事務の仕事も 嫌いじゃないです。(中略)──でも標本整理は それ以上に、ドラマがあって 楽しいんです」と語る薄井。その表情は、第1話で死んだ魚のような目をしていた薄井とは比べものにならないほどイキイキとしていて、博物館の職員としてだけでなく、ひとりの人間としても成長しているのが伝わってくる。

そんな折、学会で来日していた寄生虫研究者のアンソニー・スミスが博物館にやってくる。海上調査で同じ船に乗ったことから(*2)、以前から鳴門と交流があったスミス。

*2 専用の船で行われる海上調査は「一つのことを明らかにするために、いろんな分野の研究者が乗り合わせることもある」のだそう。

忙しい鳴門に代わって助成金をとり、彼女の悲願をかなえたことを知っていたスミスは、薄井の標本庫での働きぶりも見て「これからも彼らを支えてやれよ!」と薄井に言う。しかし3年間という期限つきで博物館に出向している身の薄井は、スミスの言葉にピンとこない。

(『へんなものみっけ!』2巻 第15話「“Bulbul”ってどんな鳥?」より)

そんな薄井に対してスミスは「お前のようなサポーターがいるから、研究者は研究に集中できるんだろ!?」と力説し、こうつづけるのです……

(『へんなものみっけ!』2巻 第15話「“Bulbul”ってどんな鳥?」より)

スミスからの思いがけない言葉に、続くコマで薄井は涙ぐむのですが、もう自分は大号泣ですよ……もし自分が現実でこんな言葉をかけてもらえることがあったら、感動のあまり人目なぞ気にする余裕もなく、ワンワン泣きまくりますね。

例え専門知識や資格を持っていなくても、何かに秀でた能力がひとつあれば──例えそれが特定の名前すら持たない、自分には価値があるとは思えない能力であったとしても──誰かを支えることができるかもしれない。

そんな自分だけでは存在にすら気づくことができない可能性や選択肢も、世の中のどこかに存在している(かもしれない)ことを教えてくれる『へんなものみっけ!』は、仕事で悩みをかかえている人や、社会の中で居場所を見つけられず悩んでいる人に、小さな勇気を与えてくれる作品のような気がします。

ちなみにスミスと別れた後、清棲は「ねえねえ、アンソニーって もとは何やってたと思う?」と薄井に問いかける。「イルカの飼育員」「大学に入り直して研究者になったんだよ!」という清棲の言葉に、星空を見上げながら「そんな人生も あるのか──…」と思う薄井。スミスとの出会いが、薄井にどんな変化をもたらすのか? 今冬発売予定の3巻での展開が、非常に気になるところです。

今回の記事では薄井に着目しながら作品の魅力をご紹介しましたが、この他にも心の琴線に触れるエピソードが、『へんなものみっけ!』にはたくさんあるのですよ。そのひとつが、幼少の頃から生き物の骨集めに夢中になるも、その趣味が原因となり、クラスで孤立してしまう清棲の小学生時代のエピソード。

(『へんなものみっけ!』1巻 第6話「幻の大ツバメ」より)

孤独の中にいた清棲が、どうして標本づくりや博物館に興味を持つかまでが描かれるのですが、自分の『好き』を否定されてしまった体験を持つ人ならば、涙なしには読めないエピソードだと思います。

(『へんなものみっけ!』1巻 第7話「ツバメの神様に願いを」より)

また著者の早良朋さんが、かつては国立科学博物館で標本をつくっていたという縁からか、11月25日まで東京・国立科学博物館で開催されている企画展『標本づくりの技(ワザ)ー職人たちが支える科博ー』では、『へんなものみっけ!』とのコラボを実施。その一環として、第11話〜13話「ホエールを掘えーる」が、ただいま無料公開されています。

クジラの漂着や、巨大標本づくりにまつわるドラマが描かれるこのエピソードは、『へんなものみっけ!』の世界観をギュ〜ッと凝縮したともいえる内容。この機会に第1話無料試し読みとあわせて、作品の世界に触れてみて欲しいです。ちなみに薄井が大活躍するエピソードでもあるので、彼の勇姿もぜひ見届けていただきたい。

……と、博物館に負けないくらい様々な「面白い」がつまった『へんなものみっけ!』。願わくば、この作品をきっかけに自然科学や博物館に興味をもつ若者が、ひとりでも増えればいいな、とも思っています。

何はともあれ、酷暑がようやく終わり、脳みそが正常に働くようになった今年の秋は、例年以上に知的好奇心や自分の『好き』を満たすのにピッタリな季節ではないでしょうか。読書に芸術にスポーツにと、皆さんの『好き』が十二分に満たされる秋が訪れますように。それでは、また来月に。

へんなものみっけ!のマンガ情報・クチコミ

へんなものみっけ!/早良朋のマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!2巻まで発売中。

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