マンガで(ひとまず)満たす「どこか遠くに行ってしまいたい欲」

ハロウィンが終わると同時に、クリスマス仕様へと一変するウィンドウディスプレイ。「予約受付中!」の文字がおどる、クリスマスケーキやおせちのポスター。ポストに投函される郵便局の年末年始アルバイト募集のちらし。こういったものを見るたびに「年末(進行)がくる……」と暗い気持ちになる季節がやってきました(※個人の意見です)。

ただでさえ暗い気持ちの中、仕事やら何やらが行き詰まると精神状態はどん底になり、「もう全てを放り出して、どこか遠くに行ってしまいたい……」という想いにとらわれ、遅れていた作業がさらに遅れるという悪循環に自分は陥りがちです。

しかし朝日新聞での『サザエさん』連載中にマンガ家廃業を宣言した(かつ半年後に気持ちが変わり、連載も再開できた)長谷川町子先生のような国民的作家ならいざしらず、自分のような末端フリーランスが仕事や〆切を放置して逃亡なぞしたら、あっという間に無一文になって行き倒れになるのは火を見るより明らかです。そんな満たしたくても絶対に満たせない「どこか遠くに行ってしまいたい欲」を鎮めるために、最近読むようにしているのが『果ての星通信』(主婦と生活社)です。ちなみにタイトルですが「はてのほしつうしん」ではなく「はてのしょうつうしん」と読みます。

『果ての星通信』1巻 メノタ/著(主婦と生活社)

『果ての星通信』というタイトルから、宇宙のどこかにある星が舞台となる作品だというのは、なんとなく予想がつくと思います。そしてレトロなSFっぽさを感じるモチーフが描かれた表紙に、不思議な見た目の異星人との交流を描く楽しげな物語を予感する人もいるかもしれません。が、実はそうとも言い切れないんですね——少なくとも2巻に収録されている第10話までは。

物語の主人公は、ロシア領サンクトペテルブルクに暮らす22歳の青年・マルコ。大学を卒業し、「現地で働きながら 俺達に合う土地を探す」という恋人との世界旅行を1ヶ月後に控えている。またマルコから世界旅行のことを報告された幼なじみたちが交わす「色々と思うところあったのかな… 事故からまだ半年だし ここにいると思い出しちゃうのかも」という会話から、マルコの身に何かしらの不幸があったことも伺える。

『果ての星通信』1巻 第1話「サンクトペテルブルク」より

幼なじみたちへの報告を終え、自宅に戻りデートの準備をするマルコ。ケースにおさめられた指輪を見つめ、スーツを着るべきかどうか迷っている姿から、今晩のデートで恋人へプロポーズをしようとしているのが分かる。しかし彼女と電話で待ち合わせについてウキウキと話しているマルコの身に、異変がおきる。10年前に雷に打たれたときにできた額の傷がいきなり開いて血が流れ始めたかと思えば、なぜか全身が粒状に分解し始めてしまう。

『果ての星通信』1巻 第1話「サンクトペテルブルク」より

意識を取り戻したマルコが周りを見渡すと、あたりは雪と氷に覆われた、見たことのない景色。パニック状態の中、遠くに見えた灯りのもとへ向かうが、中からは「会うのは二度目だね」と奇妙な風貌の人物が現れ「これから10年間 仲良くやろう」と、身長の何倍もの長さのある腕をマルコへと伸ばす。

『果ての星通信』1巻 第2話「アブダクション」より

再びパニック状態に陥り駆け出した先に、ふたつの人影を見かけるも、女性らしき人物は芋虫のような腕をしているし、片割れの男性は「さてはお前 閉じた星育ちだな 異星人見るの 初めてか」と訳のわからないことを言う。そしてマルコは悟ってしまう——雷に打たれて気絶している間に見た「10年後に迎えに来る 君が必要だ」と言う宇宙人にさらわれる悪夢が、夢でなかったことを。

『果ての星通信』1巻 第2話「アブダクション」より

不条理劇ともパニックホラーSFともいえるような展開で幕をあける『果ての星通信』。なぜマルコがさらわれたかというと、「もう飽きた〜〜〜〜!!! 誰かにお仕事押しつけちゃおっと☆☆☆」と(なんともカジュアルなノリで)姿を消した【彼の方】と呼ばれる存在に代わり、「星を作り 星を壊し 宇宙を廻し続けている」代行機関【果ての管理者】の局員に選ばれたからだ。なお局員は「あらゆる星から無作為に選出された若者達で その任期は各々の星の時間で10年間」とも作中で語られる。

この第1〜2話にあたる時点で「不条理すぎてムリ〜!」と感じている人もいるかもしれません。でも第10話まで物語の中心となるのが、置かれた環境を受け入れられないマルコの葛藤。手塚治虫先生の『火の鳥』ほどではないものの、精神的にしんどくなる描写もありますが、異星人に対するマルコの長〜い反抗期の物語だと思って読み進めていただければと。ちなみに第11話からは冒険活劇めいた物語へと変わり、異星人との心あたたまる交流も描かれます。藤子・F・不二雄先生の『モジャ公』や『21エもん』を思わせる、リラックスして読める宇宙SFとなるので、どうかご安心ください。

ちなみにマルコが飛ばされた【果ての管理者】支部局のひとつであり、星を“育てる”ために作られた惑星モスリは「地上は年中 夜のまま 冬のままで 寒いったらねぇ」という環境なものの、大半の時間を過ごす地下は快適に暮らせるように設定されている上、多少の不便はあれど衣食住は保証されている。

さらに局員は「あらゆる言語が母星語に翻訳されて聞こえる 相手には逆に彼らの言葉になって届く」特別能力を“特典”として授かるので、異星人とのコミュニケーションも会話であれば不自由しない。おまけに任期中はちゃんと報酬が支払われるし、星を“育てる”作業もノルマがあるわけでもなく、「植物園の星」とか「恐竜が絶滅することなく繁栄する星」とか「プリンが生える星」と自分好みに作って良いので、なんだか箱庭づくりみたいで楽しそうでもある。

『果ての星通信』1巻 第3話「旅するロノウトギ星人①」より

また「超空間で何万光年先へだって数秒で移動できる」という特別星間エレベーターを使って管理リスト内の星を行き来できるし、大抵のものは通信機を通して通販注文もできたりする。それに局員用の施設には図書館やジム、娯楽室も用意されているので文化や娯楽に飢えてしまう心配もない。

「どこか遠くに行ってしまいたい欲」にとらわれている自分としては、「風変わりなワーキングホリデーみたいでいいじゃ〜ん☆」とマルコのことが心底うらやましくなる。が、悲しみを乗り越えて、恋人と人生をやり直す矢先だったマルコにとっては単なる迷惑でしかなく、「こんな理不尽 納得できるか!」と、やり場のない怒りを感じっぱなしである。

『果ての星通信』1巻 第3話「旅するロノウトギ星人①」より

『果ての星通信』1巻に収録されている第8話までの間、マルコはなんとかして地球に戻ろうと、あれこれと画策をするのですが、どれもことごとく失敗し、その度に絶望的な想いにとらわれる。そんなこともありマルコに感情移入しながら物語をたどると、あまりの救いのなさに心が暗く&しんどくなる。

何せ惑星モスリに飛ばされてからというもの、マルコが楽しそうな表情を見せるシーンは僅かしかなく、これも暗さ&しんどさを加速させる。正直、不条理作品に慣れがある人、不条理作品が好きな人でもない限り、そう簡単には読み続けられないかもしれない(実際、自分は救いのなさっぷりに耐えきれず、連載を読み続けるのを挫折しそうになりました)。

『果ての星通信』2巻 第9話「泥棒の胃袋(ヨルワンガ)」より

「そんな万人向けでない作品、紹介すんな!」と思われそうですが、どうかご安心を。第8話で謎の宇宙生命体に“あるもの”がマルコから奪われ、彼の身体は10年後の任期満了と同時に死ぬという身体になってしまう。そして第9話(2巻収録)から “あるもの”を奪還することが惑星モスリ局員の最優先任務(かつ物語のテーマ)となってから、作品のトーンが一変するんですよ。

相変わらず地球には帰れないままだし、“あるもの”だって取り返せる保証もない。でも自分のために動いてくれる局員たちへの信頼感が芽生え、第10話では「逃げ出す前より ちったぁラクになったかな」と、やっとマルコが穏やかな表情が戻るんですね。また異星人の多様性を少しずつ受け入れられるようになったマルコが、ヒトとして成長しているのが感じられるエピソードも描かれ、それまで皆無だった“救い”を物語に感じられるようにもなる。

『果ての星通信』2巻 第15話「惑星ケデルのドールハウス②」より

また作品そのものも第10話以降は、それまでの“絶望いっぱい★暗黒不条理SF”から、“ドキドキいっぱい☆冒険活劇SF”ともいえる内容となり、面白さもグンと増す。なので、これから『果ての星通信』を読む人には「お願いだから第10話までは読んでくれ……!」と、強く言いたいです。

あと自ら精神的に孤立した状況をつくり、どんどん絶望していくマルコを眺めていると、たとえ遠くに行っても何らかの“救い”を得られなければ、精神的な辛さは増すだけのようにも思えてくる。『置かれた場所で咲きなさい』じゃないけど、自死すら覚悟した上での失踪でもない限り、無計画にどこかへ行っちゃうのは良くないよな……と、心が軌道修正され、「どこか遠くに行ってしまいたい欲」も自然と薄れてきたりもする。なんだかんだ、物語も人生も“救い”がないと辛いですからな。

『果ての星通信』2巻 メノタ/著(主婦と生活社)

なんだか辛気臭い話ばかりしてしまったので、最後に『果ての星通信』の魅力を補足しておきます。レトロかわいいSFっぽい絵柄も魅力のひとつなのですが、特筆すべきはさまざまな異星人たちの設定。作中に登場する異星人たちの姿形はもちろん、それぞれの生態や文化などのディテールも精巧なので、ずっと眺めていても飽きがこない。また単行本には設定資料も収録されているので、物語を一通り楽しんだあとに目を通すと、より作品世界に浸れると思います。

『果ての星通信』1巻 第5話「ホルシェ8の宇宙花火」より
『果ての星通信』1巻 第5話「ホルシェ8の宇宙花火」より

それと特筆すべきは、マルコの相棒かつ『果ての星通信』のマスコットキャラ的な存在となる、ロノウトギ星人のマウーのかわいさ。モフモフ好きな方はマウーの姿(と、ロノウトギ星人とマウーが抱えている、どこか切なさを感じる背景)に高確率で癒されるような気もします。

『果ての星通信』1巻 第3話「旅するロノウトギ星人①」より

なにはともあれ、来たる年末(進行)に身も心も消耗しきってしまわないように、今のうちに心の潤いとなるマンガをストックしておくと良いと思います。そのストックの中に『果ての星通信』も入れていただけたら、うれしい限りです。それでは皆さん、無事に年を越せるよう共に励みましょう。えい、えい、お〜(棒読み)。

 

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果ての星通信/メノタのマンガ情報・クチコミはマンバでチェック!2巻まで発売中。 (主婦と生活社 )

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